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より強くなるために

アヤカ

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「ムラマサの……孫?」

「じゃあ伝説のムラマサは……」

「騒がしいぞ 人の家の前で」

 そう言ってアヤカの背後の扉から一人の老人が現れた。

 長い髭を蓄えた老人のその顔は険しく、とても不機嫌そうだった。

「おー爺さん 生きてたか」

「ふん 誰かと思ったらシンゲンの所の馬鹿息子か」

「相変わらず口が悪い……」

「良くする理由もないじゃろう」

 ムロウの話し方からして、老人こそが伝説の刀鍛冶師『ムラマサ』だと理解した。

 だがそれ以上に、なんとも形容しがたいオーラ・・・のようなもが、その老人から感じられた事の方が決め手だった。

「貴方が 『ムラマサ』さん……ですか?」

「そういうお前が二代目聖剣使いか」

 リンをギロリと睨むその表情は心底迷惑そうだった。

 ムラマサに睨まれ続ける状態が長く続き、沈黙状態となってしまったのをを見て、孫娘の『アヤカ』が割って入ってくれた。

「まあ客人を立たせたままというのも忍びなし 客間に案内するでござるよ」

「ごめんなさい 気を遣わせて」

「構わないでござるよ 爺様のこの態度は今に始まった事でもないし」

「余計な事はいい 儂はまだ忙しいんじゃ」

「せっかく来てもらったんだから少し話すぐらいは構わないでござろう?」

「なら暫く待ってもらえ あと少しで終わる」

 答えも聞かずにムラマサは鍛冶場へ戻る。

 やれやれといった表情でムラマサを見た後、アヤカはリン達を客間へと案内した。

「爺様はもう少しで戻ると思うでござるから その間茶菓子でも出すでござるよ」

 客間に着くと、アヤカがそう言ってその場を離れる。

「いえいえ お構いなく」

「そうもいかぬよ 客人を待たせているのでござるからな」

 そういって客人をもてなすために、台所へとアヤカは向かった。

 客間で待たされているリン達の話題は、先ほどの老人『ムラマサ』だった。

「で? 御一行らの感想は?」

「なんかメンドくさそうな爺さんだったな」

「こ~んな眉間にしわ寄せてさ!」

「あら? それなら誰かさんもいつも眉間にしわ寄せてるわよ」

「誰のことだか」

「まあ最初に言った通り難しい人だからさ あんま余計なこと言うなよ?」

「へ~い」

「アニキなら大丈夫ですよ!」

「根拠のないその自信はなんだよ」

「まあ大丈夫じゃない? 失礼な態度じゃなければなんとか」

 ここまで来たのだから、後は刀の事だけである。

「まあここに長居するつもりもない 刀を貰ったらカザネを……」

「さあて そう上手くいくでごさるか?」

 リンの言葉を遮ってやって来たのは、茶菓子と共に戻ってきたアヤカだった。

「どう言う意味だ?」

「爺様は余程のことじゃないと人に刀は打たないでござる 会ってくれるだけでも凄いことでござるが刀までどうなるかはわからないでござるよ」

 そう言って茶菓子と一緒に持ってきた急須きゅうすにお湯を入れて、慣れた手つきで湯呑みにお茶をそそいで皆に配る。

「じゃあなんでオレ様達は呼ばれたんだよ?」

「さあて? 何かの気まぐれか 見てみたくなったかだけでござるか……」

「そんな!?」

「それならそれで良い」

 出されたお茶を一口飲み、リンは口を開く。

「別に貰えないならそれでも良い こっちは報酬の為に魔王軍と戦ってるわけでもない」

「ほう……?」

「俺は元の世界に帰りたいだけだ その為に少しでも情報が欲しくて旅をしてる 聖剣が何かの為になるかもしれないから集めてるだけで 刀が貰えなくとも関係ない」

 そう言って再びお茶を口に含む。

 暫しの沈黙の後、ジーッとリンを見るアヤカの視線が気になってリンはアヤカに問う。

「なんだ……?」

「いやなに 拙者好みの良い顔と思ってつい眺めていたでござるよ」

「そりゃあどうも」

「だからこそ実にもったいない」

 リンに近づいたかと思えば、グイッと顔を両手で捕まれ、強制的に眼を合わせられる。

「リン殿のその『眼』……随分と濁っている・・・・・でござるな」

「面と向かってそう言われたのは初めてだよ」

 そう言って顔を近づけているアヤカをに向けてレイは銃を構えた。

「オイコラネエチャン? 誰の許可もらってアニキに触ってんだよ」

「ん~? これは失敬 リン殿に触れるのには許可制だったでござるか」

「そのとおり! そういうのはこのオレ! レイ様の許可が必要なのよ! まあ絶対させねえけど」

「いやレイの許可もいらない気がするけど……」

「ほんと随分懐かれてるなあ? 聖剣使い様」

「ハッハッハ! これは悪いことをしたでござるよ!」

 相変わらず勝手な事を言う妹分とムロウ達に呆れていると、ついにムラマサが戻ってきた。

「まだいたのか 小僧」

 その言い方からやはり気が向かなかったのだろう、今にも「帰れ」と言われそうだった。

「随分勝手なことですね 人を呼んでおいて」

「ふん どうしても会えと頼まれたから会ってやっただけじゃ」

(よく言うぜ 普段なら頼まれたって会やしねえクセに)

「ムロウ 言いたいことがあるのなら口にするが良い」

「いえ何もございませんよ?」

「ムロウ殿 目が泳いでるでござるよ」

「なあなあ! さっきまで刀鍛えてたんだろ!? てことはリンの刀は完成してるのか!?」

 待ちきれなかったのかチビルがムラマサに嬉々とした目で刀の事を聞く。

 だがその答えは無情にもアヤカの言った通りだった。

「彼奴の為の刀など此処には無い まあ先程気晴らしに鍛えていただけの二流の刀でよければくれてやっても良いがな」

「なっなんだよそれ!? リンの為に鍛えてたんじゃあねえのかよ!?」

「五月蝿い小悪魔じゃな 何故儂が態々鍛えねばならん」

「けど……」

「もういい チビル」

 その言葉を聞いて、リンはここに居るの時間の無駄だと判断した。

「別に期待してたわけじゃないからな 貰えないならそれでもいい 先を急いでるので我々はこれで」

 リンは立ち上がりこの場を去ろうとする。

「リン……良いの?」

「そうだぜアニキ! ここまで来たのに!」

「なら二流刀でも貰っていくか? まあそれならそれで価値はありそうだがな」

 貰えないのであればここに用は無い。さっさと次の場所に行くことが先決だった。

「待たれよリン殿!」

 この場を去ろうとしていた矢先、それを止めたのはアヤカだった。

「爺様 それは流石に酷でござろう? 会うだけあってその態度というのは」

「ならば鍛えろと言うのか? この男に」

「魂の宿らぬ刀に価値など無いでござる 無理矢理打った刀ではたとえ名匠といえど二流三流の刀に成り下がる なら刀を鍛えるに値する・・・・・・・男なら良いだけでござるよ」

「……アンタは何が言いたいんだ?」

「簡単な事でござるよ」

 そう言って立ち上がり、リンを指差す。

「拙者と勝負するでござるよ 拙者に勝てたら爺様はリン殿の実力を認めて刀を鍛えて貰う と言うのは良いでござろう?」

「……そう言ってお前は其奴と勝負したいだけじゃろ」

「アチャ~バレたでござるか~」

 刀を鍛えてもらう条件としてアヤカとの『勝負に勝つ』が提示され、少し迷いはしたがリンはそれ乗る決めた。

 理由は簡単だった。貰えないのであればそれでいいが、条件を飲む事で貰えるのなら無駄足にならずに済むからだ。

 だが、その勝負を呑む前に聞かなくてはならない事がある。

「それで……アンタの条件は何だ?」

「ん? 拙者の条件?」

「俺が勝てば刀が貰える それは良い だがアンタが勝った時の条件を聞いていない」

 聞かずとも勝てればそれで問題ない。しかしその条件を提示したのであればそれだけの自信・・があるという事だ。

「思ったよりも慎重でござるな」

「必ず勝てるならどうでもいいさ……勝てるならな」

「そうでござるな~……では拙者が勝ったら『なんでも言う事を一つ聞く』というのはどうでござるか?」

「え!? アニキに何しても許されるのか!?」

「レイは静かにしてなさい」

「どうするよリン?」

「……乗る」

「決まりでござるな では庭の方でやるでござるよ」

 どれだけの強さがわからないというのは不気味ではあるが、今まで本来手に入るはずだった賢者の石が手に入らず、これからの旅が不安があったのは事実でもある。

 聖剣ほどでは無いのかもしれないが、強い武器が手に入るのなら貰いたかったのだ。

「それでは始めるでござるよ~」

 場所を移し、外にて試合を始める。

 ルールはとても簡単で先に相手を倒すだけであり、特に制限もなく何処を狙ってもいいし、何かを利用してもいいとの事だった。

「手加減無用でござるよ 拙者もするつもりはないでござるから」

 互いの手に、用意された竹刀が持たれる。

「してくれた方がこちらは嬉しいんだがな」

 そんな二人の勝負を外野で観てるシオンは、ムロウにアヤカの事を聞く。

「ねぇ? ムロウさんはあのアヤカって娘のことは知ってるの?」

「そりゃあまあ小さい頃に面倒みたりもしてたしな」

「ならどれだけの強さかも知ってるって事よね」

「ああ! それはオレ様も聞きたかったんだよ」

「まあアニキよりは弱いだろうがなぁ!」

「…….」

 ムロウの沈黙。

 そしてその答えを口にした瞬間、勝負は決まった。

「化け物さ 万に一つにも聖剣使いに勝ち目はねえ」

 試合はその言葉通りの結果で終わった。
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