上 下
62 / 201
風の都『カザネ』

二刀流

しおりを挟む
 聖剣を二本同時に出すという発想は、以前からリンにはあった。

 だがそれに伴う代償があると、そう思っていからこそ、今まで使えなかった。

「二刀流がどこまでやれるか……お手並み拝見といこうかぁ!」

 攻められた左側は、ガイアペインが防ぎ右手に持ったフレアディスペアをムロウに叩き込む。

 鎌鼬カマイタチによって、生身では受けられない。ならば身体を硬化させて受けられればいいのだが、その魔力が足りない。

 ならばその魔力を補えればいい。

(聖剣の二刀流か……確かにそれなら魔力は十分だろう)

 賢者の石は膨大な魔力が内包された奇跡の石だである。

 そこから生み出された聖剣は、十分すぎるほどの魔力を持っている。

(だがその持ち主の魔力が持って無きゃ宝の持ち腐れだなぁ?)

 元々魔力の無いリンは、自動的に賢者の石の魔力はリンの身体に蓄積されていた。

 そのおかげで今まで扱えていたのだろうが、今現在その魔力がツヴァイとの戦闘により大きく消費していた。

 おそらくではあるが、身体を治すのにも使われたのだろう。おかげで骨折などは異常な速さで治っていた。

(魔力は無限に湧くんだろうが常に無限ってわけじゃあねぇ 一時的に無くなることはある)

 それを補うための聖剣の二刀流・・・である。

 聖剣を二本同時に展開する事で、二つ分の魔力を一気に解放させる。そうする事で二つ分の石の魔力を繋げて・・・いるのだ。

(ガイアペインの足りない魔力をフレアディスペアの魔力を使って身体を硬化させる……確かにそれは出来るんだろうが……)

 これだけ聞けばメリットしかないように聞こえるかもしれない。

 メリットだけならな最初からそうすれば良い。単純計算で魔力は二倍になるのだから。

 だがそう上手い話ばかりでは無いのが今まで使わなかった理由であり、使わなかった理由があるのだ。

(それに伴う魔力の消費・・・・・ それをどうするよ?)

 最大の問題、それは聖剣を発動するための魔力の消費・・・・・だ。

 魔力が足りないが為に魔力を消費して魔力を繋げる……その『矛盾した対策法』では根本的な解決にはならないのだ。

 リンの中の溜まっていた魔力は今、聖剣の二本同時解放に全て使われた。

 あとは賢者の石にある魔力をどこまで使えるかに賭かっている。

「お前の奥の手! 見せただけでもう終わりじゃねえだろうな!?」

「そうならないように全力でぶっ潰す だから……さっさとやられろよ!?」

「こんな楽しい事すぐに終わらせられねえよ!」

 風を纏う刃がリンを狙う。

 その刃を大胆にもリンは左腕でそのまま・・・・受け、右に回転をかけて二本の聖剣で斬りつける。

「随分賭けに出たなぁ!? 成功してなきゃその腕吹っ飛んでたぜぇ!?」

 そう言いながらムロウは躱す。表には出さなかったがかなり焦っていた。

(どうやら魔力の接続は成功みたいだが……こりゃあ早い所終わらせなきゃヤバそうだ)

 持っていた刀に力を込めると、纏う風が更に強くなる。

「おじさんも本気出しちゃうからついてきなよぉ!」

「無理するなよおっさん もっとも頑張りすぎて自滅してくれりゃありがたいがな」

「失礼な! こう見えてもおじさん四……三十代だし」

 言いかけた言葉をぐっと押し込んで嘘をついた。急に言葉にするのが嫌になったからだった。

 どうして歳をとればとるほど、本当の事を言うのに勇気がいるようになるのだろうか。

そんなどうでも良い事をムロウはこんな時に考えているが、それでも迷いなく刃はリンの首を刈りにいく。

 硬化した身体を盾にしていたリンだったがこの一撃は『当たってはいけない』と直感からか、躱す事を選択した。

 その行動は正解だった。

 目視できない風の一撃を躱すことは難しい。最初と同じように完全に躱すことができず、そのうえガリガリと大きな音を立てながらリンの身体は削られた・・・・のだ。

「なっ!?」

「斬ることが難しいなら 削るだけさ」

 炎を巻き上げ、無理矢理ムロウから距離をとらせた。

 左の次は今度は右首だ、硬化していたとはいえ
、今のはリンにとって非常に危なかった。

(今のは……そういう事か)

 先程まで刀に纏わせていた風を何重にも纏わせ、高速で風の刃を回転させる事でまるで鎖鋸チェーンソーのように首を削ったのだ。

「随分えぐい真似してくれるな おっさん」

「ん~? 上手くいかないもんだねなかなか」

 仕留めたと思ったが、硬化された身体はそう簡単に削りきる事は出来なかった。

「だが通用するのがわかれば上々だ あとはその首落とすだけよ」

「やれるもんならやってみな もっとも魔力が保てばの話だがな」

「そうそう 頑張ってくれよ~? 魔力切れで自滅だなんてお間抜けな勝ち方はしたくないからさ」

「人の魔力の心配よりも自分の魔力は大丈夫かよ」

「ちと厳しいかもな 器用さはあるが量はそんな無いし」

 ムロウは再び構え、風を更に強く纏わせる。

 どちらの考えも『長期戦に持ち込ませるわけにはいかない』だった。その為には魔力は惜しまずに出し尽くす。

「本当はおじさん もっと楽しみたいんだけどねぇ?」

「残念だな 俺は逆だよ」

 リンの瞳は右は炎の色を、左は大地の色へと変わっている。

 魔力は確実にリンの身体に馴染み始めていた。

(ヤバイ……凄まじく……眠い)

 予想よりも身体への痛みはなかった。

 だがそれは痛みが無いからではなく、余りにも・・・・痛すぎて・・・・限界を・・・超えていたから・・・・・・・だった。

 その証拠に身体からミシミシと嫌な音が確かに聞こえ、動かすたびに違和感を覚える。

 そんな状態で戦わなくてはならないのだから、最早身の安全など考える必要はないだろう。

(勝つ方法……考える限りは一つだけ・・・・か)

 一つだけ思いついた事があるが、それが上手くいくかは賭けになる。

(それにその状況を上手く作れるかだ 今はとりあえず打ち合うしかない)

 二本の聖剣に力を込め、ムロウへと斬り込む。

 炎を纏った一撃は風に阻まれ、風は一瞬だけ強風となり身体が後方へ飛ばされそうになった。

(近づくこともできないのか……)

 飛ばされそうになるともう一つの聖剣ガイアペインを地面に突き立て、踏みとどまる。

「隙だらけだぜ!?」

 耐えるのがやっとなこの状況で、追い討ちをかける一撃。

 再び刀に纏わせた風の一撃を受ける。


 再びガリガリと表面が削られる音がする。硬化していなければこの時点でミンチであろう。

「くっ!?」

「やっぱ硬いな~ でもまあ痛いだろう? そろそろ諦めるかい?」

「断る……!」

 斬り払い、ムロウに距離をとらせる。

 攻めなければこちらが不利になる、だから攻めるのだがこちらの攻撃は一向に当たらない。むしろ近づき過ぎると風の刃がこちらを引き裂く。

「まったく 借り物の袴が台無しだな」

「随分と余裕だな ならもっとやれるだろう?」

「そう見えるか? だったら相当な節穴だなアンタは」

 もう限界であった。これ以上は身体がもたない。

(さて……上手くいくかどうかやるしかない)

 ありったけの魔力を二本の聖剣に集中させ、同時に地面へ突き立てる。

 二本の聖剣のうち、ガイアは更に深く地面へ押し込むように刺す。すると突き立てたフレアからムロウとリンを囲む火の線が円になって広がっていく。

(アイツ……一体何を?)

「こいつで最後だ だから逃げられないようにな」

 火の線が大きな円になって二人を囲むと、その線から勢いよく炎が噴出する。

「炎の壁!?」

「そうだ……そしてこれが」

 深く突き刺したガイアペインを引き抜くと、元々大きかったその刀身は地面の土や石を纏い更に大きく巨大化していた。

「ありったけの魔力を今流し込んでる こいつで最後だ」

 火の聖剣を突き立てたまま、土の聖剣だけを構えムロウへと立ち向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...