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風の都『カザネ』
誓い
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「ねぇ~? 次はどこ行くの?」
「聞いた話だとこの先らしい もう少し待ってろ」
茶店を出たその後も、リンに連れ回されカザネの探索が続けられていた。
だがその行く先々は、全てリンによって決められたものである。
茶店の次は服屋その次は小物屋と、リンより『シオンの好み』を選んだ場所であった。
(ピャー! 本当にデートみたい!)
一人心の中で、憧れだったデートに感動しながらリンについて行く。
アクアガーデンでも一応したのはしたのだが、今回と違ってリンから誘われた事もあり、その感動は大きかった。
(でも……なんでこんなに色々見てるんだろ? リンが見そうな図書館は素通りしてたし)
これではまるで、本当のデートのようである。
疑問が晴れぬままリンについて行くと、下町から少し離れた森の方へと進んで行く。
「この先はカザネの外だよ?」
「ああそうだ こっちで見られるらしい」
「……見られる?」
それを見る為に、シオンを連れ出していたのだ。
(リンが見たいもなってなんだろう? 思いつかないな……)
そもそも、リンがわざわざ何かを見に行こうとする時点で意外な事である。
「そろそろか……」
「ねえだから何を……わぁ~」
そこにあった景色は一面が桜色に染まる風景だった。
芝桜が一面に咲きほこり、まるで高級な絨毯のよう美しさを感じさせた。
その桜が最初に目に入ったのだが、奥に一本だけ大きくある桜にさらに心奪われる。
「あれは……」
「枝垂れ桜だな」
リンはズカズカとその桜へ近づいて行く。シオンもそれについていった。
「見たままだが『桜の庭』と言うらしい あまり人が来ない隠れスポットだそうだ」
「そうだね……ここまで綺麗だとどれで表現すれば良いかわからなかったよ」
桜の庭にあった中央の枝垂れ桜に辿り着くと、再び周りの景色を眺める。
この光景の美しさを見ていると、何もかもが小さな事に思えてしまう。
「……少しは気晴らしになったか?」
「え?」
木の近くに置かれたベンチにリンは座る。
疲れ為かリンは大きなため息を吐くと、続けて話し出す。
「チビルから聞いたぞ 俺たちが倒れた後一人で寝ずに馬車走らせたんだってな」
「ああ……そのこと」
確かにツヴァイとの戦いの後一分一秒でも早くつくためにほとんど寝ずに馬を休ませながら馬車を走らせた。
「息抜きにと思ってな 無理矢理だったが色々寄ってみた」
(それでいつもと違ったんだ……)
さっきまでのデートのようなものは、リンの不器用な優しさだった。
「家来にも言われたようにまだ礼がまだだったからな その礼も兼ねてだ」
「……私にそんなこと言われる資格はないよ」
むしろ責められるべきなのだと、自らを卑下する。
何故ならリンとレイが戦っているのを、ただ見る事しか出来なかったからだ。
「私はあなたを守れなかった 責務を全うすることができなかったのよ」
「お前の判断は間違っていなかったろう」
「戦えば私も怪我じゃ済まなかったでしょうね でもそれで良かったのよ だって私はあなたを守る騎士としてあなたと共にいるのだから」
それが王妃からの任務だった。それを成し遂げる事でアクアガーデンの騎士団長として正式に任命される。
だが任命されて早々に、成し遂げられなかった。
「ホント笑っちゃう……船の上じゃ大口叩けたけど いざ強敵の前だと足がすくんで戦えなかった」
桜の木に撫でるように触れる。護衛対象にこうして励まされてしまい、何一つ任務を遂行出来ていない。
「結果が全てだ こうして生きているんだからそれでいいさ」
「ううん それじゃダメなの 大切なのは私は戦わなかったということ」
「戦わなかったこと?」
「私は仲間が危機に瀕している状況で手を出さなかった そこが重要なの」
仲間が傷ついているのに戦わない。
それは仲間を見捨てたということだ。
「私はまたきっと繰り返す……だから……」
「それは無いな」
「え?」
そう言ってリンは頭の後ろで手を組んでベンチに寝そべると、続けてこう言った。
「今お前はそれで悩んで……それを悔やんでいる だったらそれを繰り返すことはないだろう 逃げた理由がハッキリしてるんだからな」
「そんなの 次またそうなるかもしれな……」
「無い」
目だけをシオンに向けて、食い気味にリンがシオンの言葉に割って入るように強く否定される。
「アンタはそんなヤツじゃあ無い 失敗すればそれを『悔い』て『学ぶ』それが出来るなら……もう二度としない」
「なんだってそんなこと言えるの?」
「信じてるからな」
意外な言葉だった。
「俺たちはお前に救われた 感謝こそすれど恨みはしないさ」
「それは結果論よ 選択を間違えたことには変わりない」
「その選択は……あんたからすれば間違いだったんだろうさ」
起き上がってこちらに体を向ける。
その顔は真剣で、どこか優しいものだった。
「だがその選択で救われた人がいる それを忘れないだくれ」
励ましてくれている。
普段はぶっきらぼうで口が悪い、不器用な優しくさ人をこうしたら見せてくれる。
そんなリンの優しさで、シオンの心が救われていく。
(ああなんて……)
「それにあの状況で戦いを挑んだのは死にたがりと馬鹿だ あんまり考えすぎるだけ無駄だ」
「ふふふっ……それは言えてるかもね」
「ここは否定するとこだぞ?」
優しい人なのだろう。
「……『誓いを立てましょう』」
護りたい。この人を。
心がそう決める。だからシオンは誓うのだ。
「何?」
シオンは突然リンに剣を向ける。
暫しの沈黙の後、シオンは剣を鞘に収め片膝を立ててリンの方に座り込む。
「『この無礼をお許しを この罪 我が人生全てを懸け償いましょう』」
これは騎士の誓い。アクアガーデンに伝わる主人への。
「『我が力は剣となり この身は貴方を護る盾となる』」
本来であれば正式に騎士となった時に、王妃へと誓う儀式であった。
この儀式は一度行えばもう『二度と』交わす事のできない儀式。王妃以外に行う事は禁じられているものだった。
「『我が名は シオン・ヴァロワ 我が人生主人に全てを捧げよう』」
だが、それでも誓わずにはいられなかった。
シオンは決めてしまったのだ、全てを懸けたいと。
突然の事に唖然としているリンだったが、突然左の首元に痛みを感じた。
水色の光がリンとシオンを囲みこむ。そうして少しすると、光は徐々に収まり消えていった。
「今……何したんだ?」
「アクアガーデンの主従の儀式 本当は王妃以外しちゃダメなんだけどね」
「なんでそんなことを?」
「ちょっと目を閉じて……私の顔を想像してみて」
「今度は何だ……」
そう文句を言いながらもリンは目を閉じる。
すると一瞬ノイズが入ったように感じた。
「……俺か?」
リンが目を閉じると、見える筈のない『自分』がみえていた。
「そう 今の儀式で私と貴方の魔力が繋がったの そして主人である貴方は私の見てる物が見れるようになったの」
「アンタも見れるのか?」
「主人である貴方が許可さえあればね 他にも魔力の受け渡しとか 遠くら呼びかけて安否の確認とかも」
「随分便利だな」
「まあ もう二度とできない儀式だからそれぐらいはね」
「本当に良かったのか?」
「ん~? 帰ったら追放されちゃうかもしれないかな」
「想像以上に大丈夫じゃないな」
「いいの この選択は絶対に間違いじゃないから」
この桜の庭で誓ったこの人を、何があっても護りたいと。シオンは誓わずにはいられなかったのだから仕方ない。
再びリンは目を閉じて、シオンからの視覚情報を得る。
そのリンの首元には、水色の紋章が浮かび上がっていた。
「こっちからじゃ見えなかったが俺の首に痣みたいなのが浮かんでないか?」
「それが誓いの証 貴方がご主人様だっていうね」
「消せないのか?」
「人との繋がりをなんだと……あっ! 私がお風呂入ってる時とか使っちゃダメなんだからね!?」
「誰がするか」
「苦虫噛んだみたいな顔で即否定すんな!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
ふふふっとシオンは笑う。今日この日を忘れる事はない。
「初恋は実らないっていうし……頑張んないとね」
「なにか言ったか?」
「いつか教えてあげる」
今はまだ言えなくとも、言える日があると信じていた。
ちなみにここから先はおまけである。
「あら? 先程のお客さん」
「あっ茶店のお姉さん」
帰り道に先程の茶店の前を通ると、店員のお姉さんに再び出会った。
リンは少し(トラウマになって)苦い顔をしているが、シオンとリンを見たかと思うとシオンに向かって手招きする。
近寄って店員さんに顔を近づけるとヒソヒソと話しかけた。
「どないな感じ? 彼氏さんとの関係 桜の庭で告白とかは?」
あの場所を教えてくれたのはこの人であった。
「いい場所やったやろ? あそこなら進展する思うたんやけど……」
「いい主従関係になりました」
「……あれ?」
店員さんは予想と違う答えに何も言えなかった。
「聞いた話だとこの先らしい もう少し待ってろ」
茶店を出たその後も、リンに連れ回されカザネの探索が続けられていた。
だがその行く先々は、全てリンによって決められたものである。
茶店の次は服屋その次は小物屋と、リンより『シオンの好み』を選んだ場所であった。
(ピャー! 本当にデートみたい!)
一人心の中で、憧れだったデートに感動しながらリンについて行く。
アクアガーデンでも一応したのはしたのだが、今回と違ってリンから誘われた事もあり、その感動は大きかった。
(でも……なんでこんなに色々見てるんだろ? リンが見そうな図書館は素通りしてたし)
これではまるで、本当のデートのようである。
疑問が晴れぬままリンについて行くと、下町から少し離れた森の方へと進んで行く。
「この先はカザネの外だよ?」
「ああそうだ こっちで見られるらしい」
「……見られる?」
それを見る為に、シオンを連れ出していたのだ。
(リンが見たいもなってなんだろう? 思いつかないな……)
そもそも、リンがわざわざ何かを見に行こうとする時点で意外な事である。
「そろそろか……」
「ねえだから何を……わぁ~」
そこにあった景色は一面が桜色に染まる風景だった。
芝桜が一面に咲きほこり、まるで高級な絨毯のよう美しさを感じさせた。
その桜が最初に目に入ったのだが、奥に一本だけ大きくある桜にさらに心奪われる。
「あれは……」
「枝垂れ桜だな」
リンはズカズカとその桜へ近づいて行く。シオンもそれについていった。
「見たままだが『桜の庭』と言うらしい あまり人が来ない隠れスポットだそうだ」
「そうだね……ここまで綺麗だとどれで表現すれば良いかわからなかったよ」
桜の庭にあった中央の枝垂れ桜に辿り着くと、再び周りの景色を眺める。
この光景の美しさを見ていると、何もかもが小さな事に思えてしまう。
「……少しは気晴らしになったか?」
「え?」
木の近くに置かれたベンチにリンは座る。
疲れ為かリンは大きなため息を吐くと、続けて話し出す。
「チビルから聞いたぞ 俺たちが倒れた後一人で寝ずに馬車走らせたんだってな」
「ああ……そのこと」
確かにツヴァイとの戦いの後一分一秒でも早くつくためにほとんど寝ずに馬を休ませながら馬車を走らせた。
「息抜きにと思ってな 無理矢理だったが色々寄ってみた」
(それでいつもと違ったんだ……)
さっきまでのデートのようなものは、リンの不器用な優しさだった。
「家来にも言われたようにまだ礼がまだだったからな その礼も兼ねてだ」
「……私にそんなこと言われる資格はないよ」
むしろ責められるべきなのだと、自らを卑下する。
何故ならリンとレイが戦っているのを、ただ見る事しか出来なかったからだ。
「私はあなたを守れなかった 責務を全うすることができなかったのよ」
「お前の判断は間違っていなかったろう」
「戦えば私も怪我じゃ済まなかったでしょうね でもそれで良かったのよ だって私はあなたを守る騎士としてあなたと共にいるのだから」
それが王妃からの任務だった。それを成し遂げる事でアクアガーデンの騎士団長として正式に任命される。
だが任命されて早々に、成し遂げられなかった。
「ホント笑っちゃう……船の上じゃ大口叩けたけど いざ強敵の前だと足がすくんで戦えなかった」
桜の木に撫でるように触れる。護衛対象にこうして励まされてしまい、何一つ任務を遂行出来ていない。
「結果が全てだ こうして生きているんだからそれでいいさ」
「ううん それじゃダメなの 大切なのは私は戦わなかったということ」
「戦わなかったこと?」
「私は仲間が危機に瀕している状況で手を出さなかった そこが重要なの」
仲間が傷ついているのに戦わない。
それは仲間を見捨てたということだ。
「私はまたきっと繰り返す……だから……」
「それは無いな」
「え?」
そう言ってリンは頭の後ろで手を組んでベンチに寝そべると、続けてこう言った。
「今お前はそれで悩んで……それを悔やんでいる だったらそれを繰り返すことはないだろう 逃げた理由がハッキリしてるんだからな」
「そんなの 次またそうなるかもしれな……」
「無い」
目だけをシオンに向けて、食い気味にリンがシオンの言葉に割って入るように強く否定される。
「アンタはそんなヤツじゃあ無い 失敗すればそれを『悔い』て『学ぶ』それが出来るなら……もう二度としない」
「なんだってそんなこと言えるの?」
「信じてるからな」
意外な言葉だった。
「俺たちはお前に救われた 感謝こそすれど恨みはしないさ」
「それは結果論よ 選択を間違えたことには変わりない」
「その選択は……あんたからすれば間違いだったんだろうさ」
起き上がってこちらに体を向ける。
その顔は真剣で、どこか優しいものだった。
「だがその選択で救われた人がいる それを忘れないだくれ」
励ましてくれている。
普段はぶっきらぼうで口が悪い、不器用な優しくさ人をこうしたら見せてくれる。
そんなリンの優しさで、シオンの心が救われていく。
(ああなんて……)
「それにあの状況で戦いを挑んだのは死にたがりと馬鹿だ あんまり考えすぎるだけ無駄だ」
「ふふふっ……それは言えてるかもね」
「ここは否定するとこだぞ?」
優しい人なのだろう。
「……『誓いを立てましょう』」
護りたい。この人を。
心がそう決める。だからシオンは誓うのだ。
「何?」
シオンは突然リンに剣を向ける。
暫しの沈黙の後、シオンは剣を鞘に収め片膝を立ててリンの方に座り込む。
「『この無礼をお許しを この罪 我が人生全てを懸け償いましょう』」
これは騎士の誓い。アクアガーデンに伝わる主人への。
「『我が力は剣となり この身は貴方を護る盾となる』」
本来であれば正式に騎士となった時に、王妃へと誓う儀式であった。
この儀式は一度行えばもう『二度と』交わす事のできない儀式。王妃以外に行う事は禁じられているものだった。
「『我が名は シオン・ヴァロワ 我が人生主人に全てを捧げよう』」
だが、それでも誓わずにはいられなかった。
シオンは決めてしまったのだ、全てを懸けたいと。
突然の事に唖然としているリンだったが、突然左の首元に痛みを感じた。
水色の光がリンとシオンを囲みこむ。そうして少しすると、光は徐々に収まり消えていった。
「今……何したんだ?」
「アクアガーデンの主従の儀式 本当は王妃以外しちゃダメなんだけどね」
「なんでそんなことを?」
「ちょっと目を閉じて……私の顔を想像してみて」
「今度は何だ……」
そう文句を言いながらもリンは目を閉じる。
すると一瞬ノイズが入ったように感じた。
「……俺か?」
リンが目を閉じると、見える筈のない『自分』がみえていた。
「そう 今の儀式で私と貴方の魔力が繋がったの そして主人である貴方は私の見てる物が見れるようになったの」
「アンタも見れるのか?」
「主人である貴方が許可さえあればね 他にも魔力の受け渡しとか 遠くら呼びかけて安否の確認とかも」
「随分便利だな」
「まあ もう二度とできない儀式だからそれぐらいはね」
「本当に良かったのか?」
「ん~? 帰ったら追放されちゃうかもしれないかな」
「想像以上に大丈夫じゃないな」
「いいの この選択は絶対に間違いじゃないから」
この桜の庭で誓ったこの人を、何があっても護りたいと。シオンは誓わずにはいられなかったのだから仕方ない。
再びリンは目を閉じて、シオンからの視覚情報を得る。
そのリンの首元には、水色の紋章が浮かび上がっていた。
「こっちからじゃ見えなかったが俺の首に痣みたいなのが浮かんでないか?」
「それが誓いの証 貴方がご主人様だっていうね」
「消せないのか?」
「人との繋がりをなんだと……あっ! 私がお風呂入ってる時とか使っちゃダメなんだからね!?」
「誰がするか」
「苦虫噛んだみたいな顔で即否定すんな!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
ふふふっとシオンは笑う。今日この日を忘れる事はない。
「初恋は実らないっていうし……頑張んないとね」
「なにか言ったか?」
「いつか教えてあげる」
今はまだ言えなくとも、言える日があると信じていた。
ちなみにここから先はおまけである。
「あら? 先程のお客さん」
「あっ茶店のお姉さん」
帰り道に先程の茶店の前を通ると、店員のお姉さんに再び出会った。
リンは少し(トラウマになって)苦い顔をしているが、シオンとリンを見たかと思うとシオンに向かって手招きする。
近寄って店員さんに顔を近づけるとヒソヒソと話しかけた。
「どないな感じ? 彼氏さんとの関係 桜の庭で告白とかは?」
あの場所を教えてくれたのはこの人であった。
「いい場所やったやろ? あそこなら進展する思うたんやけど……」
「いい主従関係になりました」
「……あれ?」
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