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太陽都市『サンサイド』

転機/覚悟

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(本物だよな)

 連れられた部屋の前は大きな扉だった。長い廊下に大きな扉と、流石にここは本物の城だと理解する。

 どうやらハリボテというわけではなく、内装も完璧であり扉を開けると予想どうり豪華だった。

 いくらドッキリだったとしてここまでお金をかけるだろうか? アトラクションの貸切だったとしてもかなりかかるだろう。

 今まで信じられなかったが、いよいよ本当に異世界説の信憑性が高まる。

「さあリン様!どうぞゆっくりお休みになってくださいませ」

 そう言うと、バトラーは食事を用意しだす。

「お前達は警備のほうに行きなさい」

「「は!!」」

 バトラーがそう命じると騎士達は部屋を出て行く。

騎士達も言っていたようにこの人が国を支えていたのも嘘ではないのだろう。

「さて」

 背筋が凍った。

 突然言葉からは先ほど感じられていた『慕う』といった感情は消え失せ、何も感じられなくなったのだ。

 怒りや殺気ではなく何の感情も感じられない。それが余計に恐怖を感じさせる。

「なっなんだ?」

「あなたはリン様ではありませんね?」

 気づかれていた。

 別に騙していたわけでもなければ演じていたわけでもなかったが、後ろめたさからつい後ずさりしてしまう。

「……いつから気づいてた」

「あなたと握手した時に 首を拝見しましたら首飾りがありませんでしてから」

「顔じゃあないんだな」

「顔は瓜二つですぞ」

 ホッホッホとひょうきんに笑う。

 さっきの雰囲気はなくなり最初の時に戻っていた。

どうやら敵意はないようなのでとりあえず一安心だ。

「流石に顔は変わってないのか?」

「私より年上ですが不老ですからな」

「化け物か」

 そういった瞬間バトラーから殺気が溢れだした。

 杖の装飾である赤い宝石とは別に鈍い光が見える。その杖が仕込み刀だとすぐにわかった。

「我が君主への愚弄は誰であっても許さぬぞ」

「……悪かったな」

「分かれば良いのです」

 さっきまでの雰囲気がまた変わる。コロコロと雰囲気が変わるが、それは何を本当に考えているのかわからないということだ。

 絶対に只者ではない。

何者なのか気になってしまうがそれより先に今の状況を知りたい。

「なんで別人だとわかっててここまで連れてきた」

「あなたから敵意を感じられませんでした それに何かお困りのようだったので」

 全て見透かされいたのだ。なんという茶番。

「さっきの化け物は訂正してあんたの方を化け物と思うよ」

「ホッホッホ 私を褒めても何も出ませんぞ」

 実際この人の年齢も相当なものなので間違った表現ではないはずだ。

「さて 最初の質問に戻りましょう あなたは何者ですかな?」

「俺は……」

紅茶らしき飲み物を入れてもらい、椅子に座って一息つきながら今までの経緯を話す。

「なあ陛下が帰ってきた理由って……」

「間違えなく『アレ』だろうな」

「やっぱり! ついにあの伝説を実際に見ることができるのか~」

「これで我々の勝利は確実だな」

 部屋から出た後、騎士達はリンのことについて語り出す。

 別人だとは気づいていないので外では勝手に盛り上がっていた。

「なるほど あなたのお名前は優月ユウヅキ リンで異世界からやってきた来訪者であり……顔と名前が一緒なのも何故ここにいるのかも何もわからないと?」

 そして場面は戻り、リンがバトラーに今までの経緯を話し終える。

「信じてくれとは言えないがな」

 自分だったら絶対に信じない。

「異世界から来たのかは私にもわかりませんがあなたの言葉ば全て真実でしょう」

「信じてくれるのか?」

「今あなたが嘘をついてもなんの意味もないでしょう 嘘なら見抜けますし」

「……貴方には敵わないな」

「ホッホッホ 年季の差というだけですよ」

この人には敵わない。心の底からそう思えた。

「ですが一つ良いことを思いつきましたぞ」

「それは?」

「それはですな……」

そういってバトラーが立ち上がろうとした次の瞬間だった。

「大変です!」

そこに突然一人の騎士が現れた。

「何事ですか!?」

よほど緊急なのだろう。ノックもせず突然入ってきた騎士に対してバトラーは声を荒だてた。

「魔王軍が……ついに魔王軍が現れました!!」

 突然の戦いの知らせ。

 そういえば、ここに来る前に『魔王軍』がどうとか言っていたのを思い出す。

「ついにこのサンサイドまで来ましたか……」

「魔王軍?」

「魔界の悪魔を統べる大悪魔 『サタン』と呼ばれている者達の事です」

 何だか聞いたことがある響きだ。こういったのはどの世界でも変わらないのだろうか。

「魔王軍は鬼族《きぞく》の戦闘部隊を送り込んだようです!」

「あの戦闘種族か!」

「如何なさいましょう!」

「すぐに第三第四部隊を配備! 北部の第一第二部隊にも連絡 援軍を要請! 遊撃隊への連絡も忘れるな!」

「ハッ!!」

「失礼します!」

 騎士が部屋を出たかと思えばまた騎士が、また出たかと思えばまた別の騎士が入れ替わり立ち替わり入ってくる。

場に緊張感が張り詰める。臨戦態勢を整え、魔王軍と戦うのだろう。この巨大都市なら強力な部隊を保有しているはずだ。

 だが、一つ気になることがある。

鬼族きぞくって……なんですか?」

 嫌な響き。ファンタジー世界であれば、もしやと思わずにいられない。

「魔族に属する『鬼』の中でも戦闘に特化した者達のことです 平均3メートルをも超える怪力揃いの魔王軍のきっての精鋭部隊ですぞ」

 ああやっぱりと、そんじょそこらの相手では無いと。

「こっちの部隊の人数は?」

「今準備出来る第一第二部隊で千六百遊撃隊含めて千八百です」

「相手は?」

「おそらく大隊で八百かと」

数なら確かにこちらが千の差で有利だ。

 もっともそれは、相手がただの人間なら・・・・の話だが。

「援軍はどれくらいで来ますか?」

「一般市民の避難誘導もありますからね……時間はかかるかと」

巨大都市の欠点だ。街が大きければその分必要な物は揃うが、逆に言えば必要な物も増えて手間や時間がかかる。

 その間に被害もそれ相応に増えるだろう。

「……勝てるんですか?」

「勝たなくてはなりません」

 バトラーの眼は本気だった。

 今まで守り続けたこの場所を守らなくてはならないと言う強い覚悟の眼だ。

 ここで俺があれこれ質問するのも失礼だろう。ここはおとなしくしているとしよう。

「心配には及びません! 何せ我々には陛下がおられるのですから!」

 嫌な予感がする。

 騎士の一人がそう言うと他の騎士まで便乗しだす。

「なるほど! 陛下が帰られた理由はこの時のためだったのですね!」

「ならば百人力ですな!」

 待て、待て、待って。

(まさか……俺も戦場に出ろと言ってるのだろうか? )

 とてもじゃないが役に立てる自信なんてない。

「ではリン様 ここは一つ激励をかけては如何でしょう?」

 貴方は事情を知っていてそう言うのだからタチが悪い。

「大丈夫ですぞ 今ここで一言言っていただければいいのですから」

 そう小声でバトラーは言う。

 まあ確かに今ここで言えば千八百人の前で言わなくてもいいので気が楽だ。

「さあさあ一つここは決めてしまいましょう!」

 いつの間にかどんどん増えていく騎士達が期待の眼差しを向ける。

 今の内に言っておかないと、増えて最終的に大勢の前で本当に言わなくてはいけなくなりそうなので早く言わなくては。

「……がんばろう」

                 「「「「オォー!」」」」

 恥ずかしい。とっても。

 人前というのもあるが何も出てこなかった自分が恥ずかしい。顔から火が出てしまいそうだ。

 そんな俺の一言で満足させてしまったこの騎士達にも本当に申し訳ない。

「無駄を省いた素晴らし激励でしたぞ」

 あまりの恥ずかしさに顔を押さえていると、励ましの言葉をかけてくれる。

「バトラーさん……」

 その言葉に感動しそうになるが、元を辿ればこの人のせいだった。

「……俺は貴方を恨みますよ」

「その恨みを魔王軍にぶつけては如何でしょう」

「ご冗談を」

 悪い冗談だ。戦闘経験のない俺を部隊に入れようというのか。

「ですがあなたの存在は皆の励ましになります。」

「それは俺じゃない」

 励ましなど出来ない。悪い冗談だ。

「それでも今はあなたが必要なのです! 御安心を この城にさえ居て下されば良いのです! 敵があなたに近づけぬように騎士達を配備しますのでどうか……」

「やめて下さい」

 冗談じゃない。この戦いが本当であれば死者が出るはずだ。それは避けられない。

 戦力を俺に回したせいで負けては目覚めが悪すぎる。

 そんなこと死んでもごめんだ。

「……わかりました 俺はこの城に残ります 護衛の分は戦力にでも回して下さい」

「貴方のその決断に感謝を」

 バトラーはそう言うと俺に深々とお辞儀をした。

 そしてバトラーは自身の持っていた杖を差し出す。

「お受け取りください 役に立つはずです」

「大丈夫なんですか?」

「ホッホ 私には必要無いものですから」

 確かにこの杖は刀が仕込まれているので護身用には充分だろう。

 それにこの人は本当なら杖など必要ないただろう。

「では私はこれから軍の指揮を執りに参りますのでこれで」

「敵は後どれくらいで来ますか?」

「おそらく三十分後かと」

「ならその間に素振りでもしておきますよ」

「なんなら騎士達の前でもう一度激励を……」

「ご武運を」

 あれはもうやりたくない。今度こそ大勢の前でやってしまえば本当に顔から火を出してしまう。

 そうしないために無理矢理話を話を遮る。

 ホッホッホと笑いバトラーは部屋を出て行く。

 突然始まった戦いに、覚悟を決めなければならなかった。


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