裏銀河のレティシア

SHINJIRO_G

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Chapetr2

074 レティシアと一進二退(20/20)

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 朝、私その周りには十人近くの若い女性が横たわっていた。誰もピクリとも動かない。
 太陽、トレジエムが昇って何時間か経っただろう、窓から射し込む光が眩しくて私は起き出した。
 昨日、自由大学でアカリさんを見かけて、大騒ぎした私。慰める会が昨夜私の家で行われた。
 散々何か文句を言い散らしたような気がするけど、それは昨日まで。
「リセット!私、復活だあ」
「朝からやかましいよ!バカレティシア!!」
 確かに耳元で叫ばれたらウルサい。
 宴会は朝方まで続き、最後の一人が落ちたのは空が白み始めた頃。私の最後の記憶がそうなんだから、そうなんだ。
 改めて周りを見渡す。
 これだけの死体が、元は友達だった者達が、自分を励ますためにここまでしてくれたのは純粋に嬉しいしかない。安らかに眠れ。
「あんたホントに強いね。状態異常無効なの?」
 耳元で叫ばれたソフィアが活動できるくらいには覚醒したようだ。この子もメンタル強いわね。
「まあね」
 他にもこの身体には色々秘密あるのだが、自分から言うことでも無いだろう。アカリさんと逢ったあの山も実は汗ひとつかかずに登ることができていたとか。アカリさんと逢えての興奮の汗が恥女騒動の原因だとか。
「さて、みんなを叩き起こすとするか」
 朝食準備の邪魔だ。
「やめてあげなよ。私ももうひと眠りしたいし」
 部屋を片付けたいんだけど、仕方ない。
「でもせめて重なってるのはかわいそうだから、並べ直してあげるよ」
 フローリングの床で三人重なって寝てるのは見てるだけで苦しそうだったので、寝具屋にタオルケットをいっぱい持ってきてもらい、リビングに敷き詰めた。リビングがゾンビ安置所に大変身だ。
 シャワーが終わってもまだ誰も復活していない。
「ゾンビは昼間は動けないものだわ。仕方ない」
 一気に狭くなった我が家に見切りを付けて、私は朝の散歩に出た。
 サンカク山の稜線からも日は昇りきって、空気が暑くなり始めている。川の方から流れてくる風が涼しい。
 何となく選んだノースリーブの白いワンピースは、川沿いに並ぶ花木の濃い緑に映えて爽やかな気分になる。
 気の向くまま、堤防の土手に上がる。なんとなく彼がいるような気がしたのだ。
 そして、彼に関して言えば、予感はよく当たる。
「お待たせ」
「おはようレティシアさん」
 アカリさんが土手に座っていた。彼も私が来ることが分かっていたのか、自然に返事が返ってきた。
 彼の隣に座るために近づいても、この前みたいな変な緊張はない。
 彼が敷いてくれたタオルに座り、足を延ばして軽く伸びをした。ずっと見られている。
「な、何ですか?私の顔何か付いてます?」
「いや、不思議な顔だなと……」
「ヒドい。私これでも可愛さには自信があるんですよ」
 言葉の選び方は、これから少しずつ修正してもらおうと思う。自分だから言葉の奥の真意が読みとれるのだ、ほかの子だと怒ってしまうだろう。
「可愛いというか、美人には違いないけど、表情が不思議だ」
「可愛い……」
 そろそろ視線を外してほしかった。
「明らかに寝不足なのにスッキリしてるというか、チグハグだ。良いことあったの?」
「ありましたよ。秘密ですけど」
「そっか。女の人は不思議だねえ」
「女の子ですよ……」
 私達はしばらく黙って川面を見ていた。
「久し振りに話す気がする」
「そうですね」
「でも僕ら考えたら、ほとんど話したことないよね」
「不思議ですね」
 
「さて、僕は行くよ」
「もう行くんですか」
「元気になったみたいだから。またどこかで逢おう」
「こんな時は、キ、キスをしてお別れするのがロマンティックなんですよ……」
 身長差でアカリさんを見上げる形になる。
 ここは、レティシア流奥義の出番よ!
 
「ロマンを忘れたら宇宙船乗りではない、か」
 アカリさんが私の肩を優しくつかむ。
 これって……!私は期待とドキドキで目を閉じる。
 頬に手を添えられ、少しビクットしてしまうが、。逆に初々しさが強調されたとしておく。少し瞼を開くと、近付いてくるアカリさんのまじめな顔……。
「やっぱり……無理です~!」
 私はダメだ、とんだチキンだ。
 アカリさんを突き飛ばし、私は逃げ出した。
 たぶん光よりも早く。
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