42 / 104
Chapetr1
042 レティシアと月頭さん
しおりを挟む
月明かりが綺麗な夜だったので、散歩に出た。
二人は疲れていたのか、いつもより早く部屋に戻ってしまった。散歩に行くからとメールはしたけど、返事はない。眠ってしまったのだろう。
やけに静まりかえった街。犬の声も虫の声もしない。川の向こうに見えているはずの街灯りも見えない、土手の道沿いにある街灯も点いていない。
それでも歩けているのは、月明かりが眩しいくらいに照らしてくれているから。
河川敷に降りる階段、私の特等席に何かが立っている。二本足に腕も二本頭も一つシッポはない。でも人間っぽく見えないのは、頭のパーツが真ん丸お月様だから。
民族衣装のように色とりどりの紋様が描かれて、シルエットはタキシードのよう。単なる変質者にしては奇抜すぎる。
私の視線にどうやってか気づいた彼は、シルクハットのような深めの帽子を被り、顔を隠す。
「この衣装はね、この間ここに来たときに、町の人からもらったのさ」
「私、初めて見ます」
「そうだろうね。僕も君たちのような生き物を初めて見るし」
私もな。
私の方が多数決の意見だと確信できますよ。
「私、レティシア。月明かりが綺麗だったので、お散歩中よ。あなたはだぁれ?」
「名前か。今は「月」くらいにしか呼ばれていないみたいなんだよ」
「そうなのよね。どうして素敵な名前を付けないのか不思議なのよ。今夜の月はマカロンみたいに綺麗で美味しそうなのに」
「私は美味しくないよ」
そんなにビックリしないでよ。食べるわけないでしょ。
「マカロンってこれよ」
なぜかポーチに入れて持ってきた黄色いマカロンを取り出して、月頭さんに持たせる。
「なるほどね。確かに似ている。これが今の私を模したお菓子ということかい」
私達二人はいつの間にか階段に座り込み、話している。
「違うわ。お月様のイメージで作ったお菓子は別にもっといっぱいあるはず。でもね名前がないから、みんな「ルナなんとか」になっちゃうの。そうね、私達は他の星から来たから、この星の神様に遠慮して、名前が付けられないんだわ」
きっとそうだ。こんなに住みやすい星、遺跡もあるような文明。月が神様扱いされているのが普通だろう。そのときはなんて呼ばれていたのかな。
「あなた、神様なの?」
「違うよ。自分はもう少し理性的な存在だと思っているよ。存在としては、君たちと大差ない。神様には助けていただいたり、……少し困ったり。ね」
「さて、そろそろ時間だ」
「そうなんですね」
「マカロンありがとう。きれいななお菓子だ。……お返しにこれを」
月頭さんは小さな石が付いた細いネックレスをかけてくれる。
「私がなんて呼ばれていたかは、友達が遺してくれた建物を調べたら、どこかには書いているんじゃないかな」
……そこまで気にしてないんだけどね。
「……是非調べてほしいってことだよ?それでまた名前を呼んでほしい」
「分かりましたよ~。頑張ります」
「うん、また逢おうね、美しいレティシア」
街の明かりが戻ったかと思うと、彼は消えてどこにもいなかった。
家に帰ると、二人は変わらず眠っているみたいだ。
コーヒーを入れて、ポーチから残りのマカロンを取り出す。部屋の灯りを消すと、天井の斜め窓からまだ満月が見えていた。
二人は疲れていたのか、いつもより早く部屋に戻ってしまった。散歩に行くからとメールはしたけど、返事はない。眠ってしまったのだろう。
やけに静まりかえった街。犬の声も虫の声もしない。川の向こうに見えているはずの街灯りも見えない、土手の道沿いにある街灯も点いていない。
それでも歩けているのは、月明かりが眩しいくらいに照らしてくれているから。
河川敷に降りる階段、私の特等席に何かが立っている。二本足に腕も二本頭も一つシッポはない。でも人間っぽく見えないのは、頭のパーツが真ん丸お月様だから。
民族衣装のように色とりどりの紋様が描かれて、シルエットはタキシードのよう。単なる変質者にしては奇抜すぎる。
私の視線にどうやってか気づいた彼は、シルクハットのような深めの帽子を被り、顔を隠す。
「この衣装はね、この間ここに来たときに、町の人からもらったのさ」
「私、初めて見ます」
「そうだろうね。僕も君たちのような生き物を初めて見るし」
私もな。
私の方が多数決の意見だと確信できますよ。
「私、レティシア。月明かりが綺麗だったので、お散歩中よ。あなたはだぁれ?」
「名前か。今は「月」くらいにしか呼ばれていないみたいなんだよ」
「そうなのよね。どうして素敵な名前を付けないのか不思議なのよ。今夜の月はマカロンみたいに綺麗で美味しそうなのに」
「私は美味しくないよ」
そんなにビックリしないでよ。食べるわけないでしょ。
「マカロンってこれよ」
なぜかポーチに入れて持ってきた黄色いマカロンを取り出して、月頭さんに持たせる。
「なるほどね。確かに似ている。これが今の私を模したお菓子ということかい」
私達二人はいつの間にか階段に座り込み、話している。
「違うわ。お月様のイメージで作ったお菓子は別にもっといっぱいあるはず。でもね名前がないから、みんな「ルナなんとか」になっちゃうの。そうね、私達は他の星から来たから、この星の神様に遠慮して、名前が付けられないんだわ」
きっとそうだ。こんなに住みやすい星、遺跡もあるような文明。月が神様扱いされているのが普通だろう。そのときはなんて呼ばれていたのかな。
「あなた、神様なの?」
「違うよ。自分はもう少し理性的な存在だと思っているよ。存在としては、君たちと大差ない。神様には助けていただいたり、……少し困ったり。ね」
「さて、そろそろ時間だ」
「そうなんですね」
「マカロンありがとう。きれいななお菓子だ。……お返しにこれを」
月頭さんは小さな石が付いた細いネックレスをかけてくれる。
「私がなんて呼ばれていたかは、友達が遺してくれた建物を調べたら、どこかには書いているんじゃないかな」
……そこまで気にしてないんだけどね。
「……是非調べてほしいってことだよ?それでまた名前を呼んでほしい」
「分かりましたよ~。頑張ります」
「うん、また逢おうね、美しいレティシア」
街の明かりが戻ったかと思うと、彼は消えてどこにもいなかった。
家に帰ると、二人は変わらず眠っているみたいだ。
コーヒーを入れて、ポーチから残りのマカロンを取り出す。部屋の灯りを消すと、天井の斜め窓からまだ満月が見えていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる