溶かして、甘いキスで。

1.プロローグ

少し骨張った長い指が、俺の髪を梳いている。


ゆっくりと壊れ物を扱うような優しい手つきで髪を梳いていく。気持ちいい、永遠とこの時間を過ごしていたいと、意識の浮上を妨げる。


放課後、


春の心地よい日差しに勉強の手を止めそのまま寝てしまって居たようだ。


そうだ、俺は親友の部活終わりを待っていた。
彼の所属するバスケ部はこの春たくさんの新入部員を迎え、先輩として後輩の指導と自分の練習とで最近は特に忙しそうだ。


帰宅部で勉強しかしてない俺が待たせてどうすんだ。




この心地よい眠りから、無理矢理意識を覚ます。


顔を上げ、伸びをし相手の顔色を伺う。


目の前には、いつもと変わらない優しい笑みを浮かべた幼馴染みで親友の橘たちばな圭吾けいごがいた。




「･･････ごめん、寝てた。」


寝起きは苦手だ。
まだ意識は、はっきりしていない感覚の中、頬を人差し指でかきつつ、笑って親友の許しを請おうと思ったが、上手く笑えている気がしない。応答のない親友に少し不安が募る。


「どうした？けぇ･･･」



“ご”という発音は柔らかで少しかさついた弾力によってせき止められた。



何にという疑問は、すぐに羞恥に変わる。目の前、明らかに近すぎる距離に圭吾の整った顔。



･･････一瞬のことだった。


少し距離が開き


してやったりな、圭吾の満足そうな顔が今は少し恨めしい。




俺、佐藤さとう陽太ひなた。


高校2年になったばかりの春。


幼馴染みで親友･･･




･･････そして、初恋の人にファーストキスを奪われたのだった。