死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

文字の大きさ
90 / 119
第三章

運命を打ち破る覚悟

しおりを挟む
 この数年、トーヤとしての活動は、国をまたいで行ってきたため、ムージェスト王国内での話題性も今ではほぼ無くなっていた。
 これには、ブラックワイバーンのような大物を以降倒していないことも影響している。
 レオナルドの狙い通りということだ。

 そうした中、今日のレオナルドはステラに行きたいところがあると言って、空を飛び、西側国境をおさめるクルエール公爵領を抜けたさらに先にある、とある場所へとやって来ていた。
 だが、到着したレオナルドは眼下に広がる光景に絶句し、上空で固まってしまう。
 そこはいまだ破壊の爪痕つめあとを色濃く残し、今はただ瓦礫がれきの山となっていた。
 レオナルドとしてもある程度予想はしていたが、現実はあまりにも生々しい。
『何ですか?ここは』
 レオナルドの見ている光景を共有できるステラからそんな疑問が上がった。
 ステラの質問に答えることなく、レオナルドは降下していく。
 そして今度は地上からじっと見つめていたかと思うとようやく話し始めた。
「……今はただの廃墟はいきょにしか見えないよな。……でもここはホルグレイル王国っていう国の王都だったんだ。王都ホルグス。俺は見たことないけど、美しくて活気あふれる都市だったらしい」
 ムージェスト王国では、東のクルームハイト公爵領、西のクルエール公爵領が国境の守護をになっているのだが、西側は元々友好国であり、平和と中立を国是こくぜとしていたホルグレイル王国と隣接していた。そのホルグレイル王国が十四年前、何者かに王都ホルグスを襲われ、王家を含めた王都に住むすべての人間が死に、一夜にして滅んだのだ。魔物におそわれたという説や他国に夜襲やしゅうをかけられたという説など様々言われているが、目撃者はおらずはっきりとはしていない。

『そういうことですか』
 その国の名をレオナルドから聞いたことがあったステラはそれだけで納得した。
「……ずっと気にはなってたんだけど、空を飛べるようになってからもたぶん無意識にここに来るのはけちゃってたんだ」
『……つまりここはレオの未来関係のある場所なのですね?』
 ステラの言葉にレオナルドは苦笑する。
「わかるか?……そう言えばこれは話したことなかったよな。ここはさ、ゲームのセレナルートとミレーネルートでレオナルドが潜伏せんぷくしていた場所なんだ。そして最期さいごむかえる場所でもある」
 だからレオナルドは気になっていた。レオナルドがここを潜伏先に選んだのには理由があるのだろうか、と。でもこの二ルートには絶対になってほしくないという思いが強かった。それゆえ、避けてきてしまったのだが……。
『なるほど……。ですが、なぜ今になってこの場所へ?』
 当然の疑問だろう。今になっておとずれた理由。それは―――。
「まあ、簡単に言うとあらためて覚悟を決めるためかな。今度、シャルロッテ王女の学園入学を前にして夜会が開かれるのは話しただろ?そこで学園関係者やシャルロッテ王女と同学年になる者、一年上の先輩達なんかが一堂いちどうかいする。つまり、ゲームの登場人物がほぼ集まる場所になるんだ。それが終わったらいよいよ学園入学まであっという間だ。ついに本編が始まる。だから来るなら今しかないって思ったんだ」
 ムージェスト王国では、王族が学園に入学する際には、その前に夜会が開かれることになっている。実際の思惑おもわくは様々あるが、建前たてまえとしては王族が入学するので二年間よろしく、という顔合わせ、挨拶あいさつのようなものだ。ちなみに、家族も参加するものなので、クルームハイト公爵家は一家で参加予定だ。

『……そうですか。それで、覚悟は決まりましたか?』
「ああ。この現実でも復興ふっこうはされてないし、胸に来るものはあるけどな」
『今のレオには私がいます。ゲームのさだめのようになんてさせませんよ』
「ありがとう。頼りにしてるよ、ステラ。運命なんて俺達で打ち破ってやろう」
『はい』
 その後は会話もなく、レオナルドはしばらくの間、何かを考えるように廃墟となった都市を見つめ続けていたが、心の整理がついたのか、ようやく口を開いた。
「……今はさ、ここはオルミナス王国って国に生まれ変わってるんだ。王都も別の場所になって復興を頑張ってるらしい。まあ、それで旧王都は手つかずになってるんだけど。この後、その新しい王都も見てみたいんだけどいいかな?」
『まだ時間の余裕はありますし、いいんじゃないですか』

 こうしてレオナルドは再び空へと上がり、オルミナス王国の王都オルスを目指した。
 空を飛んでの移動中、レオナルドはオルミナス王国について、この世界で調べてわかっていることをステラに伝えた。

 生き残った公爵家が他の貴族をまとめ上げ、現在はその公爵家が新たな王家となりオルミナス王国を建国した。
 元々王都ホルグス以外の被害が軽微けいびだったこともあるが、新王国の誕生と政治体制の再構築、そして国内の復興には、エヴァンジュール神聖国が聖教の理念にしたがい、支援をしまなかったことも大きい。そのためか、ホルグレイル王国時代には適度に距離をとっていた聖教と現在は密接な関係をきずいている。
 また、この国の南には魔の森と呼ばれる強力な魔物が跋扈ばっこする森が存在している。ホルグレイル王国時代は治安の関係で周囲に都市を作らなかったのだが、オルミナス王国は魔の森の近くに王都オルスをかまえる道を選んだ。冒険者を呼び込むためだ。それがこうそうしてオルスはにぎわい、今では大きな財源となっている。

「ん?あれは……?」
 そんな話をステラとしながら飛行していたレオナルドが地上の異変に気づいて止まる。あたりに何もない街道のため目立っていたのだ。
「絶対に守ってみせる!」
 そのとき、上空にまで聞こえるほどの大きな声がひびいた。
「もしかして馬車が襲われているのか!?」
 一台の馬車を守るようにして立つ人物が一人。その近くには二人が倒れていた。三人とも同じよろいを身につけていることからどこかの騎士だと思われる。
 その騎士と馬車をかこむように五人が立っている。こちらは見た感じ野盗やとうのようだ。三対五という数的不利とはいえ、一方的にやられているところを見ると、騎士の実力が低いのか、相手が強いのか、奇襲をされたのか、何にしてもこのままではやられることは確実だろう。聞こえてきた声や状況から馬車には騎士達が守ろうとしているものが乗っている可能性が高い。
『まさか助けに入るつもりですか?』
 レオナルドの思いに気づいたステラがあきれたようにたずねる。
「そりゃこんなの見つけちゃったら放っておけないだろ」
『本当に甘いですね。……ですが、助けるにしても絶対に殺さないようにしなさい』
 ステラの言葉にレオナルドは意表を突かれ、突撃しようとした動きを止めてしまう。

「前にもそんなこと言ってたよな?殺したいなんて思ってる訳じゃないけど、俺にだって必要なら殺す覚悟はできてるぞ?」
 グラオム達からミレーネを助け出すときにもステラがそんなことを言っていたことをレオナルドは思い出していた。人間を憎んでいて普段から殺しますかと言ってくるステラの言葉としては明らかにおかしいのだ。
『やめなさい。それはレオ自身を追い詰めることになります』
「どういう意味だよ?」
 ステラの真剣な声にレオナルドはいぶかしむ。
『そうですね。いい機会なのかもしれません。……私の仮説ではありますが、落ち着いたら話します。今は助けたいのでしょう?それなら急いだ方がいい。今のレオなら殺さず無力化することも簡単にできるでしょう』
 偶然にも今日、あらためて覚悟を決めたというレオナルド。タイミング的には丁度ちょうどいいとステラは思ったのだ。
「……わかったよ」
 レオナルド達がそんなやり取りをしている間に、地上では動きがあり、残っていた最後の騎士も倒されてしまった。現在進行形で襲われているのだからこんな話をしている場合ではなかったのだ。
 その光景を見た瞬間、レオナルドは表情をゆがめると舌打ちし、自身の周囲に五個の光球を発生させた。レオナルドが覚えた攻撃のための精霊術だ。
 それらの光球は一斉いっせいに飛び出し、狙いすましたように野盗と思われる五人の頭部に見事命中した。
 威力が調整された光球は頭部をつらぬくことはなかったが、意識外からの強烈な一撃により脳震盪のうしんとうを起こさせたようで五人はその場に倒れた。ステラの言う通りレオナルドは本当に簡単にやってのけてしまった。

 こうして一瞬で戦いを終わらせたレオナルドは馬車の元へと急降下するのだった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...