死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第二章

専属

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 レオナルドとミレーネが二人で執務室に姿を見せた。
「まさか本当に連れ帰ってくるとは……」
 それを見たフォルステッドは驚きに満ちたつぶやきをらす。確信はなくとも、レオナルドならもしかしたらと思ってはいた。だが、実際に結果を目の前にするとやはり驚きがまさる。
「ミレーネはこうして戻ってきてくれました。今回のめ事も解決しました」
 レオナルドの隣ではミレーネが非常にきまり悪そうにしている。自分の意思で決めて、もうここに戻ってくることはないと思っていたのに、その日のうちにこうして戻ってくることになったから。
「はぁ……」
 こちらの気持ちも知らないでやり切ったという顔をしているレオナルドについため息がこぼれる。
「父上、約束は守ってもらいますよ?」

 レオナルドが念を押すように確認すると、フォルステッドが何かを言う前に、
「レオ兄さま!ミレーネ!」
 二人が戻ったことを聞きつけたセレナリーゼが執務室に飛び込んできた。
「セレナ。ただいま」
「お帰りなさいませ、レオ兄さま、ミレーネも」
 言いながらセレナリーゼはかすかな違和感をおぼえたが、それが何かはわからず内心で小首をかしげた。
「約束通りミレーネを連れ帰ってきたよ」
「はい。信じていました。二人ともご無事で何よりです」
「……ご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした」
「ミレーネ、違いますよ?迷惑じゃなくて心配したんです。黙ったまま一人で色々なことをかかえて出て行こうとするだなんて。でもこうしてミレーネが戻ってきてくれて本当に嬉しいです」
「っ、…ご心配をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした。ありがとう、ございますセレナリーゼ様」
 セレナリーゼの言葉で心がじんわりと温かくなったミレーネの声はかすかに震えていた。

 それからレオナルド達は全員でソファに腰掛けた。ミレーネは立っていようとしたのだが、レオナルドとセレナリーゼの二人からダメだと言われて一緒に座っている。
 フォルステッドの正面に、レオナルドを真ん中にして、左にセレナリーゼ、右にミレーネといった形だ。

 レオナルドが主になってこと顛末てんまつをフォルステッドに説明する。
 内容はミレーネと打ち合わせた通り、フォルステッドのおかげというものだ。

 その話を聞いて、セレナリーゼはニコニコしながら「さすがはレオ兄さまです!」と全幅ぜんぷくの信頼をせるレオナルドのことをめていた。

 一方、フォルステッドはレオナルドの語る内容が正直信じられなかった。クルエール、ブルタルの悪辣あくらつさをよく知っているからだ。奴らがそんな簡単に引き下がるなど何か裏があるのではないかとどうしても思えてしまう。
 だが適切にはさまれるミレーネの補足ほそくもあって、最終的には一応の納得はした。サバスに裏を取らせる必要はあるが、それは自分達の話だ。
 実際、イリシェイム第一王子が出てきてしまった今回の件がクルームハイト公爵家にまで及ぶことなく終結するのであればそれにしたことはない。それだけ今回の件は、大事おおごとになる可能性をめたものだったのだ。

「それで父上、ミレーネの復職の件ですが―――」
 説明を終えたレオナルドがこちらこそ本題とばかりに真剣な表情で切り出す。だが、それに答えたのはセレナリーゼだった。
「レオ兄さま、安心してください。ミレーネの処遇しょぐうについてはもう決まっています」
 セレナリーゼは笑顔で断言する。
「セレナ?もしかしてもう父上の説得は終わってるのか?」
「当然です!レオ兄さまに任されましたから!」
 何とも可愛かわいらしいどや顔を見せたセレナリーゼはそのままレオナルドに頭を差し出すようにした。意味を察したレオナルドがセレナリーゼの頭を優しくでると、彼女はその手の感触にひたるように目を閉じる。が、続くレオナルドの言葉ですぐに元に戻すことになる。
「セレナ……。ありがとう。本当にありがとう。じゃあ今まで通りミレーネはここにいられるんだな」
「あ、えっと…今まで通りという訳ではないんです。ミレーネにはこれから私のになってもらいたいのです。後々のちのちはサバスのようにとして私を支えてもらえたらと思っています」
「っ!?」
 レオナルドは目を見開く。
「セレナリーゼ様!?そんな、私にそのような役目はおそれ多いです」
「これはミレーネのためだけではないのです。そうですよね、お父さま?」
「…ああ。当主の側近そっきんには、信頼できる闇魔法の使い手が望ましい。表向き法で禁止されているとはいえ、実際には暗殺などへの対策は必須だからな。サバスがだ。だが、そうそう都合よくそんな人間が見つかる訳ではない。だからサバスには父と私、二代にわたってつとめてもらっている。しかし、サバスももういい年齢だ。さすがにセレナリーゼの代までは難しい。そこまでの事情をすべてわかった上で、セレナリーゼはミレーネを自身の側近にと望み私が許可した」
 フォルステッドは説明しながらレオナルドに目をやった。どうだ?これはお前の目論見もくろみ通りなのか、と。
 だが、レオナルドはその視線に気づかなかった。フォルステッドと自分がしたたったあれだけの会話から、セレナリーゼがその聡明そうめいさを発揮はっきしてミレーネを専属にと望んだこと、そしてミレーネがゲーム通り、専属になること、そのどちらに対しても、表現は難しいが、震えるほどゾクゾクした気持ちがき上がってきていた。二人が組むのなら最強だろう。ゲームとは違い、自分が関わらなければ二人の将来も明るいのではないかとも思える。レオナルドは無意識に口元に笑みが浮かんでいた。

「実のところ、それはお父さまを説得するための理由というのが大きいんですけどね。私だって今回のことは怒っているんです。もうミレーネをただのメイドだなんて言わせません。対外的に公爵家の側近ともなれば、滅多めったなことはないでしょうし、もしもまた何かあったとしても、今度はクルームハイトの名のもとに全力で対応することができます」
 公爵家の側近という立場には対外的にそれだけの価値がある。それに公爵家としても様々な情報を得ることになる側近は必ず守らねばならない存在だ。身内も同然といったところだろうか。
「セレナリーゼ様……」
「だからミレーネ、引き受けてはもらえませんか?」
 セレナリーゼの言葉に全員の視線がミレーネに向く。
 するとミレーネはものすごく自然にレオナルドを見やった。
 レオナルドは自分を見つめてきたことに少しだけ驚きつつも、微笑ほほえみを浮かべて力強くうなずいた。
 ミレーネにとっても、セレナリーゼにとってもそれがいいと本気で思うから。残念なことがあるとすれば、これからは朝ミレーネが自分を起こしに来てくれることはないのだろうなということだろうか。そんなちょっぴりの寂しさはもちろん表には出さないけれど。
 レオナルドの反応にミレーネも小さく口元をほころばせながらこくりと頷く。

 セレナリーゼからはそれがばっちり見えていて、そこで最初の違和感が何かわかったような気がした。いや、セレナリーゼだからこそ気づけたといった方がいいかもしれない。女のかんというやつだろうか。
 つまりは、レオナルドに対するミレーネの精神的な距離が近くなっている、と。

 ミレーネはその場で立ち上がると、
旦那だんな様、セレナリーゼ様。つつしんでお受けさせていただきます。よろしくお願い致します」
 深く頭を下げた。
 そしてそっとふところに手を当てる。
(お父様、お母様……。私は―――)
 そこには両親の形見である短剣があり、ミレーネは心の中で新たなちかいを立てるのだった。

 こうして今日このときより、ミレーネは次期当主であるセレナリーゼの専属せんぞく侍女じじょとなった。今後はサバスから将来に向けた側近としての教育も受けていくこととなる。
 今までの自分とは違う。ミレーネの忙しくも充実した新たな日々が始まるのだった。
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