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第二章

子供達の成長

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「何を言い出すかと思えば……。馬鹿ばかを言うな。バレなければいいというものではない」
「そうですか?実際のところ、貴族の中にはいざというときのため闇魔法使いを人もいるでしょう?」
 レオナルドはそう言うと、チラリとに目をやった。
 その視線の動きはフォルステッドを本気で驚愕きょうがくさせた。
 レオナルドはいったいなぜ、何を、どこまで知っているというのか?
 先ほどから知るはずのないことばかり知っているレオナルドにフォルステッドはうすら寒いものを感じた。

「……何を言ってももう遅い。すでに彼女は呼び出された場所に向かっている。わかったならもうミレーネのことは忘れなさい」
「そんな!?セレナ、ミレーネが呼び出された場所はわかる?」
 レオナルドは振り返りセレナリーゼにたずねるが、
「い、いえ。ミレーネが何か紙を渡されているのは見ましたが中身までは……」
 セレナリーゼは申し訳なさそうに答えた。
(くっ、どうすればいい?どうしたら……!?)
 あせりばかりがつのっていくレオナルド。そこに再びステラの声がひびく。
『何をそんなに焦っているのです?』
(ミレーネの向かった場所がわからなきゃ止めることもできない!)
『レオは忘れたのですか?以前、私にミレーネの魔力を覚えさせたのはレオですよ?』
(っ!?あ~~~~!!!?そういえばそうだった!すっかり忘れてた!)
 レオナルドは目を見開いて思わず頭をかかえてしまう。
『まったく……。私はとっくに探知を始めていたというのに……。今からでも十分追いかけられますよ』
(ステラ……。……どうしてそこまで?ステラは人間なんて嫌いだろ?それなのに―――?)
 どうしてこんなに積極的になってくれるのだろうか。
『っ、そんなことどうでもいいでしょう!?……レオが自分のことをそっちのけで他の人間を気にしてばかりいるからです!力が戻る前にレオに死なれたら私が困るんですから解決するしかないでしょう』
(そっか……、そうだよな。ごめん。でもありがとう、ステラ)
「レオナルド?今度はどうしたというのだ?」
 フォルステッドはいきなり頭を抱えだしたかと思えば、そのままっすら笑みを浮かべたレオナルドを怪訝けげんそうに見つめる。

「いえ、何でもありません。今からミレーネをさがします。必ずれて帰りますから、そのときはミレーネの退職たいしょく撤回てっかいしてください」
「どこに行ったのかわからないのだろう?それに金はどうするのだ?お前にどうにかできる訳が―――」
「お金については心配ご無用です。なので約束、してください」
「なに?」
 フォルステッドの言葉をさえぎり、レオナルドは言葉をかさねた。そのとき、
「レオ兄さま。後のことは私におまかせください」
 これまで自分から話すことはなかったセレナリーゼがレオナルドに声をかける。その姿は余裕すら感じられるほどのものだった。
「セレナ?」
 レオナルドはセレナリーゼを見て瞠目どうもくする。
「もうあまり時間がないはずです。レオ兄さまはどうぞミレーネを捜しに行ってください。お父さまは私が説得しますので。その代わり、ミレーネを必ず連れ帰ってくださいね?」
 セレナリーゼは最後に笑みを浮かべてみせた。レオナルドに全幅ぜんぷくの信頼をせているから。それは理屈りくつではない。どうやってミレーネを捜すつもりなのかすらセレナリーゼにはわからない。それでも、レオナルドならやってくれる、ただそう信じられるのだ。だからこそ、自分は自分にできることをしようと思える。
「……わかった。後は頼んだ、セレナ」
 セレナリーゼの頼もしい雰囲気にレオナルドはすぐに決断する。
「はい!どうかお気をつけて」
 レオナルドが頼ってくれたことが嬉しくてセレナリーゼの顔がパッと心からの笑顔になった。
「ああ!行ってくる!」
 執務室を飛び出したレオナルドは急ぎ自室に隠してあるお金の入った鞄を取りに行ってから、屋敷を後にした。

 レオナルドが出て行った後の執務室では、
「いったいどういうつもりだ?セレナリーゼ」
 フォルステッドがセレナリーゼにきびしい目を向けていた。
「レオ兄さまがミレーネを連れ帰った後の話は、次期当主である私の方が適任てきにんかと思いまして」
 セレナリーゼは堂々どうどうと言ってのけた。
「ほう?どういう意味だ?」
 フォルステッドの顔が公爵家当主のものになる。セレナリーゼが次期当主であることを強調したからだ。
 そんなフォルステッドに対して、セレナリーゼはおくすることなく、毅然きぜんとした態度でミレーネのあつかいについて自らの考えを伝えるのだった。


 セレナリーゼも退室した後、サバスはフォルステッドのために新しいお茶をれ、それを差し出すと疑問に思ったことをたずねた。
旦那だんな様、失礼ですが、レオナルド様を行かせてしまってよろしかったのですか?それにセレナリーゼ様のご提案もあんなにあっさりと承諾しょうだくしてしまって」
「……レオナルドの何もかもが予想外過ぎてな。どう動くのか見てみたくなった。セレナリーゼもレオナルドの話を聞いただけで正確に理解していたからこそのあの提案だろう?断る理由は思い浮かばなかったな」
「旦那様はレオナルド様がミレーネを見つけるとお考えで?」
「さてな。お手並てな拝見はいけんといったところだ。だが、状況によってはサバス、かもしれない」
「かしこまりました」
「悪いな。子供達が―――特にレオナルドがミレーネのことをあれほど大切に想っているとわかった以上最悪の事態はけたい」
「わかっておりますよ。あれほど厳しく接しておきながら、その実、旦那様がご家族のことをとても大切に想っているということは。その際は老骨ろうこつではございますが、確実にやりげてみせましょう」
「ああ、頼む。それにしても、本当に子供の成長というのは早いものだな。感慨かんがい深いものだ」
然様さようでございますか。レオナルド様は随分ずいぶんと旦那様においかりのようでしたが」
「ふっ、確かに私を射殺いころさんばかりににらんでいたな」
「なぜそこで嬉しそうになさるのですか……」
 サバスはあきれたような目を向けるが、フォルステッドは綺麗きれいに聞き流すとなやましげに言葉をこぼした。
「……しかしレオナルドはなぜああも知っているはずのないことを知っていたのか……」
 ミレーネの過去はもちろん、当主でなければ知らないはずのことまで。レオナルドについてはに落ちないことが多すぎた。金についてもどうするつもりなのか。
「そちらにつきましては私もお話をうかがっていて自分の耳を疑いました」
 しばらくの間、大の大人が二人で考えても答えなんてでなかった。
 気を取り直すようにしてフォルステッドは紅茶を一口飲む。
「何はともあれ、あの子達の未来が楽しみだ。お前もそう思わないか?サバス」
 レオナルドには特別な何かを感じざるを得ないし、セレナリーゼは非常にかしこく、頭も切れる。親の贔屓目ひいきめを抜きにしても将来が楽しみな子供達だ。
「はい。おっしゃる通りかと」

 保険ほけんはある。ならば後は親として子供の頑張がんばりを見守るだけだ。
 それからフォルステッドは仕事に戻るのだった。
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