死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第二章

心の傷と想定以上の成果

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 闇色やみいろの光の柱が空高くび、やがて消えた。
 それはブラックワイバーンから最後に解き放たれたブレス。
 青空の中に突然の闇色の光だ。当然目立つし、王都からでも見えた者がいるかもしれない。

 直後、ズドーーン!!!と大きな音がひびわたる。

 光の柱が消え、ブラックワイバーンが岩山にちたのを見届けたレオナルドはゆっくりとりていき、絶命ぜつめいしているブラックワイバーンのそばに着地した。
 ちなみに、戦闘中のことだろうが、通常のワイバーン達はどこかに隠れてしまったようで周囲には見当たらない。

「っと……あれ?」
 そこで限界がきたのか、レオナルドは足に力が入らず、その場にくずおれる。身体強化と白刀化もかれていた。
『霊力を相当消耗しょうもうしましたからね。お疲れ様でした、レオ』
「ああ……。ありがとう、ステラ」
 レオナルドはブラックワイバーンの亡骸なきがらに目を向ける。とても戦いに勝利したとは思えない表情だった。

 そして思案しあん顔になると、
「なあ……、どうしてブラックワイバーンは俺をおそってきたんだろう?俺には魔力がない訳だし、魔力を感知したってことはないよな?ブラックワイバーンこいつには自分を倒せる相手かなんてわからないと思うんだけど」
 少しを開けて、そう問いかけたレオナルドだが、本当は「これでよかったのかな」という弱音よわねが出そうになっていた。でもそれは口に出す前にダメだと思い直した。すべて自分で決めたことなのだ。ブラックワイバーンを倒した責任をステラにかぶせるようなことをしてはいけない。
『わかりません。ですが何かを感じ取ったのでしょう。レオの霊力か、もしかしたら私の存在を』
「そんなことあり得るのか?」
 霊力なんて、存在自体がこの世界では認知にんちされていないくらいめずらしいものだし、精霊なんて尚更なおさらだ。
『……確証かくしょうはありませんが、人間だった頃、わずかにでも霊力を持っていたのかもしれません。もちろん魔力も持っていたでしょうから、そのかげに隠れて本人にも自覚はなかったと思いますが。レオに念話ねんわが届いたのもそうであれば一応説明はつきます』
「ステラはこいつから霊力を感じたのか!?」
 そこには驚きが込められていた。レオナルドには全く感じられなかったからだ。
『いいえ。あれ程の魔力をゆうしていては、たとえそこに少しだけ霊力がふくまれていたとしてもさすがに感知かんちできません』
「そっか……」

 結局、すべては推測すいそくいきを出ず、真相しんそうはわからないということだった。

 しばらく沈黙ちんもくの時間が続いたが、
「さて、と……」
 レオナルドは疲労困憊ひろうこんぱいの体にむち打って立ち上がった。
『どうしましたか?』
「いや、せめてちゃんとほうむってやりたいなって」
『そうですか。ですが、もらうべきものは貰った方がいいと思います。当初の目的もありますし』
「そう…だよな……」
 レオナルドはステラの言葉にうなずきつつも、その表情はうしろめたさを感じているようだった。このブラックワイバーンを他の魔物と同列どうれつあつかうことに抵抗ていこうがあるようだ。
『まったく……』
 世話せわが焼ける、そう言いたげなステラだが、その声は優しかった。
『仕方がありませんね。レオ、この者の皮を持ち帰って防具ぼうぐを作ってもらいませんか?きっとかなりの防御ぼうぎょ力を有するものができると思います。この者も身勝手みがってな自分の願いをかなえてくれたレオの役に立つのなら本望ほんもうでしょう』
「いや、それは―――」
 レオナルドは反射はんしゃ的に否定しようとしたが、ステラの話は終わっていなかった。
『そして、完成したらレオが霊力を馴染なじませるんです。数年の時間をようするでしょうが、そうすれば刀と同じように私が取り込めます。レオがそれを使い続けることでこの者が生きたあかしとはなりませんか?レオなら忘れることなくずっとおぼえているのでしょうが』
「ステラ……」
 レオナルドはおどろきにちた表情でステラの名を呼ぶ。ステラがこんな提案ていあんをしてくるなんて思いもしなかった。
 言い方はすごく冷たい感じだが、その内容はレオナルドの心情しんじょう気遣きづかったものだ。
 つまり、レオナルドがブラックワイバーンの死をいたんでいる気持ちをんで、形見かたみ、とはちょっと違うかもしれないけれど、そういうものとして防具を作り、身につけたらいいのではないか、ということだった。

「……うん。そうしようかな。ありがとう、ステラ」
 レオナルドはこのステラの案を受け入れた。そして、ステラにお礼を言うレオナルドには今まで張りつめていたものがゆるんだような、ほっとした笑みが浮かんでいた。
『お礼を言われるようなことではありません』
 ステラは最後までなく、レオナルドの笑みが苦笑くしょうに変わるのだった。

 その後、レオナルドは、討伐証明とうばつしょうめいとして魔核ときば、そして特殊とくしゅ個体だというあかしに闇色の皮を、自分の防具用の分も含めて確保かくほした。

 その上で、戦闘では使い物にならないレベルのまだ不慣ふなれなほのおの精霊術を使い、ブラックワイバーンの亡骸なきがらを時間をかけて火葬かそうした。

 黒髪くろかみ変装へんそうして、王都の冒険者ギルドに戻ったレオナルドは、ブラックワイバーンという特殊個体がいたこと、そしてそれを討伐したことを報告し、討伐証明部位の売却ばいきゃくを行った。一部しか持ち帰らなかったにもかかわらず、売値うりねは当初予定していた金額の五倍になった。

 その足で、防具屋へとおもむき、ブラックワイバーンの皮で防具を作ってほしいと注文した。金額に糸目いとめはつけないので、どうか最高のものを、と。
 店主はこんな上等じょうとうな素材をあつかえるなんてと喜び、テンション高めに、それなら一年中使える外套がいとうにするのはどうかと提案してきたので、レオナルドは店主に任せることにした。店主が言うには、とんでもなくかた頑丈がんじょうなため、加工がむずかしいが、なんとか一か月で完成させるとのことだった。

 こうしてレオナルドは心に決して小さくはない傷をかかえることにはなったが、当初予定していた以上の成果せいかを得て、屋敷へと戻るのだった。

 一方、レオナルドがった後の冒険者ギルドでは一時大変なさわぎとなった。
 これまで誰も遭遇そうぐうしたことのなかったワイバーンの変異種へんいしゅ―――冒険者ギルドによって正式名称めいしょうがブラックワイバーンに決まった―――の存在が明らかとなったのだ。そしてそれは、魔核の純度から通常のワイバーンの少なくとも数倍の強さをほこるだろうことが判明はんめいした。
 さらには、そんな魔物を黒髪の少年が一人で倒したというのだ。
 普通ならこんな話は信じないだろうが、冒険者ギルドは、これまでレオナルドが売却してきた魔物のことを把握はあくしていた。そのどれもが熟練じゅくれん冒険者が討伐するような魔物だということを。将来有望ゆうぼうな少年だとひそかに期待をせていたのだ。まだ子供だとわかってはいても、これまで何度か冒険者にならないか、と勧誘かんゆうしていたりもするのだが、レオナルドからは素気無すげなく断られている。
 だから今回のことも信用された。もちろん、魔核などの証明部位の存在が大きいのは間違いないが。

 ブラックワイバーンの存在、そしてそれを討伐したこの国では珍しい黒髪の少年の話は冒険者を中心に、そして王都民へとまたたに広がった。特に、という名前―――冒険者ギルドでかれ、レオナルドが適当に答えた―――以外、素性すじょうなどが何もわからない黒髪の少年のことはうわさが噂を呼んでいた。
 中には黒髪の少年が誰なのか、その正体しょうたいさぐろうとする者達もいたのだが、レオナルドには知るよしもなかった。
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