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第二章
声
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先手はブラックワイバーンだった。
レオナルドに突っ込んできた勢いをそのままに、大きな口を開けながら咬み殺そうとしてきたのだ。
「グルゥアアアッッッーーー!!!」
「くっ!?」
レオナルドはそれをギリギリで回避する。相手のスピードが速すぎて、反撃する余裕なんてなかった。
ブラックワイバーンは避けられたことに腹が立ったのか怒りの咆哮を上げながら通り過ぎざまに今度はその太い尾を鞭のようにしならせた。その尾は先ほどの突進を避けて体勢を崩したレオナルドを見事に捉えている。
ブラックワイバーンの息つく暇も与えないと言わんばかりの連続攻撃。
『レオ!次が来ます!』
ステラが焦ったように警告を発する。
自分に迫ってくる尾にレオナルドは目を見開く。
「くっ!!」
避けるのが難しいと瞬時に判断したレオナルドは、その尾を受け止める、もしくはそのまま斬ってやろうと白刀を振るったが――――、
「ぐぉっ!?」
ブラックワイバーンの尾に触れた瞬間、白い光が高速で岩山へと向かっていく。
ズドーーーーン!!!!
そして、轟音が辺りに響き渡った。
「くはっ!!!?」
レオナルドはとんでもない勢いで岩山に吹き飛ばされ、背中から激突していた。
その衝撃に、肺から空気が強制的に吐き出され、背中全体に激しい痛みが広がる。
『レオ!?大丈夫ですか!?』
(……問題、ない!)
衝撃は凄まじかったが、最大限身体強化をしていたおかげで、まだ戦闘は可能だった。それにクラントスとの戦いの際にはもっと傷ついたのだ。あのときに比べたらまだまだ大したことはないと思えるくらいにはあの戦いが活きていた。
痛みから苦悶に顔を歪ませながらも、すぐに立ち上がり、空を見上げるレオナルド。その目は些かも戦意を失ってはない。
先ほどまで自分もいた場所ではブラックワイバーンが悠々と翼をはためかせていた。余裕のつもりなのか、とりあえずすぐに追撃をする気はないように見える。
(くそっ、パワーが違い過ぎるな)
口の中を切ってしまったのか、血が垂れてきたが、それを乱暴に手の甲で拭う。
『ええ。もう攻撃を受けようとは思わない方がいいでしょう』
(あの速さの攻撃を避けながら攻撃しなきゃなのか…。マジでやべえな)
『今の白刀ではそれも難しいです。先ほども尾に弾かれていました。……仕方ありません。もっと、刀に霊力を流してください。刀から霊力が放出するほどに。それであの硬い鱗を斬れるようになるはずです』
ステラは一つの決断をして、レオナルドに提案する。
(っ!?わかった。やってみる!)
今のステラの言い方、白刀にはまだ上があるということだ。白刀化の特訓のとき、どれだけの霊力を流せばいいかはステラの指示に従っていた。今はその感覚にレオナルド自身も慣れていてすぐにその量の霊力を黒刀へと流せるようになったが、実際はもっともっと流してもいいということだ。
「ハアアアァァァッッッ!!!!」
レオナルドが裂帛の気合とともに、握り締めた白刀へと一気に霊力を流し込むと、数秒後、白刀の刀身から白色の光が放出された。
(成功、か?いや、でもこれは―――)
刀身全体に纏うようにしてエネルギーが放出されている白刀を見つめるレオナルド。体全体から霊力が放出される最大限の身体強化をした今の自分の姿と見た目は似ていた。それだけじゃない。刀身からとんでもない力を感じる。だが―――。
『ええ。レオが感じている通り、その状態は霊力の消費が激しい。今までのが継戦重視の白刀化だとすればそれは短期決戦向けです。長期戦は難しくなりますが、今のレオが攻撃を通すにはそれしかありません』
そうなのだ。ステラの言う通り、見た目は似ていても、燃費は身体強化と雲泥の差だ。体内から霊力が減っていくのが感覚でわかる。違いといえば、身体強化は自分の肉体へ作用させるものなのに対し、白刀は自分ではないものに作用させている、ということか。
(わかった。でも、瞬間的な力として切り替えられたら結構使えそうだな。今はそんな余裕ないけど)
『また特訓しましょう』
(だな。……ってアレは!?)
レオナルドはそこでブラックワイバーンの変化に気づいた。
ステラとのやりとりの間、レオナルドは一切ブラックワイバーンから視線を外さなかったのだ。だからすぐに気づくことができた。ブラックワイバーンの口にエネルギーが収束していっていることを。ブラックワイバーンはレオナルドの新しい白刀を見て脅威に感じたのか、攻撃を再開しようとしていたのだ。
(ブレスが来る!?)
レオナルドがそう思ったのとほとんど同時だった。ブラックワイバーンから闇色のブレスが放たれ、レオナルドが立っていた場所は闇に呑《の》み込まれた―――。
(あっぶねー!今のはマジでヤバかった!)
レオナルドは心臓をバクバクさせ、冷や汗を流しながらも、ブレスにやられることはなく、上空にいた。ブレスが放たれると思った瞬間、飛行の精霊術で急上昇したのだ。速度を上げ過ぎると体への負担が大きいため、普段はセーブしているのだが、今回ばかりはそんなこと言っていられなかった。
『あんなのをくらっていたら跡形もなく消し飛んでいましたね。やはりレオはもっと精霊術を扱えるようにならなければ。そうすればこんな風に避ける必要もなくなりますし。……これからはもっと厳しくすることにします』
(それ今言うことか!?まあ、でも避ける必要もなくなるってのは魅力的だな。ここを乗り切ったらよろしく頼むよステラ)
そんな話をしながらもレオナルドはブラックワイバーンから目を離さない。どうやらブラックワイバーンはブレスを放つと暫く硬直してしまうようなのだ。絶好の隙といえなくはないのだが、今回はレオナルドも背中の痛みと急上昇による体へのダメージから落ち着く時間が欲しかった。
するとそのとき―――、
『―――――レ』
声が聴こえた、ような気がした。
(ん?ステラ、今何か言ったか?)
『いえ、私は何も言っていませんが』
レオナルドは気のせいか、とすぐに気にするのをやめた。いや、気にしていられなくなったと言った方が正しい。
「グルウゥアアアッッッ!!!!」
ブラックワイバーンが動けるようになったからだ。
レオナルドを睨みつけながら殺気のこもった咆哮を上げる。
そうして第二ラウンドが始まった。
今度はレオナルドから突進する。
ブラックワイバーンがスピードに乗ると対応が難しいことを痛感したレオナルドは超接近戦を挑むことにしたのだ。
そうすることでブラックワイバーンの攻撃を頭部を使ったものに制限できるというメリットもある。
ブラックワイバーンが鋭い牙で攻撃するが、レオナルドはそれを避けながら白刀で斬りつける。すると、今回は確かに斬ることができた。だが、浅い。レオナルドは思わず顔を顰め、舌打ちが出そうになる。これでは倒すまでに何撃必要になるか見当もつかない。しかも、ブラックワイバーンの攻撃は一撃でも受けてしまえばレオナルドにとって致命傷になりかねないため、レオナルドは神経をすり減らしていく。
こうして戦いは、短期決戦仕様のレオナルドにとって不利としかいえない綱渡りのような持久戦の様相を呈していった。
そんな攻防がしばらく続くと、ブラックワイバーンがレオナルドの攻撃を鬱陶しく感じたのか、それとも自分の攻撃が当たらないことにイライラしたのか、距離を取ろうとした。しかし、レオナルドは決して離れまい、と追随する。スピードに乗せる前、初速であればブラックワイバーンにも十分ついて行けた。
そして再び始まる超接近戦。
『――シ――レ』
(っ、なんだ?やっぱり声が?)
戦いの最中、レオナルドは再び声が聴こえた気がした。
『確かに。ですが今は目の前の敵に集中を』
(ああ)
レオナルドにとってギリギリの攻防戦が繰り広げられている中、確かに気を取られている場合ではなかった。
だが、
『コ―シ―クレ!』
再びの声。もう確定だ。決して気のせいなんかではない。その声は徐々にはっきりしてきていた。
(まただ!……まさか!?これブラックワイバーンの声なのか!?)
レオナルドはその可能性に行きついた。原理は全くわからないが、ステラと話しているときのように頭に声が響くのだ。
『……そうかもしれません。ですが、会話が成立する相手ではないでしょう。何を言っているのかもわかりませんし、敵の攻撃は続いているのです』
ステラの言うことは尤もだが、レオナルドは初めて意思疎通ができるかもしれない魔物を目の前にして、その可能性を否定したくなかった。
だから―――、
「おい!話してるのはお前なのか!?何て言ってるんだ!?俺の言葉が聞こえるか!?」
レオナルドは戦いながらも、声を張ってブラックワイバーンに話しかけた。
『レオ!』
ステラがレオナルドを制止するように名前を呼ぶ。命がけの不利な戦いをしている最中にするべき行動ではないからだ。
ステラの考えは十二分にわかるが、それでもレオナルドは諦められなかった。もしかしたらブラックワイバーンの元となった生物が人間なのではないか、という考えが拭えないのだ。
「声はお前なんだろう!?俺に届いてるから!話せるなら話をさせてくれないか!?」
レオナルドはブラックワイバーンに声をかけ続ける。その声には必死さがあった。
「グルウゥアアアッッッ!!!!」
しかし、返ってきたのは咆哮。そして素早く反転しての尾による攻撃だった。
心を揺さぶられ、集中力を欠いていたレオナルドは間合いを維持したまま躱すことができず、後方へと一度距離を取らざるを得なかった。超接近戦が崩れてしまった。
体の向きを戻したブラックワイバーンとレオナルドが再び対峙する。
そのときだった。
『コロシテクレ!』
これまでと違い、明確な意味をもった言葉がレオナルドの頭に響いた。
レオナルドに突っ込んできた勢いをそのままに、大きな口を開けながら咬み殺そうとしてきたのだ。
「グルゥアアアッッッーーー!!!」
「くっ!?」
レオナルドはそれをギリギリで回避する。相手のスピードが速すぎて、反撃する余裕なんてなかった。
ブラックワイバーンは避けられたことに腹が立ったのか怒りの咆哮を上げながら通り過ぎざまに今度はその太い尾を鞭のようにしならせた。その尾は先ほどの突進を避けて体勢を崩したレオナルドを見事に捉えている。
ブラックワイバーンの息つく暇も与えないと言わんばかりの連続攻撃。
『レオ!次が来ます!』
ステラが焦ったように警告を発する。
自分に迫ってくる尾にレオナルドは目を見開く。
「くっ!!」
避けるのが難しいと瞬時に判断したレオナルドは、その尾を受け止める、もしくはそのまま斬ってやろうと白刀を振るったが――――、
「ぐぉっ!?」
ブラックワイバーンの尾に触れた瞬間、白い光が高速で岩山へと向かっていく。
ズドーーーーン!!!!
そして、轟音が辺りに響き渡った。
「くはっ!!!?」
レオナルドはとんでもない勢いで岩山に吹き飛ばされ、背中から激突していた。
その衝撃に、肺から空気が強制的に吐き出され、背中全体に激しい痛みが広がる。
『レオ!?大丈夫ですか!?』
(……問題、ない!)
衝撃は凄まじかったが、最大限身体強化をしていたおかげで、まだ戦闘は可能だった。それにクラントスとの戦いの際にはもっと傷ついたのだ。あのときに比べたらまだまだ大したことはないと思えるくらいにはあの戦いが活きていた。
痛みから苦悶に顔を歪ませながらも、すぐに立ち上がり、空を見上げるレオナルド。その目は些かも戦意を失ってはない。
先ほどまで自分もいた場所ではブラックワイバーンが悠々と翼をはためかせていた。余裕のつもりなのか、とりあえずすぐに追撃をする気はないように見える。
(くそっ、パワーが違い過ぎるな)
口の中を切ってしまったのか、血が垂れてきたが、それを乱暴に手の甲で拭う。
『ええ。もう攻撃を受けようとは思わない方がいいでしょう』
(あの速さの攻撃を避けながら攻撃しなきゃなのか…。マジでやべえな)
『今の白刀ではそれも難しいです。先ほども尾に弾かれていました。……仕方ありません。もっと、刀に霊力を流してください。刀から霊力が放出するほどに。それであの硬い鱗を斬れるようになるはずです』
ステラは一つの決断をして、レオナルドに提案する。
(っ!?わかった。やってみる!)
今のステラの言い方、白刀にはまだ上があるということだ。白刀化の特訓のとき、どれだけの霊力を流せばいいかはステラの指示に従っていた。今はその感覚にレオナルド自身も慣れていてすぐにその量の霊力を黒刀へと流せるようになったが、実際はもっともっと流してもいいということだ。
「ハアアアァァァッッッ!!!!」
レオナルドが裂帛の気合とともに、握り締めた白刀へと一気に霊力を流し込むと、数秒後、白刀の刀身から白色の光が放出された。
(成功、か?いや、でもこれは―――)
刀身全体に纏うようにしてエネルギーが放出されている白刀を見つめるレオナルド。体全体から霊力が放出される最大限の身体強化をした今の自分の姿と見た目は似ていた。それだけじゃない。刀身からとんでもない力を感じる。だが―――。
『ええ。レオが感じている通り、その状態は霊力の消費が激しい。今までのが継戦重視の白刀化だとすればそれは短期決戦向けです。長期戦は難しくなりますが、今のレオが攻撃を通すにはそれしかありません』
そうなのだ。ステラの言う通り、見た目は似ていても、燃費は身体強化と雲泥の差だ。体内から霊力が減っていくのが感覚でわかる。違いといえば、身体強化は自分の肉体へ作用させるものなのに対し、白刀は自分ではないものに作用させている、ということか。
(わかった。でも、瞬間的な力として切り替えられたら結構使えそうだな。今はそんな余裕ないけど)
『また特訓しましょう』
(だな。……ってアレは!?)
レオナルドはそこでブラックワイバーンの変化に気づいた。
ステラとのやりとりの間、レオナルドは一切ブラックワイバーンから視線を外さなかったのだ。だからすぐに気づくことができた。ブラックワイバーンの口にエネルギーが収束していっていることを。ブラックワイバーンはレオナルドの新しい白刀を見て脅威に感じたのか、攻撃を再開しようとしていたのだ。
(ブレスが来る!?)
レオナルドがそう思ったのとほとんど同時だった。ブラックワイバーンから闇色のブレスが放たれ、レオナルドが立っていた場所は闇に呑《の》み込まれた―――。
(あっぶねー!今のはマジでヤバかった!)
レオナルドは心臓をバクバクさせ、冷や汗を流しながらも、ブレスにやられることはなく、上空にいた。ブレスが放たれると思った瞬間、飛行の精霊術で急上昇したのだ。速度を上げ過ぎると体への負担が大きいため、普段はセーブしているのだが、今回ばかりはそんなこと言っていられなかった。
『あんなのをくらっていたら跡形もなく消し飛んでいましたね。やはりレオはもっと精霊術を扱えるようにならなければ。そうすればこんな風に避ける必要もなくなりますし。……これからはもっと厳しくすることにします』
(それ今言うことか!?まあ、でも避ける必要もなくなるってのは魅力的だな。ここを乗り切ったらよろしく頼むよステラ)
そんな話をしながらもレオナルドはブラックワイバーンから目を離さない。どうやらブラックワイバーンはブレスを放つと暫く硬直してしまうようなのだ。絶好の隙といえなくはないのだが、今回はレオナルドも背中の痛みと急上昇による体へのダメージから落ち着く時間が欲しかった。
するとそのとき―――、
『―――――レ』
声が聴こえた、ような気がした。
(ん?ステラ、今何か言ったか?)
『いえ、私は何も言っていませんが』
レオナルドは気のせいか、とすぐに気にするのをやめた。いや、気にしていられなくなったと言った方が正しい。
「グルウゥアアアッッッ!!!!」
ブラックワイバーンが動けるようになったからだ。
レオナルドを睨みつけながら殺気のこもった咆哮を上げる。
そうして第二ラウンドが始まった。
今度はレオナルドから突進する。
ブラックワイバーンがスピードに乗ると対応が難しいことを痛感したレオナルドは超接近戦を挑むことにしたのだ。
そうすることでブラックワイバーンの攻撃を頭部を使ったものに制限できるというメリットもある。
ブラックワイバーンが鋭い牙で攻撃するが、レオナルドはそれを避けながら白刀で斬りつける。すると、今回は確かに斬ることができた。だが、浅い。レオナルドは思わず顔を顰め、舌打ちが出そうになる。これでは倒すまでに何撃必要になるか見当もつかない。しかも、ブラックワイバーンの攻撃は一撃でも受けてしまえばレオナルドにとって致命傷になりかねないため、レオナルドは神経をすり減らしていく。
こうして戦いは、短期決戦仕様のレオナルドにとって不利としかいえない綱渡りのような持久戦の様相を呈していった。
そんな攻防がしばらく続くと、ブラックワイバーンがレオナルドの攻撃を鬱陶しく感じたのか、それとも自分の攻撃が当たらないことにイライラしたのか、距離を取ろうとした。しかし、レオナルドは決して離れまい、と追随する。スピードに乗せる前、初速であればブラックワイバーンにも十分ついて行けた。
そして再び始まる超接近戦。
『――シ――レ』
(っ、なんだ?やっぱり声が?)
戦いの最中、レオナルドは再び声が聴こえた気がした。
『確かに。ですが今は目の前の敵に集中を』
(ああ)
レオナルドにとってギリギリの攻防戦が繰り広げられている中、確かに気を取られている場合ではなかった。
だが、
『コ―シ―クレ!』
再びの声。もう確定だ。決して気のせいなんかではない。その声は徐々にはっきりしてきていた。
(まただ!……まさか!?これブラックワイバーンの声なのか!?)
レオナルドはその可能性に行きついた。原理は全くわからないが、ステラと話しているときのように頭に声が響くのだ。
『……そうかもしれません。ですが、会話が成立する相手ではないでしょう。何を言っているのかもわかりませんし、敵の攻撃は続いているのです』
ステラの言うことは尤もだが、レオナルドは初めて意思疎通ができるかもしれない魔物を目の前にして、その可能性を否定したくなかった。
だから―――、
「おい!話してるのはお前なのか!?何て言ってるんだ!?俺の言葉が聞こえるか!?」
レオナルドは戦いながらも、声を張ってブラックワイバーンに話しかけた。
『レオ!』
ステラがレオナルドを制止するように名前を呼ぶ。命がけの不利な戦いをしている最中にするべき行動ではないからだ。
ステラの考えは十二分にわかるが、それでもレオナルドは諦められなかった。もしかしたらブラックワイバーンの元となった生物が人間なのではないか、という考えが拭えないのだ。
「声はお前なんだろう!?俺に届いてるから!話せるなら話をさせてくれないか!?」
レオナルドはブラックワイバーンに声をかけ続ける。その声には必死さがあった。
「グルウゥアアアッッッ!!!!」
しかし、返ってきたのは咆哮。そして素早く反転しての尾による攻撃だった。
心を揺さぶられ、集中力を欠いていたレオナルドは間合いを維持したまま躱すことができず、後方へと一度距離を取らざるを得なかった。超接近戦が崩れてしまった。
体の向きを戻したブラックワイバーンとレオナルドが再び対峙する。
そのときだった。
『コロシテクレ!』
これまでと違い、明確な意味をもった言葉がレオナルドの頭に響いた。
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