36 / 80
第一章
長い夜の始まり
しおりを挟む
現在、この場にはレオナルド、アレン、セレナリーゼ、ミレーネの四人がいる。ミレーネは付き添いというか変わらず見守っているだけだが、セレナリーゼは違う。帰省から戻って以降、セレナリーゼはレオナルドの鍛錬の時間に、同じ場所で自分も魔法の鍛錬を行うようになったのだ。レオナルドはこれを魔法が使えるようになって嬉しいのだろうと考えている。
アレンとの鍛錬を始める前、レオナルドはアレンに頭を下げた。
「昨日は迷惑をかけてしまって本当にごめん!」
「いえ!大丈夫ですから頭を上げてください!」
「……父上の方は何とか説得できたんだけど、ジーク団長から怒られたりしなかった?」
アレンに促され、頭を上げたレオナルドは恐る恐る尋ねた。
「いえ、まあ、それは。ははは」
笑って誤魔化そうとするアレンだが、それはジークから怒られたのだとわかるものだった。
「っ、本当にごめん!俺のせいで。アレンは何も悪くないのに」
「いえ、本当に大丈夫ですから、お気になさらないでください。私自身、わかった上でしたことですし。レオナルド様の方こそ、臭いで結局バレてしまったのですよね?随分叱られたと聞き及んでいますよ?」
「それは俺の自業自得だから……」
「でしたら私も自業自得ですよ」
「っ、……ありがとう」
「いえ、ではこの話はここまでということで。鍛錬を始めましょうか?」
こうしてわざわざレオナルドが謝罪してくれた。その心意気をアレンは嬉しく思い、柔らかな表情で昨日の件の話を打ち切った。
「ああ」
レオナルドもアレンが許してくれているとわかったのか、口元に小さな笑みを浮かべて返事をした。
いざ鍛錬が始まれば互いに集中力を増していき、木剣同士の激しくぶつかり合う音が辺りに響く。
そんな中、レオナルドは今日も必死に力を引き出そうと試行錯誤していた。
(くっ、やっぱりあのときの力は使えないままか!)
精霊と契約した今ならもしや、と思ったが、以前と変わらずどうしても使えるようにならない。
そうこうしているうちに、レオナルドの負けで一本目が終わった。
その休憩中。
『戦っているときにあなたが言っていたあのときの力とは何のことですか?』
精霊が尋ねてきた。どうやら鍛錬中、レオナルドが思考していたことをしっかりと聞いていたらしい。
(ん?ああ、それは――――)
別に隠すことでもないため、レオナルドはクラントスという魔物と戦ったときに、魔力がないにもかかわらず、大幅な身体強化ができて倒すことができたという話を語った。もしかしたら精霊から聞いた霊力によるものではないかという自分の予想も付け加えて。
『それは間違いなく霊力による身体強化でしょうね』
(やっぱりそうなのか!?)
『ええ。人間が使う魔法による身体強化がどれほどのものか知りませんが、そんなものよりも大幅に強化することが可能です』
魔法を知らないと言いながら、精霊は霊力に絶対的な自信を見せる。
(どうやったらできるようになる?何度試しても再現できないんだ)
『これほどの霊力を持ちながら全く扱えないとは残念な人間ですね。いえ、むしろそんな状態でよく一度はできたというべきでしょうか。体内の霊力を活性化させることなど基本中の基本ですよ。ああ、そういえば、あなたは私が言うまで霊力のことを知らなかったのでしたね。霊力を感じ取ることもできませんか』
(ぐっ……。確かに俺に霊力があるって言われてもまだ実感がない。どうしたらいいか教えてくれないか?)
『その辺りのことは後ほど教えます。ほら、次が始まるようですよ?』
「レオナルド様。そろそろ再開しましょうか」
精霊の言葉のすぐ後に、アレンから声がかけられた。
「あ、ああ。今行く」
こうして二回戦目が始まった。
レオナルドの戦いが始まって以降、精霊はセレナリーゼを観察していた。と言っても、レオナルドの視覚を共有している訳ではもちろんない。魔力の流れを視ているのだ。それだけで精霊には何をしているのか手に取るようにわかる。
先ほどから繰り返し、的に向かって「ウォーターボール」と魔法名を唱えては、手のひらから水の玉を放っている。
ここにいる者達は本人も含めて、それが鍛錬だと本当に思っているのか、誰も何も言わない。そのことに精霊は呆れ返っていた。
しばらく観察していた精霊だったが、自分には関係ないことだ、という結論に至り、セレナリーゼへの興味をなくしたのだった。
その後、鍛錬の時間中、精霊は特に何も言うことはなく、この日の鍛錬は終わり、とうとう約束の夜となった。
場所はレオナルドの自室。今から約束していた話をする、それはレオナルドも精霊もわかっていた。
『さて。それでは聞かせてもらいましょうか』
切り出したのは精霊からだった。
「ああ……」
ただ、レオナルドはどう話せばいいか迷っていた。
「……朝にも言ったけどさ。これから俺がする話は全部本当のことなんだ。すぐには信じられないと思うけど、信じてほしい」
だからついそんな言葉から始めてしまう。精霊が知りたいこと――――、前世のこと、この世界がゲームの世界であることをいざ話そうと思うと気が引けてしまうのだ。自分自身、今生きているこの世界を現実だと捉えているから。
『それはもうわかりました。話を聞いて判断すると伝えたはずですが?』
「そうだよな……。ごめん」
弱弱しい笑みを浮かべて謝罪するレオナルド。だが、このやり取りで踏ん切りがついたのか――――、
「………俺にはこの世界とは別の世界の記憶……、たぶん前世の記憶があるんだ」
真剣な表情でそう話し始めた。
アレンとの鍛錬を始める前、レオナルドはアレンに頭を下げた。
「昨日は迷惑をかけてしまって本当にごめん!」
「いえ!大丈夫ですから頭を上げてください!」
「……父上の方は何とか説得できたんだけど、ジーク団長から怒られたりしなかった?」
アレンに促され、頭を上げたレオナルドは恐る恐る尋ねた。
「いえ、まあ、それは。ははは」
笑って誤魔化そうとするアレンだが、それはジークから怒られたのだとわかるものだった。
「っ、本当にごめん!俺のせいで。アレンは何も悪くないのに」
「いえ、本当に大丈夫ですから、お気になさらないでください。私自身、わかった上でしたことですし。レオナルド様の方こそ、臭いで結局バレてしまったのですよね?随分叱られたと聞き及んでいますよ?」
「それは俺の自業自得だから……」
「でしたら私も自業自得ですよ」
「っ、……ありがとう」
「いえ、ではこの話はここまでということで。鍛錬を始めましょうか?」
こうしてわざわざレオナルドが謝罪してくれた。その心意気をアレンは嬉しく思い、柔らかな表情で昨日の件の話を打ち切った。
「ああ」
レオナルドもアレンが許してくれているとわかったのか、口元に小さな笑みを浮かべて返事をした。
いざ鍛錬が始まれば互いに集中力を増していき、木剣同士の激しくぶつかり合う音が辺りに響く。
そんな中、レオナルドは今日も必死に力を引き出そうと試行錯誤していた。
(くっ、やっぱりあのときの力は使えないままか!)
精霊と契約した今ならもしや、と思ったが、以前と変わらずどうしても使えるようにならない。
そうこうしているうちに、レオナルドの負けで一本目が終わった。
その休憩中。
『戦っているときにあなたが言っていたあのときの力とは何のことですか?』
精霊が尋ねてきた。どうやら鍛錬中、レオナルドが思考していたことをしっかりと聞いていたらしい。
(ん?ああ、それは――――)
別に隠すことでもないため、レオナルドはクラントスという魔物と戦ったときに、魔力がないにもかかわらず、大幅な身体強化ができて倒すことができたという話を語った。もしかしたら精霊から聞いた霊力によるものではないかという自分の予想も付け加えて。
『それは間違いなく霊力による身体強化でしょうね』
(やっぱりそうなのか!?)
『ええ。人間が使う魔法による身体強化がどれほどのものか知りませんが、そんなものよりも大幅に強化することが可能です』
魔法を知らないと言いながら、精霊は霊力に絶対的な自信を見せる。
(どうやったらできるようになる?何度試しても再現できないんだ)
『これほどの霊力を持ちながら全く扱えないとは残念な人間ですね。いえ、むしろそんな状態でよく一度はできたというべきでしょうか。体内の霊力を活性化させることなど基本中の基本ですよ。ああ、そういえば、あなたは私が言うまで霊力のことを知らなかったのでしたね。霊力を感じ取ることもできませんか』
(ぐっ……。確かに俺に霊力があるって言われてもまだ実感がない。どうしたらいいか教えてくれないか?)
『その辺りのことは後ほど教えます。ほら、次が始まるようですよ?』
「レオナルド様。そろそろ再開しましょうか」
精霊の言葉のすぐ後に、アレンから声がかけられた。
「あ、ああ。今行く」
こうして二回戦目が始まった。
レオナルドの戦いが始まって以降、精霊はセレナリーゼを観察していた。と言っても、レオナルドの視覚を共有している訳ではもちろんない。魔力の流れを視ているのだ。それだけで精霊には何をしているのか手に取るようにわかる。
先ほどから繰り返し、的に向かって「ウォーターボール」と魔法名を唱えては、手のひらから水の玉を放っている。
ここにいる者達は本人も含めて、それが鍛錬だと本当に思っているのか、誰も何も言わない。そのことに精霊は呆れ返っていた。
しばらく観察していた精霊だったが、自分には関係ないことだ、という結論に至り、セレナリーゼへの興味をなくしたのだった。
その後、鍛錬の時間中、精霊は特に何も言うことはなく、この日の鍛錬は終わり、とうとう約束の夜となった。
場所はレオナルドの自室。今から約束していた話をする、それはレオナルドも精霊もわかっていた。
『さて。それでは聞かせてもらいましょうか』
切り出したのは精霊からだった。
「ああ……」
ただ、レオナルドはどう話せばいいか迷っていた。
「……朝にも言ったけどさ。これから俺がする話は全部本当のことなんだ。すぐには信じられないと思うけど、信じてほしい」
だからついそんな言葉から始めてしまう。精霊が知りたいこと――――、前世のこと、この世界がゲームの世界であることをいざ話そうと思うと気が引けてしまうのだ。自分自身、今生きているこの世界を現実だと捉えているから。
『それはもうわかりました。話を聞いて判断すると伝えたはずですが?』
「そうだよな……。ごめん」
弱弱しい笑みを浮かべて謝罪するレオナルド。だが、このやり取りで踏ん切りがついたのか――――、
「………俺にはこの世界とは別の世界の記憶……、たぶん前世の記憶があるんだ」
真剣な表情でそう話し始めた。
343
お気に入りに追加
881
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる