死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第一章

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 一人で着替きがえなどをませたレオナルドがダイニングに行くと家族が出迎でむかえてくれた。
「レオナルド、目がめたのだな。よかった」
「父上、母上、ご心配おかけしてしまいすみませんでした。この通り、もうばっちりです」
「レオ!よかった!よかったぁ!」
「むぐぉっ!?」
 フェーリスの喜びようは半端はんぱではなく、レオナルドは胸元に強く強く抱きしめられた。
 本当なら母の想いにこたえるためにもされるがままになるべきであろうが、レオナルドは必死にフェーリスの肩をタップする。
(息が!息、が……!あ、これ、ヤバ、い……)
 タップは徐々じょじょにゆっくりになっていき、だらりと腕が下がった。レオナルドは顔面がやわらかいものにつつまれ、意識が遠のいていく。窒息ちっそく寸前すんぜんだ。まさかこの世界はこんな形でも自分の死亡フラグを回収かいしゅうしにくるのか、とレオナルドは絶望ぜつぼうしかける。
「お母さま!レオ兄さまがくるしんでいます!早く放してください!」
 しかしそこで、セレナリーゼがフェーリスの腕を引っ張り、レオナルドをそんな死のふちから救い出してくれた。
「あんっ、セレナ。どうして邪魔じゃまをするの?レオがようやく目を覚ましたのよ?」
うれしいのはわかりますが、加減してください!レオ兄さまが死んでしまいます!」
「そんなことないわよ。ねえ、レオ?」
「え、いや……、ええ……まあ……」
 心配をかけたのは事実で、死にそうでした、なんて正直しょうじきには言えずレオナルドは言葉をにごす。
「ほら。それにセレナだってレオが目を覚ましたとわかってすぐに抱きついたんじゃない?昨日は一緒に寝たのでしょう?」
「なっ!?……わ、わ、私はお母さまのようにレオ兄さまを窒息させたりしてません!」
 自分の行動を見事に当てられ、おどろきに目を見開いたセレナリーゼは、しかし、ぎゅっと両手をにぎって力強く言い切った。
(セレナ、それは自爆じばくだよ……。それに今の母上、ミレーネが俺を揶揄からかうときになんか似てる気が……?でもそのネタが俺って……)
 レオナルドはため息をこらえるも、この場を離れたい気持ちが強くなる。
「あら、やっぱりセレナも抱きしめたんじゃない」
「っ、それは……」
 なぜ一緒に寝たことを知っているのか、と混乱こんらんし、みずか墓穴ぼけつってしまったセレナリーゼは顔を真っ赤にした。
「じゃあ今から二人でレオを抱きしめましょうか?」
「二人で……」
 フェーリスの冗談じょうだんとも本気ともつかない提案に、セレナリーゼは期待するような目でレオナルドを見つめる。
(この話題いつまで続くんですかね?マジで勘弁かんべんしてくれ……)
 二人のやり取りにレオナルドは頭が痛くなっていた。

「お前達、そろそろ落ち着け。食事にしよう」
 そんな彼女達をあきれたように見ていたフォルステッドの言葉で、その場はおさまり、食事が始まったのだった。


 食後、レオナルドはフォルステッドの執務しつむ室へと来ていた。
 フォルステッドから事件当日のことを聞きたい、と言われたからだ。
 元々事情聴取ちょうしゅはあると思っていたし、レオナルドとしてもそれはいいのだが……、現在彼は大変戸惑とまどっていた。
 なぜなら――――。
「あの……、セレナ?」
「はい。なんですか?」
 呼ばれたセレナリーゼは満面の笑みをレオナルドに向ける。
「え…と、なんで俺の腕を―――?」
 そう。セレナリーゼはレオナルドの腕に自分の腕をからめているのだ。それは、当事者ということで一緒に執務室へ移動するときからずっとだった。移動中だけかと思っていたがソファに座っても止めないのはどうしてなのか。
「どうぞ、私のことは気にしないでください」
 満面の笑みだというのに、なぜか有無うむを言わせぬ圧があった。ちょっと怖い。
「あ、はい……」
(セレナってこんなキャラだったっけ!?)
 レオナルドは内心で首をかしげる。朝のあれこれもそうだが、ゲームのセレナリーゼというキャラクターとどうにも違う気がするのだ。

 正面に座る二人のやり取りをだまって見ていたフォルステッドは咳払せきばらいを一つして本題に入ることにした。他には、サバス、騎士を代表してジーク、そしてミレーネも当事者の一人、ということでこの場にいる。
「……レオナルド、あの日、何があったのか聞かせてくれるか?」
「あ、はい。と言っても、俺もよくわかりません。ぞくにやられ、すぐに気を失ってしまったので……」
 セレナリーゼのことはとりあえず気にしないことにしたレオナルドは自分の中で何を話し、何を誤魔化ごまかすか事前に決めていたためまようことなく答える。
「そうか……。その賊は逃げ出したのか家屋かおくにおらず、代わりに魔物が倒れていたということだったな。ジーク、くだんの魔物について、レオナルド達にもわかったことを伝えてくれ」
「はっ」
 ジークは部下からの報告、そして実物を見た結果を皆に説明した。と言ってもわかったのはほんのわずかなことだけだった。
 死んでいた魔物の名はクラントスと言い、本来なら相当魔素濃度の高い場所にいる強力な魔物で、王都近郊きんこうでの出現情報はまったくない。一体に対して王国騎士が数人がかりで戦うような魔物が二体もどうしてあの場にいたのか現状ではわからない、というものだった。誰にも気づかれず王都内に魔物が侵入しんにゅうしていたというのも本来ならありないことのため不可解ふかかい過ぎる、と。
 そんなに強力な魔物だったのか、と初耳のセレナリーゼとミレーネは、程度の差はあるが、どちらも強張こわばった表情をしている。もちろんわかりやすいのはセレナリーゼの方だ。
「レオナルド、お前は魔物がどうやって現れたかを見たか?背中にあった傷は魔物にやられたものだろう?」
「……わかりません。少なくとも気を失う前にはいませんでした。だから意識がない中で攻撃されたんだと思います。だけど俺が起きたらもう倒れていまして。賊もいなくなっているし、今なら逃げられると思って貧民ひんみん街を歩いていたところでみんなに会いました」
 人間が突然くるしみだしたと思ったら魔物に変わったなんて荒唐無稽こうとうむけいな話、信じてもらえるとは思えなかった。自分なら一笑いっしょうすだろう。
「……なるほど……誰が倒したのかもわからずじまいか……」
 言いながらフォルステッドはじっとレオナルドを見つめていた。

 レオナルドから新たな情報が出てこず、なぜ魔物がいたのか、魔物を倒したのは誰なのか、賊の目的とその生死、などといったような今回の事件に関する多くの不明点は、結局わからないままで終わってしまうことに少しだけ室内の空気が重たくなってしまった。
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