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第四章 花火大会と海の家
閑話 彼女の水着はこうして決まった
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もうすぐ夏休みという休日のこの日。
雪愛、瑞穂、未来、香奈の四人は午前中からファッションビルへとやって来ていた。
今日の目的は、雪愛と香奈の浴衣、雪愛と瑞穂の水着をそれぞれ買うことだ。
先日のオンラインパジャマパーティーで浴衣や水着を買う必要がある者がいることがわかったため、四人で買い物に来た。
浴衣選びは順調に進んだ。
小物類も含めると買うものが多く、時間はかかったが、買う、買わないにかかわらず、皆でこれ可愛い、あれ綺麗と言いながら選んでいるのは楽しかった。
最終的に雪愛も香奈も気に入ったものを買えて大満足だった。それに、一緒に見ていて欲しくなったのだろう。瑞穂と香奈も気に入った小物を買っていた。
問題は水着選びだった。
雪愛がどれにしようかと悩んでいる間に、瑞穂は、ちゃっかりと自分が気に入った水着を一人で選び、試着して、黒のビキニにスカートの付いた大人可愛い系の水着をさっさと購入した。
そうなると、必然、瑞穂達三人も雪愛の水着選びに付き合うことになる。
いくら春陽に会うといっても、男性の視線が嫌な雪愛が買おうと思っていた水着は、布面積が大きく、着た時に安心感があるワンピースタイプのものだ。その中でどれが可愛いかと悩んでいたのだが、瑞穂達は口を揃えて雪愛にダメだししてきた。
「雪愛、そんなのじゃ風見喜ばないんじゃない?」
「そうだよー。折角なら風見っちをドキっとさせよー?」
「雪愛ちゃんスタイルいいから隠すのは確かにもったいない気がするね」
「べ、別に私は、春陽くんに見てもらうために選んでる訳じゃ―――」
三人の言葉に雪愛が顔を赤くしながら反論しようとするが、それは瑞穂に遮られた。
「はいはい。わかってるから。でも海に行きたいのは風見がいるからでしょ?」
「っ、それは…………」
瑞穂の言葉に雪愛は返す言葉がなかった。なぜなら図星だからだ。そうでなければわざわざ男性の多い海なんていうところに水着を着て行こうとは思わない。
「ね?私達にも選ぶの手伝わせてよ」
こうして、雪愛の水着を皆で選ぶことになったのだが、瑞穂達が雪愛にこれはどう?と持ってくるのはどれもセクシーな水着ばかりだった。
雪愛はそんなの着れないと言って断るのだが、一回試着するだけしてみようと瑞穂達も譲らない。このときの雪愛を除く三人の連携は実に見事なものだった。
結果、雪愛は三人に押し切られる形で、胸の谷間が強調されたホルターネックストラップのビキニや布面積が非常に小さいブラジリアンビキニなど、自分では絶対に選ばないし、着ることもない水着を何着も試着することになった。
しかも一回、一回、三人の前でお披露目をさせられるのだ。完全に水着ショーである。
そんな中での一着目。雪愛がカーテンを開けると、未来のスマホから音が鳴った。それは明らかに写真を撮ったときの音だった。
「ちょっと未来。何してるの?」
すかさず雪愛が自分に向かってスマホを構えている未来をジト目で見咎める。瑞穂はさすがにやり過ぎではと思っているのか苦笑いしており、香奈は未来と雪愛を交互に見てハラハラしている。
「あちゃー、バレちゃったかー」
悪びれた様子もなく未来が言う。
「バレたって……。じゃあやっぱり今写真撮ったのね?今すぐ消して」
「えー、ゆあちすごく似合ってるし、記念にダメー?」
「ダメに決まってるでしょ。恥ずかしい。それにそんなの何の記念になるって言うのよ?」
「んー、例えば風見っちに見せてあげるとかー?」
その言葉に瑞穂が堪えきれないというように笑い声をあげる。確かに春陽には記念になるだろうな、なんて思ってしまった。
「っ、絶対ダメに決まってるでしょう!?いいから消して」
水着姿の雪愛は恥ずかしさが限界に達したように顔だけでなく、その露出した肌まで赤くしていた。
「折角のゆあちの水着姿、勿体ないよー」
「いいから、け・し・て!」
そろそろ雪愛の限界だ。目が据わってきている。それを未来はしっかりと感じ取った。
「わかった、すぐ消すからー。そんなに怒らないでゆあちー」
「もう!ただでさえすごく恥ずかしいのに、もう絶対しないで」
「わかったってばー。本当にごめんねー」
未来は両手を合わせて拝むように頭を下げた。
その後、三人がかりで雪愛を宥めすかし、何とか水着ショーを続行させることに成功した瑞穂達は揃ってふぅっと息を吐いた。
雪愛だって本気で怒っている訳ではなかった。自分が本当に嫌がることはしないと信じてもいる。瑞穂と香奈が止めようとしない時点で、揶揄われているだけだということもわかっている。だが、春陽の名前が出ると途端に冷静でいられなくなってしまうのだ。そんな雪愛の反応が可愛いから揶揄われてしまうのだが……。
雪愛が次の水着に着替えている最中のこと。
「未来、あんたかなり攻めたね」
「そーかなー?」
「雪愛ちゃん怒ってないみたいでよかったよ」
「まあ本気で怒りそうならさすがに止めたし」
「でもー、可愛かったよねー」
未来のその言葉には瑞穂も香奈も同意だった。春陽の名前が出るだけで雪愛はわかりやすく狼狽える。これで実際に海で水着姿を見られたらどうなってしまうのか。今から楽しみだと思うと同時に、ちゃんとフォローしてあげようと思う三人だった。
その後も水着ショーは続き、最後まで雪愛の顔は耳まで真っ赤になっていた。
最終的には、自分が気に入ったということもあり、セクシー過ぎず、比較的布面積もある、結び目がリボンで可愛い白のビキニを購入することになった。
最初に雪愛が想定していた水着よりも布面積が小さく、セクシーでもあるのだが、瑞穂達の選ぶ、より際どい水着を試着しすぎたせいで、感覚が麻痺しており、その基準が大分緩くなってしまったようだ。
だが、その水着は瑞穂達も含めて満場一致で雪愛によく似合っているものだったので結果オーライだろう。瑞穂達の作戦勝ちである。雪愛がレジに並んでいる間に、三人はやりきったというように互いを称え合った。ただ、瑞穂と未来は満面の笑みだったが、香奈だけは少し苦笑が混じっていた。感想などは本心だったが、雪愛に悪いことをしたかなと少し思っているのかもしれない。
この後、四人はどうせなら、ということで、水着の上に着るものも見て回った。
お洒落なもの、機能性の高いものなどなど、見ていくと色々なものがあることがわかる。それらを一着ずつ四人で感想を言いながら、時には試着をしながら見ていけば、当然時間はかかる。
結局、ファッションビルを出たのは、間にファストフードでお昼ご飯を食べたとはいえ、買い物を始めて実に六時間以上経った後だった。
買い物も無事済み、四人はカフェに入っていた。すでに夕方になっていたが、楽しかった買い物のテンションそのままに、休憩も兼ねて少しお喋りをして帰ろうということになったのだ。カフェを出る頃には夕陽も完全に沈んでいるに違いない。
「浴衣も水着もみんな気に入ったの買えてよかったねー」
「未来には完全に付き合わせちゃったね。ありがとう。ごめんね」
「ありがとう、未来ちゃん。おかげで可愛い浴衣買えたよ」
「それを言ったら私が一番付き合わせちゃってるわね。浴衣も水着もだもの。ありがとう未来」
未来の言葉に、瑞穂、香奈、雪愛がお礼を言う。
「いやー、みんなとの買い物楽しかったからだいじょーぶだよー。それにー、ゆあちの水着ショーはすっごく楽しかったしー」
雪愛は試着した水着の数々を思い出したのか、また顔を赤くする。ただ、未来の写真の一件は雪愛の中でもう水に流しているようだ。
「みんな悪ふざけしすぎよ。あんなので海になんて行ける訳ないじゃない!」
「でも、どれも雪愛に似合ってたのは嘘じゃないよ?」
瑞穂が笑いながら言う。
「うん。私から見てもちょっとドキドキしちゃったけど、雪愛ちゃんに似合ってたのはその通りだと思う」
香奈も瑞穂の言い分に同意する。
「似合う似合わないじゃないわよ。あれじゃ歩けないって言ってるの。あんなに露出して、どんな目で見られるかわかったものじゃないわ」
瑞穂達は一頻り笑い、雪愛は頬を膨らませた。
「けど、どうせならやっぱり風見に似合ってるとか可愛いとか言われたくない?」
そんな雪愛の様子に瑞穂が方向を変えるように言った。
「……それは……言われたら嬉しいとは思うけど…」
春陽に似合ってる、可愛い、と言われるところを想像したのか、雪愛の頬が先ほどとは違う理由で赤く染まる。
けれどそれが主目的かのように瑞穂達に言われるのは心外だったのだ。
「ね!そういう意味でも、最後に選んだ白の水着はばっちりだと思うよ」
「もうっ。けど、ありがとう。これは私も気に入ってるわ」
そう言って水着の入った袋に目を遣る雪愛。
その白の水着を雪愛に提案したのは瑞穂だった。
最初にめいっぱいセクシーに振り切って、徐々にちょうどいいものを提案していく。話し合った訳でもないのに、瑞穂達三人はそれをやり遂げたのだ。
雪愛が最初に見ていた水着とは何から何まで大きく違うことを瑞穂達三人は当然わかっている。そのことにどうやら雪愛だけが気づいていないようだ。
そんな雪愛の言葉に三人は笑いを堪えるのが大変だった。
瑞穂達三人、特に未来と香奈は学校での春陽しか知らないため、春陽が雪愛の水着姿を見て、本当にそんな感想を言うのか懐疑的だったが、それは口には出さなかった。ただし、もし春陽が水着姿の雪愛を見て、恥ずかしがってぼそぼそ聞こえない声で感想を言ったり、照れて無反応になったり逃げたりすれば、自分達が春陽に発破をかけなければ、なんて心の中で決意していた。雪愛が喜ぶ姿を自分達も見たいから。
その春陽の印象は花火大会で大きく変わることになるのだが、それはまた別の話だ。
「まあ、まずは海よりも先に花火大会だけどね」
「皆で浴衣を着て行くの本当に楽しみ」
「私もだわ」
「そうだねー。それに、ゆあちは浴衣も風見っちから可愛いって言ってもらえるといいねー」
「もう、未来!だから私はそういうつもりで買ったんじゃないって言ってるでしょ」
怒っているような言い方だが、顔を赤くしており、迫力は全くない。
実は、三人から何度も言われてしまい、段々その気になってきて、春陽から言ってもらえたらいいな、言ってもらいたいなと期待が高まってしまっている自分がいることに雪愛自身まだ気づいていない。
それから四人は、直近にある花火大会の話やこれから始まる夏休みの話で盛り上がり、カフェを出たときにはすっかり夜になっており、空には月と星々が輝いていた。
雪愛、瑞穂、未来、香奈の四人は午前中からファッションビルへとやって来ていた。
今日の目的は、雪愛と香奈の浴衣、雪愛と瑞穂の水着をそれぞれ買うことだ。
先日のオンラインパジャマパーティーで浴衣や水着を買う必要がある者がいることがわかったため、四人で買い物に来た。
浴衣選びは順調に進んだ。
小物類も含めると買うものが多く、時間はかかったが、買う、買わないにかかわらず、皆でこれ可愛い、あれ綺麗と言いながら選んでいるのは楽しかった。
最終的に雪愛も香奈も気に入ったものを買えて大満足だった。それに、一緒に見ていて欲しくなったのだろう。瑞穂と香奈も気に入った小物を買っていた。
問題は水着選びだった。
雪愛がどれにしようかと悩んでいる間に、瑞穂は、ちゃっかりと自分が気に入った水着を一人で選び、試着して、黒のビキニにスカートの付いた大人可愛い系の水着をさっさと購入した。
そうなると、必然、瑞穂達三人も雪愛の水着選びに付き合うことになる。
いくら春陽に会うといっても、男性の視線が嫌な雪愛が買おうと思っていた水着は、布面積が大きく、着た時に安心感があるワンピースタイプのものだ。その中でどれが可愛いかと悩んでいたのだが、瑞穂達は口を揃えて雪愛にダメだししてきた。
「雪愛、そんなのじゃ風見喜ばないんじゃない?」
「そうだよー。折角なら風見っちをドキっとさせよー?」
「雪愛ちゃんスタイルいいから隠すのは確かにもったいない気がするね」
「べ、別に私は、春陽くんに見てもらうために選んでる訳じゃ―――」
三人の言葉に雪愛が顔を赤くしながら反論しようとするが、それは瑞穂に遮られた。
「はいはい。わかってるから。でも海に行きたいのは風見がいるからでしょ?」
「っ、それは…………」
瑞穂の言葉に雪愛は返す言葉がなかった。なぜなら図星だからだ。そうでなければわざわざ男性の多い海なんていうところに水着を着て行こうとは思わない。
「ね?私達にも選ぶの手伝わせてよ」
こうして、雪愛の水着を皆で選ぶことになったのだが、瑞穂達が雪愛にこれはどう?と持ってくるのはどれもセクシーな水着ばかりだった。
雪愛はそんなの着れないと言って断るのだが、一回試着するだけしてみようと瑞穂達も譲らない。このときの雪愛を除く三人の連携は実に見事なものだった。
結果、雪愛は三人に押し切られる形で、胸の谷間が強調されたホルターネックストラップのビキニや布面積が非常に小さいブラジリアンビキニなど、自分では絶対に選ばないし、着ることもない水着を何着も試着することになった。
しかも一回、一回、三人の前でお披露目をさせられるのだ。完全に水着ショーである。
そんな中での一着目。雪愛がカーテンを開けると、未来のスマホから音が鳴った。それは明らかに写真を撮ったときの音だった。
「ちょっと未来。何してるの?」
すかさず雪愛が自分に向かってスマホを構えている未来をジト目で見咎める。瑞穂はさすがにやり過ぎではと思っているのか苦笑いしており、香奈は未来と雪愛を交互に見てハラハラしている。
「あちゃー、バレちゃったかー」
悪びれた様子もなく未来が言う。
「バレたって……。じゃあやっぱり今写真撮ったのね?今すぐ消して」
「えー、ゆあちすごく似合ってるし、記念にダメー?」
「ダメに決まってるでしょ。恥ずかしい。それにそんなの何の記念になるって言うのよ?」
「んー、例えば風見っちに見せてあげるとかー?」
その言葉に瑞穂が堪えきれないというように笑い声をあげる。確かに春陽には記念になるだろうな、なんて思ってしまった。
「っ、絶対ダメに決まってるでしょう!?いいから消して」
水着姿の雪愛は恥ずかしさが限界に達したように顔だけでなく、その露出した肌まで赤くしていた。
「折角のゆあちの水着姿、勿体ないよー」
「いいから、け・し・て!」
そろそろ雪愛の限界だ。目が据わってきている。それを未来はしっかりと感じ取った。
「わかった、すぐ消すからー。そんなに怒らないでゆあちー」
「もう!ただでさえすごく恥ずかしいのに、もう絶対しないで」
「わかったってばー。本当にごめんねー」
未来は両手を合わせて拝むように頭を下げた。
その後、三人がかりで雪愛を宥めすかし、何とか水着ショーを続行させることに成功した瑞穂達は揃ってふぅっと息を吐いた。
雪愛だって本気で怒っている訳ではなかった。自分が本当に嫌がることはしないと信じてもいる。瑞穂と香奈が止めようとしない時点で、揶揄われているだけだということもわかっている。だが、春陽の名前が出ると途端に冷静でいられなくなってしまうのだ。そんな雪愛の反応が可愛いから揶揄われてしまうのだが……。
雪愛が次の水着に着替えている最中のこと。
「未来、あんたかなり攻めたね」
「そーかなー?」
「雪愛ちゃん怒ってないみたいでよかったよ」
「まあ本気で怒りそうならさすがに止めたし」
「でもー、可愛かったよねー」
未来のその言葉には瑞穂も香奈も同意だった。春陽の名前が出るだけで雪愛はわかりやすく狼狽える。これで実際に海で水着姿を見られたらどうなってしまうのか。今から楽しみだと思うと同時に、ちゃんとフォローしてあげようと思う三人だった。
その後も水着ショーは続き、最後まで雪愛の顔は耳まで真っ赤になっていた。
最終的には、自分が気に入ったということもあり、セクシー過ぎず、比較的布面積もある、結び目がリボンで可愛い白のビキニを購入することになった。
最初に雪愛が想定していた水着よりも布面積が小さく、セクシーでもあるのだが、瑞穂達の選ぶ、より際どい水着を試着しすぎたせいで、感覚が麻痺しており、その基準が大分緩くなってしまったようだ。
だが、その水着は瑞穂達も含めて満場一致で雪愛によく似合っているものだったので結果オーライだろう。瑞穂達の作戦勝ちである。雪愛がレジに並んでいる間に、三人はやりきったというように互いを称え合った。ただ、瑞穂と未来は満面の笑みだったが、香奈だけは少し苦笑が混じっていた。感想などは本心だったが、雪愛に悪いことをしたかなと少し思っているのかもしれない。
この後、四人はどうせなら、ということで、水着の上に着るものも見て回った。
お洒落なもの、機能性の高いものなどなど、見ていくと色々なものがあることがわかる。それらを一着ずつ四人で感想を言いながら、時には試着をしながら見ていけば、当然時間はかかる。
結局、ファッションビルを出たのは、間にファストフードでお昼ご飯を食べたとはいえ、買い物を始めて実に六時間以上経った後だった。
買い物も無事済み、四人はカフェに入っていた。すでに夕方になっていたが、楽しかった買い物のテンションそのままに、休憩も兼ねて少しお喋りをして帰ろうということになったのだ。カフェを出る頃には夕陽も完全に沈んでいるに違いない。
「浴衣も水着もみんな気に入ったの買えてよかったねー」
「未来には完全に付き合わせちゃったね。ありがとう。ごめんね」
「ありがとう、未来ちゃん。おかげで可愛い浴衣買えたよ」
「それを言ったら私が一番付き合わせちゃってるわね。浴衣も水着もだもの。ありがとう未来」
未来の言葉に、瑞穂、香奈、雪愛がお礼を言う。
「いやー、みんなとの買い物楽しかったからだいじょーぶだよー。それにー、ゆあちの水着ショーはすっごく楽しかったしー」
雪愛は試着した水着の数々を思い出したのか、また顔を赤くする。ただ、未来の写真の一件は雪愛の中でもう水に流しているようだ。
「みんな悪ふざけしすぎよ。あんなので海になんて行ける訳ないじゃない!」
「でも、どれも雪愛に似合ってたのは嘘じゃないよ?」
瑞穂が笑いながら言う。
「うん。私から見てもちょっとドキドキしちゃったけど、雪愛ちゃんに似合ってたのはその通りだと思う」
香奈も瑞穂の言い分に同意する。
「似合う似合わないじゃないわよ。あれじゃ歩けないって言ってるの。あんなに露出して、どんな目で見られるかわかったものじゃないわ」
瑞穂達は一頻り笑い、雪愛は頬を膨らませた。
「けど、どうせならやっぱり風見に似合ってるとか可愛いとか言われたくない?」
そんな雪愛の様子に瑞穂が方向を変えるように言った。
「……それは……言われたら嬉しいとは思うけど…」
春陽に似合ってる、可愛い、と言われるところを想像したのか、雪愛の頬が先ほどとは違う理由で赤く染まる。
けれどそれが主目的かのように瑞穂達に言われるのは心外だったのだ。
「ね!そういう意味でも、最後に選んだ白の水着はばっちりだと思うよ」
「もうっ。けど、ありがとう。これは私も気に入ってるわ」
そう言って水着の入った袋に目を遣る雪愛。
その白の水着を雪愛に提案したのは瑞穂だった。
最初にめいっぱいセクシーに振り切って、徐々にちょうどいいものを提案していく。話し合った訳でもないのに、瑞穂達三人はそれをやり遂げたのだ。
雪愛が最初に見ていた水着とは何から何まで大きく違うことを瑞穂達三人は当然わかっている。そのことにどうやら雪愛だけが気づいていないようだ。
そんな雪愛の言葉に三人は笑いを堪えるのが大変だった。
瑞穂達三人、特に未来と香奈は学校での春陽しか知らないため、春陽が雪愛の水着姿を見て、本当にそんな感想を言うのか懐疑的だったが、それは口には出さなかった。ただし、もし春陽が水着姿の雪愛を見て、恥ずかしがってぼそぼそ聞こえない声で感想を言ったり、照れて無反応になったり逃げたりすれば、自分達が春陽に発破をかけなければ、なんて心の中で決意していた。雪愛が喜ぶ姿を自分達も見たいから。
その春陽の印象は花火大会で大きく変わることになるのだが、それはまた別の話だ。
「まあ、まずは海よりも先に花火大会だけどね」
「皆で浴衣を着て行くの本当に楽しみ」
「私もだわ」
「そうだねー。それに、ゆあちは浴衣も風見っちから可愛いって言ってもらえるといいねー」
「もう、未来!だから私はそういうつもりで買ったんじゃないって言ってるでしょ」
怒っているような言い方だが、顔を赤くしており、迫力は全くない。
実は、三人から何度も言われてしまい、段々その気になってきて、春陽から言ってもらえたらいいな、言ってもらいたいなと期待が高まってしまっている自分がいることに雪愛自身まだ気づいていない。
それから四人は、直近にある花火大会の話やこれから始まる夏休みの話で盛り上がり、カフェを出たときにはすっかり夜になっており、空には月と星々が輝いていた。
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