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第四章 花火大会と海の家
第39話 無意識に溢れる特別感と不憫な彼
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「あなた達大丈夫だったかしら?私の店でこんなことになっちゃってごめんなさいねぇ」
店内が落ち着いた後、啓蔵が雪愛達に向かって謝った。
「い、いえ、こちらこそありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
春陽の登場に続いて、啓蔵の登場、そして男達の退散と嵐のような出来事に半ば呆然としていた雪愛達だったが、啓蔵の言葉に雪愛がお礼を言い、瑞穂達もそれに倣ってお礼を言った。
特に啓蔵については雪愛達にとってもインパクトが大きかった。
「いいのよ。ああいうなってない男って私大嫌いなの。それに引き換え、春陽ちゃん!あなたかっこよかったわよぉ。ドキドキしちゃって出るのが遅れたもの」
「どうも」
春陽は、場を収めたのは啓蔵で自分は何もできていないと思っているのか素っ気なく答える。
「あの、私のお店ってことは―――」
啓蔵の言葉の一部に瑞穂がいち早く気づいた。
「あら、そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はここのオーナーよ。ケイちゃんって呼んでね♪」
そう言ってウインクをきめる啓蔵。
「それじゃあ、民宿の―――」
「あれ?もしかして民宿のお客様?」
「あ、はい。今日宿泊する芝田瑞穂です」
瑞穂の自己紹介に雪愛達も自己紹介をする。
春陽は今の会話に息を呑んだ。
(雪愛達があの民宿に泊まる!?)
「あらま~!そうだったの。あなた達が。悠介から話は聞いてるわ。けど、なるほどねぇ。春陽ちゃんがあんなに必死になるわけね~?」
相手が雪愛だったのならば、春陽が自分から守ったのも頷けると啓蔵は思った。
「…………」
(悠介は知ってたのか!?)
この後、悠介からしっかりと事情を聴くことが春陽の中で決まった。
啓蔵は春陽を流し目で見るが、春陽は黙ったままだ。
宿泊することを知って、驚いているのだろうと正確に春陽の心境を察する。
啓蔵はあらためて雪愛に目を遣る。
啓蔵から見ても、雪愛はすごい美人だ。それに羨ましくなるほどのスタイルをしている。
春陽が女の子を見た目で選ぶような男ではないことはわかっているつもりだが、まさかこんな完璧美少女だったとは。
「ふふっ。けど、そう。あなたが雪愛ちゃんだったのね。春陽ちゃんから聞いてるわ。カレーのメニュー、できたのはあなたのおかげだって。私からもお礼を言うわ。あれ、女子人気が高くてね。すっごく売れてるのよ」
「い、いえ、私は何も。あれは、春陽くんが頑張って作ったもので―――」
「ええ、もちろん春陽ちゃんが頑張ったこともわかってるつもりよ」
自分よりも春陽が頑張ったと訴える雪愛は、啓蔵にとって好印象だった。
美人の中には、性格ブスが多いと啓蔵は思っているが、雪愛はどうやら違うらしい。
啓蔵達が話していると彩花から催促の言葉が届く。
「ケイちゃーん。終わったなら仕事戻ってー。まだお昼時で忙しいんだからねー」
「もうっ。彩花は本当に厳しいんだからっ」
小言を言いながらも厨房に戻ろうとしたところで、ふとテーブルに目を遣ると、解けかけたかき氷が一つ置かれていた。
「って、あら?もしかしてかき氷頼んでくれてたの?」
「あ、はい」
雪愛が返事をする。
「よし!じゃあ、春陽ちゃん。ちゃちゃっと作るわよ。これも作り直すわね」
啓蔵の言葉にお礼を言う雪愛達。
だが、啓蔵が春陽を連れて厨房に戻ろうとしたところで、雪愛が声を上げる。
「あっ。春陽くん、パーカー……」
春陽が足を止めて振り返る。
「ああ。もう必要ないか?」
「え?……借りてても、いいの?」
「雪愛が嫌じゃなければな。ここにいる間くらいは問題ない」
「……ありがとう。じゃあお言葉に甘えます……」
そう言って雪愛はパーカーをギュッと握るのだった。
春陽達が去っていった後、雪愛達のテーブルでは何とも生温かい空気が流れていた。
「ケイちゃん、すごかったね」
瑞穂が言いながら雪愛をチラッと見る。
「けどー、いい人だよねー」
未来が言いながら雪愛をチラッと見る。
「うん、すごく優しい感じがする人だね」
香奈が言いながら雪愛をチラッと見る。香奈は啓蔵と話をしたことで印象が変わったようだ。
瑞穂達は全員啓蔵に好意的な印象をもっていた。
ちなみに自己紹介以降、啓蔵のことは皆ケイちゃん呼びだ。というか、フルネームを名乗られていないのでそうとしか呼べない。
そんな中、雪愛はというと、頬を赤らめ、ニマニマと堪えきれないというように笑みを浮かべていた。
春陽に助けてもらえて、パーカーを羽織らせてもらって、私幸せです、と言葉に出さなくてもわかるほどだ。雪愛の周りにたくさんの花が咲いているのが幻視できる。
雪愛の様子に、瑞穂達は目を合わすと揃って苦笑いを浮かべる。
雪愛に呆れたわけではない。
春陽が雪愛に向けて大丈夫、と言った時の表情は瑞穂達にも見えていた。
それは今まで一度も見たことがない、相手を安心させるような小さな笑みの浮かんだ優しい表情だった。
あんな風に助けてもらえたら、嬉しいに決まっている、と雪愛の気持ちがわかるからだ。
それが好きな相手なら尚更だろう。
「雪愛、そろそろ戻っておいでー」
が、そろそろ自分の世界から戻ってきてほしい。
「え?、何?」
瑞穂に呼ばれたことで、ほわほわ気分から現実に戻ってくる雪愛。
「ゆあち、可愛すぎだよー」
「雪愛ちゃん嬉しそうだね」
「な、なによ皆。その目は」
三人とも優しくも生温かい目で雪愛を見ていることにようやく気づく。
雪愛は今自分がどれほど幸せオーラを振りまいていたか無自覚らしい。
そんな雪愛に瑞穂達は笑い合うのだった。
その後、二人で作ってくれたからか、春陽が四つ一気に持ってきてくれたかき氷を美味しくいただいた四人はそろそろ海の家を出ようかとしていた。
そこに、啓蔵が再びやってきた。
「料理はどうだったかしら?」
「はい。どれもすごく美味しかったです」
啓蔵の問いに代表して瑞穂が答える。
「そう。それはよかったわ。みんなは午後も遊ぶのよね?」
「そのつもりです」
「さっきのことじゃないけど、女の子だけだとナンパとかされなかった?」
「ははは。何回かされました」
「やっぱり。なら、男避けに春陽ちゃんと悠介を連れていっちゃわない?」
「えっ!?でも、二人とも仕事があるんじゃ」
「それは気にしなくていいわ。忙しい時間帯ももう終わりだし、二人とも働きっぱなしだからね。ちょうどいい息抜きかなって。さっき二人には確認したんだけど、みんながいいならって言ってたわ。ああ、もちろん一緒に働いてる彩花も二人が休憩することには賛成してるからそこは大丈夫よ」
「え~っと、どうする?」
啓蔵の言葉に瑞穂が確認する。
「確かに安心ではあるよねー」
「うん、心強くはある、かな?」
瑞穂の問いかけに未来も香奈も答えながら雪愛に目を遣る。
雪愛は目を輝かせていた。
感情がダダ漏れだ。
心ここにあらずの状況よりは余程いいが、どうにも先ほどの一件から雪愛が若干ポンコツになっている気がする。
春陽が絡むと結構こうなってしまう雪愛だが、瑞穂達にとっては何度見ても慣れない姿だった。
ただこうなった雪愛は瑞穂達がドキッとするほど、異常に可愛く見えるのだ。
反対意見が出ないことで、どうするかは決まった。
こうして、午後からは春陽と悠介を交えて海を満喫することになった。
啓蔵からは大盤振る舞いで、浮輪やビーチパラソルなどを貸してもらえた。
三時を過ぎたら一度店に来てほしいとも言われ、六人は送り出されるように海の家を後にした。
ビーチパラソルを設置しているとき、瑞穂が雪愛の後ろに回り、両肩を後ろから持ちながら春陽に問いかけた。
「ねえ、風見。雪愛の水着姿どう?」
「ちょっと、瑞穂!?」
慌てて首を回し、瑞穂を咎めようとする雪愛。
春陽にどう思われてるかはずっと気になっていた雪愛だったが、さすがに聞くのは恥ずかしくてできないでいた。
それを瑞穂が言ってしまったのだ。
一方の春陽は、瑞穂に問われ、パラソルの設置を悠介に任せて雪愛の水着姿に目を向ける。今度はしっかりと正面から。
春陽は水着に詳しい訳ではない。
だが、背中まである綺麗な長い黒髪に結び目がリボンになった白い水着姿の雪愛は、綺麗で可愛かった。というか、そんなことはさっき海の家で見たときから思っていたことだ。
「良く似合ってて可愛いと思う」
想いを自覚してしまった春陽には、直視するにはやはり若干刺激が強かったのか、照れたように頭の後ろに手をやっている。
「ありがとう、春陽くん……」
雪愛も春陽に褒められ、顔を赤くしてしまう。嬉しい。すごく嬉しい。この水着を買って本当によかった。自分だけでは絶対に選ばなかったから瑞穂達には感謝しかない。
「よかったね、雪愛。じゃあさ、私のはどう?」
雪愛に優しく微笑むと、瑞穂は自分の水着姿はどうかと春陽に聞く。
瑞穂は、セミロングの青みがかった黒髪をポニーテールにしており、黒色の水着を着ていた。
学校ではほとんどポニーテールをしていないため、その点は春陽にとって新鮮だった。
「いいんじゃないか?似合ってると思うぞ?」
今度は照れたりせず普通に答える春陽。
瑞穂も照れたりせず素直にありがと、と言って笑った。
その流れで、未来、そして香奈までもが面白がってか、私の水着は?と春陽に聞く。
未来は、鎖骨ほどの長さの茶髪を学校の時と同じく首の辺りで二つ結びにしており、青色の水着を着ていた。
香奈も学校の時と同じでボブの黒髪を綺麗に整えており、ピンク色の水着を着ていた。
そのどちらにも瑞穂と同じように返す春陽。
そんな春陽の感想に、未来と香奈は先ほど海の家での、助けに入った春陽を間近で見たためか、春陽のことをカッコいいと感じており、若干頬を染め照れた様子でありがと、と返したのだった。
この時、春陽は無意識のことだが、『可愛い』と言葉にしたのは雪愛に対してだけだった。
だが、言われた側の瑞穂達はそのことに気づいており、雪愛の気持ちを知っている彼女達からすれば、そんなところも好印象だった。
そんな女子達と春陽のやりとりにビーチパラソルを設置し終えた悠介はジト目を向けていた。
「……俺にも感想とか聞いてくれてもよくね?」
その声にはなんとなく虚しさが漂っていた。そうじゃないとわかっていても、春陽が女子四人とイチャついてるように見える図の中、一人蚊帳の外というのは寂しいのだ。
「んー佐伯は別にいいかな。パラソルやってくれてありがと」
「さえきちはチャラそうだからなー。パラソルありがとー」
「ははは。パラソルありがとう」
香奈は笑って暗に未来の言葉に同意を示した。
「何だよ、その取ってつけたようなお礼は!どういたしまして!」
しっかりツッコむ悠介に三人は笑う。
「あーそうかよ。チャラい奴の感想はいらないと。って誰がチャラいだよ。チャラくねえよ。あれか、チャラいってのはこの髪か?俺の方が明るいかもしれないけど綾瀬だって茶髪じゃねえかよ。春陽みたいに黒髪にすりゃいいってか」
だが、散々な言われようをされた上に、笑って流されたように感じた悠介が若干やさぐれる。
「いやー、さえきちに黒髪は似合わないかなー」
そんな悠介への容赦のない未来の追撃に瑞穂達はさらに笑い合った。
春陽は、悠介のことをちょっとチャラそうに見えても、コミュ力激高の爽やかイケメンだと思ってる。
そんな悠介がここまで、それも女子から言われるのを見たのは初めてで、笑いを堪えるのに必死だった。
だが、悠介にはばっちりバレており、ジト目を向けられるのだった。
店内が落ち着いた後、啓蔵が雪愛達に向かって謝った。
「い、いえ、こちらこそありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
春陽の登場に続いて、啓蔵の登場、そして男達の退散と嵐のような出来事に半ば呆然としていた雪愛達だったが、啓蔵の言葉に雪愛がお礼を言い、瑞穂達もそれに倣ってお礼を言った。
特に啓蔵については雪愛達にとってもインパクトが大きかった。
「いいのよ。ああいうなってない男って私大嫌いなの。それに引き換え、春陽ちゃん!あなたかっこよかったわよぉ。ドキドキしちゃって出るのが遅れたもの」
「どうも」
春陽は、場を収めたのは啓蔵で自分は何もできていないと思っているのか素っ気なく答える。
「あの、私のお店ってことは―――」
啓蔵の言葉の一部に瑞穂がいち早く気づいた。
「あら、そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はここのオーナーよ。ケイちゃんって呼んでね♪」
そう言ってウインクをきめる啓蔵。
「それじゃあ、民宿の―――」
「あれ?もしかして民宿のお客様?」
「あ、はい。今日宿泊する芝田瑞穂です」
瑞穂の自己紹介に雪愛達も自己紹介をする。
春陽は今の会話に息を呑んだ。
(雪愛達があの民宿に泊まる!?)
「あらま~!そうだったの。あなた達が。悠介から話は聞いてるわ。けど、なるほどねぇ。春陽ちゃんがあんなに必死になるわけね~?」
相手が雪愛だったのならば、春陽が自分から守ったのも頷けると啓蔵は思った。
「…………」
(悠介は知ってたのか!?)
この後、悠介からしっかりと事情を聴くことが春陽の中で決まった。
啓蔵は春陽を流し目で見るが、春陽は黙ったままだ。
宿泊することを知って、驚いているのだろうと正確に春陽の心境を察する。
啓蔵はあらためて雪愛に目を遣る。
啓蔵から見ても、雪愛はすごい美人だ。それに羨ましくなるほどのスタイルをしている。
春陽が女の子を見た目で選ぶような男ではないことはわかっているつもりだが、まさかこんな完璧美少女だったとは。
「ふふっ。けど、そう。あなたが雪愛ちゃんだったのね。春陽ちゃんから聞いてるわ。カレーのメニュー、できたのはあなたのおかげだって。私からもお礼を言うわ。あれ、女子人気が高くてね。すっごく売れてるのよ」
「い、いえ、私は何も。あれは、春陽くんが頑張って作ったもので―――」
「ええ、もちろん春陽ちゃんが頑張ったこともわかってるつもりよ」
自分よりも春陽が頑張ったと訴える雪愛は、啓蔵にとって好印象だった。
美人の中には、性格ブスが多いと啓蔵は思っているが、雪愛はどうやら違うらしい。
啓蔵達が話していると彩花から催促の言葉が届く。
「ケイちゃーん。終わったなら仕事戻ってー。まだお昼時で忙しいんだからねー」
「もうっ。彩花は本当に厳しいんだからっ」
小言を言いながらも厨房に戻ろうとしたところで、ふとテーブルに目を遣ると、解けかけたかき氷が一つ置かれていた。
「って、あら?もしかしてかき氷頼んでくれてたの?」
「あ、はい」
雪愛が返事をする。
「よし!じゃあ、春陽ちゃん。ちゃちゃっと作るわよ。これも作り直すわね」
啓蔵の言葉にお礼を言う雪愛達。
だが、啓蔵が春陽を連れて厨房に戻ろうとしたところで、雪愛が声を上げる。
「あっ。春陽くん、パーカー……」
春陽が足を止めて振り返る。
「ああ。もう必要ないか?」
「え?……借りてても、いいの?」
「雪愛が嫌じゃなければな。ここにいる間くらいは問題ない」
「……ありがとう。じゃあお言葉に甘えます……」
そう言って雪愛はパーカーをギュッと握るのだった。
春陽達が去っていった後、雪愛達のテーブルでは何とも生温かい空気が流れていた。
「ケイちゃん、すごかったね」
瑞穂が言いながら雪愛をチラッと見る。
「けどー、いい人だよねー」
未来が言いながら雪愛をチラッと見る。
「うん、すごく優しい感じがする人だね」
香奈が言いながら雪愛をチラッと見る。香奈は啓蔵と話をしたことで印象が変わったようだ。
瑞穂達は全員啓蔵に好意的な印象をもっていた。
ちなみに自己紹介以降、啓蔵のことは皆ケイちゃん呼びだ。というか、フルネームを名乗られていないのでそうとしか呼べない。
そんな中、雪愛はというと、頬を赤らめ、ニマニマと堪えきれないというように笑みを浮かべていた。
春陽に助けてもらえて、パーカーを羽織らせてもらって、私幸せです、と言葉に出さなくてもわかるほどだ。雪愛の周りにたくさんの花が咲いているのが幻視できる。
雪愛の様子に、瑞穂達は目を合わすと揃って苦笑いを浮かべる。
雪愛に呆れたわけではない。
春陽が雪愛に向けて大丈夫、と言った時の表情は瑞穂達にも見えていた。
それは今まで一度も見たことがない、相手を安心させるような小さな笑みの浮かんだ優しい表情だった。
あんな風に助けてもらえたら、嬉しいに決まっている、と雪愛の気持ちがわかるからだ。
それが好きな相手なら尚更だろう。
「雪愛、そろそろ戻っておいでー」
が、そろそろ自分の世界から戻ってきてほしい。
「え?、何?」
瑞穂に呼ばれたことで、ほわほわ気分から現実に戻ってくる雪愛。
「ゆあち、可愛すぎだよー」
「雪愛ちゃん嬉しそうだね」
「な、なによ皆。その目は」
三人とも優しくも生温かい目で雪愛を見ていることにようやく気づく。
雪愛は今自分がどれほど幸せオーラを振りまいていたか無自覚らしい。
そんな雪愛に瑞穂達は笑い合うのだった。
その後、二人で作ってくれたからか、春陽が四つ一気に持ってきてくれたかき氷を美味しくいただいた四人はそろそろ海の家を出ようかとしていた。
そこに、啓蔵が再びやってきた。
「料理はどうだったかしら?」
「はい。どれもすごく美味しかったです」
啓蔵の問いに代表して瑞穂が答える。
「そう。それはよかったわ。みんなは午後も遊ぶのよね?」
「そのつもりです」
「さっきのことじゃないけど、女の子だけだとナンパとかされなかった?」
「ははは。何回かされました」
「やっぱり。なら、男避けに春陽ちゃんと悠介を連れていっちゃわない?」
「えっ!?でも、二人とも仕事があるんじゃ」
「それは気にしなくていいわ。忙しい時間帯ももう終わりだし、二人とも働きっぱなしだからね。ちょうどいい息抜きかなって。さっき二人には確認したんだけど、みんながいいならって言ってたわ。ああ、もちろん一緒に働いてる彩花も二人が休憩することには賛成してるからそこは大丈夫よ」
「え~っと、どうする?」
啓蔵の言葉に瑞穂が確認する。
「確かに安心ではあるよねー」
「うん、心強くはある、かな?」
瑞穂の問いかけに未来も香奈も答えながら雪愛に目を遣る。
雪愛は目を輝かせていた。
感情がダダ漏れだ。
心ここにあらずの状況よりは余程いいが、どうにも先ほどの一件から雪愛が若干ポンコツになっている気がする。
春陽が絡むと結構こうなってしまう雪愛だが、瑞穂達にとっては何度見ても慣れない姿だった。
ただこうなった雪愛は瑞穂達がドキッとするほど、異常に可愛く見えるのだ。
反対意見が出ないことで、どうするかは決まった。
こうして、午後からは春陽と悠介を交えて海を満喫することになった。
啓蔵からは大盤振る舞いで、浮輪やビーチパラソルなどを貸してもらえた。
三時を過ぎたら一度店に来てほしいとも言われ、六人は送り出されるように海の家を後にした。
ビーチパラソルを設置しているとき、瑞穂が雪愛の後ろに回り、両肩を後ろから持ちながら春陽に問いかけた。
「ねえ、風見。雪愛の水着姿どう?」
「ちょっと、瑞穂!?」
慌てて首を回し、瑞穂を咎めようとする雪愛。
春陽にどう思われてるかはずっと気になっていた雪愛だったが、さすがに聞くのは恥ずかしくてできないでいた。
それを瑞穂が言ってしまったのだ。
一方の春陽は、瑞穂に問われ、パラソルの設置を悠介に任せて雪愛の水着姿に目を向ける。今度はしっかりと正面から。
春陽は水着に詳しい訳ではない。
だが、背中まである綺麗な長い黒髪に結び目がリボンになった白い水着姿の雪愛は、綺麗で可愛かった。というか、そんなことはさっき海の家で見たときから思っていたことだ。
「良く似合ってて可愛いと思う」
想いを自覚してしまった春陽には、直視するにはやはり若干刺激が強かったのか、照れたように頭の後ろに手をやっている。
「ありがとう、春陽くん……」
雪愛も春陽に褒められ、顔を赤くしてしまう。嬉しい。すごく嬉しい。この水着を買って本当によかった。自分だけでは絶対に選ばなかったから瑞穂達には感謝しかない。
「よかったね、雪愛。じゃあさ、私のはどう?」
雪愛に優しく微笑むと、瑞穂は自分の水着姿はどうかと春陽に聞く。
瑞穂は、セミロングの青みがかった黒髪をポニーテールにしており、黒色の水着を着ていた。
学校ではほとんどポニーテールをしていないため、その点は春陽にとって新鮮だった。
「いいんじゃないか?似合ってると思うぞ?」
今度は照れたりせず普通に答える春陽。
瑞穂も照れたりせず素直にありがと、と言って笑った。
その流れで、未来、そして香奈までもが面白がってか、私の水着は?と春陽に聞く。
未来は、鎖骨ほどの長さの茶髪を学校の時と同じく首の辺りで二つ結びにしており、青色の水着を着ていた。
香奈も学校の時と同じでボブの黒髪を綺麗に整えており、ピンク色の水着を着ていた。
そのどちらにも瑞穂と同じように返す春陽。
そんな春陽の感想に、未来と香奈は先ほど海の家での、助けに入った春陽を間近で見たためか、春陽のことをカッコいいと感じており、若干頬を染め照れた様子でありがと、と返したのだった。
この時、春陽は無意識のことだが、『可愛い』と言葉にしたのは雪愛に対してだけだった。
だが、言われた側の瑞穂達はそのことに気づいており、雪愛の気持ちを知っている彼女達からすれば、そんなところも好印象だった。
そんな女子達と春陽のやりとりにビーチパラソルを設置し終えた悠介はジト目を向けていた。
「……俺にも感想とか聞いてくれてもよくね?」
その声にはなんとなく虚しさが漂っていた。そうじゃないとわかっていても、春陽が女子四人とイチャついてるように見える図の中、一人蚊帳の外というのは寂しいのだ。
「んー佐伯は別にいいかな。パラソルやってくれてありがと」
「さえきちはチャラそうだからなー。パラソルありがとー」
「ははは。パラソルありがとう」
香奈は笑って暗に未来の言葉に同意を示した。
「何だよ、その取ってつけたようなお礼は!どういたしまして!」
しっかりツッコむ悠介に三人は笑う。
「あーそうかよ。チャラい奴の感想はいらないと。って誰がチャラいだよ。チャラくねえよ。あれか、チャラいってのはこの髪か?俺の方が明るいかもしれないけど綾瀬だって茶髪じゃねえかよ。春陽みたいに黒髪にすりゃいいってか」
だが、散々な言われようをされた上に、笑って流されたように感じた悠介が若干やさぐれる。
「いやー、さえきちに黒髪は似合わないかなー」
そんな悠介への容赦のない未来の追撃に瑞穂達はさらに笑い合った。
春陽は、悠介のことをちょっとチャラそうに見えても、コミュ力激高の爽やかイケメンだと思ってる。
そんな悠介がここまで、それも女子から言われるのを見たのは初めてで、笑いを堪えるのに必死だった。
だが、悠介にはばっちりバレており、ジト目を向けられるのだった。
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