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第四章 花火大会と海の家
第29話 直前にそんな話をしていればしょうがない
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花火大会を翌日に控えた夜。
雪愛はいつもの四人でビデオ通話をしていた。
明日の花火大会が楽しみだという話から始まり、夏休みがもう一週間終わってしまうということで、この一週間何をしていたかといった内容だ。
ちなみに、浴衣の着付けについては香奈も母親ができるということで、皆それぞれの家から着て行けるようだ。
香奈は早速夏期講習が始まり、忙しくしているそうだ。瑞穂と未来は特段何事もなく、外は暑いため、家でダラダラと過ごす時間が多く、学校の宿題を少し進めたくらいだったらしい。
そして今、雪愛が夏休みに入ってからのことを話し終えたところだ。そのほとんどが春陽の頑張りについてで途中からは熱も入ってしまっていた。
香奈と未来にとっては初耳の話で、最初は感心しながら聞いていた。未だ雪愛の話す春陽はイメージと一致しない部分が多いが、内容に関しては、すごいなーといった感じだった。
だが、すべてを聞き終えた瑞穂達はカメラ越しに雪愛へとジト目を向けている。
香奈や未来までが、だ。
「風見が頑張ってたのはよーくわかったけどさ。その間、雪愛は毎日お弁当を作ってたんだよね?」
「ええ。春陽くん食生活あんまりよくないから。少しでも何かしたくて」
「……なんかさぁ、それってもう色々すっ飛ばして『妻』って感じじゃない?」
「新妻ー?」
「新婚さん?」
「なっ!?何言っているのよ皆して」
三人の言葉に雪愛は慌ててしまう。
妻って、それはつまり春陽が旦那さんで―――と考えが及んでしまい顔が熱くなる。
「いや、だって実際中々できることじゃないと思うよ?」
「愛のなせるわざってやつだねー」
「愛妻弁当ってことだよね」
今度は愛、ときた。
雪愛は自分が異性とのことでいじられることに耐性が無い。というか、もし去年こんな話をしていれば、ありえない、と一言で切って捨てていたことだろう。
慣れない内容の連続に雪愛の顔が上気する。こういう時に何と言えばいいか全然思いつかない。
「私……本当にそんなつもりじゃ…」
結果、反論の声はとても小さかった。
ぷすぷすと頭から煙が出るのが幻視できそうな雪愛の様子に、瑞穂が苦笑しながら謝った。
「ごめん、ごめん雪愛。でもよかったね、息抜きデートできて。水族館デート以来?」
「え、ええ、そうね。春陽くんの息抜きのためなのに、自分ばかり楽しんでるんじゃないかって心配になったけどね」
そう言って、ベッドにいる黒猫のぬいぐるみに目を向ける雪愛。その横には水族館デートの時のペンギンのぬいぐるみもいる。
以前はデートという言葉に否定で返した雪愛だったが、今はすんなりと受け入れている。
皆に話した時には、春陽の息抜きに二人で出かけたとしか言っていないが、自分自身、春陽と二人で出かけることがデートだと感じているようだ。
雪愛が瑞穂の言ったデートという言葉を普通に受け入れたことに瑞穂達は内心驚いていた。てっきりそんなのじゃないと言われると思っていたからだ。
しかし、雪愛の自分ばかり楽しんだという言い方に、瑞穂達は大好物の話題だとその息抜きデートについて、質問攻めにした。
恋愛に興味がないのならともかく、女子高生四人でお喋りをして、その内容が恋バナとあらば盛り上がることは間違いない。
そして、大凡の内容を聞いた彼女達は思った。なんでそれでまだ付き合っていないんだ、と。
ケーキの話なんて、恥ずかしそうに雪愛は話していたが、傍から見れば完全にイチャイチャしてるバカップルだろう。
これで手も繋いでいないというのだから驚きだ。
「ねえーゆあち、ゆあちは風見っちのこと好きー?」
それはいつかと同じ質問だった。その時の雪愛は恋がわからないという答えだった。
だが、今雪愛の話してくれた内容はどれも恋愛対象として好きでもない限りしないことのように思えて。
だから未来は聞いてみることにしたのだった。
「っ、……ええ」
顔を赤らめながらもしっかりと肯定する雪愛。
「「「っ!?」」」
三人は揃って息を呑んだ。
まさかこんなにあっさり認めるなんて、と。さらに、今の雪愛は何というか画面越しでもわかるほどすごい色気を放っていた。
「でも、今の関係を壊したくもないの。春陽くんが私のことどう思ってるかわからないし、正直付き合うとかはまだよくわからないし……」
そんな雪愛の様子に同性であるにも関わらず、三人とも若干頬を赤らめた。
雪愛がようやく自身の恋心を自覚したのなら、と未来がさらに言葉を重ねる。
「手を繋いだりー、抱きしめられたりー、キスしたいとか思ったりはしないのー?」
「そ、そんなこと考えたことないわよ!」
想像してしまったのか、雪愛の顔がさらに熱くなる。
「未来ちゃん、攻めるね」
「ははは。まあ気持ちはわかるかな。雪愛の恋バナなんて私たちも聞いたことないもんね」
香奈と瑞穂は未来の攻めっぷりにひきつったような笑みを浮かべている。
瑞穂の場合は未来が言ったこと全部経験済みだったりするから尚の事だ。雪愛でこれなのだから、自分が和樹と付き合っていると知られたらいったいどう攻められるのか、考えるだけで怖い。
「そっかー。でもゆあち、風見っちの話してるとき、すっっごく可愛い顔してたよー」
「確かに。こんな雪愛を見てて普通にできてるんだとしたら風見ってよっぽど鈍感なのかな?」
「ちょっと瑞穂!春陽くんにまで飛び火させないで」
「今のは瑞穂ちゃんが悪いよ。けど、今の雪愛ちゃんがすごく可愛いのは私も同感かな」
「もうっ。みんな揃って揶揄わないで!」
瑞穂と香奈は一年の頃から雪愛を知っているので、その変化を明確に感じている。二年になってから、正確には春陽と知り合ってから、雪愛はどんどん綺麗に、そして可愛くなっている。
二人より付き合いの短い未来も、もともと美人だった雪愛が、最近さらに綺麗で可愛くなっていると感じていた。
恋は女性を綺麗にする、とはよく言う言葉だが、まさにその言葉通りだ。香奈と未来はそんな素敵な恋ができている雪愛を羨ましく思う気持ちが正直ある。それと同時にやはり憧れる。いつか自分も、と。
その後も瑞穂達は心得たもので、雪愛が本気で拗ねてしまう一歩手前まで雪愛の恋バナで盛り上がるのだった。
夜、雪愛は先日買った浴衣姿で、多くの人で賑わう屋台が並んだ河川敷を歩いていた。
隣には春陽の姿がある。春陽は、雪愛を見てすぐに、浴衣似合ってる、綺麗だと褒めてくれた。
雪愛は今、春陽と手を繋いでいる。
指と指を絡めるいわゆる恋人繋ぎだ。
逸れないようにと春陽が言い、繋ぐことになった手だが、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。
今日の春陽は特に優しく表情も柔らかで、雪愛は話しながら歩いているだけで幸せな気持ちだった。
そうしてしばらく歩いていると春陽が止まった。
雪愛もそれに合わせて止まる。
周りには誰もいない。
屋台や提灯の灯りが遠目に見える。
春陽と向かい合うようにして立つと、春陽が優しい笑顔を向けてくれている。
「雪愛」
「春陽くん?」
春陽の呼び掛けに雪愛が小首を傾げて返す。
今雪愛の両手は春陽の両手に優しく握られている。
二人とも相手から目を離さない。
間近で春陽に見つめられ、雪愛の胸が高鳴り、鼓動が耳に響いて煩いくらいだ。
すると春陽の表情が真剣なものへと変わる。
「雪愛、好きだ。俺と付き合ってほしい」
春陽からの突然の告白に一瞬息も忘れる雪愛。
だが、すぐに頭と心が春陽の言葉を理解し、嬉しさがこみ上げる。
「っ。わ、私も。私も春陽くんが好きっ」
雪愛が言い終わるのとほとんど同時に春陽は雪愛を強く抱きしめる。
「ありがとう。ずっと一緒にいよう」
耳元で春陽が囁くように言う。
「うん。ずっと春陽くんと一緒にいたい」
雪愛からも春陽の背中に腕を回しその力を強める。
花火の音がし始めたが、今は春陽の鼓動が聴こえる胸から離れたくない。
春陽の腕に抱かれていることでこんなにも幸せに包まれるとは。
雪愛はずっとこのままでいたいとすら思った。
しばらく抱き合っていた二人だが、春陽が雪愛の肩に手を置き、二人の距離が少し離れる。
「あ……」
名残惜しくて思わず声が出てしまう雪愛。
二人は少しの間見つめ合う。
そして、春陽の顔がゆっくりと雪愛の顔へと近づいてくる。
春陽がしようとしていることを察した雪愛はそっと目を瞑り、春陽の唇が自身のそれに触れるその瞬間を待った―――。
ピピピ、ピピピ、ピピピ―――――。
そこで、目覚ましのアラームが鳴り、雪愛ははっと目を覚ました。
寝起きだというのに急速に覚醒していく。と同時に酷く混乱もしていた。
その顔がみるみる赤くなっていく。
起きたら覚えていない夢も多いというのに、今回は鮮明に覚えている。
アラームを切っても起き上がれず、ベッドの中で悶える雪愛。思わず枕元にいるペンギンと黒猫のぬいぐるみを胸に抱く。鼓動が激しく鳴っていた。
なぜこんな夢を見てしまったのか。答えは簡単だ。昨夜瑞穂達とあんな話を長々としてしまったのが原因だ。お門違いだとわかっていても、恨み言の一つでも言いたくなる。
しかし、夢の中の場所が花火大会というのも問題だった。
これではまるで今日の花火大会でそうなることを望んでいるようではないか。自分が男性とそういうことをするなんて本当に考えたこともなかったのだ。断じて自分の願望が夢となった訳ではないと誰にともなく叫びたくなる。
一方でとても幸せな夢だったとも思っていた。
春陽と手を繋いでいた。
さらには、告白され、抱きしめられ、あと少しで春陽とキスまでするところだったのだ。目覚ましのタイミングの悪さに思わずスマホへ恨みがましい目を向けたくなるくらいに。
昨夜瑞穂達にはそんなこと考えたこともないと言っておきながら、それらをされる夢を見て幸せを感じてしまっている。
夢の内容を思い出せば、恥ずかしいだけではなく、身体が疼くような初めて経験する感覚もあって雪愛の混乱に拍車をかける。
「~~~~~~~っ」
矛盾するような思いが混じり合い、言葉にならない声をあげ、ベッドの中をごろごろしてしまう。
花火大会まではまだまだ時間がある。
春陽と会った時に挙動不審になんてなりたくない。
夢一つで朝から乱れに乱れた雪愛の心が落ち着くまで、しばらくベッドから出ることはできなかった。
こうして、朝から大変な思いをした雪愛は、午後から準備を始め、沙織に着付けを手伝ってもらい、余裕をもって花火大会の待ち合わせ場所へと向かうのだった。
雪愛はいつもの四人でビデオ通話をしていた。
明日の花火大会が楽しみだという話から始まり、夏休みがもう一週間終わってしまうということで、この一週間何をしていたかといった内容だ。
ちなみに、浴衣の着付けについては香奈も母親ができるということで、皆それぞれの家から着て行けるようだ。
香奈は早速夏期講習が始まり、忙しくしているそうだ。瑞穂と未来は特段何事もなく、外は暑いため、家でダラダラと過ごす時間が多く、学校の宿題を少し進めたくらいだったらしい。
そして今、雪愛が夏休みに入ってからのことを話し終えたところだ。そのほとんどが春陽の頑張りについてで途中からは熱も入ってしまっていた。
香奈と未来にとっては初耳の話で、最初は感心しながら聞いていた。未だ雪愛の話す春陽はイメージと一致しない部分が多いが、内容に関しては、すごいなーといった感じだった。
だが、すべてを聞き終えた瑞穂達はカメラ越しに雪愛へとジト目を向けている。
香奈や未来までが、だ。
「風見が頑張ってたのはよーくわかったけどさ。その間、雪愛は毎日お弁当を作ってたんだよね?」
「ええ。春陽くん食生活あんまりよくないから。少しでも何かしたくて」
「……なんかさぁ、それってもう色々すっ飛ばして『妻』って感じじゃない?」
「新妻ー?」
「新婚さん?」
「なっ!?何言っているのよ皆して」
三人の言葉に雪愛は慌ててしまう。
妻って、それはつまり春陽が旦那さんで―――と考えが及んでしまい顔が熱くなる。
「いや、だって実際中々できることじゃないと思うよ?」
「愛のなせるわざってやつだねー」
「愛妻弁当ってことだよね」
今度は愛、ときた。
雪愛は自分が異性とのことでいじられることに耐性が無い。というか、もし去年こんな話をしていれば、ありえない、と一言で切って捨てていたことだろう。
慣れない内容の連続に雪愛の顔が上気する。こういう時に何と言えばいいか全然思いつかない。
「私……本当にそんなつもりじゃ…」
結果、反論の声はとても小さかった。
ぷすぷすと頭から煙が出るのが幻視できそうな雪愛の様子に、瑞穂が苦笑しながら謝った。
「ごめん、ごめん雪愛。でもよかったね、息抜きデートできて。水族館デート以来?」
「え、ええ、そうね。春陽くんの息抜きのためなのに、自分ばかり楽しんでるんじゃないかって心配になったけどね」
そう言って、ベッドにいる黒猫のぬいぐるみに目を向ける雪愛。その横には水族館デートの時のペンギンのぬいぐるみもいる。
以前はデートという言葉に否定で返した雪愛だったが、今はすんなりと受け入れている。
皆に話した時には、春陽の息抜きに二人で出かけたとしか言っていないが、自分自身、春陽と二人で出かけることがデートだと感じているようだ。
雪愛が瑞穂の言ったデートという言葉を普通に受け入れたことに瑞穂達は内心驚いていた。てっきりそんなのじゃないと言われると思っていたからだ。
しかし、雪愛の自分ばかり楽しんだという言い方に、瑞穂達は大好物の話題だとその息抜きデートについて、質問攻めにした。
恋愛に興味がないのならともかく、女子高生四人でお喋りをして、その内容が恋バナとあらば盛り上がることは間違いない。
そして、大凡の内容を聞いた彼女達は思った。なんでそれでまだ付き合っていないんだ、と。
ケーキの話なんて、恥ずかしそうに雪愛は話していたが、傍から見れば完全にイチャイチャしてるバカップルだろう。
これで手も繋いでいないというのだから驚きだ。
「ねえーゆあち、ゆあちは風見っちのこと好きー?」
それはいつかと同じ質問だった。その時の雪愛は恋がわからないという答えだった。
だが、今雪愛の話してくれた内容はどれも恋愛対象として好きでもない限りしないことのように思えて。
だから未来は聞いてみることにしたのだった。
「っ、……ええ」
顔を赤らめながらもしっかりと肯定する雪愛。
「「「っ!?」」」
三人は揃って息を呑んだ。
まさかこんなにあっさり認めるなんて、と。さらに、今の雪愛は何というか画面越しでもわかるほどすごい色気を放っていた。
「でも、今の関係を壊したくもないの。春陽くんが私のことどう思ってるかわからないし、正直付き合うとかはまだよくわからないし……」
そんな雪愛の様子に同性であるにも関わらず、三人とも若干頬を赤らめた。
雪愛がようやく自身の恋心を自覚したのなら、と未来がさらに言葉を重ねる。
「手を繋いだりー、抱きしめられたりー、キスしたいとか思ったりはしないのー?」
「そ、そんなこと考えたことないわよ!」
想像してしまったのか、雪愛の顔がさらに熱くなる。
「未来ちゃん、攻めるね」
「ははは。まあ気持ちはわかるかな。雪愛の恋バナなんて私たちも聞いたことないもんね」
香奈と瑞穂は未来の攻めっぷりにひきつったような笑みを浮かべている。
瑞穂の場合は未来が言ったこと全部経験済みだったりするから尚の事だ。雪愛でこれなのだから、自分が和樹と付き合っていると知られたらいったいどう攻められるのか、考えるだけで怖い。
「そっかー。でもゆあち、風見っちの話してるとき、すっっごく可愛い顔してたよー」
「確かに。こんな雪愛を見てて普通にできてるんだとしたら風見ってよっぽど鈍感なのかな?」
「ちょっと瑞穂!春陽くんにまで飛び火させないで」
「今のは瑞穂ちゃんが悪いよ。けど、今の雪愛ちゃんがすごく可愛いのは私も同感かな」
「もうっ。みんな揃って揶揄わないで!」
瑞穂と香奈は一年の頃から雪愛を知っているので、その変化を明確に感じている。二年になってから、正確には春陽と知り合ってから、雪愛はどんどん綺麗に、そして可愛くなっている。
二人より付き合いの短い未来も、もともと美人だった雪愛が、最近さらに綺麗で可愛くなっていると感じていた。
恋は女性を綺麗にする、とはよく言う言葉だが、まさにその言葉通りだ。香奈と未来はそんな素敵な恋ができている雪愛を羨ましく思う気持ちが正直ある。それと同時にやはり憧れる。いつか自分も、と。
その後も瑞穂達は心得たもので、雪愛が本気で拗ねてしまう一歩手前まで雪愛の恋バナで盛り上がるのだった。
夜、雪愛は先日買った浴衣姿で、多くの人で賑わう屋台が並んだ河川敷を歩いていた。
隣には春陽の姿がある。春陽は、雪愛を見てすぐに、浴衣似合ってる、綺麗だと褒めてくれた。
雪愛は今、春陽と手を繋いでいる。
指と指を絡めるいわゆる恋人繋ぎだ。
逸れないようにと春陽が言い、繋ぐことになった手だが、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。
今日の春陽は特に優しく表情も柔らかで、雪愛は話しながら歩いているだけで幸せな気持ちだった。
そうしてしばらく歩いていると春陽が止まった。
雪愛もそれに合わせて止まる。
周りには誰もいない。
屋台や提灯の灯りが遠目に見える。
春陽と向かい合うようにして立つと、春陽が優しい笑顔を向けてくれている。
「雪愛」
「春陽くん?」
春陽の呼び掛けに雪愛が小首を傾げて返す。
今雪愛の両手は春陽の両手に優しく握られている。
二人とも相手から目を離さない。
間近で春陽に見つめられ、雪愛の胸が高鳴り、鼓動が耳に響いて煩いくらいだ。
すると春陽の表情が真剣なものへと変わる。
「雪愛、好きだ。俺と付き合ってほしい」
春陽からの突然の告白に一瞬息も忘れる雪愛。
だが、すぐに頭と心が春陽の言葉を理解し、嬉しさがこみ上げる。
「っ。わ、私も。私も春陽くんが好きっ」
雪愛が言い終わるのとほとんど同時に春陽は雪愛を強く抱きしめる。
「ありがとう。ずっと一緒にいよう」
耳元で春陽が囁くように言う。
「うん。ずっと春陽くんと一緒にいたい」
雪愛からも春陽の背中に腕を回しその力を強める。
花火の音がし始めたが、今は春陽の鼓動が聴こえる胸から離れたくない。
春陽の腕に抱かれていることでこんなにも幸せに包まれるとは。
雪愛はずっとこのままでいたいとすら思った。
しばらく抱き合っていた二人だが、春陽が雪愛の肩に手を置き、二人の距離が少し離れる。
「あ……」
名残惜しくて思わず声が出てしまう雪愛。
二人は少しの間見つめ合う。
そして、春陽の顔がゆっくりと雪愛の顔へと近づいてくる。
春陽がしようとしていることを察した雪愛はそっと目を瞑り、春陽の唇が自身のそれに触れるその瞬間を待った―――。
ピピピ、ピピピ、ピピピ―――――。
そこで、目覚ましのアラームが鳴り、雪愛ははっと目を覚ました。
寝起きだというのに急速に覚醒していく。と同時に酷く混乱もしていた。
その顔がみるみる赤くなっていく。
起きたら覚えていない夢も多いというのに、今回は鮮明に覚えている。
アラームを切っても起き上がれず、ベッドの中で悶える雪愛。思わず枕元にいるペンギンと黒猫のぬいぐるみを胸に抱く。鼓動が激しく鳴っていた。
なぜこんな夢を見てしまったのか。答えは簡単だ。昨夜瑞穂達とあんな話を長々としてしまったのが原因だ。お門違いだとわかっていても、恨み言の一つでも言いたくなる。
しかし、夢の中の場所が花火大会というのも問題だった。
これではまるで今日の花火大会でそうなることを望んでいるようではないか。自分が男性とそういうことをするなんて本当に考えたこともなかったのだ。断じて自分の願望が夢となった訳ではないと誰にともなく叫びたくなる。
一方でとても幸せな夢だったとも思っていた。
春陽と手を繋いでいた。
さらには、告白され、抱きしめられ、あと少しで春陽とキスまでするところだったのだ。目覚ましのタイミングの悪さに思わずスマホへ恨みがましい目を向けたくなるくらいに。
昨夜瑞穂達にはそんなこと考えたこともないと言っておきながら、それらをされる夢を見て幸せを感じてしまっている。
夢の内容を思い出せば、恥ずかしいだけではなく、身体が疼くような初めて経験する感覚もあって雪愛の混乱に拍車をかける。
「~~~~~~~っ」
矛盾するような思いが混じり合い、言葉にならない声をあげ、ベッドの中をごろごろしてしまう。
花火大会まではまだまだ時間がある。
春陽と会った時に挙動不審になんてなりたくない。
夢一つで朝から乱れに乱れた雪愛の心が落ち着くまで、しばらくベッドから出ることはできなかった。
こうして、朝から大変な思いをした雪愛は、午後から準備を始め、沙織に着付けを手伝ってもらい、余裕をもって花火大会の待ち合わせ場所へと向かうのだった。
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