冥界の仕事人

ひろろ

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番外編

その後の話 ☆

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さわさわさわさわ。


 優しい風が通り過ぎて行く。


 病院の屋上にやって来た1羽の鶴が、柵に留まり下界を見下ろしている。


  桜の花が満開だ……。


  風が吹いて、ひらひらと花びらが踊っている。
 

 今日の桜も綺麗だけど、お姉ちゃんと一緒に見た桜は、もっともっと綺麗だった、と感じるのは気のせいかな。


 うっく……。


 やばい、下を見ていると、うっかり涙が出そうになる。


 オストリッチは、空を見上げた。


 青い空にちぎれ雲が、ゆっくりと流れていく。
 

 この雲が僕の代わりに、皆んなの所へ 流れて行くかもしれないな。


「お姉ちゃん、蓮さん、優さんの生まれ変わりが、この世界のどこかで生きている……。

偶然にすれ違ったとしても、互いにわからないだろう。

皆さん、僕は調査員の仕事を頑張っていますよ……。

皆さんは、きっと元気な赤ちゃんなのでしょうね……」

 
 オストリッチは、あれこれと想像している。


 3人が、少し大きくなったら……。


 お姉ちゃんは、きっと暴れん坊の男の子、蓮さんは、かっこいい男の子で、優さんは、優しくて、可愛い女の子になるかな?


 ぐふっふっ。


 お姉ちゃんは、きっと男の子だよね?
   

 確かめるすべが無いので、妄想するしかないが、オストリッチはそんな風に決めつけていたのだった。


「はぁー、さてと、冥界に帰ろう」


 冥界に戻り、第1の門にある 道先案内スタッフルームを外から覗いて見る。


 あっ、いた、いた。
 
 
「スワンさん、ストークさん、おはようございます。


今、待機中ですか?」


 外から窓を開けて、中の2人に声をかけた。


 スワンというのは、道先案内人当時、オストリッチの教育係をしていた先輩で、ストークは、オストリッチの代わりに道先案内人になった後輩鳥なのだ。


「ああ、オストリッチですか。
おはよう。

私は、もうすぐ出発するところですよ。
金札の方の道先案内に行くのです」


「オストリッチ先輩、おはようございます。私は、待機中……」


 コンコン!


「待機の方は、いらっしゃいますか?
第1から脱衣場へ、渡り応援要請です。よろしくお願いいたします」


 第1の門 女性事務員から、仕事の依頼だ。


「はい、かしこまりました」


「応援要請……。

脱衣婆様の仕事を手伝うスタッフを、乗せて行くのですね。

多分ストークさんも、こき使われるでしょうけど、頑張って下さい」


 オストリッチは、自分の経験を思い出して言った。


「はい、頑張ります。行って参ります」


 ストークは、2人に軽く頭を下げ、退室したのだった。


 「スワンさんも出掛けるし、ここには誰も居なくなっちゃいますね」


 待機の者がいなくなるので、オストリッチが心配をしている。


「冥界事務センターに、配達に行ったホークさんが、じきに帰って来ますよ」


「なら、大丈夫ですね。

あのぉ、ここだけの話ですけど、ストークさん、脚が短いですよね?

それに、また太りましたよね?
そう思いませんか、スワンさん?」


「まあ、仕方がないでしょう。
白鳥だから、我々より脚は短いのは当たり前です。

もともと首が太めだから、太って見えるのだろう。

女の子なんだから、本人に太ったと言ってはいけません。

気をつけなさい」


「……!」


 オストリッチは驚き、開いた口ばしが閉じないままだ。


「えっ?ええー!女の子?白鳥?

誰がですか?
まさか、ストークさんのことですか?」


「はあ?何を今更 言っているのですか!

女の子だということも、知らなかったなんて!
あなたという鳥には、呆れてしまいます!まったく、もう!

では、私は行きますね。ああ、驚いた。
ぶっぶぶぅ、あっはっはっ」


 笑いながら、スワンは圧縮座布団を背負って出発したのだった。


 ストークさん、あなたは女の子だったのですね。


 今まで一緒に遊んでいたのに、気がつかなくて、申し訳ございませんでした……。


それに、鶴ではなかったなんて!


白鳥だって……。


 秦広王様に、図鑑を見せてもらわなくっちゃ!


それにしても、驚いたなあ。


 オストリッチは秦広王の元へと、飛び立った。


 途中、道先案内人当時の先輩、ホークとすれ違ったのだが、オストリッチは気付かずに行ってしまった。


 あっ、今のオストリッチだったよな?


 久しぶりに見たけど、鶴らしくなったな……。


初めて会った時は、マジで雑巾かと思ったよ。


 オストリッチ、大きくなれて良かったな。


 オストリッチは、図鑑で白鳥を確認し、衝撃を受けながら、所長室から第1の門 白通用門に出てきた。


 ふらぁ……。


 着地したオストリッチは、フラフラと歩いている。


 世の中には、 鶴 以外にも美しい鳥がいるのだなぁ。


 白鳥、孔雀、フラなんとか……あとは、覚えられなかったけれど……おっ?


「コウさん、今日もここにいたんですね」


 門の外、数名で花が咲いている苗を植えているのは、冥界園芸スタッフである。


 その中にコウと呼ばれる あおいの祖父孝蔵がいたのであった。


「おぅ、オストリッチ、また来たのか。

 どうだ、この花の色 白で文字を表現しているんだぞ!わかるか?」


 孝蔵は、“しろ”という花文字を、得意気に見せた。


 オストリッチは、凄いと言いながら、ほとんど音が出ていない拍手をする。


「あれ?今 、気が付いたのですが、憑依ひょうい防止ベストを着ていないのですね」

 
「えっ、何を今更、言っているんだ!
俺は、冥界の者だからベストは、必要が無くなったんだぞ!

 第7の製造工場で適正審査を受け、最近、正式に冥界園芸スタッフとなったんだから、寂しい時は いつでも来いよ」


 孝蔵が言うと、オストリッチは感激した様子で元気に返事をして、更に話しかけた。


「今朝、コウさんの家、あっ、住んでいた家に行ったのですが、グレースさんの姿が見えませんでした。

 久しぶりに お話しがしたいと思ったのですけど、残念でした」


 しょんぼりとして、オストリッチが言っているので、孝蔵は小さく溜息をつき、言うことにする。


「俺の家がどこにあったかは、忘れたがグレースの事は、知っている。

グレースは……な、俺が死んでから消えた……。

元々、化け猫だったから、冥界に戻ったのかもしれない……。

いや、きっといるぞ。

君が知らないだけで、会っているかもしれないぞ。

そんなに しょんぼりするな!
 これから、探し当てればいいだろう」


 えっ?グレースさん、化け猫だったの?

 と、言うことは変身を解いて本来の姿でいるということですね?


 とても礼儀正しい、穏やかで頭の良い猫さんでしたから、さぞ、素晴らしいお方なのでしょう……。


「はい、素晴らしい方……を見つけます!ところで、男性でいいのでしょうか?まさか、女性ですか?」


 ストークさんが女の子だったから、わからない!


「俺は、この前 会ったんだ。男だ!
うん、素晴らしい男性だぞ、男前だ。

化け猫の正体を、教えてはいけない規則があるんだが……」

俺の前に現れた男性は、相変わらず礼儀正しい者だったから、きっと、すぐにわかるだろうが……。


「ヒントは、前の名前と似ているということだ!

 どうだ、探してみるか?」


 孝蔵は、元グレースからオストリッチに正体を明かさないで、と頼まれていたのだが、オストリッチがしょげていて、可哀想に思いヒントを与えたのだった。
 

 それからのオストリッチは、仕事の合間に、ヒントを元に冥界を飛び回り、グレースを探す日々を送っているのだ。


 そうそう、近頃、調査員であるオストリッチの上司である死神が、緒慈おじから紅鈴くれいという死神に代わった。
 

 ピッピロリン ピッピロリン……


 モバリスの電話が鳴る。


「はい、オスト……」


「何をボサッとしているのだ!

 早く予定者の所へと行け!

 貴様、たるんでいるぞ!」

 プツ!


 もう!紅鈴さんは、僕をこき使い過ぎ!
 

 グレースさんの様に、穏やかで礼儀正しい人が、上司だったらいいのにぃ!


 意中の相手が、近くにいる事に全く気付かず、この先もオストリッチは、元グレースを探し続けていくのだった。


「それでは、仕事に行ってきます」

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みんなの感想(2件)

八神 凪
2018.05.07 八神 凪

あおいちゃんが仕事人になるのか、仕事人の仕事を網羅していくのか?
気になりますね!応援してますー!

気になる点としては、地の文の視点がバラバラなので把握しにくいかな?と思いました。
セリフの一つ前は第三者視点なのに、セリフ後はあおいちゃん視点、みたいな。
私もよくやるのでこんなことを言うのも申し訳ないのですが、、
頑張ってください!

ひろろ
2018.05.10 ひろろ

八神さん、せっかくアドバイスを頂いたのに、上手く直せなくて、申し訳なく思います。

そして、ありがとうございました。

つたない文章ですが、また時間がある時にでも、読んでもらえたら嬉しいです。

体調に気をつけて、執筆、頑張って下さい。

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2018.05.05 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

ひろろ
2018.05.10 ひろろ

応援していただき ありがとうございました。

まったくの初心者で、こちらの返信の場所にも、気がつかなくて、大変 失礼致しました。

はい、合間を見つけて、ボチボチ書いていこうと思います。

鴎古リンキョウさん、体調に気をつけて執筆、頑張って下さい。

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