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第六章: 新人仕事人 修行の身
別れ
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「お姉ちゃん、ただいまー!
僕の運転は、どうでしたぁ あ?」
あおい達を乗せて、冥界に戻ってきたオストリッチが、職場から帰宅した。
どうしたの?お姉ちゃん?
なんだか、部屋の中がどんよりしているみたいだ。
オストリッチに返事もせずに、後ろ向きで正座をしている。
元気がないみたい。
「お姉ちゃん?どうしたの」
「あぁ、リッチ君、おかえり‥‥‥
アサオさんが、転生しちゃうって、冥界からいなくなっちゃうんだよ……」
「へえ、転生ですか?
それって、良いことだと思っていたのですけど、悪い事なのですか?
先生が、とてもめでたい事だと教えてくれました」
「それはそうかもしれないけど、仲の良い人との別れって、寂しい……。
だって、永遠の別れでしょう?」
「永遠の別れ……。
そうか、そうですね。
生きているものが、亡くなる時と、ちょっと似ている感じですね」
オストリッチの言葉に、あおいはハッとした。
「あ……うん……私、私も家族と永遠の別れをしてきたんだ……。
私は、里帰りするから、会えるけど。
家族には私が見えない。
声も届かない。
だから、側にいても居ないのと同じなんだ……。
永遠の別れって、肉親じゃなくても寂しいものだから、家族ともなれば、胸が張り裂けそうに辛いだろうね……。
私が言える事ではないけど。
私、すっごい親不幸者だ……。
記憶もないし」
あおいは正座をしたまま、床におでこを付けた姿勢になってしまった。
お姉ちゃん……暗すぎるよ。
オストリッチは、どんよりとしている あおいを、何とか元気にさせる方法を考えていた。
暗い、暗い、暗すぎるから、明るくするには……。
「そうだ!お姉ちゃん、今、僕が明るくしてあげるね!」
「よいしょとっ」
オストリッチは椅子に上がって、掛けてあるものを掴んだ。
突然、前髪あたりに パァーッと眩しい光を当てられ、あおいは驚いて顔を上げた。
「ほらぁ、お姉ちゃん、明るいでしょう?
僕のヘルメットのライトは、とても明るいです」
オストリッチが、ヘルメットを被り椅子に座って、あおいを照らしている。
へっ?明るくしてあげるって?
精神的にではなく?
単に部屋を、私に光を当てて明るくするという意味だったの?
……へっ?
「……ぶっ、ぶっはっはっ、やだ、リッチ君たら、私を明るくしてあげるって、ライトで照らしてくれるって事なんだねっ!
はっはっは、ありがとう。
嬉しいよ。
暗くなって、ごめんね」
それから あおいは元気になり、疲れて帰ってきたオストリッチに、
足水をしてあげたのだった。
「ねえ、リッチ君、輪廻転生をするには、どうすればいいの?」
「僕も詳しくはないですけど。
ある決められた期間を冥界で過ごし、自分から生まれ変わりたいと申請し、神様に認められれば、輪廻転生ができるそうです。
でも、中にはなかなか輪廻転生をしようとしない人もいるらしいです。
人間界に修行に行きたくないって言うのです。
そんな人は、強制的に輪廻転生をさせられるそうですよ」
「そっか、アサオさんは自分から輪廻転生しようとしたのかな?
そうなら、明るく見送らないといけないね。
リッチ君、教えくれてありがとう」
………………
冥界に帰ってきて、翌々日の仕事帰りのこと。
あおいは、第4の門のスタッフルームにアサオを訪ねていた。
「えっ、あおいさん?
聞いていなかったの?
アサオさんは、昨日でここを辞めたのよ。
多分、今日 天界に出発する、って言っていたと思うけど。
遠いから余裕を持って行くって……。
見送らないで!とも言っていたから、ここでお別れをしたのよ。
寂しい……けど、門出だから、皆んなで、拍手して笑って サヨナラしたの」
「えっ!
はい、わかりました!お邪魔しました」
あおいは、すぐに第4のスタッフ宿泊施設に向かう。
「確か、この部屋だったよね。
あっ、名前が消えている……」
トントン……バンバン……
あおいは、必死でドアをノックした。
「アサオさん!アサオさん!いませんか?
アサオさん……いないんですか……アサオさ……ん」
アサオは、少し前に電車に乗って第7に向かっていたのだ。
「ひどいよ、黙って行ってしまうなんて!
出発の日を聞いたら、“もうすぐ”とだけしか教えてくれなかった!
まさか、今日 だなんて!
ひっく、ひっく、ひど過ぎるよ……さよ、なら、って言って、ない」
アサオさんは、今、どの辺りにいるんだろう?
電車で、第7まで行くと かなり時間が掛かるし、いつ出たのかな?
第7で、待ち伏せしようかな?
でも、いつ着くか分からないし、明日 仕事だから駄目だ!
ええと、転生準備って、天界に着いてすぐに行くのかな?
そうだ、天界に行って聞いてこよう。
………………
あおいは、瞬間移動で天界に到着すると、真っ先にユキトを探す。
事務所を覗いてみるが、ユキトの姿はなかった。
ユキト先生、いないなぁ。
仕方がないから、他のスタッフさんにでも聞いてみようかな。
「あのぉ、すみません、少し聞きたい事があるのですが……」
あおいは、小窓から中にいる男性スタッフに声を掛けた。
すると男性が振り向き、小窓までやって来てくれた。
「あれ?君は!
以前、僕を抱きしめて、ここまで送ってくれた子ですよね?」
えっ?そんな事あったっけ?
あおいは、ネームプレートをチラ見して言う。
「ああ、ヨウスケさん!お久しぶりです。
あおいです」
ヨウスケ?
うん?誰だっけ?
私が抱きしめたって?
本当?覚えていないや。
まっ、いいか!
「あの、輪廻転生について教えて頂きたいのですが、聞いてもいいですか」
あおいは、知りたい事を矢継ぎ早に質問し、ヨウスケに答えてもらったのだった。
そして、用を済ませると、利通に会いに行った。
冥界の居住区に行ってみると、材料置き場に“品の良さそうなお爺さん”を見つけた。
いつもながら偉いなぁ、掃除をしてる。
「とーしーみーちさーん」
あおいは、手を振って声を掛けた。
「おや、あおいさん、久しぶりですね。
元気でしたか」
あおいは、利通に天界に来た訳を話し、アサオが来たら、少しだけ引き留めてくれるように頼んだのだ。
「私は、明後日の朝に また来ます。
利通さん、無理なお願いをして すみませんが、どうぞよろしくお願い致します」
………………
ガタンゴトン ガタンゴトン
「待って あおいさん、こっちの水……」
スーースーースーー
電車に乗ってから、随分と時間が流れ、アサオは居眠りをしながら、夢を見ていた。
「美味しいね……んがっ?はっ?」
あっ、夢か!寝言を言ったのかしら?
誰も見ていなかったわよね?
恥ずかしい。
アサオは、周囲を確認する。
あおいさんとの旅行は、楽しかったわ。
あの蓮さんって人、格好良かった。
もっと早くに知り合いたかったわ。
来世で、あんなイケメンの彼氏ができたらいいなー!
私は、女かな、男かな、どちらになるのかしら?
今からドキドキしちゃうわ。
アサオを乗せた電車は、間もなく第7の門に到着する。
そこから、天界直通エレベーターに乗り換えるのだ。
………………
「あのぉ、もしかして第4の門からいらっしゃいましたか?
アサオさん?でしょうか?」
天界に到着したアサオは、事務所で手続きをしていると、後方から来た男性スタッフに声を掛けられた。
ネームプレートには、ヨウスケと書いてあった。
「はい、私はアサオですが、何でしょうか」
「会えて良かったです。
実は、第6の門勤務の あおいさんから、伝言を預かりまして。
すぐに転生準備をしないで、居住区で待っていて下さい。とのことです。
確かに お伝えしましたからね。
お待ち下さいませ」
「えっ、あおいさんったら……まったく。
私、別れが苦手なのよね。
でも、ここまで来て伝言を残してくれるなんて、嬉しいわ。
はい、待ちます。ありがとうございました」
………………
程なくして、あおいが天界へやって来た。
「利通さん、アサオさんはいますか?」
「ええ、私の隣の家にいますよ。
アサオさん!アサオさーん、いますか?」
利通が呼ぶと、アサオがテントから出てきた。
「あっ、あおいさん!あなたをちゃんとに待っていたわよ。
あなたに挨拶をしないで来てしまって、ごめんなさい。
さようならって言うと……ほら、ダメだ……涙が……」
堪えていた涙が溢れ出す。
「アサオさん!ひどいです!
お別れの挨拶くらいさせて下さいよ!
私、アサオさんと一緒に仕事ができて、楽しかったです。
旅行も楽しかった……。
できれば、私の事を覚えていて……無理かぁ……」
あおいも、涙が溢れ出し止まらない。
「アサオさん、うっく、で、出逢えて、良かった、うっく、生まれ、変わったら、うぐっ、絶対に、な、長生きして、お婆さんになって、ひっく、ひっく、わたしが生まれるのを……待っていて、ねっ」
「うん、うん、長く生きるよぉ、待ってる。
私たちは、縁があったんだから、きっと、また、会えるから……きっとね、待っているわ……」
あおいとアサオは、抱き合って泣いた。
この世界では、もう会えない。
そう アサオは、いなくなるのだから。
人間界で、どこの誰になるのかもわからない。
「アサオさんの次の人生がぁ、素敵でありますように!
冥界から、祈っていますからぁ!
うぐっ、御神水の事を忘れないで下さいよぉ!
さ、さ、さようなら、おげんきでぇ」
「あ、あおいさん、ありがとうねぇ!
御神水の事は、忘れないように頑張るから!
あおいさん、仕事頑張るのよぉ。
さ、さようなら……もう、帰りなさい、きりがないから、辛くなるから、ねっ!
来てくれて、ありがとう……本当にありがとう」
名残惜しい気持ちを断ち切るように、アサオから手を振った。
そして、覚悟を決めた あおいは、三歩ほど手を振りながら退がる。
あおいのとびきりの笑顔を見せ、
「さようならー」
と言って、アサオに背を向けた。
本当のさようならだ!
ベルトのバックルに手を添え、集中させた。
すっ……
「あおいさーん、ありがとう」
アサオの最後の言葉が、聞こえてきた。
それから、数日後、アサオは光の玉となり青池に向かったのだった。
あおいは、アサオに言われた通りに、今日も仕事を頑張っている。
アサオさん、うんと長生きをして、私が行くまで待っていて。
来世で、必ず会いましょうね!
約束ですよ!
僕の運転は、どうでしたぁ あ?」
あおい達を乗せて、冥界に戻ってきたオストリッチが、職場から帰宅した。
どうしたの?お姉ちゃん?
なんだか、部屋の中がどんよりしているみたいだ。
オストリッチに返事もせずに、後ろ向きで正座をしている。
元気がないみたい。
「お姉ちゃん?どうしたの」
「あぁ、リッチ君、おかえり‥‥‥
アサオさんが、転生しちゃうって、冥界からいなくなっちゃうんだよ……」
「へえ、転生ですか?
それって、良いことだと思っていたのですけど、悪い事なのですか?
先生が、とてもめでたい事だと教えてくれました」
「それはそうかもしれないけど、仲の良い人との別れって、寂しい……。
だって、永遠の別れでしょう?」
「永遠の別れ……。
そうか、そうですね。
生きているものが、亡くなる時と、ちょっと似ている感じですね」
オストリッチの言葉に、あおいはハッとした。
「あ……うん……私、私も家族と永遠の別れをしてきたんだ……。
私は、里帰りするから、会えるけど。
家族には私が見えない。
声も届かない。
だから、側にいても居ないのと同じなんだ……。
永遠の別れって、肉親じゃなくても寂しいものだから、家族ともなれば、胸が張り裂けそうに辛いだろうね……。
私が言える事ではないけど。
私、すっごい親不幸者だ……。
記憶もないし」
あおいは正座をしたまま、床におでこを付けた姿勢になってしまった。
お姉ちゃん……暗すぎるよ。
オストリッチは、どんよりとしている あおいを、何とか元気にさせる方法を考えていた。
暗い、暗い、暗すぎるから、明るくするには……。
「そうだ!お姉ちゃん、今、僕が明るくしてあげるね!」
「よいしょとっ」
オストリッチは椅子に上がって、掛けてあるものを掴んだ。
突然、前髪あたりに パァーッと眩しい光を当てられ、あおいは驚いて顔を上げた。
「ほらぁ、お姉ちゃん、明るいでしょう?
僕のヘルメットのライトは、とても明るいです」
オストリッチが、ヘルメットを被り椅子に座って、あおいを照らしている。
へっ?明るくしてあげるって?
精神的にではなく?
単に部屋を、私に光を当てて明るくするという意味だったの?
……へっ?
「……ぶっ、ぶっはっはっ、やだ、リッチ君たら、私を明るくしてあげるって、ライトで照らしてくれるって事なんだねっ!
はっはっは、ありがとう。
嬉しいよ。
暗くなって、ごめんね」
それから あおいは元気になり、疲れて帰ってきたオストリッチに、
足水をしてあげたのだった。
「ねえ、リッチ君、輪廻転生をするには、どうすればいいの?」
「僕も詳しくはないですけど。
ある決められた期間を冥界で過ごし、自分から生まれ変わりたいと申請し、神様に認められれば、輪廻転生ができるそうです。
でも、中にはなかなか輪廻転生をしようとしない人もいるらしいです。
人間界に修行に行きたくないって言うのです。
そんな人は、強制的に輪廻転生をさせられるそうですよ」
「そっか、アサオさんは自分から輪廻転生しようとしたのかな?
そうなら、明るく見送らないといけないね。
リッチ君、教えくれてありがとう」
………………
冥界に帰ってきて、翌々日の仕事帰りのこと。
あおいは、第4の門のスタッフルームにアサオを訪ねていた。
「えっ、あおいさん?
聞いていなかったの?
アサオさんは、昨日でここを辞めたのよ。
多分、今日 天界に出発する、って言っていたと思うけど。
遠いから余裕を持って行くって……。
見送らないで!とも言っていたから、ここでお別れをしたのよ。
寂しい……けど、門出だから、皆んなで、拍手して笑って サヨナラしたの」
「えっ!
はい、わかりました!お邪魔しました」
あおいは、すぐに第4のスタッフ宿泊施設に向かう。
「確か、この部屋だったよね。
あっ、名前が消えている……」
トントン……バンバン……
あおいは、必死でドアをノックした。
「アサオさん!アサオさん!いませんか?
アサオさん……いないんですか……アサオさ……ん」
アサオは、少し前に電車に乗って第7に向かっていたのだ。
「ひどいよ、黙って行ってしまうなんて!
出発の日を聞いたら、“もうすぐ”とだけしか教えてくれなかった!
まさか、今日 だなんて!
ひっく、ひっく、ひど過ぎるよ……さよ、なら、って言って、ない」
アサオさんは、今、どの辺りにいるんだろう?
電車で、第7まで行くと かなり時間が掛かるし、いつ出たのかな?
第7で、待ち伏せしようかな?
でも、いつ着くか分からないし、明日 仕事だから駄目だ!
ええと、転生準備って、天界に着いてすぐに行くのかな?
そうだ、天界に行って聞いてこよう。
………………
あおいは、瞬間移動で天界に到着すると、真っ先にユキトを探す。
事務所を覗いてみるが、ユキトの姿はなかった。
ユキト先生、いないなぁ。
仕方がないから、他のスタッフさんにでも聞いてみようかな。
「あのぉ、すみません、少し聞きたい事があるのですが……」
あおいは、小窓から中にいる男性スタッフに声を掛けた。
すると男性が振り向き、小窓までやって来てくれた。
「あれ?君は!
以前、僕を抱きしめて、ここまで送ってくれた子ですよね?」
えっ?そんな事あったっけ?
あおいは、ネームプレートをチラ見して言う。
「ああ、ヨウスケさん!お久しぶりです。
あおいです」
ヨウスケ?
うん?誰だっけ?
私が抱きしめたって?
本当?覚えていないや。
まっ、いいか!
「あの、輪廻転生について教えて頂きたいのですが、聞いてもいいですか」
あおいは、知りたい事を矢継ぎ早に質問し、ヨウスケに答えてもらったのだった。
そして、用を済ませると、利通に会いに行った。
冥界の居住区に行ってみると、材料置き場に“品の良さそうなお爺さん”を見つけた。
いつもながら偉いなぁ、掃除をしてる。
「とーしーみーちさーん」
あおいは、手を振って声を掛けた。
「おや、あおいさん、久しぶりですね。
元気でしたか」
あおいは、利通に天界に来た訳を話し、アサオが来たら、少しだけ引き留めてくれるように頼んだのだ。
「私は、明後日の朝に また来ます。
利通さん、無理なお願いをして すみませんが、どうぞよろしくお願い致します」
………………
ガタンゴトン ガタンゴトン
「待って あおいさん、こっちの水……」
スーースーースーー
電車に乗ってから、随分と時間が流れ、アサオは居眠りをしながら、夢を見ていた。
「美味しいね……んがっ?はっ?」
あっ、夢か!寝言を言ったのかしら?
誰も見ていなかったわよね?
恥ずかしい。
アサオは、周囲を確認する。
あおいさんとの旅行は、楽しかったわ。
あの蓮さんって人、格好良かった。
もっと早くに知り合いたかったわ。
来世で、あんなイケメンの彼氏ができたらいいなー!
私は、女かな、男かな、どちらになるのかしら?
今からドキドキしちゃうわ。
アサオを乗せた電車は、間もなく第7の門に到着する。
そこから、天界直通エレベーターに乗り換えるのだ。
………………
「あのぉ、もしかして第4の門からいらっしゃいましたか?
アサオさん?でしょうか?」
天界に到着したアサオは、事務所で手続きをしていると、後方から来た男性スタッフに声を掛けられた。
ネームプレートには、ヨウスケと書いてあった。
「はい、私はアサオですが、何でしょうか」
「会えて良かったです。
実は、第6の門勤務の あおいさんから、伝言を預かりまして。
すぐに転生準備をしないで、居住区で待っていて下さい。とのことです。
確かに お伝えしましたからね。
お待ち下さいませ」
「えっ、あおいさんったら……まったく。
私、別れが苦手なのよね。
でも、ここまで来て伝言を残してくれるなんて、嬉しいわ。
はい、待ちます。ありがとうございました」
………………
程なくして、あおいが天界へやって来た。
「利通さん、アサオさんはいますか?」
「ええ、私の隣の家にいますよ。
アサオさん!アサオさーん、いますか?」
利通が呼ぶと、アサオがテントから出てきた。
「あっ、あおいさん!あなたをちゃんとに待っていたわよ。
あなたに挨拶をしないで来てしまって、ごめんなさい。
さようならって言うと……ほら、ダメだ……涙が……」
堪えていた涙が溢れ出す。
「アサオさん!ひどいです!
お別れの挨拶くらいさせて下さいよ!
私、アサオさんと一緒に仕事ができて、楽しかったです。
旅行も楽しかった……。
できれば、私の事を覚えていて……無理かぁ……」
あおいも、涙が溢れ出し止まらない。
「アサオさん、うっく、で、出逢えて、良かった、うっく、生まれ、変わったら、うぐっ、絶対に、な、長生きして、お婆さんになって、ひっく、ひっく、わたしが生まれるのを……待っていて、ねっ」
「うん、うん、長く生きるよぉ、待ってる。
私たちは、縁があったんだから、きっと、また、会えるから……きっとね、待っているわ……」
あおいとアサオは、抱き合って泣いた。
この世界では、もう会えない。
そう アサオは、いなくなるのだから。
人間界で、どこの誰になるのかもわからない。
「アサオさんの次の人生がぁ、素敵でありますように!
冥界から、祈っていますからぁ!
うぐっ、御神水の事を忘れないで下さいよぉ!
さ、さ、さようなら、おげんきでぇ」
「あ、あおいさん、ありがとうねぇ!
御神水の事は、忘れないように頑張るから!
あおいさん、仕事頑張るのよぉ。
さ、さようなら……もう、帰りなさい、きりがないから、辛くなるから、ねっ!
来てくれて、ありがとう……本当にありがとう」
名残惜しい気持ちを断ち切るように、アサオから手を振った。
そして、覚悟を決めた あおいは、三歩ほど手を振りながら退がる。
あおいのとびきりの笑顔を見せ、
「さようならー」
と言って、アサオに背を向けた。
本当のさようならだ!
ベルトのバックルに手を添え、集中させた。
すっ……
「あおいさーん、ありがとう」
アサオの最後の言葉が、聞こえてきた。
それから、数日後、アサオは光の玉となり青池に向かったのだった。
あおいは、アサオに言われた通りに、今日も仕事を頑張っている。
アサオさん、うんと長生きをして、私が行くまで待っていて。
来世で、必ず会いましょうね!
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