冥界の仕事人

ひろろ

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第六章: 新人仕事人 修行の身

許さない!

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「こ、こ、こ、こどもぉ?」


 あおいは、慌てながら言った。


「……」


 一瞬は、驚いたオボウだったが、双眼鏡で注意深く見ている。

 
 「オボウさん、あの背の低さ、華奢きゃしゃな身体つき、子どもですよね?違いますか?」


「あぁ、見る限りでは、とても若そうですね。
子ども……まあ13歳ならば、冥界を旅するので、来ても不思議は  無いですが……。

あおいさん、落ち着いて、見てみなさいな」


 オボウが双眼鏡を覗きながら、冷静に言ったのだった。

 
「えー、じゃあ、中学生かもしれないんですかっ?

 すぅー、ふー。

あっ、近くに来ました!

えー、やっぱり、中学生くらいですか?

うわっ、アイドル系の可愛い顔した少女ですね。

こんなに可愛い子が、緑札になるわけ無いし……。

 どうして、こんな所に来たんだろ?
 まさか、自殺をした……?まさかね……。

 間違って、緑札を貼られてしまったのでしょうか?」
 
 
 子どもというのは、緑札にはならないと思っている あおいは、信じられなかった。

 
まだ、考えが幼いという事で、悪い事をしても許されると思っていたからだ。


「あおいさん、なんて事を言うのですかっ。

間違えて札を貼られたなんて、前例がありません。
 
顔が可愛いから、緑札では無いと考えるのは、変ですからね。

顔は、関係ありません。
 
そんな事を他所よそで言ってはいけませんよ!

 ほら、来ました。仕事です」

 
 “子ども”が来たって あなたは、驚いていますが、あなたも“子ども”なんですけど……。

まだ未成年の子ですからね。

子どもが金札だってー!
何でぇ?って、驚かれていたと思いますよ。ねっ、あおいさん?


 オボウの心の声を、あおいは知らない。

 
  オボウが受付を始める。

 
「道中、大変でしたか?
 
 髪を上げて、額を出して下さい」

 
 少女は、軽く頷き額を見せた。


 えっ、素直ないい子みたいだけど……?


 あおいの頭の中は、疑問でいっぱいになっている。
 
 
「あなたの氏名、年齢、住所をおっしゃって下さい」


 データーを確認したオボウが聞いた。


「大空 舞花 13歳……」


 13歳だ!


中学生か……この子は、何をしてしまったのか……。


額には、しっかりと緑札がついている。


「はい、確認できました。
15歳までの子には、案内の鬼が付きますが、本日は こちらにいるスタッフが直接、判決室にお連れします」


 えっ!私が連れて行くの?

 あおいは、驚いてオボウを見た。

 アイコンタクトをして、オボウが頷き言う。


「こちらの門の中へお入り下さい。
あおいさん、判決室の中まで頼みます」
 

「かしこまりました。では、付いて来て下さい」


 あおいは、門の中へと入り、少女も後について入って行った。


 私に見届けて来いという事ですね?


 オボウさん、了解です。


 通常、15歳までの子を案内する鬼というのも、きっと無言で死者を連れて行くのだろうから、あおいも無言で少女の前を歩いた。


 ドアの無い小部屋に入り、スタッフの女性に促され、判決室前の椅子に少女が座り、呼ばれるのを待っている。


 立っている あおいは、改めて少女を見て、気がついた事があった。


 緑札の人が着ている物って、みんな同じだったんだ。


 汚れて色がよくわからないけど、実は白いTシャツと黒いジャージの長ズボンと草履……。


 ここまで来る間に、ボロボロになってしまっている。


 脱衣場で、着ていた服を脱がされ、代わりの服は全員同じなのか。


 白札の人は、自分の着たい服を衣料樹様に出して貰えたんだよね……。


 私は、ウエディングドレスを出してもらって着たんだよね。


もう、一生着る事が出来ないと思ったから……。


 けど、目立つし動き辛いから、作務衣になったけど。


 1回でも着ることが出来て、良かったと思う。


 あおいが思い出に浸っていると、判決室から声がした。


「次の方どうぞ……。
あら、あおいさん、付き添いをしているの?」


「あっ、ハナヤさん。
はい、付き添いです。

こちら大空 舞花さん 13歳です。
お願いします」


 少女は、チラッと不安気な視線をあおいに向けてから、中へと入って行った。


  そりゃあ、心細いでしょうね。


その気持ち、わかりますよぉ。


 少し同情気味の あおいも中へと入る。


 判決室の中は、張り詰めた空気が流れていた。
 

 その原因となっているのが、第6の門 所長であり、裁判官の変成王の存在だ。

 
 少女を一瞥いちべつした後、腕を組み目を閉じ、沈黙してしまったからだ。


 あおいは、この沈黙が不安になり、ハナヤに小声で聞く。


「あのぅ、本人に氏名や年齢を、言わせなくてもいいんですか?」


 ハナヤは、黙って頷くのみだった。


 この静けさ、いつまで続くの?


 こっちが、緊張してきたよぉ。


「あなたの氏名と年齢を言いなさい」


 突然、変成王が言ったので、誰もがビクッとした。


ハナヤまで、小さく飛び上がっていたのだった。


 少女は、変成王のいくつかの質問にも素直に答えていたし、あおいの目には良い子にしか見えなかった。


「第4の天秤のデーターと第5の水晶の映像がここにあります。

私は、嘘が大嫌いです。
質問には、正直に答えなさい。

よろしいですね?」


「はい……」


 少女の緊張が、伝わってくる。


「では、聞く……
 あなたは、何故、死んだのですか。

覚えている範囲で構いません。
言ってみなさい」


「はい、交通事故です。

えぇと、コンビニの店前で友達とお話しをしていたら、車がバックをして、突っ込まれて、死んだと思います」


「それは、何時頃のことですか」


「……夜中……だったかな……」


 えっ?こんな可愛い子が夜中に遊んでいるの? 


あおいは、ドキドキしながら話しを聞いていた。


「私の情報によると、車が駐車をしようとしている時に、仲間と店から出て、ふざけて駐車場の縁石の上に乗り、よろけて転び、バックをしていた車に、轢かれてしまったのではないか?」


「すみません、よく覚えていません」


「そうか。

では、聞こう。

あなたの友達で、自殺をした人はいませんか」


「クラスメイトにいます。
閻魔様にも聞かれたけど、私は、その子の自殺に関係していません。

 別に、仲良くなったことがない子だったし……。

 私がいじめをしていたとかって言われたけど、何もしていないです……」


 「そうか、そうだな。

確かにあなたは、会話も ろくにした事がないな。

 陰で馬鹿にしたり、他の者に意地悪をやらせて笑って、自分で表立っては、していない。

ただ、あなたは、クラスの中で女帝の気分でいたらしいな……」


「そんなことありません。
死者の国って、酷い所なんですね。

私は、車に突っ込まれて死んだ可哀想な子なのに!

ここまで来る時も、辛いめに遭わされてきているのに、酷すぎます」


「私は、嘘が大嫌いだと言いました。

酷い嘘をつく人は、子どもであろうが、許しません。
 
このペンチは、何の為にあるのでしょうか?」


 ペチンッ! 針金を切った。


「えっ、は、針金を切ってます……」


「あなたは、亡くなった友達の気持ちを考えたことがありますか?

どんな気持ちで、学校に教室に、来ていたのでしょうか?

自殺をしてしまったと知り、どう思いましたか?」


「私が意地悪をしていたわけじゃないもの!
私は、悪くない!

少しは可哀想と思ったけど、死ぬ事ないじゃない?

自分で自分を強くしていかないから、いけないんだよ!

とにかく、悪いことはしていません」


  少女は、腕組みをして、そっぽを向いた。
 
 
「あなたは、自分を正当化し、自分で悪い事はしていないと、信じこもうとしているのです。

でもね、そんな事は冥界では無意味なのです。

 第5の水晶の映像を見なさい。

 因みに、このペンチは大嘘つきの舌を抜く物だからね。

 
 ハナヤさん、流して」


 あおいは、映像を見て驚いた。


 酷い!クラス全員で無視って……。

 
女子だけじゃなく、全員なんて酷すぎだろう!


 この子、この映像を見て、何も感じないのかな?

 
 陰湿ないじめ……最低だ。


「もう、見たくない!もう、いいです。
 
初めは、その子と仲良くしてあげようと、話しかけてあげた……。

でも、拒絶されたから、もう、いいやって思っちゃったんです。

それでも、私は話しをしなかっただけなのに……。

暴力は、他の人がやったのに……。

 でも……私が止めればよかった……の?」


「そうです。
あなたが、いじめを止めようと言えば1つの命が、救われたかもしれません。

気づくのが遅過ぎましたね。
 
 あなたには罪を償ってもらいます。

 第5の判決通りに、針山地獄の刑に処す」


 それを聞いた少女は、ショックを受けたようで、呆然としていた。


「いいか、よく聞け!
罪に大人だの、子どもだの関係は無い!
ここは、人間界とは違う!

 子どもだからって、許しはしない!

 鬼よ、連れて行きなさい」


 赤鬼が、1人で少女の手首を掴み、連行して行った。


 少女は、泣いていたが、


 可哀想でも、助けることはできない。


“針山地獄”って、どんな所だろう。
 また、疑問ができてしまった! 


「あおいさん、ここで何をしているのですか?」

 あおいがボーッと立っているので、変成王に聞かれてしまった。


「あっ、すみません。
オボウさんに判決の見学をするように言われて、見せてもらいました」


 やっべー!大嘘だぁー!


 そんな事は、言われてないよねぇ!


 早く戻ろう!


「そうか、勉強になったかな?
もう少し、凄みが必要だったな?

今度の時は、もうちょっとカッコ良く決めますから!」


「いえ、カッコよかったです。

 ありがとうございました。失礼します」


 あおいは、自分の“人を見る眼がない"というところを実感して、オボウの待つ受付所に戻った。


 オボウからは「これは、歳を重ねて養われていくものだよ。そのうち、見る眼は、育つ」と励まされたのだった。
 
 ………………

「よいしょ、よいしょ、あら、よっ!」


  少しだけ苛立っているように、掛け声をかけながら仕事をしている女性がいた。


 ちょっと、あおいさんったら、約束を忘れてないかしら?


 まだ、スタンプは溜まらないの?

 
 催促に行かないと!


ちょっと早退して、第6に行ってみようかしら。

………………

「オボウさん、お疲れ様でした」


「あおいさん、お疲れ様でした。
 また、明日ですね。さようなら」


 あおいは、帰り支度を終え、スタッフ通用口から出たところだ。


「ちょっと、ちょっと、あおいさん!

 こっちよ、こっちを見て」


 うん?私を呼ぶのは誰だ?

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