冥界の仕事人

ひろろ

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第六章: 新人仕事人 修行の身

あおいとオボウ オストとオサル

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「おはようございます。受付を交代します。
 お疲れ様でした」


  オボウが、夜勤の2人に声を掛けた。


 続いて、あおいも挨拶を交わし、仕事を引き継いだ。


 あおいは、いつものパンツスーツにエンジ色のスカーフ、首から双眼鏡を掛けて受付に立つ。


 狭い受付所は、長方形だ。


出入り口は、あおいの胸下から足首までが隠れるくらいの低いドアで、外から引いて入り、中から押して出るタイプのものだ。


そのドアと同じ高さの木板で、壁が作られている。


その上は、窓枠のようにはなっているが、窓ガラスは無い。


まあ、一応、屋根はある。


「あ、何か飛んできた。えっ、雨?」


ポツンと雨粒が、窓枠から中に入ってきた。


「オボウさん、大雨が降ってきたら、この受付所は、ヤバくないですか?

コンピュータが濡れたら、壊れちゃいます。
どうして、窓ガラスが無いんですか?」


「今、ここの手前の道に、雨が降っているから、風にのって雨粒が飛んできたのでしょう。

 第6の門入口だから、強くは降る心配はありません。

ポツンとくる、雨粒程度ですから大丈夫。

昔は、ガラスがあったらしいですけど、何せ悪人が集まる所ですから、道中、酷い目に遭った腹いせに、割る人が多いとかで、無くなったそうです」
 

 緑札の者が歩く道は、暑かったり、寒かったり、雷雨だったり、豪雨だったり、山あり、泥濘ぬかるみありの辛い環境の中をひたすら歩き、ここまでやって来るのだ。


「第5の門を出てから、第6の門までの道は、きっと寒いんですね。
吹きつける風が、とっても冷たいです」


 遮る物が無い事への、不満がある あおいが言った。


「そうです、震えて来る死者も多いです。
 ここまで来る人の中には、本当の悪人ではなく、むしろ善良な方もいるので、そんな人達には、厳しい道中が、充分過ぎる罰だと、僕は思ってしまいます」


 緑札に善良な人が含まれているって、どういう事だろう。

 
「さっ、あおいさん、仕事をします!

これから、男性で高齢の人が来ます。
リストを見てご覧なさいな」

 
 それから、暫く受付が続き、やっと死者が途絶えた瞬間ができた。


 あおいは、気になっていた事を聞いてみる。


「善良な人が、どうして緑札になるんですか?」


「ああ、例えばの話しだけど。

 自分の命が残りわずか という病気になってしまい、かなり高齢の寝たきりの親を看てもらう人がいなく、頼れる人がいない状態。

 親と話して心中を図った人……。


 この人は、悪人だと思う?
 
 僕は、この人は真からの悪人ではないと思います。 

決して、褒められる事ではありません。

自分勝手と言われても仕方がないです。

けれどね、親を思い、話し、そして沢山 葛藤して、出した結果であり、優しい人、むしろ いい人なのではないか、とさえ思ってしまうのです」


 そうか……中には、そんな人だっているのか……。
 

「私には、判断が難しいですけど、悪人ではない事は分かります。

地獄に行かされるのは、可哀想です」


 オボウは、当然であると言うように頷いた。


 あおいは、“地獄”と自分で言って思い出した。


 今、聞いておこう。


「オボウさん、また地獄の事なんですが、コク何とか地獄っていうのは、どんな所なんですか」


「それは、黒縄地獄こくじょうじごくと言って、殺生と盗みをした者が行くのです。

 熱い鉄の縄で縛られ、熱した斧や鋸で身体を裂かれるそうです。

 ここでも、生き返らされ 同じことを繰り返しするそうです。
 
考えただけで、ぞっとしますね。

 この罰を与える看守の鬼の方も、とても辛い仕事なのだそうです」


 あっ、そうか!


 あおいは、鬼達が、地獄勤務になりたくないという話しを思い出す。


 なんでも、  鬼が勤務中に会話をしてしまったら、地獄勤務になってしまうとかで、皆は、その地獄勤務になりたくなくて、かたくなに話す事を拒否していたのだった。


 そうか、そんな酷い事をするのは、仕事とはいえ、嫌だものね。


 そうとは、知らないから、何とかして会話をしようと、毎度 話し掛けていた……反省だ。


 凄く反省しよう。
 けれど、今、誰もが嫌がる仕事をしてくれている人がいるって事だ……。

 
「感謝します」


 突然、言った あおいに困惑するオボウだったが、独り言だろうと思い、放っておくことにしたのだった。


ようやく、あおいの扱いに慣れてきたところだ。


 あおいは、自分の仕事をしっかりやろうと双眼鏡を覗いた。
 

「えっ?」


 瞬きをして、再度、見る。


「 ! 」

…………………

 パタパタパタパタ


「僕は、鶴なのに久しぶりに飛んだ!
 そよ風が気持ちいいなー!」


 思えば、瞬間移動ばかりしていたからなー。


 先生から「君は、鶴なのだから、自分の翼を広げて飛びたまえ。飛び方を忘れてしまうではないか!」と言われちゃった!


 だから、ログハウスから橋を渡るまで、飛んで行くことにしました。


  車乗り場に行くには、


 冥界到着ロビーの外にある橋を渡り、真っ直ぐに行くのであるが、木に囲まれているため、歩きの人からは車乗り場は見えない状態だ。


 車乗り場は、広い楕円形のロータリーになっており、中にタクシーが並んでいて、乗客が車乗り場に入って来たら、乗り場看板の所にタクシーが向かう。


 ロータリーからは、3本の車道が出ていて、


 左は教習所に続き、 右は冥界配車センターに続き、真ん中の道は長い直線が続いていて、これが人間界へと繋がる道なのだ。


 ロータリーは、木で囲われているが、冥界配車センターの2階の窓から、見下ろすことができるのだった。

 
「ねえ、サトル先輩、見て下さいよ。
 オストリッチが鶴っぽく歩いてますよ!」

 
 オストリッチが、ロータリーの脇にある歩道を優雅に歩いている。


「遅っ!あの歩き方だと、遅刻、決定だぞ!
 マサル、お前が車で迎えに行って来い」


 何で俺が?とマサルは思ったが、やっと出来た後輩だから、大事にしてやろうと 車で迎えに行った。
 
 
「おーい、オスト!迎えに来てやったぞ!
お前、歩くの遅すぎだぞ!早く、乗れ」


「あっ、オサル先輩!
おはようございます!はい、ありがとうございます」


「あぁ?違うだろっ!マサルだ!

 いい加減、覚えろ!マサルだからな!」


 オストリッチは、急いでメモをしようとペンを探して、またオサルと書いてしまっていた。


 また、オサルと呼ぶことが、確定したのだった。


「うん?オサル先輩、オストって、誰ですか?」


「あ、お前の名前は長いからオストで、いいだろう?って、俺は、マサルだからな!

 おちょくっているのか?」
 

 そんな風に怒りながらも、満面の笑みのマサルなのだった。


「オストか……はい、了解しました。

 お、マサル先輩、よろしくお願いします」


………………

「た、大変です!ここって、緑札専用の道なのに、こ、こ、こ……」


「はあ?何を言っているのですか?

 ほら、落ち着きなさいな。

 どうしたの?言ってごらんなさいな」


 動揺している あおいを見て、オボウも急いで双眼鏡を構える。


「えっ?」

 
 いつも平常心のオボウが、思わず声を出して驚いた。


 2人のいる所は、冥界 第6の門 悪人が来るという、緑札通用門 受付所なのだ……。

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