冥界の仕事人

ひろろ

文字の大きさ
上 下
80 / 109
第五章: 新人仕事人 恋模様

お久しぶりです

しおりを挟む
  旅行から冥界に戻った翌日の夕方。


あおいは、冥界事務センターに、久しぶりにやって来たのだ。


 仕事の帰りなので、黒のパンツスーツにグレーのネクタイという姿だ。


「失礼します、あっ、ノリタケさん、お久しぶりです」


 自動ドアから入ると直ぐに、馴染みの顔に会った。


「あら、久しぶりね!ふーん、そのネクタイ、聞いてはいたけど、本当に調査員をしているのね!


「え、まあ、補佐をしています。
 今日の仕事が早く終わったので、ちょっと寄ってみました。

ユウコさんは、いますか?」


「ユウコさんなら、まだいるはず。

今、外に出たから警備部に行ったんじゃないかしら」


 あおいも、警備部に向かっていたら、前方からユウコが歩いて来た。


「あおいさん、久しぶりだわね!
どうしたの?」


 ユウコは、あおいを見つけて、目を丸くする。


「ユウコさん、ご無沙汰しています。
 特別に用事と言うわけでは無いのですが、会いたくて来ちゃいました」


 ユウコは感激したようで、満面の笑みになった。


「まあ、可愛いこと言ってくれるのね。

 ここを出てから成長したようね」


「はい、成長できるように頑張っています。

 あのぉ、昨日、旅行から帰って来たのですが、お土産です。お煎餅1枚で、すみません」


「へー!美味しそうね。ありがとう。

墓地からお土産を貰ってくるって、驚いたでしょ?」


 ユウコさんも知っていたんだ……。


 冥界では、当たり前の事なのかな。
 
 
「はい、驚いたし、他人のお墓から物を取ってくるって抵抗がありました。

結局、貰ってきちゃいましたけど……」


「そうね、抵抗があるのは当然よ。

でもね、生きている人が、死者のことを思って供えてくれた物だから、放置してしまうのは、勿体ないじゃない?

お墓の本人が来ていないなら、せめて冥界の者がお土産として持ち帰りましょうってことになっているのよ。

それに、貰ってきても実物は、残っているから、見た目は変化なし。

生きている人の見えない思いを頂いて、帰ってくるという感じかしら」
 
 
「わかりました。
ちょっと、気が楽になりました。

そうだ、ユウカさんとユウミさんはいますか?」


「残念、帰ってしまったわ。
  
 私は、あと少し仕事があるのよね……」


「あっ、仕事中、お邪魔して すみませんでした。
お会いできて、良かったです。

また、来ます」


 ユウコは、事務所に戻って行った。


 あおいの手元には、ユウカとユウミに渡そうと思っていた、クッキーがある。


 これ、どうしよう……。


 そうだ、赤鬼さんにあげよう!


 赤鬼さん、仕事が終わったかしら?


それとも、これから仕事かな?

 
仕事中だと無言を貫かれてしまうからな……。


 警備部に行ってみようか、どうしようかな?


 様子を探ってみようと、警備部の事務所前まで行ってみた。


 すると、ドアが開いて人が出て来た。

 
 あ、なんだ違う人だ……。


 がっかりしていると、また、ドアが開いて、中から人が出て来た。


「あっ!」


 黒Tシャツにジーパンで、スポーツマン系のイケメンお兄さんが出てきたのだ!


「斗真さん!

 私、あおいです!覚えていますか?」


 勿論、覚えているに決まっているじゃないか!


もしかして、俺に会いに来てくれたのか?


「あおいちゃん、凄く久しぶりだな!

ここで会った以来だね!元気そうで良かった」

 
 俺は、嘘をついた。


 本当は、第3の門、ウォーターバーで会っていた。


 君が気が付かなかっただけだ。
 

「昨日、旅行から帰って来たんですけど、お土産を渡そうと思って待っていました。

 会えて良かったです。
どうぞ、クッキー2個だけで、すみません」


 えっ!俺を待っていてくれたって!


 感激だー!なんて、可愛いんだろう!


「ありがとう、美味しそうな クッキーだね」


 キィ


 パタン


 警備部 事務所のドアが開いて、人が出て来る度に、あおいはジロジロ見られてしまう。
 

「俺、仕事帰りだから、少し一緒に歩かない?」


「あっ、はい」


 2人は、砂山の下にある、舗装された道を歩いている。


 あおいが、初めて通る道だった。


「斗真さん、昨日、到着ロビーに緑札で、とても凶暴な“行方不明の死者”が来たはずですが、知っていますか?」


「うん、いた!若めの男だった。
久々に格闘したな」


「あの人、私が冥界へと送ったんですよ。

エレベーターに乗せた後、到着ロビーで大変だったろうなー!って思って。
気になっていたんです。

 やっぱり、斗真さんが闘ったんですね。
お疲れ様でした。
ありがとうございました」


「えー!あんな凶暴な男を乗せたのっ?

 あおいちゃんは、凄いんだねー!」


 うん?乗せたのは私じゃないんだけど!


 まっ、いいか。


「あおいちゃんは、調査員の仕事をしているんだね。大出世だな。

調査員といえば、冥界では花形の仕事なんだぞ」


「へー!そうなんですか。
あっ、私、調査員 補佐なので、違いますけど。

 花形の仕事なんですね。
 やる気が出てきました。頑張ります」


 それじゃあ、蓮さんや優さんは、冥界の中で仕事の出来る優秀な人ってことだ!


 蓮さん、益々 尊敬します。


 斗真の前で、違う男の事を考えていたら、斗真が歩みを止めた。


「ほら、向こうに見えるのが従業員宿泊施設だ。

俺の家だけど、寄って行かない?
家なら、ゆっくり話せるけど」

 
 団地のような白い3階建の建物が、いくつか見えた。


「これが、従業員宿泊施設なんですね」


 あおいは、言いながら考えた。


 えー、それってどうなんだろう?


 やっぱ、男の部屋に行くって、マズイでしょ?


「あおいちゃんは、どこに住んでいるの?」


「この従業員宿泊施設が満室だったから、オストリッチ君の家に、居候させてもらっています。

 ログハウスに2人で住んでいるんです」


 ちょっと見栄を張りました。


 本当は、掘っ建て小屋です。


「 ! 」


 今、何て?オストなんちゃら君と、住んでいるって言った?

くん?君?男?とログハウス?

 はーーーあ?
 同棲しているってぇーーーー!


「へー、ろ、ろぐはうす、かぁ、す、すてきだね。
 
あおいちゃん、若いのに なかなか凄いんだね……」


 あおいへの想いは、微塵みじんとなったのだった。


「いや、私が押しかけて住んでいるだけですから!

 私が建てたわけじゃないので、凄くないですよ?

 では、帰ります。さようなら」


 斗真は、言葉なく手を振る。


 衝撃の告白を聞き、当分、立ち直れないだろう。


 とっくに諦めた想いのはずが、さっき、再燃しかけていた。


 だが、今、再び 恋を失ってしまったのだ。


 ズボンのポケット中にしまっておいた、大切なお土産も割れてしまっていた……。


 早く忘れよう。


 クッキーの袋を開けて、カケラを食べる。


「あー、美味い」


 そう言いながら、無表情で食べる斗真なのであった。


「斗真、何、食っているんだよぉ?美味そう」


 鬼の仲間に声を掛けられた。


「土産のクッキーだ。
食うか?もう1枚あるから、やる。
部屋へ帰るから、じゃあな!」


 斗真は、食べ残しのクッキーを渡し、帰って行った。


 天国から地獄へ 突き落とされた気分だ。


 まあ、ひと眠りしたら元気が出るだろう。


 よし、さっさと寝るぞーーー!


 きっと、明日は元気だ!
 

 そんな斗真の心なんて、あおいは知らず 、オストリッチの待つログハウスに、元気よく、帰って行ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 ――貧乏だから不幸せ❓ いいえ、求めているのは寄り添ってくれる『誰か』。  ◆  第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリア。  両親も既に事故で亡くなっており帰る場所もない彼女は、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていた。  しかし目的地も希望も生きる理由さえ見失いかけた時、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    10歳前後に見える彼らにとっては、親がいない事も、日々食べるものに困る事も、雨に降られる事だって、すべて日常なのだという。  そんな彼らの瞳に宿る強い生命力に感化された彼女は、気が付いたら声をかけていた。 「ねぇ君たち、お腹空いてない?」  まるで野良犬のような彼らと、貴族の素性を隠したフィーリアの三人共同生活。  平民の勝手が分からない彼女は、二人や親切な街の人達に助けられながら、自分の生き方やあり方を見つけて『自分』を取り戻していく。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

処理中です...