冥界の仕事人

ひろろ

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第五章: 新人仕事人 恋模様

思いがけない お誘い

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 あおいは、瞬間移動で 祖父である孝蔵の家に着いた。


 おじいちゃんは、いるのかな?


 人間界での記憶を無くし、おじいちゃんに対して他人行儀な態度を取ってしまっていたから、会いづらいな……。


「ごめんくださーい!
おじいちゃんいるー?」


 玄関の前で、大きな声で言った。


 おじいちゃんは、あたしの姿が見えるし、会話が出来るから、居れば出てくるだろう。

 
 すると猫が背伸びをして、玄関の鍵をカチッと開けるシルエットが、曇りガラスの戸に映る。


「グレース、あおいだよ」


 ガラッ


 グレースは、猫の前脚で、玄関の戸を器用に開けてくれた。


「グレース、おじいちゃんは?
アルバイトに行っているの?」


「あれ、あおいさん!

お爺ちゃん?アルバイト?
うん?記憶が戻ったんですね。

あぁ、金札がありますね。
個人旅行……里帰りですか?

孝蔵さんは、バイトで留守です。
いつまで、こちらにいますか?」


「そっか、留守かぁ。

あたしは、明日までいるよ。

明日、冥界に帰る前に、ここへとまた来るから!

今は、グレースに教えてもらいたい事があって来たんだ」


「ニャんですか?さあ、ニャかに入って下さい」


 あおいは、玄関に入って戸を閉めた。


今度は、普通に閉めることが出来たような気がする。


「ねえ、グレース、今、この戸が閉まっている様に見える?」


「はい、閉まっています」


「前にここに来た時に玄関の戸を閉めたつもりが、戸が開いたままだったのに……。

 今は、閉める事が出来て不思議だね」


「その札を貼ってあると、心霊現象を起こす事が出来るから、戸を開けたり、閉めたり、音をたてたり、物を移動させたりできるのです」


 やっぱり、第7の事務員の玲子さんが教えてくれた通りだな。


「あのね、グレース。

あたしが生きている時に、ノートに日記を書いていたんだけど、その日記にグレースの事を書いていたんだよね。

死神の事もチラリと書いてあったし、置いておくのは、マズイと思って……」


「えぇー!それは、ダメ!マズイです!
 ニャんて事をするんですか!

 早く処分しニャくては!」


 まったく、この娘は、冥界の秘密を書いて残すなんて、とんでもないことをしてくれた!


「持って出ようとしたら、少ししか動かせなくて……どうしたら、持ってこれるの?」

 

「当たり前です。心霊現象程度くらいにしか物を動かせニャいのです。

 だって、簡単に持ってこれたら、この世が死者の泥棒だらけに、ニャっちゃいますからね」


 そう言い、グレースは頭を傾け考えてみる。


「そうだ!私があおいさんの実家に行って、ノートをくわえて持ってくるのは、どうですか?」


 なるほど!


 あおいは、グレースを抱っこして、瞬間移動をした。


 バンッ!


「フギャー痛い!」


 グレースは、あおいの家の玄関ドアに、打ちつけられてしまった。


 あおいは、ドアを通り抜ける事が出来るが、実体のある猫のグレースは、出来ないのだ。

 
 カチャカチャ、ガチャ
 

「ごめんねー!鍵が掛かっているから、そのまま入っちゃった!」


 家の中から玄関のドアをあおいが開けて、グレースを中に入れる。


 グレースは、鼻をさすりながら、恨めしそうにあおいを見た。


「ごめんね、グレース。機嫌を直してよ」


 玄関の鍵を元のように閉めて、2階へ行く。


 あおいが机の引き出しを開け、グレースに これだよと言うと、それを咥える。


「グレース、今度はこの窓から屋根に出て、カーポートへ降りて、そこにある木をつたって下へ降りてくれる?」


 グレースは、ノートをガッチリと咥えながら頷いた。


 そして、軽やかな動きで、下へ降りて行った。


 どっからどう見ても、普通の猫でしかない。


 あおいは、窓を閉め、グレースと共に再び孝蔵宅を目指す。


「このノートを燃やして欲しい。
 誰にも見られたくないから!」


「それは、孝蔵さんに頼まニャいと、出来ません」


 「そっか……、じゃあノートをどこかへ隠して!グレースも見ちゃダメだからね」


 そんニャ事言われても、どこに隠したらいいかニャ?


そうだ、床下収納庫の穴から縁の下に隠くせば、誰にも見つからニャい!


 冴えてるニャー、自分!


 あおいは、ノートをビニール袋に入れてグレースに咥えさせた。

 
 グレースは、そのノートと共に床下に入って行き、いつもと違う方向の、家の中心付近に置いて、戻ってきたのだった。


「あおいさん、完了しました。
これで秘密は、守られます。

後は、あおいさんの家族に見られていニャければいいですが……」


 本当、それが気懸りなんだよね。


まあ、本気にするわけないから大丈夫だよね?


「何?秘密の話し?」


 突然、声を掛けられて2人はギョッとした。


 そこには、濃茶の髪でイケメン20代前半の男性が、靴を履いたままで、台所の前の廊下に立っていた。
 

「ゆ、優さん!ただいまぐらい言って下さい!

驚いたニャ!ひ、ひ、秘密の、はニャしニャんてしてませんよ」


「ふーん。まっ、いいけど。

 あおいちゃん、久しぶりだね!

 今、蓮さんと一緒に仕事しているんでしょ?

 蓮さん、ずるいよね。
あおいちゃんは、僕の所に来れば良いのに」


「えっ?」


 優さん、どういう意味ですか?


 それって、何も意味のない言葉ですか?
 

 あおいは、戸惑っていた。


「蓮さんは、ツルノ君がいるのに、あおいちゃんまでいるなんて、欲張り過ぎだよね!

僕もお手伝いが欲しいよ」


 あー、そういう事ねぇ。


単なる手伝い手が欲しいということか、何だー!


 うん?ツルノ君?


ああ、リッチ君のことだね。


 優とグレースは、オストリッチのことをツルノ君と呼んでいる。


 オストリッチが“鶴のオストリッチです”と自己紹介をしたから、ツルノ オストリッチだと思っているようなのだ。


 「あっ、あおいちゃん 金札がついてる!

里帰り旅行なんだね。
もう、実家に行って来たの?」


「はい、今、家族は留守なのでグレースと遊んでいました。

また、実家に戻ります」


「じゃあ、僕とも遊ぼうよ。夜まで暇だし、どっかに行く?」


「遊びにニャんて、子どもじゃあるまいし!どこへ行くんですか?」


 グレースが目を吊り上げて優に聞いた。


 あっ、最初から吊り目ですが。


「あおいちゃん、どこに行きたい?」


 えっと、急に言われてもわからないよ!


えっと、えっと、どこがいいかな?


「遊園地とか行く?」

 
 わっ、行きたいっ!娯楽に飢えているもの!


「はい、行きます」


「子どもの乗り物は苦手だからニャー、どうしよう」


「グレースは、姿が見えちゃうから面倒くさい事になるでしょ?

 留守番していてよ!」


 ムッ、私を邪魔者にしているニャッ!
 

「はい、はい、お邪魔ですね。
  私は、行きませんから、お2人でどうぞ」

 
 ニャんだよ、2人でどこに行こうか と楽しそうに話し始めちゃって……。


「では、私は出掛けますからね。
あおいさん、また、明日」


「うん、グレース。ありがとうね、また、明日ね」


「じゃあ、あおいちゃん、移動するよ。

離れて到着すると面倒だから、手を繋いで行こうか。はい、手を出して」


 えっ?手を繋ぐ?


それだけで、一緒に行かれるの?


「あおいちゃんも、頭に場所を思い浮かべてね。

ひまわり園 観覧車前だよ。行こう」


 あっ、あたし自身も移動をするってことか!蓮さんとは、違うんだね!


「はいっ」


 あおいと優は、手をしっかりと握り合い、遊びに行ったのだった。
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