冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

おまけ、赤鬼の話

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 君は、覚えいるだろうか。


 冥界事務センターの警備部にいた、赤鬼の斗真のことを……。


 君が到着ロビー係から去り、話しかけられることがない平穏な日々を送り始めたが、やはり寂しさが勝ってしまう。


 君が鬼たちに話しかけてくれたから、毎日がスリリングで、警備部では誰が うっかり会話をしてしまうか賭けたりしたものだ。


 勤務中に会話をすれば、地獄勤務になる為、誰もが君の事を恐れていた。


 それが今では、刺激が無い 毎日を淡々と送っている感じなのだ。


 君は、鬼の区別がつくと言っていたね。


 確かに、それは真実なんだと思う。


 実際、俺のことが分かっていたから。


 但し、見分けようと意識しなければ、出来ないことも知っている。


 それでも、俺に気づいて欲しいと思って  いる。


 どこに居ても気づいて欲しい……。
これは、俺の我がままなのだろう。

…………

 
ある日、警備部長に呼び止められた。


「明日だけ、第3の門にヘルプで行ってくれないか?」


 武道研修がある赤鬼の代わりを頼まれたのだった。


 あおいちゃんがどこに異動になったか知らないが、もしも、もしも、今から入るドアの向こうに、あおいちゃんが居たら、これは運命だという事だ。
 

 キィ


 中は、薄暗くて女性スタッフの顔がよく見えなかった。


 こんな所にいるはずがない!


 そんなに都合よく会えるわけがない!


 鬼達は、いつもの赤、青ジャージに黒いエプロンを着けて、緑専用ウォーターバーの中にいた鬼達と 無言でハイタッチをして交代した。


 暗闇に目が慣れて、周囲がよく見えるようになって驚いた。


 ここにいるスタッフ達は、何という衣装を着ているんだ!


 フラダンスの衣装に、チャイナ服、男性は、いつものスーツだが、襟をかなり広げて胸元がチラリ、中でも凄い格好は、花魁おいらんだ!


 どうしても花魁に目が向いてしまう。


 おっと、仕事をしないとな!
 
 
 やって来る緑札の人を、よく観察するんだ。


「おい、お嬢ちゃん!まだ、座れないのか?席が空いているじゃないか!早くしてくれ!足が痛いんだ」


 入ってきた男が、チャイナ服のスタッフに言うから、身構えた。
 

 しかし、チャイナ服のスタッフが、さらりとなだめ、男は落ち着いた。


 ホッとしながらも、その男から目を離せなかった。


 男が座る番になったが、4人掛けの席の個室に、既に3人の女性が座っている所を希望し、騒ぎそうだから、再び身構える。


 ここは、花魁が水を持ってきて、納めた。


 やるじゃないか、あの、花魁。


  今度は、男が他の女性死者に、ちょかいを出してきたから、これはアウトだと思い、男に近寄るため俺は歩き出した。


 そしたら、チャイナ服の娘が、男に立ち向かい、逆に手首を掴まれた!


 ピン ポン!


 これは、ヤバイ!俺は、走った!
 

 あっ、チャイナ服の娘が殴られちゃう!


 間に合ってくれ!


 サッ!


 それは、タッチの差くらいの時間だ。


「その手を離しなさい」


 花魁が男に立ち向かい、男の腕を捻り上げていた。


「いてて、いてーだろう」


 男がそう叫びながら、反撃に出そうだったから、俺が取り押さえた。

 
 そして、俺は気づいた。


 チャイナ服の娘が、会いたかった あおいちゃんであったと……。


 その後の花魁の言葉など、耳に入ってこなかった。


「早く、連れてお行き」だけが聞こえて、茫然としながら、男を連行したのだった。


 俺が来た時に、あおいちゃんはウォーターバーの中に居たんだ!


 運命的な出逢いが転がっていたかもしれなかったのに……。


 でも、俺は気がつかなかった。


 痛恨のミスだ!


 それに、あおいちゃんも気づいていない。


 男を他の鬼と宗帝王様に引き渡し、俺はウォーターバーに戻ったが、何のアクションもしなかった。

 
 知らない振りをした。


 あおいちゃんを守る事が出来なくて、格好が悪過ぎだし、側に行って気づいてもらえなかったら、立ち直れなくなるだろう。


 あおいちゃんは、嬉しそうに花魁と話している。


 それにしても、赤いチャイナドレスが良く似合っているね。


 色のセンスがいいと思う。


 君は、ここで生き生きと働いていたんだね。


 元気そうで良かった。
 

 もしも、もしも、また どこかで会うことができたら、今度こそ運命の出逢いって、思ってもいいかな?


 いや、ダメだな。


 君が気づいてくれなかったら、意味が無いな。


 鬼達は、全員同じ格好だから、赤鬼か青鬼の違いだけで、個々の扱いはない。


 だから、もしも、また いつか君が俺に気づいてくれた時は、勇気を出してみようと思うよ。

 
 こんな俺の想いって、重いし、キモいかな。

 
 やっぱ、そうだよ、キモいわー。


 仕事では、暗く、怖い姿を見せているから、ネチネチ想うと、本当に暗くなりそうだ!

 
 こんなの柄じゃないな!


 明るくカラッと忘れるぞ!


……と、タマキが花魁の姿になった日にひとつの淡い恋が終わったような……。


 そんな事があったのでした。


 あおいは、走ってきた赤鬼の姿を見ていたが、気がつかなかったのだ。


 これもまた、運命ってヤツなのでした。
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