冥界の仕事人

ひろろ

文字の大きさ
上 下
60 / 109
第四章: 新人仕事人

おまけ、赤鬼の話

しおりを挟む
 君は、覚えいるだろうか。


 冥界事務センターの警備部にいた、赤鬼の斗真のことを……。


 君が到着ロビー係から去り、話しかけられることがない平穏な日々を送り始めたが、やはり寂しさが勝ってしまう。


 君が鬼たちに話しかけてくれたから、毎日がスリリングで、警備部では誰が うっかり会話をしてしまうか賭けたりしたものだ。


 勤務中に会話をすれば、地獄勤務になる為、誰もが君の事を恐れていた。


 それが今では、刺激が無い 毎日を淡々と送っている感じなのだ。


 君は、鬼の区別がつくと言っていたね。


 確かに、それは真実なんだと思う。


 実際、俺のことが分かっていたから。


 但し、見分けようと意識しなければ、出来ないことも知っている。


 それでも、俺に気づいて欲しいと思って  いる。


 どこに居ても気づいて欲しい……。
これは、俺の我がままなのだろう。

…………

 
ある日、警備部長に呼び止められた。


「明日だけ、第3の門にヘルプで行ってくれないか?」


 武道研修がある赤鬼の代わりを頼まれたのだった。


 あおいちゃんがどこに異動になったか知らないが、もしも、もしも、今から入るドアの向こうに、あおいちゃんが居たら、これは運命だという事だ。
 

 キィ


 中は、薄暗くて女性スタッフの顔がよく見えなかった。


 こんな所にいるはずがない!


 そんなに都合よく会えるわけがない!


 鬼達は、いつもの赤、青ジャージに黒いエプロンを着けて、緑専用ウォーターバーの中にいた鬼達と 無言でハイタッチをして交代した。


 暗闇に目が慣れて、周囲がよく見えるようになって驚いた。


 ここにいるスタッフ達は、何という衣装を着ているんだ!


 フラダンスの衣装に、チャイナ服、男性は、いつものスーツだが、襟をかなり広げて胸元がチラリ、中でも凄い格好は、花魁おいらんだ!


 どうしても花魁に目が向いてしまう。


 おっと、仕事をしないとな!
 
 
 やって来る緑札の人を、よく観察するんだ。


「おい、お嬢ちゃん!まだ、座れないのか?席が空いているじゃないか!早くしてくれ!足が痛いんだ」


 入ってきた男が、チャイナ服のスタッフに言うから、身構えた。
 

 しかし、チャイナ服のスタッフが、さらりとなだめ、男は落ち着いた。


 ホッとしながらも、その男から目を離せなかった。


 男が座る番になったが、4人掛けの席の個室に、既に3人の女性が座っている所を希望し、騒ぎそうだから、再び身構える。


 ここは、花魁が水を持ってきて、納めた。


 やるじゃないか、あの、花魁。


  今度は、男が他の女性死者に、ちょかいを出してきたから、これはアウトだと思い、男に近寄るため俺は歩き出した。


 そしたら、チャイナ服の娘が、男に立ち向かい、逆に手首を掴まれた!


 ピン ポン!


 これは、ヤバイ!俺は、走った!
 

 あっ、チャイナ服の娘が殴られちゃう!


 間に合ってくれ!


 サッ!


 それは、タッチの差くらいの時間だ。


「その手を離しなさい」


 花魁が男に立ち向かい、男の腕を捻り上げていた。


「いてて、いてーだろう」


 男がそう叫びながら、反撃に出そうだったから、俺が取り押さえた。

 
 そして、俺は気づいた。


 チャイナ服の娘が、会いたかった あおいちゃんであったと……。


 その後の花魁の言葉など、耳に入ってこなかった。


「早く、連れてお行き」だけが聞こえて、茫然としながら、男を連行したのだった。


 俺が来た時に、あおいちゃんはウォーターバーの中に居たんだ!


 運命的な出逢いが転がっていたかもしれなかったのに……。


 でも、俺は気がつかなかった。


 痛恨のミスだ!


 それに、あおいちゃんも気づいていない。


 男を他の鬼と宗帝王様に引き渡し、俺はウォーターバーに戻ったが、何のアクションもしなかった。

 
 知らない振りをした。


 あおいちゃんを守る事が出来なくて、格好が悪過ぎだし、側に行って気づいてもらえなかったら、立ち直れなくなるだろう。


 あおいちゃんは、嬉しそうに花魁と話している。


 それにしても、赤いチャイナドレスが良く似合っているね。


 色のセンスがいいと思う。


 君は、ここで生き生きと働いていたんだね。


 元気そうで良かった。
 

 もしも、もしも、また どこかで会うことができたら、今度こそ運命の出逢いって、思ってもいいかな?


 いや、ダメだな。


 君が気づいてくれなかったら、意味が無いな。


 鬼達は、全員同じ格好だから、赤鬼か青鬼の違いだけで、個々の扱いはない。


 だから、もしも、また いつか君が俺に気づいてくれた時は、勇気を出してみようと思うよ。

 
 こんな俺の想いって、重いし、キモいかな。

 
 やっぱ、そうだよ、キモいわー。


 仕事では、暗く、怖い姿を見せているから、ネチネチ想うと、本当に暗くなりそうだ!

 
 こんなの柄じゃないな!


 明るくカラッと忘れるぞ!


……と、タマキが花魁の姿になった日にひとつの淡い恋が終わったような……。


 そんな事があったのでした。


 あおいは、走ってきた赤鬼の姿を見ていたが、気がつかなかったのだ。


 これもまた、運命ってヤツなのでした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

守りたい約束 冥界の仕事人の転生先

ひろろ
ファンタジー
完結している『冥界の仕事人』のその後をベースに『ある日、突然 花嫁に!!』の登場人物も関係してくる 物語となっています。 かつて冥界という死者の国で、働いていた あおい と蓮と優は、随分 前に転生したのだが、その際、鳥のオストリッチを含めた4人で再会しようと約束をした。 鳥が人へと転生することは、難しいだろうと思っていたオストリッチだったのだが、ついに願いが叶う時がやってきたのだ。 果たして彼は、無事に転生完了することができるのか?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

アンティーク影山の住人

ひろろ
ファンタジー
観光客が多い門前通りの裏側に位置する夢見通り。昼間は閑散として寂しい所だが、そんな場所で骨董店を営む者がいた。 ある日、この店の主人が病気になり、危篤状態となってしまった。 そんな時に、店主の切なる願いを息子の嫁に託す。 嫁は、遺言と思い願いを聞き入れることにした、だが、この事で秘密を知ることになったのだ……。 この物語は、全てにおいてフィクションです。何卒、御了承下さい。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...