冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

落ち込む事もあるのです

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  夕方近く、家に帰ってきた あおいだったが、ドアを開けると、オストリッチが楽しそうに遊んでいる声が聞こえてきた。


 小さい部屋にある滑り台で遊んでいるようだ。


新しい鳥さんがいるのかな?


えーと、確か ストークさんってリッチ君が言ってたかな?


 あおいは、邪魔をしないように、静かに作務衣さむえに着替え、タオルを持って外に出た。


 草履を脱ぎ、川の中に足を入れた。


ふーっと ひと息ついて、水の流れを見つめる。

 
 さっき利通さんに励ましてもらって、元気が出たはずなんだけど、気分が沈んでゆくのがわかる。


 疲れたせいかな?


ぼーっとしているつもりなのに、ずっと同じ光景を思い出す。

 
 タマミさんからの返事を、蓮さんに渡した時……。

 
蓮さんが手紙を見て、片手でガッツポーズをしたんだよね。


その姿が頭から離れない。

  
 叱られたり、特訓を受けたりして、反発心があったから、手紙をタマミさんに渡すように言われた時は、面倒くさいという気持ちだったはず。


 でも、蓮さんのガッツポーズを見たら、手紙が個人的な物ということと、その結末もわかってしまった。


 その姿を見た瞬間、あおいは何故だか蓮に対してイラッとしたり、軽いショックを受けたみたいな、自分でもよくわからない気持ちになったのだ。


 そんな気持ちに蓋をして、元気 に振舞っていたけれど、1人になったら、心がずしっと重くなってきた。


もしかして、蓮さんの事が好きだったのかな?


まあ、今となっては どちらでもいい、
想いを自覚する前に、淡い感情を消滅させれば、ふられる事もない。


こんな時、生きていたならパーっと、どこかへ遊びに行くんだろうな……。


 きっと、友達とカラオケとか、行くんだろうな……友達と? 


 友達は、いたと思うけど覚えていない。


 生前の人間界での記憶は、仕事を始める時に消えてしまったから。


 まあ、必要な時に札を額に貼れば記憶は戻るらしいから、安心はしている。


 ところで、冥界の人々は、休日をどう過ごしているのだろう?


 はっきり言って暇だ!


 娯楽がないのは辛い。
 
 
  娯楽って……旅行ぐらいしかないのか……はっ、私のお給料はどうなっているの?


お給料は、お金ではなく、スタンプだとか聞いたけど!


スタンプを貯めて、旅行に行けるとかって話し!


まだ、そのスタンプカードを受け取った事がない!


 あおいは、冥界到着ロビー係のユウカさんが、言っていた事を突然、思い出したのだ。


 えっと、就業許可証を第7の門の泰山王様に、提出したんだっけ?


 そうだ今から、第7の事務所に行こう。


そうすれば、どうなっているのかわかるはず!

 
 あっ、ベルトは家の中だ!


そっとドアを開けてみるが、まだ楽しそうな声がしているから、あおいは黙って行くことにした。

……………

 第7の門 事務所に来たのは、初めてだな。


 いつも泰山王様の所に、直接行ってしまっていたから。
 

 ここは、冥界事務センターや第1の門事務所に比べて、スタッフは少ないようだ。

 
 あおいは、受付のカウンターに立ち、女性スタッフに声を掛けた。
 
 
 それは、見覚えのある女性スタッフで、名前は、確か玲子さん。


天界に行く時に小舟を呼び出してくれた人だ。


「あら、あなたは あおいさんね。
 何か御用ですか?」


 あおいは、自分が働き出してから、1度もスタンプカードを見ていないことを話したのだった。


「まあ、それは気になりますよね。

泰山王様に伺いますが、只今、面会中ですから、どこかで休んでいて下さい。

モバリスをお持ちですか?」


「はい、持っています」


 連絡用に一応、持ってきていたのだ。


「では、後程、連絡いたします。
 お待ち下さい」


 さて、どこに行こう?


 近くにいないとマズイし、調査員スタッフルームに行ってみよう。


 窓からチラッと見ると、先客が寝ていた。


 ここは、居られない。


 生命の泉に行ってみよう。


 生命の泉の入り口から中の様子を見ると、消えた蝋燭を回収している人の後ろ姿が見えた。


 この作業は、とても慎重にしなければならない。


 速さではなく、注意力が必要なのだ。


 5人の人がいるが、その中に顔見知りがいることに気づく。


 その人は、天界で あおいと一緒に講習会に参加していた人だった。


「見習い!こっちにもあるから、来い!」


「はーい、先輩」


 えー!自分より歳下の人に、見習い!なんて言われている……。


 でも、頑張っているんだな。


 そして、ここにある蝋燭たちも頑張って、火を灯し続けている。


 皆さんは、精一杯生きて下さい。


蝋燭に向かって、心の中で呟いたのだった。

 
 あおいは、元講習会仲間に気がつかれないように、生命の泉を後にして、階段を降りて行った。


元講習会仲間の人たちも、それぞれ頑張っているんだろうなぁ。


 よし、私も頑張ろう!


 プルルル プルルル プルルル

 
 玲子さんから連絡がきた。


「事務方の手違いで、お渡しするのが遅くなり、申し訳ございませんでした」


 泰山王様は、多忙という事で、玲子さんからカードを受け取った。


 7日間働いて、カードを提出し、7枚のスタンプを押して貰って、カードを受け取るというシステムらしい。

 
 個人旅行は、休みが合えば誰と行ってもかまわないというから、楽しみでもある。

……………
 
 遅い!

 お姉ちゃん、遅過ぎる!

 まだ、天界にいるの?

 明るいけど、夜遅くになっているのに!


 オストリッチは、あおいが帰って来ないから、心配をしていた。


部屋の中をウロウロしていると、捨て置かれた様なタオルにつまずいた。


 あれ?さっき、こんな所にタオルなんて、あったかな?


 部屋をぐるっと見たら、あおいが仕事で着ているスーツが、ハンガーに掛けてあった。


 あっ!お姉ちゃんは帰って来てから、何処かへ行ったんだ!


 もう、どこに行ったんだろう? 

 
ガチャ!


 「お姉ちゃん!どこに行ってたの?」
 

「遅くなってごめんね。


 お給料代わりのスタンプカードを貰いに、第7に行っていたんだよ」


「えっ、持っていなかったんですか?」


「そうなの。まだ、貰っていないことを思い出したから、行ってきたんだ。

リッチ君は、旅行に行ったことあるの?」


「僕は、まだ。
個人旅行は、特に行きたい所がないし、団体旅行に向けて貯めているところです」

 
「その団体旅行だけど、お寺とかより、遊園地みたいな遊べる所がいいと思うんだけど、どこで企画しているのか知っている?」


 オストリッチも知らないと言って、首を振ったが、秦広王に聞いてみると言っていた。


 個人旅行の目標まで、あと少し!


 なんだか元気が出てきたぞー!
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