冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

ユキトの災難

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 天界の公園脇の小川を目指して、瞬間移動をしたはずなのに、何故か せせらぎ川にいるみたい。


 その時、真っ暗闇の中、突然、ライトのような光に照らされた!


「きゃっ」


 あおいは、小さく叫んだ。


「どうしたの?お姉ちゃん!」


 えっ?リッチ君の声?


 この明かりは、もしかして、リッチ君のヘルメットのライト?


「何だ、リッチ君だったのかー!何でこんなところにいるの?」


 お留守番をしているはずだったのに、私の後を追って来たのかな。


「僕は、蓮さんに明かりのつけ方を教わりたかったのを思い出して、天界事務所に行ったのです」

…………………

 時は遡る。


 あおいが蓮の待つ練習場に向かって、走っていた頃。


 ユキトは、蓮とモバリスで電話をしていた。


 「蓮、今、あおいさんがそっち、練習場に行ったはずだから。

 ……で、私は、公園の脇にある小川、うんうん、ベンチの側の所にいればいいんだね?了解」


 オストリッチが丁度、天界事務所に到着した時に、ユキトの話し声が聞こえ、立ち聞きをしたのだった。


「公園の脇にある小川か……」


 瞬間移動の練習だから、ここへお姉ちゃんが来るということですね。


それなら、蓮さんもここに来るはず……


 見つからないように先回りして、頃合いを見てから、僕の指導もしてもらおう!


 先回りをしたオストリッチは、ベンチの裏側に普通に立っていた。


ユキトはベンチの側に来たが、オストリッチには気付かず、蓮に連絡をとりはじめた。


「蓮、いないぞ!もしかしたら、山奥のせせらぎ川に行ったかもしれない……」


 えっ!お姉ちゃんがせせらぎ川に行っちゃったかもだってー?


 あそこは、夕方から危険な場所だって、お姉ちゃんが言っていた!


 大変だ、助けに行かなくっちゃ!

…………………

「……という訳で、お姉ちゃんがここにいるかもと思って来てみたのです。

本当にいたから、驚きました!

どうして、ここに来てしまったのですか?」


「“もみじのある小川 ”って念じたんだけど……」


 「えー、それだけしか念じなかったんですかぁ?

あっ、お姉ちゃん、ここにも紅葉の木がありますよ!3本もあります」


 そうかー!

 その念じ方では、ダメだったのかー!


「とにかく、心配しているはずですから、早く戻りましょう」


「あっ、待って。ここを照らして」


 あおいは、紅葉の葉を1枚取る。


 この葉っぱを行った証拠にすればいいよねっ!


 腹黒あおいが現れた。


「じゃあ、練習場へ戻ろ……」


 あおいが言いかけた時に、ユキトがやって来た。


「やっぱり、ここにいたのですね!
 蓮が心配しています。帰りましょう」


 ユキトはそう言って、まず、蓮に報告の連絡をしたのだった。


 この葉っぱを持って行ったら、ズルがバレるちゃうよね?ダメか……。


あおいは、さっき取った葉っぱをそっと落とした。


「さあ、戻りますよ、あおいさん先に行って!」


 ユキトに言われ、あおいとオストリッチは、蓮の元へと移動した。


 続いてユキトも戻ろうとすると、突然  川の向こう側が、明るくなった事に気っいた。


「ユキト、また、あの子 が来ているのね。手伝って欲しい事があるわ。

明日の早朝、鳥さんも一緒にここに来てって伝えてちょうだい」


「 吉祥天きっしょうてん様、それは無理です。

 短期間の修行に来ていて、直ぐに帰らないとなりませんから。申し訳ございません」


 むかっ!ユキトめっ!

 またしても、口答えをしおって!

 神を神とも思わぬ 罰当たりめが!


「あなた、この わたくしに逆らうつもりなの?

なら、あなたが明日、手伝いに来なさい。

青池の大掃除をするわよ。いいわね!」


「お前、そんな無茶な事言ったらダメだぞ」


毘沙門天びしゃもんてん様!」

 
貫禄のある大きな男が現れた。


 後光が射して、辺りがより一層明るくなった。


 私の味方になってくれるのかな?
 ユキトは、密かに思っていた。


「そうだとも!私は、ユキトの味方であるぞ!

 しょうちゃん、ユキト1人では、可哀想だぞ!

あと2、3人は応援がないと無理だろう、人選は、任せるからな。

宜しく頼むぞ」


「あっ……はい……」

 ………………

 それにしても、ユキトは遅いな!

 事務所に行ったのかな?


 ちらりとユキトの事を考えた蓮だったが、説教の方が先だと考える。


「まったく、君って子は……」


 あおいは、うんと叱られ、夜通しあちこち行かされたのだった。


 蓮の優しそうな顔は、見かけだけなのだと痛感したのである。


 そして、時々 ドキッとする行為は、単なる天然なだけなんだ!


 ときめく奴が阿保なんだ!
……と自分に言い聞かせるのだった。

 
 もう、朝だ。
 オストリッチは、今がチャンスと思い、言ってみた。


「あのぉ、先日、真っ暗な部屋に明かりをつけましたよね?

  あの術を僕に教えて下さい。

 蓮先生、お願いします」

 今は、教わる身だから、先生と呼ぼう。

「 ? 」

 蓮は、キョトンとしている。

「ほら、1人暮らしの老人が亡くなってしまうという時に、明かりをパチンってつけたじゃないですか」


 こうして、ああして、と身振り手振りをしながら、オストリッチが蓮に訴える。


「……その手振りは、もしかして、小さな虫を払っていた?

 えー!何だ、がっかりだ!
 こんな事なら、家にいて、ストークさんと遊ぶ方がいいなー!帰ろう!


「あっ、それなら、僕、か……」


「おはよう……」


 ユキトが2人の男性を連れて、蓮の所へとやって来た。


「おはよう、随分と早いね!昨日は、ありがとう!どこかへ行くのか?」


蓮が聞いてみた。


「あおいさんは?どこかへ行っているの?」


「ああ、第7に行って、泰山王の白髪を持って来いって言ってある。

 何か用か?」


「いいや、べっつにぃ!オストリッチ君は、修行はないよね?借りても大丈夫かい?」


「ああ、特に無いから、いいよ!
 ねえ?オストリッチ君?」


「えっ?あ、はい……」


「吉祥天様に青池の掃除を頼まれたんだ!

 あおいさんの代わりにねっ!

 まったく、もう!」

 他のスタッフは、瞬間移動ができないから、皆んなで歩いて向かっているのだった。

……………

 トコトコ……


 オストリッチは、一緒に歩いていて気づく。


「僕、飛んでもいいですか?」


「そっか、君、鳥だものね!
 どうぞ、気にしないで飛んで、なんなら先に行っていてもかまいません。

せせらぎ川で会いましょう」


「はい、ではお先に行きます」


 パタパタ パタパタ


 ユキトが言うと、他のスタッフが驚いて言う。


「えっ、ダチョウって、飛べるんですね?」


 ぴくっ!


 パタパタ くるっと旋回する。


「僕は、鶴です!鶴なんですから!」

スタッフは、無理やり納得をするしかなかった。


 どいつもこいつも、ダチョウって言って、酷すぎる!


 僕は、脚も首も長くなったじゃないかっ!


 今はベストも着ていないから、鶴そのものの筈なのにな……。

 
 パタパタ パタパタ


「あれ?先に行くなら瞬間移動でも良かったってこと?

 もう着くから、このままでいいか」


 オストリッチは、森の中を低く飛んで入って行く。


 せせらぎ川が見えた。


「やあ、おはよう!
 手伝いに来てくれたんだね。
 ありがとう!
 私は、モンテン。モンちゃんと呼んでくれ!」
 
 
 あれ?どこかで会ったことがある!


「私は、オストリッチと申します。
 鶴なんです!」

 
 このおじさんと何処であっているのかな?


「賽の河原で、会っただろう?」


「 ! 」何も言っていないのに!


 お姉ちゃん、なんか怖いよ!


「えー、おじさんは怖い人じゃないよ!

  酷いなー!」


「 ! 」


 怖い、帰ろう!


「えー、青池の掃除の手伝いに来てくれたんだろう?
帰らないでよー」


 ひい、もう怖すぎる!

 お姉ちゃん、助けてー!
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