冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

補佐の初仕事

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 プルプルプルッ


 う……ん、起きないと……。


「リッチ君、モバリスが鳴ったよ!今、何時だろう」


 立ったまま寝ているオストリッチを起こす。


 今は、夜中の2時!!


 オストリッチは、ぶすっとしている。


 モバリスには、今日 担当する予定者が全て出ていて、今 鳴った音は、これから予定者の所へ向かえという合図音なのだ。


 あおいは、スーツに着替え、グレーのネクタイを雑に締めながら、オストリッチの方を再度見る。


「リッチ君、もう不貞腐ふてくされていないで!

 あの鳥さんは、リッチ君の代わりに、道先 案内人の仕事をしてくれる子なんだから!

今、猛勉強中だって言っていたし、今度、いろいろアドバイスをしてあげたら?

リッチ君は、先輩なんだから!ねっ」


「嫌だもん!先生ってば、あんなヤツに優しくしちゃって、僕には、注意ばかりしていたのに!」


 オストリッチは、ヘルメットを被り、ネクタイを締めながら答えた。


 あらら、リッチ君……。


昨夜、初めて会った鳥に、秦広王様を取られたような感じがするのかもね。


 だって、僕が侵入鳥に誰だ?と尋ねてみたら……。


先生から「誰だっていいではないかー」と言われて、また、叱られてしまった。

 
先生ってば、抱っこして、連れて帰ったりしちゃってさ!何だよぉ!


「さっ、準備はいい?じゃあ、行くよ」


 あおいは、消えた。


 続けて、オストリッチも消える。


「おはようございます」

  2人は、先に来ていた蓮に挨拶をした。


 無事に来てくれた。

 良かった。

 蓮は、ホッとしたのであった。

 自分がこんなに心配性だったとは、知らなかったな……


 あおい達がいる場所は、アパートに1人で住む老人の部屋の前であった。

 
 蓮は、深呼吸をしてからノックをする。

 ドアを開け、3人が入る。

  玄関に入ると、真っ暗だ!

 オストリッチのヘルメットのライトが中を照らす。

  パチン!

  ぼんやりとした明かりがついた!

 蓮の側にいたオストリッチは、目が飛び出るほど驚いた。

 蓮さんが指を鳴らして、明かりをつけたんだ!凄い!

「蓮さん、今度 その技を教え下さい」

 小声でオストリッチが言うのであった。

  玄関から すぐの所に洗濯機で、狭いワンルームの中に流し台キッチンがある。

 その流し台の下に老人が倒れている!

 あおいが思わず駆け寄り、抱き起こした。

「お爺さん、しっかりして!大丈夫?」


「はっ、誰だ?」

 老人が目を覚まして、驚いた。

 額には、死神が付けた札がある。

「まだ、幽体離脱をしていない……

 あなたは、近藤 典之さん77歳ですか?」


「ああ、そうだよ。さっきも変なのが来て、もうすぐ死ぬとか言われたから、追い返したんだが!

 また、変なのが来たな!」


「蓮さん、この人 生きているんですよね?救急車を呼びましょうよ」

 あおいは、この家の電話を取ろうとしたら、蓮が制止した。

「あおいちゃん、無理だよ!
 札が取れていないから、もう……」

「蓮さん、お爺さんが抜け出しています!幽体離脱が始まりました」

 オストリッチが言った。

「私達は、死者の国である冥界の調査員です。あなたが、生前 行なってきた事を調査して、冥界へと送ります。

 あなたが忘れている事もわかってしまいます。では、始めます」


 ジー、ジー、ジー

 ピー!

  静まり返る真夜中、モバリスの音が響き渡る。


 ただし、死者と冥界の者だけにしか聞こえない音である。

 
「はい、調査は終了しました。

 近藤 典之さんは、一人暮らしですね。

 身内の方は、いらっしゃいますか?

 どなたかにお知らせした方がよろしいかと思います」


「息子と娘がいるが、だいぶ前に、離婚したし、音信不通なんだ。

 自分には、妹がいるから……」


「父親らしい事、してやれなくてすまん。母さんのことを大切にしてくれ。

  朝子、俺、死んだみたいだよ。
 これから、迷惑をかける。

 本当にごめんな……」

 そして、老人は冥界へと旅立って行ったのである。

「オストリッチ君、近藤さんのデーターに妹さんの所在地が出ている。

 そこへ、行って知らせて来て!」

 オストリッチは、何を知らせるのかとキョトンとしたのである。


「朝子さんの耳元で、電話をかけろと何度もささやくと、ここに電話を掛けようと思うはずだ。

 言い終わったら、次の時間まで、好きな所で待機していいから」


 オストリッチは、モバリスを見ながら、消えた。


「あのぉ、私は何をすればいいですか」
 

 あおいの言葉を聞いて、

 えっ?何?という顔をした蓮である。

 特には、考えていないのであった。


「じゃあ、息子さんの所にでも行く?

 1人で行ける?」

 えー、私を子ども扱いしているのかな?

「1人で行けます。行ってきますが、何て言えばいいですか?」


「それは、自分で考えなさい!

 近藤さんの思いを伝えてくればいいからね」

……………

 朝子は、自宅のベッドで就寝中である。

 オストリッチが耳元で囁く。

「典之さんが亡くなりました。

 典之さんが亡くなりました。

 典之さんが亡くなりました」

「うーん、うーん、兄さん……」

 朝子は、うなされたのである。

 目が覚めて、思った。兄さんの声が聞こえて、次に子どもの声がした気がするんだけど……

 兄の事が気になって気になって仕方がなくなり、電話を掛けた。

 当然、倒れて息耐えている為、出る者はいない。

 何度も掛けたが出ない。

「ちょっと、典之兄さんの所に行って来るから」

 朝子は、早朝、アパートに行くのであった。


………………

 一方、典之の息子の元へ行った あおいである。

「お父さんが亡くなりました。

 あんみつ荘、あんみつ荘に行って。

 あんみつ、あんみつ  です」


 寝ている耳元で何度も囁いたのであった。


 息子は、寝ている時に父親の声を聞いた気がしたのである。

「母さん、お父さんの事が気になる!

 アパートは、どこだっけ?」


「ちょっと待って、調べるから、


 隣の町だったはず……
 えーと、杏摘荘、あんつみ だよ」


「なんだか、胸騒ぎがするから、仕事に行く前に寄ってみるから」


息子は、コンビニに寄り あんみつをお土産に買って、アパートへ行ったのである。

 ドアの外で、部屋に電話を掛けている朝子の姿を見つけたのであった。

「あっ、朝子叔母さん!」

 蓮は、この場所に留まり 老人が発見されたのを見届けたのである。


 あおいが家に帰るとオストリッチの姿はなかった。


 どこだろう?

 その内、帰ってくるか。

 オストリッチは、秦広王の家に偵察に行っていた。

 外からぐるっと回ってみると、裏側のテラスに大きなビニールプールがあるのを見つけた。


 その中で、昨日の鳥が悠々と泳いでいたのである。

「あの子、鶴なのかなー?
 僕と色が違う気がするんだよね。

 でも、似ている気もするし」

 気になるけど、今は仕事に集中しないといけませんね!
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