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第四章: 新人仕事人
調査員の仕事 ☆
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「ひゃっ、あなた達、誰なの?」
経帷子(死装束)を着て、立っていたお婆さんが驚いた。
「私達は、死者の国、冥界より あなたをお迎えに来た者です」
「死者の国?私が死んだって?まさか、これは夢をみているんでしょ?」
お婆さんの横たわっている身体の両脇に、悲しんでいる家族の姿があった。
「改めまして、私は冥界の調査員の蓮と申します。
野坂智津子さん 74歳で、間違いないですか?」
「はい、野坂です。私、本当に死んだってこと?」
「残念ですが、事実です。
それでは、あなたの生前の行いを調査致します。
忘れた記憶でも、わかってしまいます。
始めます、額を失礼します」
蓮はそう言うと、一礼して 智津子の額にある札のデーターをモバリスで読み取り始めた。
モバリスがジー、ジーと音を立てる。
ピー!
データーが冥界事務センターと第1の門へと、送信完了された合図音なのだ。
「智津子さん、調査は終了致しました。
ご家族の方とも これでお別れです。
何か伝えたい事があれば、今なら聞こえるかもしれません」
智津子は頷き、息子らしい男性の肩に、骨と皮だけの様な手を置いた。
「昌幸、元気で暮らすんだよ。家族をしっかり守ってね。
和美さん、みんなを頼みますよ。
幸那、智和、パパやママの言う事を聞くんですよ。
みんな、ありがとう」
智津子は、泣き笑いの顔で言った。
「母ちゃん、今までありがとう!」
「お義母さん、お疲れ様でした!」
「お婆ちゃん、バイバイ」
「バーバ、バーバ」
智津子の声が届いたのか、家族は天井に向かって、口々に言った。
そんな光景を目の当たりにした あおいとオストリッチは、自然と涙が溢れ出てきた。
その瞬間、蓮に ギロリと睨まれたことに気づき、2人は必死に嗚咽を堪えている。
もう思い残す事はない……。
覚悟を決めた智津子は、蓮に向けて、コクリと頷いた。
「では、こちらにお立ち下さい」
蓮は、大きく息を吸って吐き、両手を前に広げた。
「天か地獄か裁きの時、冥界の扉よ。
ここに 出よ!」
蓮の言葉で、煙と共にエレベーターが静かに現れた。
智津子は、「さようなら」と言って乗り込み、消えて行ったのだった。
蓮が深いお辞儀をして見送っていたから、2人も真似してお辞儀をする。
ただ、2人はお辞儀をしながら、泣いたままでいたのだ。
「部屋を出るよ」
蓮が部屋を出たから、2人も後を追った。
「こらっ、泣いたらダメだろう!
いくら悲しくても、辛くても、こちらは命を奪う側だということを、忘れてはいけない。
本人や家族が、1番悲しいのだから、こちらが泣く事は、許されない!
これからは、気をつけなさい」
「あおいちゃん、わかったね?」
「はい、ひっく、ひっく」
「オストリッチ君も わかった?」
「はい、ごめ、ん、ひっく、なさい」
「わかればいい。
病院のガーデンバルコニーまで、歩いて行こう。
気持ちが落ち着くはずだから」
蓮が優しく2人に言ったのだった。
あおいちゃんやオストリッチ君が、泣くのも本当は理解をしている。
人の命が終わる時の悲しみ、遺して逝く者の思い、遺される者の思いがいつも自分に突き刺さる。
運命を変えてあげたいと思う事は、キリがないほどある。
自分が生命の泉に行って、消えたばかりの蝋燭に火をつければ、何とかなるかもしれないと……もう、何百回も思った。
でも、それはしない!
そんな事をしたら、この世界の均衡が崩れてしまう。
私は、プロの調査員なのだ。
病院の4階部分にあるガーデンバルコニーは、四季折々の花が植えられた花壇があり、木々も植えられている。
そこは、ちょっとした公園になっていて、2人がベンチに座り、蓮がその前に立っている。
陽が傾いて、辺りには人がいない。
ガラガラ ガラガラ。
前方から、3人の病院スタッフがベッドを押してやって来た。
ベッドには、患者が寝ている。
あおい達3人の姿は、きっと見えていない。
「岡田さん、着きました。
ベッドを起こしますよ。
ほら、コスモスが綺麗でしょう!」
「ええ、本当、綺麗です……
近くで見られて、良かった……
我儘をきいてくれて、ありがとう……皆さん、忙しいのに、ごめんなさい……」
患者さんは、30代くらいの女性だ。
目に焼き付けるように、花を眺め、木々を眺めていた。
「病院の看護師さんや、スタッフさんは忙しいのに、ベッドごと外に運んできてくれるなんて、なんて親切なんだろう」
あおいは、感動して少々興奮気味だ。
「僕も感動しちゃいました」
「そう……だね。
あの人たちは、生命を救う側。
さっきも言ったけど、我々は生命を奪う側。
その事をしっかりと肝に銘じなければ、この仕事は、できない。
いつでも、非情になれなければ、仕事はできないと思いなさい。
2人には、その覚悟があるかい?
無理そうなら、早めに言いなさい」
蓮からの厳しい言葉を噛み締め、次の場所に向かう あおいとオストリッチなのだった。
蓮には、2人の顔付きが先程とは、少し違って見えた。
生命を奪う側の自覚を、持ったのかもしれないと感じたのだった。
経帷子(死装束)を着て、立っていたお婆さんが驚いた。
「私達は、死者の国、冥界より あなたをお迎えに来た者です」
「死者の国?私が死んだって?まさか、これは夢をみているんでしょ?」
お婆さんの横たわっている身体の両脇に、悲しんでいる家族の姿があった。
「改めまして、私は冥界の調査員の蓮と申します。
野坂智津子さん 74歳で、間違いないですか?」
「はい、野坂です。私、本当に死んだってこと?」
「残念ですが、事実です。
それでは、あなたの生前の行いを調査致します。
忘れた記憶でも、わかってしまいます。
始めます、額を失礼します」
蓮はそう言うと、一礼して 智津子の額にある札のデーターをモバリスで読み取り始めた。
モバリスがジー、ジーと音を立てる。
ピー!
データーが冥界事務センターと第1の門へと、送信完了された合図音なのだ。
「智津子さん、調査は終了致しました。
ご家族の方とも これでお別れです。
何か伝えたい事があれば、今なら聞こえるかもしれません」
智津子は頷き、息子らしい男性の肩に、骨と皮だけの様な手を置いた。
「昌幸、元気で暮らすんだよ。家族をしっかり守ってね。
和美さん、みんなを頼みますよ。
幸那、智和、パパやママの言う事を聞くんですよ。
みんな、ありがとう」
智津子は、泣き笑いの顔で言った。
「母ちゃん、今までありがとう!」
「お義母さん、お疲れ様でした!」
「お婆ちゃん、バイバイ」
「バーバ、バーバ」
智津子の声が届いたのか、家族は天井に向かって、口々に言った。
そんな光景を目の当たりにした あおいとオストリッチは、自然と涙が溢れ出てきた。
その瞬間、蓮に ギロリと睨まれたことに気づき、2人は必死に嗚咽を堪えている。
もう思い残す事はない……。
覚悟を決めた智津子は、蓮に向けて、コクリと頷いた。
「では、こちらにお立ち下さい」
蓮は、大きく息を吸って吐き、両手を前に広げた。
「天か地獄か裁きの時、冥界の扉よ。
ここに 出よ!」
蓮の言葉で、煙と共にエレベーターが静かに現れた。
智津子は、「さようなら」と言って乗り込み、消えて行ったのだった。
蓮が深いお辞儀をして見送っていたから、2人も真似してお辞儀をする。
ただ、2人はお辞儀をしながら、泣いたままでいたのだ。
「部屋を出るよ」
蓮が部屋を出たから、2人も後を追った。
「こらっ、泣いたらダメだろう!
いくら悲しくても、辛くても、こちらは命を奪う側だということを、忘れてはいけない。
本人や家族が、1番悲しいのだから、こちらが泣く事は、許されない!
これからは、気をつけなさい」
「あおいちゃん、わかったね?」
「はい、ひっく、ひっく」
「オストリッチ君も わかった?」
「はい、ごめ、ん、ひっく、なさい」
「わかればいい。
病院のガーデンバルコニーまで、歩いて行こう。
気持ちが落ち着くはずだから」
蓮が優しく2人に言ったのだった。
あおいちゃんやオストリッチ君が、泣くのも本当は理解をしている。
人の命が終わる時の悲しみ、遺して逝く者の思い、遺される者の思いがいつも自分に突き刺さる。
運命を変えてあげたいと思う事は、キリがないほどある。
自分が生命の泉に行って、消えたばかりの蝋燭に火をつければ、何とかなるかもしれないと……もう、何百回も思った。
でも、それはしない!
そんな事をしたら、この世界の均衡が崩れてしまう。
私は、プロの調査員なのだ。
病院の4階部分にあるガーデンバルコニーは、四季折々の花が植えられた花壇があり、木々も植えられている。
そこは、ちょっとした公園になっていて、2人がベンチに座り、蓮がその前に立っている。
陽が傾いて、辺りには人がいない。
ガラガラ ガラガラ。
前方から、3人の病院スタッフがベッドを押してやって来た。
ベッドには、患者が寝ている。
あおい達3人の姿は、きっと見えていない。
「岡田さん、着きました。
ベッドを起こしますよ。
ほら、コスモスが綺麗でしょう!」
「ええ、本当、綺麗です……
近くで見られて、良かった……
我儘をきいてくれて、ありがとう……皆さん、忙しいのに、ごめんなさい……」
患者さんは、30代くらいの女性だ。
目に焼き付けるように、花を眺め、木々を眺めていた。
「病院の看護師さんや、スタッフさんは忙しいのに、ベッドごと外に運んできてくれるなんて、なんて親切なんだろう」
あおいは、感動して少々興奮気味だ。
「僕も感動しちゃいました」
「そう……だね。
あの人たちは、生命を救う側。
さっきも言ったけど、我々は生命を奪う側。
その事をしっかりと肝に銘じなければ、この仕事は、できない。
いつでも、非情になれなければ、仕事はできないと思いなさい。
2人には、その覚悟があるかい?
無理そうなら、早めに言いなさい」
蓮からの厳しい言葉を噛み締め、次の場所に向かう あおいとオストリッチなのだった。
蓮には、2人の顔付きが先程とは、少し違って見えた。
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