冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

私の行き先は? ☆

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 来る!来る!私を困らせた 彼奴あやつがやって来るぞ!


 まったく、スタッフ達は私が嫌だと言っておるのに、押し切りおって!


 黒い法服を着た老人が、仙人杖をつきながら、室内を歩き回っている。


 ぷりぷり怒る彼の名は、第7の門、泰山王たいざんおうである。


 冥界 各門の筆頭の所長なのだ。


 彼は、考えている。


 これから来る者にどんな仕事を与えたら良かろうかと。


 もし彼奴が、事務員にでもなったら、私の仕事の邪魔をしそうだな……。


 おっ、そうだ!生命いのちの泉で、働かせるか!


 いや、待てよ。かなりガサツな様に見受けられるから、蝋燭ろうそくの火を消しかねない……危険だ!


 みそぎの鳥居にするか?
いや、あそこは人が足りている。


……んでは、子ども審判所にするか?


 うーむ、あそこも人は、足りている!


 そうですなぁ、圧倒的に足りない所と言うと、調査員と死神だ!


 だが、彼奴の力量では無理ですぞ……。


 おお、いい案が浮かんだぞ!


調査員の補佐にして、手伝わせればいいではないですかな。


 泰山王は、両手で2回手を叩き、いつものように言う。


「スタッフー、誰でもいいぞぉ!」


「お呼びでしょうか、泰山王様」


「玲子さん、例の あおいとかいう娘を、調査員の補佐にする事にしましたぞ。
早速、その手配を頼みますぞ」


「はい、かしこまりました。
 では、どの方の補佐とお考えでしょうか」


 そうですな……。うーん、蓮なら指導力がありそうですな。


 そろそろ、蓮を死神に昇格させてもいい頃ですから。


 あの娘をきっちり仕込んでくれたら、合格をあげましょうぞ!


「よしっ、蓮にしますか。玲子さん、蓮をここへ呼んでくれますかな」

……………

 泰山王様は、私の事を覚えているかしら?


 あの時、かなり泣いて迷惑を掛けてしまったから、入りにくいな……。


 コン コン


「泰山王様、いらっしゃいますか」


「ひぃ!あっ、おほん!入りなさい」


 泰山王は、努めて威厳を保つように、腰を伸ばして立つ。


「泰山王様、お久しぶりです。

あおいです……先日は、大変、失礼致しまして、申し訳ございませんでした。

本日より、こちらでお世話になります。どうぞ、よろしくお願い致します」


 どうしたのでしょうか?


 随分と成長しておるようですぞ?


泰山王は、あおいの事を少しだけ見直したのである。


「過ぎた事は、気にせんでも良い。
 元気そうで、何よりですな」


 あおいは、その言葉を聞いてホッとしたが、やはり無礼な事をしたのを覚えていたのだと確信したのだった。


「えー、オホン。

改めて、ようこそ第7の門へ。
これより、配属先を任命致しますぞ」


 どこで働くのだろう?蝋燭の片付けは、向いていないと思うけどな。


 スッ


「 ! 」


 あおいの目の前に、男性の後ろ姿が現れたのである。


 えっ、もしかして蓮先生?


「わっ、驚いた!
蓮、ドアから入って来なさいと、いつも言っておるではないか!
まったく、どいつもこいつも無礼であろう!

私を誰だと思っているのですか!
私は、偉い人なはずですぞ?」


「はい、すみません。お呼びでしょうか?」


「えー、オホン。

  ここにおる あおいさんが第7で働くことになりましてな。

 調査員の人出不足が問題となっておるようなので、補佐として働いてもらうことにしましたぞ」


「えっ、調査員ですか?えっ、私が?

凄い、出世だ!嘘みたい!
泰山王様、ありがとうございます」
 

と、あおいは、興奮しながら言った。


「ちょっと、あおいさん、待ちなさい!
本人に言っとらんかったな。

調査員ではないぞ!補佐をする仕事ですな。
わかりましたかな?」

 
  ああ、そっか、それもそうか……。


冥界の仕事を始めたばかりだものね!


「はい、よろしくお願い致します」


「なるほど、ここに呼ばれたのは、私の補佐にと言いたいのですね?

……承知しました。
あおいちゃん、廊下で待っていてくれ」


  蓮は、あおいが廊下に出て行くのを、見届けて話す。

 
「補佐を付けてくれるのは、ありがたいのですが、はっきり言って、まだ無理でしょう。

足を引っ張られる可能性が、大と思われます。

そこで、もう1人補佐を付けて貰えれば完璧に仕事がこなせると思いますが……。

その候補者は、鳥なんですがよろしいでしょうか?」


「なんですと、鳥?もしかして、オストリッチの事を申しておるのかな?」


「はい……ご存知ですか?」


「ああ、最近、会ったばかりですぞ!

鳥が調査員の仕事をするのですか?
……うーん、まあ、いいでしょう。

秦広王が良ければ、私はかまいませんぞ!
任せましょう」


  蓮は、オストリッチが「死神になりたい」と言っていた事を思い出していた。


 それを実現をさせるのは、とても難しい事だろう。


だが、近付く事なら、できるかもしれない。


 この先、鳥が調査員の仕事を手伝う機会など無いだろうから、こじつけて言ってみたのだった。


後は、オストリッチが本気かどうか、だけだ。


「泰山王様は、心の広い方ですね。
ありがとうございます。では、仕事に戻ります」


 スッ


 蓮は、姿を消した。


「えっ、待て!廊下にいる者を、忘れておるぞ!れーーん!」


ストン


「あっ、忘れていました!では」


 キィ、バタン。


 「あー、疲れた。さて、面会の時間ですな。スタッフー、私は、面会準備ができてますぞー!いつでも、いいですぞ」

………………

「あおいちゃん、第7にある調査員スタッフルームに行くよ。わかった?」


「調査員スタッフルームですか?了解です」


 第7の建物から右側の奥まった所にあるプレハブ小屋がそうだ。


 窓からチラリと中を覗くと、パイプ椅子を向かい合わせにして、椅子に座り、足を投げだして、3人が同じ姿勢で寝ている。


「先客がいたか……仕方がない!
 私は、仕事に戻らないといけない!

 今、あおいちゃんに付いていられないから、少しだけここの住所に行っていて!
グレースの所だよ」


 そう言って、メモを渡されて蓮は消えた。


グレースの所?ああ、あの家か。


はい、行けます!


 このメモの住所へ……。


 あおいは、瞬間移動をした。

……………

 到着ロビーで見習いをしていた時に、グレースと直通エレベーターに乗って、この家に来たことがあった。


孝蔵さんの家だよね。ノリタケさんがコウさんと呼べと言ってたっけ。


 だけど、私の持っている このポシェットの中のメモ帳には、祖父と書いてある。


 だから、おじいちゃんに違いない……。


けど、覚えていないから、おじいちゃんとは、呼べない……。


やはり、コウさんと呼ばせてもらおう。


 あおいは、孝蔵宅の庭先に到着した。


門も門扉もなく、代わりにツゲの垣根が敷地をぐるりと囲っている。


中に入ってすぐに、梅の木があり、反対側に大きな物置があって、ひさしが長く、その下に車が置いてある。


 玄関の近くには、美しく形造られた松があり、来る者の目を惹きつけるのであった。

 
 あおいは玄関の前に立ち、再び後ろを振り返って、花壇を見た。


 ほんのりと香りが、漂ってきたからだ。


 あれ、なんの香りだったかな?


白いシュウメイギクが、咲いている。


この花 可愛くて好き、でも、香っているのは、これじゃない。


辺りを見回し、やっと気がついた。


 隣の家にある金木犀きんもくせいの花が咲いていて、香りが漂ってきていたのだ。


 ああ、今はもう秋なのか。


冥界にいると季節なんて感じないから、この感じが新鮮でいいな。


そんな事を考えながら、金木犀を見ていた時でだった。


「水島?水島なのか!」


 声が聞こえて、驚いた。


 私に言っているわけではないでしょ?


 人には、私の姿は見えないはずだから……。


 声の主を探す。


 いた!


隣の2階の窓から、顔を出し、こちらを見ている男子がいる。


 誰なんだろう?

 
「あっ!あおいさん、どうしてここにいるんですか!

もう、里帰りですか?」


 何処からか帰って来たグレースは、あおいがいることに驚いたのであった。

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