冥界の仕事人

ひろろ

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第三章: 見習い仕事人

砂とあおいとオストリッチ

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「おはようございます」

 女子更衣室の中に入って挨拶をする。


「おはようございます……。
 あー!犯人は、あおいさんだったのね」

 
 家から、パンツスーツで出勤した あおいは、ポシェットをロッカーにしまおうと中に入ったのだが、入るなりユウコから、犯人と言われてしまったのである。


「下を見てみなさい、あなたが歩いた後を見てみて!」


「へっ?」


 見ると、あおいの歩いた後に砂が落ちていたのだった。


「先日も、事務所の中に砂が落ちていて、メンテナンス部が文句を言っていたのよ!

 外から中に入る時には、砂を払ってからにしなさい。ねっ?」


「はい、すみませんでした」


 瞬間移動で来る度に砂山に着いてしまい、ズボンが砂に潜ってしまっていたのだ!


どうして砂山に着いてしまうのかな?

 ちゃんとに“冥界事務所センター中”って、念じているのに!


「そうそう、後でメンテナンス部に挨拶に行きなさい。

 時間ができた時でいいですからね」

………………

「本日の司令とアナウンスは、わたくしユウハです。

  本日の班は、ユウゾウ班、ユウコ班、ユウキ班で、見習いのあおいさんは、ユウコさんについて下さい。

 それとご存知の方もいますが、一昨日の逃亡事件により、昨日から鬼がロビーの方も警備をする事になりました。

 緑札の人数によって、警備体制を変えてくれるそうです。

 その際は、司令である私が警備部へ連絡をします。

 夜勤の方からの申し送りは、特にありません。

 それでは、本日もよろしくお願いします」  


「よろしくお願いします」皆が一斉に言うので、あおいも後について言うのだった。


 ミーティング後、皆は、それぞれの机に行ってパソコンのような画面を見ている。

「ユウコさん、皆さん何をしているんですか?」


「この画面は、直近の到着予定グループがいくつか出ているのよ。

 各地区の死神が調査員に送ったデーターを事務部でも共有していてね、

それを基に事務員さん達が、大雑把にグループを分け、時刻と人数の目安となるように表を作ってくれているの。

 事務員さん達は、時間との戦いで大変らしいわよ。

……で、私たちは、その表を見て自分が担当すると思われるグループの確認をしているって訳なの」

 ピーピピッ

 各調査員からのデーターが集計されて、司令モニターに送られてきた合図音である。

「間もなく、6名到着します。

 白 6です。3名出動!

 ユウゾウ班 お願いします」

 「了解」

 3人は、急いでロビーに向かったのである。

 「次は、うちの班だから、画面を見て確認してみて!」


「はい、次は ここを見ればいいですか?

 これが時間で、こっちが人数……今の時刻は、ここにあって……えっ、次が20分後ですか?」


「マジですか?あっ、本当ですか!

 今のグループがスムーズに終わらないと後がつかえちゃいますね」


「そうなの!いかにスムーズに誘導するかが腕の見せ所なんですよ!

 あっ、これがモバノートで、到着した死者の個人情報が出てくるものです。

 色々な機能があって、非常ベルもあるのよ!先日、使ったのは これよ」

 あおいは、出動前にユウコから沢山の事を教えてもらったのである。

ピーピピッ

「間もなく、4名到着します。

 白 4です。3名出動。

 ユウコ班 お願いします!あおいさんもね」


「ユウコ班、行きます!

 あおいさん、これ 付けなさい!

 行くわよ」


 渡されたものは、片耳だけのイヤホンと胸に付ける小型マイクだったのである。

 あおいは、仲間になれたような気がして、嬉しく思ったのであった。


「ここは、冥界到着ロビーです。さあ、出て下さい!躊躇わないで!出て」

 その後も何度も出動し、拡声器を使って、スムーズに誘導したのである。

 昨日から、警備についているという鬼は、赤、青の1人ずつで、いつものジャージ姿なのであった。

 それにしても、やっぱり鬼は何も言葉を話さなかったのだ。

  
 仕事中、あおいはチラ見して、交代する鬼たちを観察してみると、赤か青の同じ服装、同じ髪型でも若干の体型の違いがあって、イケメンもいれば、残念な鬼もいることに気がついたのだ。

 何故、この人達を鬼と呼ぶかは、未だ不明である。

………………

  帰りになっちゃったけど、メンテナンス部に行くかぁ。

なんか行きづらいのよねー、あちこち砂だらけにしちゃったからなー!

 挨拶といっても、謝りに行けってことよね?

 仕方がない、行くか!

 この衝立で仕切ってある方だよね?

「失礼します、私は事務部所属、冥界ロビー係り あおい と申します。

 よろしくお願いします。

 この度は、事務所内を砂だらけにしてしまい、申し訳ありませんでした」

 メンテナンス部の園芸係りの方に5、6人いたので、そこで挨拶をしたのだった。

 中には、清掃係り と 園芸係り という吊り下げ表示板があり、奥にも違う係りの表示板があったが、よくわからなかった。

「あっ、あぉぃ……」


「あっ!あなたは……」


「あおいさーん、ちょっとぉ、こっち来てちょうだーい、この書類見てちょうだーい」

 あおいが、孝蔵に気がつき声を掛けようとした瞬間、ノリタケに呼ばれたのである。


 あおいは、お辞儀をして、その場を去り、ノリタケの元へと行くのであった。

 あの人、コウゾウさんだよね?

 何で、ここにいるんだろう?

「ちょっと、あおいさん !ここでは、生きている人と知り合いだとしても知らない振りをしないといけないのよっ!

 あの人は、あそこでは、コウさんなんだからー!

 コウさんと呼んでちょうだいね!

 いい?わかった?

 そうそう、私は孝蔵さんって呼んじゃってるけどね!

 新入りの貴女が呼ぶのは、変だもの」


「い、生きている人が何故ここに?」


「貴女、完璧に忘れたんだねー!

 詳しいことは、蓮さんか優にでも聞くといいよ。

  あら、帰る時間!じゃあねー」

……………

「リッチ君、ただいま!早かったんだね!何しているの?」
 
 オストリッチが先に帰っていて、ドブのような小さな川の側、スコップで穴を掘っていたのである。


「うんしょ、うんしょ、はぁ、大変!

 僕ね、お姉ちゃんの為に穴を掘ってるの」

「はぁ?何で?私の為なの?分かりやすく言ってくれないかな」

「……」

 あれ?無視して掘っているよ……。

 あおいは、取り敢えず作務衣に着替えて、再びオストリッチの元へと行ったのである。

 オストリッチは、一心不乱に穴を掘って、自分の身体が隠れるくらいまで掘り進めていたのだ。

「お姉ちゃん、出来たよ!

これ、お風呂って言うんでしょ?」

「……穴?いやいや、お風呂を作ってくれたの?リッチ君の身体が隠れるほど、頑張って掘ってくれた穴、いやお風呂なんだね!

 ありがとうリッチ君!

 お湯は、どこにもないけど、お風呂を作ってくれて、とっても嬉しいよ」


 オストリッチは、穴というお風呂を作って、満足顔であった。

「リッチ君、お風呂に入りたいけど、拭くものがないとダメなんだよね。

 タオルなんてないよね?」

「待っていて、先生のうちから持ってくるから!」


 この穴に水を入れたら絶対に泥水になるけど……。

 川の中に入った方が早いけど、有り難く入らせてもらうよ、リッチ君。 

 その後、あおいは桶に水を汲み、穴に移すことを繰り返し、やっと、なんとか泥水風呂が出来上がった。

 あおいは、急いで足を入れるが水が滲み出ていく、そこへオストリッチが水を掛ける。

 掛けても掛けても水は、無くなっていくのであった。

「はー、はー、お姉ちゃん、なんか疲れたー!もうお風呂おしまいでいい?」

「うん。疲れたよねー!お終いにしよう!ありがとう」

 2人は、泥だらけで寝っ転がり、ゲラゲラ笑い出した。

 何が可笑しかったのか自分たちでも

 わからなかったのである。

「何で、お風呂を作ったの?」

「お姉ちゃんが砂だらけって、先生に言ったら、お風呂があるといいって、教えてもらったんだ」

 ……砂だらけって、ちょっとショックだけど、秦広王様はどんなお風呂を教えてくれたんだろう?

「砂だらけなのは、冥界事務所センターに行くと、いつも砂山に着いてズボンが砂の中に潜ってしまうからなんだ」


「お姉ちゃん、正解は、冥界事務センターですけど……事務所では、ないです。

 間違えていたから、砂山に着いていたんじゃないですか?」


「えっ、そうなの?事務センターなの?

 そんな些細な事で、違うなんて!

  じゃあ、明日からは砂だらけ は卒業です!お風呂も要らないかもよ?」

「えーーー!僕、頑張ったのにー」

「嘘、嘘、頑張って入ろうよ!ねっ?」

「お風呂って、泥々になるものなんですねー!面白いけど、疲れるから、たまにでいい?お姉ちゃん?」

 その後、2人は仲良く川で足を洗っていたのであった。
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