冥界の仕事人

ひろろ

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第三章: 見習い仕事人

運命の悪戯?

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   へぇーいい女がいるぞ!
 スタイルがいいねぇ。

Tシャツとジーンズの20代後半の女性の姿を見ている男がいた。

 女性の斜め後方から舐めるような目つきで見ている男は、あおいの肩に手を回していた緑札のおじさんであった。


 うんっ?なんか紙みたいな物が落ちたぞ!

 何だあれは?

 そういやぁ、皆んなのおでこに変な札みたいなもんが付いてんなぁ!

 おっ、ねーちゃんが紙を拾ったぞ!


 あっ、さっき俺に文句言った ババアが来た!

 何かごにょごにょ言ってんな、聞こえねぇーよ!

 うん?女になんか指を指して教えているのか?


「 ! 」


 エレベーターが出てきた!


 まさか……乗って帰れるとか?


 ……生き返れるとか、きっとそうだな。


 あおいは、小声で女性に言う。

「皆さんが移動開始しても行かずに、あちらへ行って下さい」

 あおいは、小さく指を指して教えていたのだった。


「それでは、左手の方にある自動ドアを出て、受付をして下さい!

 どうぞ、こちらです !

 そこの方も来て下さい!」


 死者がまとまって、自動ドアから出て行こうとしていた時、向きを変え 猛ダッシュで、ユウコと20代の女性がいる方へ男が向かって来たのだっ!

「きゃあっ」
 開いたエレベーターに乗ろうとした女性が驚き、声を上げた!


 ユウコも驚き、首に掛けてあった電子手帳みたいな物のボタンを押した!

すると、途轍とてつもない大きな音が鳴ったのだ!

ホァンホァン ホァンホァン ……

「止まれーーー」

 後ろからユウジが追いかけ叫んだが、男は止まること無く、ユウコに体当たりしてエレベーターに乗り込んだ!
 

あーーー!


 ドアが閉まってしまった!


  あおいは、何が起こったのか理解が出来なくて呆然としていた。


「ユウジさん、何が起きたんですか?」
 イヤホンにユウゾウから連絡が入った!

 ユウジは、胸にあるピンマイクを持って話す。


「逃亡者が1名、人間界へ行ったらしい!生還者が1名、今から戻す!

 悪いが、死神 管理官に連絡して指名手配をしてくれ!

 逃亡者は、及川健吾、生還者は、速水成海だ。

 エレベーターは、速水成海のデーターで設定してあるはずだ。

 迷惑をかけてすまん。よろしく頼む」

 話しが終わると同時に!
 
 鬼たちの集団が勢いよくやって来たが、どこに犯人がいるんだとキョロキョロしている。


「警備員さん、逃亡者が1名 人間界へ行ったもようです」

 ユウジが伝えると、代表の鬼が頷き、鬼の集団は戻っていったのである。


 鬼たちは、こんな時でも無言なのだ!

 どうして、声をださないんだろう?

 あおいは、ずっと気になっているが、またの機会に聞こうと思う。


「皆様、驚かせてしまい申し訳ありませんでした。

 本日、避難訓練を実施しておりました。

 ご協力 ありがとうございました」


 ユウジが咄嗟に嘘をつき、その場を繕い、直ちに指令を出す。


「ユウキ班とユウゴさん、ミユウさんは、そちらの方々を連れて受付に行って、きっちりと見ていて下さい」


「了解です」揃って言った。


「ユウコさん、速水成海さんを戻して下さい」


「承知しました」

 そう言うと、ユウコは電子手帳の様な物を操作して、エレベーターを呼び出した。


「速水成海様、もしかすると先程の方が貴女の戻る場所にいるかもしれません!

 ここでの記憶は無くなるはずですが、
男を追い払う強い心だけは、持っていて下さい」

 ユウコは右手を大きく動かし女性の目の前で、円を描いた。

「えっ、何ですか?」女性が聞いた。

「貴女を待っているお子様がいらっしゃいますね?

 この先、貴女が強い心で生きていけるように、おまじないをしました。

 どうぞ、エレベーターにお乗り下さい」


「はい、ありがとうございました」
女性がにっこりとして御礼を言うと、

 ユウコは、お辞儀をして見送った。


 そうして、女性が乗ったエレベーターは消えていったのである。


 あおいは、ユウコの優しさに感動して小さく拍手をするのだった。


 そんな あおいの方を振り向いて、真顔のユウコがひと言。


「撤収しましょう」


 事務所に戻りながら、ユウコとユウジが話している。


「あの男は、見つかるでしょうか?

 さっき、体当たりされて転んだ時にモバノートに私の指が触れてしまったので、行き先が変わってしまったかもしれません!」


「何だって、それは、大変だ!
 事務所に報告しましょう。

さあ、もうすぐ 次の団体がやって来ます。

 データーを見ておかないと!」

 
 簡単な仕事だと思っていたけど、もしかして、難しいのかも?

 あおいは、少し自信を無くしかけていたのだった。

 
「あのぉ、逃げたおじさんは捕まえなくてもいいんですか?」


「いや、捕まえますよ。ただ我々では無理なんです。

 人間界で仕事をするのは、死神と調査員ですから、捕獲を頼みました。

 鬼も人間界までは、行きません」

 
「そうなんですか、ユウジさん ありがとうございます。

 それで、その耳と胸に付いている物は何ですか?」


「これは、職員同士が離れた所から会話をする物なんですよ。

 もう少ししたら、あおいさんにも渡しますね」


 早く貰いたいな……カッコイイもの!


「でも、どうしてあの女性の札がとれたんだろう?

 私の札は、触わろうとしても触れないし、額の深い所にあるみたいです」


「理由は、我々にも分からないわね!

 神様の心がわりかもしれないし、医者の腕が凄いとか、この世もあの世も想像を超える事が起こるものですよ」

 ユウコさんの言葉に何となく納得するあおいであった。
……………

「ちょっと、大丈夫でしょうか……」

「今さら言うのか?お前が蝋燭を消してしまったかも!って言ったから……」

  第7の門にある冥界の生命の泉で、消えた蝋燭の回収を数名でしていた時の事。


「おい、あっちにも消えた蝋燭があるぜ。

 見習い、取ってこい。
 ほら、そこだよ!」


「これですか……あっ!」


「どうした?見習い!」


「私が通った通路にある蝋燭の火が消えちゃったみたいです!

 今、消えて煙りがあがりました!

 先輩、ど、どうしましょう!」


「他の人は、見ていない!隣の火で付けるぞ!これは、秘密だぞ!」

 
「先輩、す、すみません……ありがとうございます……ユキト先生から注意をされていたのに……これからは、慎重にします……」


「泣くなよ!きっと、この人は生きているさ!忘れよう」


 この2人は、蝋燭の火を消してしまったと思い込み、火を灯してしまっていたのだった。


 天界の上にある天上界のその上にある 

 天最上界に住む、1番偉い神様は、この2人がした事を知っていたが、そのままにしていた。


 そう、これもまた運命なのじゃ。



 運命は、どこでどう転ぶかも分からん。



 生かされた生命いのちなのだから、その時間を有効に使うが良い……。


 その頃、逃亡者は自分が生きていると思い込んでいたのであった……。
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