冥界の仕事人

ひろろ

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第ニ章: 見習い準備中

びっくり妖精! ☆

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 爽やかな風が、木々の葉を揺らし、

 キラキラした木漏れ日が少し眩しい。

 あおいは、木陰にあるベンチに横たわっていた。
 

「気分は、いかがですか?」


 あおいが舟の中で聞いた女の子の声に似ている。 


 「はい、だいぶ楽になりました。ありがとうございます……」


 あたし、本当に目が覚めているの?


 夢かな?


 ぼんやりとしている目をこすって見る。


 「私、フェアリーのしょうちゃんです。よろしくね」


  えっと……訳すと妖精ってことよね?


 確かに、小さくて、背中に羽根が付いていて、宙に浮いている……


 金髪の巻髪ロングヘアに赤いリボンのカチューシャをしている。


 可愛い美少女の妖精さん……?


  ……ということは、こちらの方も妖精さん……?


 何とも言いようのない格好のおっさん……いや、妙なおじさんがいる!


 塔みたいな飾りがついているニット帽を被って、可愛くない鬼?のアップリケのある腹巻きにフォークの様な物を差している。

 襟つきシャツにダボっとしたズボン……どうしたら、こんなコーディネートになるのか不思議でたまらない!

 もちろん羽根がついている。


「あのさー、祥ちゃん!私、おっさんに見えるかい?」

 あおいに聞こえないようにコソコソ話す。


「若くすれば良かったのに!あなた、センスが無いわよ!」と小さい声で返した。

「祥ちゃんが若作りし過ぎなんだよ!」


「あー、オッホン!私は、モンテンだ。モンちゃんと呼んでくれ」


「祥ちゃんとモンちゃんですね。
私は水島あおいと申します。

 ここは、天界なのでしょうか?

 第7の門で、天界エレベーターに乗って行くと聞いたんですけど、舟に乗ってきたので、妖精の国に来てしまったのでしょうか?」


「安心して、ここは天界よ!通常はエレベーターなんだけど、今日は点検中だったから、以前 使用していた舟を使ったの!

 私が舟で迎えに行ったのよ!

 気がつかなかったみたいだけど……


 そうそう、通行許可証を出して下さい」



「はい、どうぞ。すみません、気を失っちゃって……」

 渡す時にチラッと見たスタンプラリーのゴールは、鳥居の形の判子だった。


 リッチ君……今、どこ?
 

「それより、早く案内しようよ!」

「そうね!行きましょう」


 あれ?やっぱり夢ではないみたい……


 あおいが乗って来た船は、公園の中にある小川に係留してあって、その側のベンチで休憩していたのだった。


 公園は、とても広く、花壇は幾つもあって、それぞれ同色の花で統一されて華やかである。


 その園内を歩いていると、何人もの人に会い、その度に挨拶をするのだった。


  若い人には会わないなぁと思った瞬間



「そうだよ!若い人はあまりいないよ!
でも、良い人たちの集まりだから、居心地は良いはずだよ!」


 えっ?


 口に出して言っていないと思ったけど!


 あたし、話してたのかな???


「そうですか、良かった!それで、住む場所とかってあるんですか?寝る場所とか?」


 あおいは、聞いておいて気がついた!

 冥界に来てから、一度も寝ていないことを!


「住む場所は、居住区から先どこでも。好きな所に自分で建てるのよ」


「あたし、私、大工さんじゃないから作れません!どうしよう……」



「大丈夫だよ。材料は沢山あるし、手伝ってくれる人ばかりだし!皆んな、暇なんだから!

 まあ、寝なくても平気だけどね!

 部屋があると落ち着くでしょう?」



 あたし、工作とか苦手だし、トンカチとかノコギリとかって、出来ないし!

 そんな、素人が無理に決まっているよ!

「大丈夫だよ!何とかなるからさ」


「 ! 」


 あれ?また、口に出して言ったっけ?



 そんな事を思っていたら、飛んでいた2人がこちらを振り向いた。


「ほら、ここから居住区だよ、あっちに材料が沢山あるから!

 同じ色を使うと綺麗だよ!」


「向こうの家なんて、黒で統一感があるから素敵だわ!」


 あっ、これって、そういう事ですか……



 墓所に使う石と何も書かれていない塔婆らしき板が沢山置いてあった。



「家を建てたら、ゆっくりするといいわ。好きな所に散歩に行けるけど、立ち入り禁止のテープの所は、入ってはダメよ!」



「分からない事は、先輩たちに聞くといいよ。じゃあ、帰るから!」


 えー!やだ、1人にしないでよぉー!


「だいじょぶだよー!ここの人たちは、すっごく優しいからねー」


「 ! 」


 げっ、モンちゃん、ヤバイ……!

 心の声がわかっちゃうんだ……!

 本当に1人になってしまった あおいは、まず材料置き場に行くことにした。


 この石、あたしが運べるのかな?

 試しに石の板を持ち上げてみた。


 うんしょっ……ありゃ?軽い?えっ、じゃあ、こっちの石はどうかな?うんしょっ、軽い!


 他の人たちは適度な間隔を取って、家?陣地?を作って、そこにテントを張っていた。


 はっ、テントってどこ?



材料置き場をウロウロ探すが、見つからない。


「お嬢さん、お嬢さん、どうしました?
困り事ですか?」


 あっ、この人は!

 “品の良さそうなお爺さん"だ!


 そっか、あたしより先にここへ来ていたものね……。


「あっ、到着ロビーで一緒だった方ですね?知っている人がいて、良かったです。

 今から家を作ろうと思っていたんですけど、皆さんがテントを設営しているから、どこにあるかと探していました」


「ああ、そこの木の箱、ベンチシートの中にあります」


 シートの部分を持ち上げ、筒状のテントを取り出した。


「ありがとうございました」


「どうしたのー?」


「うちを作るのかい?」


 あおいの側に何人か集まってきて、手伝ってくれたのだった。


 あおいの意見を聞いて、造ってくれたという方が正しい。


 あおいの宅地は、あの品の良さそうなお爺さん、改め、利通家の隣にした。


 土台と柱は、明るい灰色の花崗岩にして、門の代わりに木の板を左右に立てた。


 テントは、黄色。

 目印は、家の横にあるモミジの木だ。



「皆さん、色々とありがとうございました。

 遅くなりましたが……あおいです。

 よろしくお願いします」


 我が家に入って、考えた。

  
 あたしの苗字って、何だっけ?


 どうしても思い出せない……


「あおいさーん、暗くなる前に水を汲みに行きませんか?」


 そうだった、材料置き場から桶と柄杓ひしゃくを持ってきたんだ!


 利通さんが せせらぎ川に連れて行ってくれるって言っていたんだ。


あおいは、利通と草花が生えている小道を歩き、森の中へ入った。


 高い木が多く、薄暗く感じる。

 鳥のさえずりが騒がしく聞こえてくる。

 侵入者が森へ入ったぞとでも言っているようだ。


 それから、真っ直ぐの小道を進むと明るい場所に出た。


「着きましたよ、このお水は、美味しいですよ」


 せせらぎ川の水は、とても冷たくて美味しかった。


 冥界に来て、初めて口にしたものだ。


「あた、私、冥界に来てから飲まず食わずでいました!本当、このお水、美味しいですね」


 せせらぎ川は、幅が狭くて向こう側にまたいで行けそうな感じだ。

 川の水がキラキラ輝いて流れてゆく。

 いつまで見ていても飽きない気がする。


「そうそう、1つ注意があります。この向こう側、奥の方にテープがありますよね?


 見えましたか?

 あそこは立ち入り禁止ですから、入らないで下さいね」


「どうしてですか?」


「聞いた話ですが、神様たちの居住区らしいですよ」


 
「神様が住んでいるの?へー」


 
 我が家に帰ってからの夜……。


 暇!暇!テレビもない!娯楽がない!


 話す相手も居ない!


 もう、寝るしかないじゃない!


 暇人あおいは、朝から家の石階段に座り、人が通るのを待っている。


 誰かと水でも汲みに行くか、公園に行こうかと考えていた時に、妖精がこちらに向かって飛んで来ることに気づいた。


「あっ、祥ちゃん!モンちゃん、どこへ行くんですか?」


「仕事なのよ!急ぐのよ、ごめんなさいね」

 祥ちゃんが早口で言って、飛んで行ってしまった。


 はー、それにしても暇だよ!


 リッチ君は、どうしているかな?

 第1の門に着いたかな?まだかな?


 会いたいよ……。

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