冥界の仕事人

ひろろ

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第一章: はじまり

三途の川のほとりにて

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 第2の門を目前に、脱衣場へと、引き返す事になった、あおいとオストリッチ。
 
  
 蛇に睨まれた蛙 状態の2人。
もちろん、蛇はダツエ婆である。

 
 「コラッ、娘、こっちへ来い!
 
 川から上がってきた女を女用の囲いに連れて行きな!

 おい、鳥!もたもたしている男をくちばしつついて連れてきなっ!」


「はいっ!」


  2人は、口を揃えて返事をし、分かれて仕事をする。


 そして、2人は思う、これはどういう状況なのだろうか?


 「痛っ、いてーよ!つつくなよ!バカヤロー、このぉ、チビダチョウめー!
  

 うつ伏せに倒れていた スキンヘッドの男を嘴で突いていたら、起き上がって、追いかけてきた。


 オストリッチは、わざと低く飛び、ゆっくりと逃げるフリをして、男性用の囲いの所に誘い込む。


 そこで、待っていたダツエ婆と鬼たちが捕まえて、囲いの中に放り込むという作戦だ。


 「よし、いいぞ ダチョウ!もっと、やってこい!」


「僕は、鶴です!鶴なんだよ」


 それからも、濁流側の岸で突きまくって、残っているのは数名となった。


 滝壺に落ちずに、岸に辿り着く根性があるだけに、全員、凶暴のようだ。


  しかし、赤鬼と青鬼がしっかりとガードしているから、安心だ!

……と、ダツエ婆が言うので……。

  オストリッチは、身体を張って頑張るのだった。


 ここの鬼達は、赤鬼は赤、青鬼は青の海パンを履いている。
川を渡っている時、対岸へ引き返して脱走をする者がたまにいるらしい。

 その脱走者を いつでも泳いで捕まえられるように、海パンでいるのだった。


 そのための見張り台が、浅瀬側、濁流側に設置され、対岸の方にもあって、計4箇所にある。

 どの鬼も、なぜか七三分けの髪型。
 マッチョで、黒光りした肌の色。
 首から下げているホイッスルがお洒落に見えるのが、不思議である。
 

  一方、あおいは浅瀬側の女性を担当していた。
 
「さあ、立って!立って!ほらぁ、早く」

 やっと、岸に辿り着き、動けない人ばかりで、なかなか立ち上がらない。


 「お姉ちゃん、学校でお年寄りを大切にしなさいって、教わらなかったかい?おんぶしてよ」


「え……そんな事できません!早く立っ下さい。はい、引っ張るから手を出して」


  せーのーで、よっこらしょっ。
 

 「おぉ、腰が痛い、あそこに行けばいいんだね?わかった、ありがとうね」


 それから、暫くの間 あおいとオストリッチは、囲いまで追い立てる仕事をしたのだった。


「若い娘、川から上がってくる、あの人、連れて来なよ」


 トミエに言われ水際へ行く。


「休まないで、あの囲いの方へ行って下さい」


「だめ、だめ、へとへと、はーしんどい」

中年の女性が倒れ込んだ。


 すると、赤鬼が来て、その女性をひょいと担いで、囲いの前に連れて行った。


 他の人も担いでくれたら、早かったのにと思ったが、口には出さない。

 鬼は、カッコいいけど、怖そうなのだ。


「ふー、やっと、落ち着いてきたな。
  
 なんだか今日は、やけに忙しくてさ。

 少しだけ、休憩しよう」

 トミエが言ったので、あおいは ボーっと川を眺めていた。

 あれ?

 川を白札専用と緑札専用とに、区切っている柵があることに気がついた。


 その柵の近く、浅瀬側の水際に男性がいる。男性の方はトミエが担当しているが、休憩中なのだからとあおいが呼びに行くことにした。

 
  足は水に浸かったまま対岸を向いて、ただ立っている。


 40代だろうか。
 サラリーマンなのかな。
 黒っぽいスーツを着ている。
 
 川を渡って来たから、びしょ濡れだ。
 靴は、履いていない……。


「あのぉ、男性の方は、向こうの方にある囲いに入って下さい。さあ、行きましょう」


 「……」


「どうかしましたか?あちらに何か忘れ物でもしましたか?」


「……」

  はー

  あおいは、溜息をつき、また、話しかける。

「おじさん、何歳ですか?父と同じくらいに見えたから、気になっちゃて」

 そう言うと おじさんがやっと、あおいの方を見た。


「……お嬢さん、いくつ?」


 「17歳です」


「そうか……おじさんの息子は、15歳だよ…………今頃、家族は泣いているだろう ……なんて、バカな事をしてしまったんだ!……俺は、家族を残して……逃げた」


 そう言って泣いている おじさんの姿を見たら、あおいも泣けてきてしまった。


  家族の顔が浮かんでくる。
 お父さん、お母さん、旬……。
 もう、会えないんだ……。
 話せないんだ……な。

「もう……戻れないんですね……」

 そう言うと、あおいは声を上げて泣いた。

現実を受け入れる為に、思いっきり泣いた。

 つられて、おじさんも声を上げて泣いた。

「死んじゃって、ごめんなさい」

「バカな事して、ごめんな」


  対岸に向かって、大声で泣く2人の姿に、ダツエ婆が呆れて寄ってきた。


「何、泣いてんだい!
  
 後悔したって、もう戻れないんだよっ!

 人を不幸にしちまったから、ここに来たんだろう!

 さっさと、男の囲いに行きな!

娘、仕事しな!」


 おじさんは、ダツエ婆の迫力にびびり、急いで囲いの方へ向かった。

 ダツエ婆もおじさんの横について、小走りになっていた。


「あんた、前に進むしかないんだよ!
 逃げようって、思うんじゃないよ!


 受けるべき罰は、受けな!
 地獄が待っていようが、耐えるんだ!

 いいかい?弱音なんか吐くんじゃないよ!ハァ、ハァ……」

 ダツエ婆が息を切らしている。
腰は、曲がっていないが、相当な歳に違いない。


「はい……肝に命じます。ありがとうございました」

 立ち止まり礼をして、囲いの中に消えて行った。


 ダツエ婆は、疲れて八つ当たりのように声を張り上げる。


「ほら、そこの女と鶴!早くあっちに並び……な?鶴……若い女?冥界事務員の制服を着ているな……何だ?
 
秦広ちゃんが、また手伝いの娘を増やしてくれたのかえ?」


 そこには、頭頂部が赤く、白で一部が黒い大きな翼を広げた鶴と、黒いパンツスーツの若い女性が立っていた。

 鶴はオストリッチと同様に、座布団を背負っているのであった。
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