冥界の仕事人

ひろろ

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第一章: はじまり

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 僕の目の前に、ボサボサ頭で、白いドレスを着て、草履を履いた お姉ちゃんがいる……。


 “満面の笑み”って、この顔のことかな。


 オストリッチは、そう思いながらも、言うべき事を言う。


 「お姉さん、その格好では、僕に乗ることは出来ないです。

 ドレスで、僕がすっぽり隠れちゃって、前が見えなくなっちゃうでしょ?」


 「あっ」


 あおいは、何も考えていなかったのだ。


「向こうに見えるのが、第2の門です。
 そんなの着て歩いている人は、1人もいないですよね?」
 
 
「あ……うん。みんな地味だね。あたし、浮いているのか……はー、空までどんよりに見えるよ……あ、曇っているんだね……」


 ……って、冥界に来てから、かなりの時間が経っている気がするのに、夜がきていないと思う!

 
  なんで?


「ねえリッチ君、あたしがここへ来て、どれくらい経っているの?

 夜がきていない気がするんだけど?」


「あぁ、知らなかったんですね。
 冥界の第7の門まで、基本、夜にはなりません。一部の緑札用の通路や地獄は、逆にずっと夜のままなんです」
 

  オストリッチは、翼の羽をめくり腕時計を見た。


「えーと、えーと、お姉さんが冥界に来てから……」


 短い指を丸めるようにして、数えている。


「うーん、5日目くらいかな?」


 「えー!そんなに?お腹も空いていないし、のども渇いていないのに?
そんなに日にちが過ぎていたなんて!

 いやー、信じられない!
 嘘でしょう?」


 人間界とは、時間の流れ方が違うのかしら?


「この道を通っている白札の方達は、到着ロビーから第1の門までを7日間で歩いて、更に第2の門までも7日間で歩かなければならないのです。

 歩けば遠い道のりなんですが、お姉さんは、僕が乗せてきているから、早く到着しています」
 

 「14日間も歩くの?知らなかった……
   リッチ君、乗せてきてくれて、ありがとうございます」


「はい、どういたしまして!
……あ、付け加えてお知らせしますが、白札の方は、亡くなってから第7の門までを49日間で到着できないと、地獄行きになる可能性があります。
 
 お姉さんは、金札の特別待遇ですから、良かったですね」


「本当、感謝しています」

 あおいは、金札で良かったと心から思うのであった。


 「では、第2の門へと歩いて行きましょう」


  2人は、緩やかな坂道を歩き始めた。



 「ちょっ、ちょっと待って!

   そっちじゃないよっ!

   そこの鳥と若い娘っ!

   こっちだってば!」


 驚いて振り向く2人。


「こんな所に居たのか!随分、探したんだよっ!」


 水色の作務衣を着た、あおいと同じくらいの歳に見える娘が駆け寄ってきたのである。


「ダツエ婆が遅いって、お怒りだよ。
 それにしても、何だい その格好は!
 そんなの着て動けないだろう!
 まあ、いい。ほら、早く走りな!」


  何が何だかわからないまま、あおいは、ドレスを持ち上げ掴んで走り、オストリッチは飛びながら、娘の後を追う。


 娘は、白札専用2つの囲いの裏側、スタッフ専用通路を通り過ぎ、川の端っこにある2つの囲いの間を通って、ようやく止まった。


 「ダツエ婆様、連れてきましたー」

 そこには、紫色の作務衣を着た お婆さんがいた。

「まったく、随分と待たせてくれたね。何だい、その変な格好は!
トミエ!服を出してやんな!」


 あおいは、手前の囲いの裏側、スタッフルームとある小部屋に案内された。

 「入って、これに着替えな」

 首を傾げながらも着替え、手にドレスを抱えて出てきた。


 「あのぉ、このドレスをしまう袋とかありませんか?」


 「いるのかい?こんなの邪魔だよな。いらないだろう」


 そう言うと、トミエと呼ばれた娘がドレスを掴んで、近くにあった木の枝に掛けた。


「えっ!その木って、まさか、衣料樹様ですか?」


「そうに決まってるだろう!
 ここにある裸の木は、みんなそうさ!」


 パッ


 ドレスは、消えてしまった……。


 あおいは、軽くショックを受けたが、動きづらいのも事実なので、諦めた。


 トミエと同じ水色の作務衣を着て、ダツエ婆の所へ戻る。


 白札専用の囲いにいたのは、“タツエ様”で、このお婆さんは、“ダツエ婆”で、ややこしいのである。


 すかさず、オストリッチがあおいの側に来て、囁く。


「大変です。ここって、緑札専用の脱衣場です。先生から、近づいてはいけないと言われていました」


 「こ、怖い!早く第2の門へ行こう!」


 あおいは、そっと後退りをはじめたが、オストリッチは、前にしか歩けないのか
足踏みをするように、前へと進んでしまっていた。


  リッチ君、バックして!

 バックだよ!

 あおいが、口ぱくで指示をだす。


 だが、時は既に遅し……なのであった。
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