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第一章: はじまり
第1の門
しおりを挟む前方を歩く オストリッチは、折り紙くらいの大きさのランドセルを背負っているみたいにみえる。
第1の門 所長室へと向かう、あおいとオストリッチ。
時折、強い風が吹くが硬い地面なのか、砂は飛ばない。
オストリッチが言っていたように、確かにキレイでアカルイ。
だが…… 意味が違う気がする……。
ゴミもなくキレイだけど、植物もなく、あるといえば前に見える門と白い建物だけである。
青空ではなく空全面、薄い雲に覆われている明るさ。
……薄明るいっていうの? 確かに暗くはないけど。
「リッチ君、あれが第1の門なの?」
2人を迎えるのは、巨大な白い石の対の門柱で、それぞれに 菊や鶴、唐草模様が彫られた立派なもの。
左柱の横に 金通用門という 立て看板がある。
「そうです。金札の人と許可された者のみ 通ることができます。
秦広王様は、厳格な方ですので礼儀には気をつけて下さい」
コクリと頷き中へと入る。
ピポン ピポン
突然鳴り響く音にドキッとし、きょろきょろと音の発信源を探す。
「この音は、何?」
「この音は、門の中へ入ったことを知らせるものです」
門から白い建物まで、キラキラ光る白い小石が敷かれている。
ジャリジャリジャリ
張り詰めた空気の中を踏みしめ歩く。
玄関の前に立つと、引戸が静かに開き、オストリッチは無言のまま 入っていく。
ひとつ深呼吸をして、あおいも後へ続く。
線香の香り漂う短い廊下……。
誰にも会わないまま、ドアの前へと着く。ドアには1羽の鶴が描かれている。
オストリッチはフワフワの胸羽の中から小さな紙を取り出した。
あおいはひとつ驚愕する事になる。
えっ、と驚く事に彼の両翼の先には3本ずつ指があるのだ。
そのまま両翼の指で器用に小さい紙を持つ。
「水島 あおいさん、到着しました」
もしかして、あの紙に 名前が書かれていたのかな?
今まで、名前を覚えられなくて、お姉さんって呼んでいたのかな?
「よろしい。 入りたまえ」
聴こえてくるのは、とても貫禄のある男性の声。あおいは硬直してしまった。
「失礼致します」
オストリッチが飛びながら、ドアを開け中へ入った。
バタン!
「⁈」
あおいが続いて入ろうとしたところでドアが閉まったのだった。
えぇー!やばい、どうしよう!
リッチ君、どうやって入った?思い出せ……。
そうだ!名前だ!
「水島 あおいさん 到着 致しました」
はっ、間違えた!
自分にさんをつけてしまったあー!
「オストリッチ、随分、変わった娘だな」
オストリッチは黙ってうなずいた。
「よろしい、入りたまえ!」
「失礼します」
ギクシャクしながら入室するあおいであった。
白い天井と壁、4畳半くらいの部屋の横幅と同じ長さの黒いカウンターが置かれていた。
カウンター手前にオストリッチ、奥側に秦広王が立っている。
秦広王の声のイメージから、太ったお爺さんを想像していたが、長身スレンダーのカッコいいおじ様だった。
人間界と同じような法服を着ていて、片耳にイヤホンをしている。
オストリッチは飛び上がり、直立不動のあおいに「挨拶」と小声で言った。
あっ、そっか!
「おはようございます?こんにちは?
こんば……んは?」
何時かわからず、結局 全部言ってしまった!
「第1の門へようこそ。裁判官で所長の秦広王である。
ここは、各札の方々の書類審査を行い、進むべき道を決定するところである。
君の氏名、年齢、住所、死亡の理由を述べよ」
カウンターの上には、ファックスに似ている物があり、突然、音をたて紙が出てきた。
あおいの話しを聞きながら、秦広王は、その紙に目を通している。
話し終えても、まだ、紙を見ている。
自分の事が書かれていると思い、不安になる。
何か問題でもあったのかな?
怖いな……。
そんな時 オストリッチが、カウンターと秦広王の後方にある金屏風の上を飛び越え、奥に続く部屋に行ってしまった。
ちょっと!何で行っちゃうのっ?
リッチ君!ひとりにしないでよっ!
奥の方から、沢山のスタッフが働いている気配がするが、金屏風で奥は見えない。
あおいは、カウンター越しの秦広王の様子をうかがっていたが、動きが停止しているように思えた。
何なのこれ?ピクリとも動かない!
静止画みたい!
もしかして、目を開けたまま、眠っていますかー?
秦広王からの言葉を待ち、目だけをキョロキョロさせて、カウンターの上を見ていた。
艶やかな木彫りの鶴と書類の山……。
あれ?あそこにある本は……。
「待たせたな!」
突然の声に、背筋が伸びる。
「水島あおい、君には金札が貼られている。これは、生前に善行を多くしてきた者だけに貼られる色だ。
本来なら、第1の門から、直接、天界へと行けるのだ。
君は、己の命と引き換えに、子どもの命を救った。素晴らしいことである。
だが、君が亡くなった事で、悲しんでいる者達がいる。
祖父よりも、両親よりも先に逝くとは、許されることではない。
よって、君の善行を考慮した上、各門へと旅をさせることとした。
よろしいか?」
あら?各門へ旅をすることは、リッチ君から聞いたけど……。
これって、今、決めたわけじゃないでしょ?と心の中で突っ込みを入れた。
「よろしいな?」
ファックス音がして、紙を手に持ち聞いてきた。
「はい、行きます。」
「よし。ところで、君は、学生だったな。データーによると、学力は壊滅的だが、学ぶべき事は、それ以外にもある。
色々な勉強をしたまえよ。
私が指導できればよいのだが、多忙ゆえ無理だ。
では、これが通行許可証だ。
各場所にて判をもらいたまえ」
そう言うと、通行証に判を押し、紐付きケースに入れてくれた。
「これを持って、行きたまえ。では」
「あのぉ、どこへどうやって、行ったら良いのでしょうか……」
「……」
えっ!また、停止している!
反応がないし!
この部屋から出るべき?
そんな時、オストリッチが奥の部屋から飛んできた。
「もう、リッチ君!どこに行ってたの?
もう戻って来ないかと思っちゃった!」
側に寄ってきたオストリッチに小声で話しかける。
「秦広王様が……」
「しっ、静かに!出ましょう」
オストリッチが言葉を遮ぎり、ドアを開け出たので、あおいも急いで後に続こうとした。
「バタン」
また、残されてしまった。
ひどい、ひどいよ!リッチ君!
「オストリッチは、幼いが頼りになるであろう。
少々、短気ではあるが、仲良く行きたまえ。」
後ろから、秦広王の声がして、軽く飛び退いた。
「はっ、はい。」
「ありがとうございました。」
お辞儀をして、部屋を出た。
秦広王様、起きてたの?
居眠りしていたの?
なんだか、凄く失礼な人なのかも!
はー。
あおいは、深い息を吐いた。
あおいを待っていたオストリッチは、
無言で通ってきた廊下をもどり、玄関を出た。
あおいは、オストリッチの後について歩き、山程ある疑問の整理をしていた。
何から聞いたらいいんだろう?
ジャリジャリジャリ
小石を踏みしめ、オストリッチと並んで歩いている。
リッチ君、足が小さいし、細いから歩きにくそうだな。
飛べば楽なのに。
あたしに合わせて、歩いてくれているのかも。
第1の門を出る手前、左脇に“天界エレベーター ”と矢印が書かれた立て看板を見つけた。
矢印の方向をみると、到着ロビーで一緒だった、品の良いおじいさんがエレベーターに乗ろうとしていた。
「では、安らかなる時をお過ごし下さい」
女性が深くお辞儀をして、見送っていた
「立ち止まらず、歩いて下さい。」
先に門を出たオストリッチに言われた。
あおいも門から出て、溜めていた言葉をぶちまける。
「あたしは、あのエレベーターに乗れないの?
秦広王様が、無言で、静止画みたいになったのって、眠っていたの?
あたし、これから どこに行くの?
秦広王様から、勉強しろと言われた気がするんだけど、何のこと?
それと……」
「お姉さん、ちょっと、待って!」
「リッチ君は、どこまで一緒に来てくれるの?ねえ、教えて!」
「うるさ~い」
オストリッチが大声で叫んだ瞬間
すぐさま、貫禄のある声が、頭上に響く。
「コラー!オストリッチ!聞こえたぞー!言葉遣いを丁寧にしたまえよー!
よろしいなー!気をつけて、行ってきたまえよー!」
「はい、先生」
門に向かい、深々とお辞儀をした。
「聞きたい事は、わかりましたが、ひとまず、参りましょう。」
そう言って、門の中にあった立て看板と同じ方向に歩きはじめた。
地面には、行き先を示すように白く細い道が出来ていく。
オストリッチは、嬉しそうに歩いている。
先生が、気をつけて、なんて言ってくれた……。
振り返って、後ろを見ると、通ってきた道は消え、門も見えなくなっていた。
立ち止まっていた あおいに気づいて、オストリッチが言う。
「ここまで来たから、話しましょう」
「先生が、いえ、秦広王様が、静止している時は、他の部屋へ仕事に行っている時なのです。はい」
簡単に答えて終わらせるつもりだ。
「いや、いや。あたしの目の前にいたんだから!姿があって、フリーズしていたんだよ?あっ、動きが止まっていたんだよ?それは、理解できません!」
「何て説明しましょうか。
第1の門では、緑札の悪人用の緑門
白札の一般用の白門、金札の善人用の金門があります。
緑門と白門では、三途の川を渡る時のコース分けをしています。
大勢のスタッフで、書類審査をしていますが、迷う事があると、秦広王様が判断します。
そして、秦広王様が面会するのは、金札の方のみです。
予め金門で、書類審査を行なってから、面会しています」
「……で、静止している時は?」
「あっ、はい。
秦広……もう、先生って言っていいですか?いつもの言い方の方が楽なので」
「どうぞ」
「先生が静止状態になっている時は、
分身を置いて他のスタッフに指示を出しに行ったり、データーを見ていたりしている時です。
第1の門は、全データーの集まる場所なので、とても忙しいところなのです」
「ふーん、わかったような、わからないような……、何となくわかった!」
あたしと面会している時に、他の仕事をしていたという事が良くわかった!
少し機嫌が悪くなった、あおいだった。
「じゃあ、さっきのおじいさんは、エレベーターに乗って、どっかに行けるのに何で、あたしは歩いているの?」
「ああ、さっきの方は、極善人といって旅をする必要がない方です。
天界へ行くので、直通エレベーターで行ったのです」
「お姉さんが、旅をしなければいけない理由は、先生から聞いていますね。
ちなみに、目指す場所は……」
フワフワの胸羽の中をゴソゴソ。
何やら紙を出し、見てから言う
「えーと、ゴールは、第7の門 泰山王様の所です。暫くは、白札用の道を通行します。
一応、金札なので、優遇されて上空を通ることができますよ。良かったですね。
普通に行ったら、苦労しますから」
「えっ、上空を通るって言った?
乗り物があるの?」
「ありますよ。だから、僕がいるんです。今、準備しますね!」
「ひぃ、いやだ!だったら、歩いた方がいい!」
ピッ、ポワン!
あおいの足元に犬顔座布団が現れた。
「お乗り下さい」
「えーバランスが難しいから、嫌なんだけど……」
「早く、乗ってよ!」
少しキレ気味に言われ渋々、乗ってみたが、やはり……。
ストーン、ゴツン
正座をしたままの格好で転がり落ちた。
「もう、やだー」
言いながらも、再度 挑戦する。
「では、第2の門へ出発しまーす!」
「うんしょ、うんしょ」
上空へ羽ばたくのであった。
「頑張って、リッチ君」
ようやく軌道に乗って飛んでいると大勢の人が歩いている姿が見えてきた。
今更ではあるが、所長室のカウンターにあったのは、某、鶴が恩を返すお話しの本だった。
どんな気持ちで、読んでいるのか、少し興味がある。
秦広王様は、鶴が大好きなのかもしれない……。
だって、この通行証の裏面
スタンプラリー って書いてあって
“ハートの形の中に鶴の顔 ”のスタンプが押してあるし……。
はっ、スタンプラリー?
なんかふざけているの?
厳格な方のはずでしょ?
おじいちゃーん
この世界は、理解不能だよー!
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