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ルシェは、庄三郎にくっついて、配送センターにやって来ていた。
「おい、ワシらは、お城に戻るからな!」
用を済ませた庄三郎たちは、城に戻ろうとしている。
「えっ、もう?まだ色々と見ていたいですわっ!庄三郎さんのドケチ!」
美しい細工が施された鏡を、眺めていたルシェはぶすくれた。
「はあ?ドケチって……。コラっ、ワシは遊んでいられないんだぞっ!」
そんな会話を聞いた庄三郎の同僚達が、笑っている。
「庄三郎さん、休憩をしていいよ。
なあ、シモさんも、それでいいよな?
少しだけでもさ、知り合いの子の相手をしてやりなよ。俺らは、先に戻るから」
ルシェのことを、庄三郎の単なる知人、と思っているカミが言ったのだった。
「えっ、いいのかい?カミさん、シモさん、すまないね。じゃあ、ちょっとだけ」
庄三郎は、そう言って軽く頭を下げ、同僚を見送った。
(わっ!庄三郎さんが頭を下げたっ!
この人、本当に庄三郎さんなの?
いつもは、威張っているのに、人格が違いますわっ!
環境が庄三郎さんを変えたのね……)
「まったく、困った我がまま女だなぁ!」
(あ、やっぱり庄三郎さんだわ!変わらないわねっ!)
「そうだ、さっきの話しだが……。
ワシらが、例のタンスをアンティーク影山へ、配達をさせてもらうって件だが、お偉いさんに許可をもらっておいたぞ!」
その言葉を聞いたルシェは、とても喜び、今すぐ行こうと庄三郎を誘った。
「今は無理に決まっているだろう?
ワシの仕事が終わったら行こうな。
ほれ、見たいって言った物を早く見ろ!」
「ああ、もういいわ。それよりも、タムがいる所に行きたいですわ!ねっ、いいでしょう?」
「は?オバーの所に行く気か!
マジで我がまま王女だぞっ!」
庄三郎は、そう言いつつルシェと共に、タムに会いに行ったのだった。
……………………
その夜、食事が済んだ後のこと。
「じゃあ、カーソルさん、ちょっと行ってきますわね」
ソファーで寝転び、寛いでいたカーソルは、驚いた顔をして起き上がる。
「えっ?妖精姿で、しかもツナギ作業服で、どこに行くの?」
「うふふ、ちょっと人間界へと。
カーソルさんは、お疲れでしょうから、ゆっくりと眠っていらして。
帰りは多分、朝になりますわ。
お父様には、内緒ですわよ。
では、行ってまいりまーす」
ルシェは、ウキウキとした様子で寝室から出て行った。
「嬉しそうな顔をしちゃって、可愛い。仲間がいるって、いいよな。
今度、私はキートに会いに行こう」
……………………
ルシェは、門番に行き先を告げ、城の外にある橋へと行った。
「庄三郎さんとタムは、まだ来ていないわね」
すると、暗がりから羽音が聞こえてきたのだ。
「来たわ!」
「ルシェちゃーん、タンスを持ってきたよー!重ーい!よいしょ、よいしょ!」
妖精姿の庄三郎とタムは、それなりの大きさに小さくなっているタンスを、二人で運んできた。
「よし、タム、ルシェと代われ!
ほれ、ルシェ、そっちを持てよ。ほれ、早くしろ!行くぞ!」
(もう、私に持てだなんて!でも、仕方がないですわっ!配達をしようと言ったのは私ですものね)
こうして三人は、アンモナイト丘を下り、ロブタラ湖を飛び越え、人間界への出入り口へと向かったのだった。
……………………
チュンチュン……。
「うおー。やっと着いたぞー!重かったなぁ。ふー」
アンティーク影山の中庭に、到着した庄三郎が腕を揉みながら言った。
アスナロの木から、いきなり現れた妖精達に、ビクッとした三羽のスズメが枝に飛び退いた。
「おはよう!偵察スズメさん達。
お久しぶりですわね!あら、お食事中でしたのね。驚かせて、ごめんなさい」
チュン!
スズメ達は、再び食事を始めた。
(美紗子さんがお米をくれたのね。良かったわ……)
以前、妖精達は美紗子のことを、新米店主と呼んでいたのだが、今では名前で呼ぶようになっている。
「あっ、喫茶室にモロブさんとセロルさんがいるよ!
テーブルや椅子の拭き掃除をしているんだね!」
「開店準備の時間かあ。ワシらも、久々に手伝うかぁ。
おーい!モロブ、セロル、ワシらが来たぞー!タンスを運んでくれー!」
庄三郎の声が聞こえたセロルが、キョロキョロする。
…………………
掃除を終えた人型の妖精達と美紗子が、喫茶室の客席に座り、近況報告会をしていた。
「あっ!そうだ店主は?あっ、そっか元店主だった。
元店主は、上にいるの?元気なの?」
「あのね、時計君。お義父さんはね、今日はウォーキングデートに行っているの。最近、ガールフレンドが出来たらしくて、とっても元気よ!」
「何だって?マジかあ。元店主、やるじゃねえか!羨ましいなあ。ワシも頑張ってみるか。ひっひっひ」
庄三郎は、物凄いニヤけた顔をしている。
(庄さん、それ本気で考えていますね?よーし!私も彼女を作りましょうかね。
庄さんには、負けませんよ!)
実は、モロブの顔も相当ニヤけているのを、セロルは気づいていたのだった。
「そうそう、ニンちゃんは結婚したのよね。ニンちゃんは、毎日、旦那さんにどんな料理を作ってあげるの?」
主婦でもある美紗子としては、新妻に聞いてみたいことだったのだ。
「えっ?料理?えーと、作ったことがありませんわ……」
(料理か……。作ろうと思ったことがないですわね……。カーソルさんの好物って、何かしら?)
「えっ!作ったことがない?
そうなのぉ?びっくり!
妖精さんが何を食べるのかは知らないけど……。
まあ、作らなくて済むなんて、羨ましいことね!」
ルシェの返答を聞いて、益々、妖精に対する好奇心が湧いてきた美紗子は、止まらず聞く。
「で、タヌ爺は、妖精の国で何をしているの?」
「ワシは、お城の庭の手入れをしているぞ。植木を格好良く切ったりできるから、お城では腕が良いって評判なんだぞ!」
(は?評判がいい?そんな事、初耳ですわ)
「へえ、そうなの?人間の世界と同じ事をしているの?
じゃあタヌ爺、今度、中庭の木の枝を切ってちょうだいね。
で、時計君もお城で働いているの?」
美紗子が、妖精の存在を本当に信じているのか、単に話しを合わせているだけなのか定かではないが、タムにも聞き取りを開始した。
「僕は、お城にはいないよ。
オバーさんの所で邪悪精の浄化をしているんだよ。
そうだ、皆んなに"浄化の舞“を見せてあげるよ……いくよ」
「え?」
皆、キョトンとする。
「き……きえーーーい!
フーリルラ フルード フリフリ ノ フラール フレ……」
タムは、雄叫びを上げたかと思うと、真剣な表情で腕を上げて下げて、腰を振り振りして踊りはじめた。
その様を皆は、笑いを堪えて見ている。
「タム!もう、もういいぞ!
そんなに踊れるようになって、大したもんだな!」
庄三郎が止めに入ると、モロブも同調した。
「その通り!タムは、頑張っているのだね。偉いぞ。早く一人前になるのだよ」
「タム君、期待してるからね。頑張れ」
セロルが言うと、隣にいるルシェも頷いた。
美紗子は、目を丸くしている。
「うーん、何だかよく分からないけれど、何かの儀式なのね。
皆んなが、元気そうで良かったわ。
あっ、開店の時間よ!開けるわね」
久々に集まった妖精達は、全員で店に出ることにした。
ルシェは、いつものメイド服、男達も いつものウェイター服を着ている。
ルシェとタムとセロルは、入口付近で待機し、庄三郎とモロブは、喫茶室で待機していた。
……………………
それから間もなくの事。
コツン!
偵察スズメが自動ドアを突いた。
「美紗子さん、外に人がいますわよ!」
「はいっ!」
美紗子は、素直に呼び込みに出た。
(あら?私が店主なんですけど。命令されている気分)
そんな事をチラッと思いながら、アスファルトを突き破って生える 雑草を取る振りをして、人が来るのを待っている。
ガラガラガラガラ……。
夢見通りに音が響き渡り、どんどん近づいてくる。
それから直ぐに、美紗子がお客を連れて戻ってきたのだ。
見た目年齢は、ルシェくらいの女性が一人。
小ぶりのスーツケースを引いていた。
「さあ、さあ、どうぞこちらへ」
美紗子は鼻高々で、喫茶室へと招き入れる。
「いらっしゃいませ」
妖精達は、落ち着いた挨拶でお客を迎えると、女性は、俯いたまま会釈をして、通り過ぎて行った。
窓際にある席に座った女性は、頬杖をついて、ぼんやり中庭を眺めている。
美紗子は、庄三郎とモロブを厨房の中へと手招きし、小声で話す。
「あのお客様は、元気がない様子でしょう?何か深刻な問題を抱えているかもしれないわ。
少し心配だから、気遣って下さい」
「うん?そうかあ?一人で来ているから、元気が無いように見えるだけだろう?きっと、大きなお世話だぞ!」
「えっ……。タヌ爺……は、骨董品コーナーに戻ってね。カレーさんと交代!」
庄三郎は、首を捻りながらセロルと交代した。
「いらっしゃいませ。
お客様、メニューはお決まりでしょうか?」
モロブが女性の元へと行っている。
「あ、えっと、どうしよう。あ、ブレンドコーヒーを……」
女性は、何も考えていなかった様子だったが、注文をしてくれた。
「ブレンドコーヒーですね?かしこまりました。……お、お客様、お一人で、ご旅行ですか?」
「ええ、まあ、はい……」
「そ、そうですか、のんびりと一人旅も、なかなかいいものですよね。
では……」
厨房に入ったモロブは、声を潜めて言う。
「美紗子さん、あのお客様、元気が無い!とかは、分かりませんでした。
ただ、一人旅だということは分かりました」
「やはり一人旅ね……」
モロブが報告をすると、美紗子は腕を組み考え込む。
(また、いつもの妄想癖が始まったようだな。なあ、セロル?)
(はい。そのようですね、モロブさん!)
モロブとセロルは、目で意志の疎通をしていた。
これは妖精二人だけで、店を盛り立てていくための、自然に生み出した技だった。
「あのぉ、美紗子さん……コーヒーを淹れてもらえませんか?」
「あ、カレーさん。はい、了解」
骨董品コーナー側にいるルシェとタムも、女性の様子が気になり、喫茶室を覗いている。
外を眺めている女性の顔は、頬杖でよく見えないが、微妙に肩が震えている気がした。
「タム、あのお客様、泣いているのかしら……ね?」
「おい、ワシらは、お城に戻るからな!」
用を済ませた庄三郎たちは、城に戻ろうとしている。
「えっ、もう?まだ色々と見ていたいですわっ!庄三郎さんのドケチ!」
美しい細工が施された鏡を、眺めていたルシェはぶすくれた。
「はあ?ドケチって……。コラっ、ワシは遊んでいられないんだぞっ!」
そんな会話を聞いた庄三郎の同僚達が、笑っている。
「庄三郎さん、休憩をしていいよ。
なあ、シモさんも、それでいいよな?
少しだけでもさ、知り合いの子の相手をしてやりなよ。俺らは、先に戻るから」
ルシェのことを、庄三郎の単なる知人、と思っているカミが言ったのだった。
「えっ、いいのかい?カミさん、シモさん、すまないね。じゃあ、ちょっとだけ」
庄三郎は、そう言って軽く頭を下げ、同僚を見送った。
(わっ!庄三郎さんが頭を下げたっ!
この人、本当に庄三郎さんなの?
いつもは、威張っているのに、人格が違いますわっ!
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「まったく、困った我がまま女だなぁ!」
(あ、やっぱり庄三郎さんだわ!変わらないわねっ!)
「そうだ、さっきの話しだが……。
ワシらが、例のタンスをアンティーク影山へ、配達をさせてもらうって件だが、お偉いさんに許可をもらっておいたぞ!」
その言葉を聞いたルシェは、とても喜び、今すぐ行こうと庄三郎を誘った。
「今は無理に決まっているだろう?
ワシの仕事が終わったら行こうな。
ほれ、見たいって言った物を早く見ろ!」
「ああ、もういいわ。それよりも、タムがいる所に行きたいですわ!ねっ、いいでしょう?」
「は?オバーの所に行く気か!
マジで我がまま王女だぞっ!」
庄三郎は、そう言いつつルシェと共に、タムに会いに行ったのだった。
……………………
その夜、食事が済んだ後のこと。
「じゃあ、カーソルさん、ちょっと行ってきますわね」
ソファーで寝転び、寛いでいたカーソルは、驚いた顔をして起き上がる。
「えっ?妖精姿で、しかもツナギ作業服で、どこに行くの?」
「うふふ、ちょっと人間界へと。
カーソルさんは、お疲れでしょうから、ゆっくりと眠っていらして。
帰りは多分、朝になりますわ。
お父様には、内緒ですわよ。
では、行ってまいりまーす」
ルシェは、ウキウキとした様子で寝室から出て行った。
「嬉しそうな顔をしちゃって、可愛い。仲間がいるって、いいよな。
今度、私はキートに会いに行こう」
……………………
ルシェは、門番に行き先を告げ、城の外にある橋へと行った。
「庄三郎さんとタムは、まだ来ていないわね」
すると、暗がりから羽音が聞こえてきたのだ。
「来たわ!」
「ルシェちゃーん、タンスを持ってきたよー!重ーい!よいしょ、よいしょ!」
妖精姿の庄三郎とタムは、それなりの大きさに小さくなっているタンスを、二人で運んできた。
「よし、タム、ルシェと代われ!
ほれ、ルシェ、そっちを持てよ。ほれ、早くしろ!行くぞ!」
(もう、私に持てだなんて!でも、仕方がないですわっ!配達をしようと言ったのは私ですものね)
こうして三人は、アンモナイト丘を下り、ロブタラ湖を飛び越え、人間界への出入り口へと向かったのだった。
……………………
チュンチュン……。
「うおー。やっと着いたぞー!重かったなぁ。ふー」
アンティーク影山の中庭に、到着した庄三郎が腕を揉みながら言った。
アスナロの木から、いきなり現れた妖精達に、ビクッとした三羽のスズメが枝に飛び退いた。
「おはよう!偵察スズメさん達。
お久しぶりですわね!あら、お食事中でしたのね。驚かせて、ごめんなさい」
チュン!
スズメ達は、再び食事を始めた。
(美紗子さんがお米をくれたのね。良かったわ……)
以前、妖精達は美紗子のことを、新米店主と呼んでいたのだが、今では名前で呼ぶようになっている。
「あっ、喫茶室にモロブさんとセロルさんがいるよ!
テーブルや椅子の拭き掃除をしているんだね!」
「開店準備の時間かあ。ワシらも、久々に手伝うかぁ。
おーい!モロブ、セロル、ワシらが来たぞー!タンスを運んでくれー!」
庄三郎の声が聞こえたセロルが、キョロキョロする。
…………………
掃除を終えた人型の妖精達と美紗子が、喫茶室の客席に座り、近況報告会をしていた。
「あっ!そうだ店主は?あっ、そっか元店主だった。
元店主は、上にいるの?元気なの?」
「あのね、時計君。お義父さんはね、今日はウォーキングデートに行っているの。最近、ガールフレンドが出来たらしくて、とっても元気よ!」
「何だって?マジかあ。元店主、やるじゃねえか!羨ましいなあ。ワシも頑張ってみるか。ひっひっひ」
庄三郎は、物凄いニヤけた顔をしている。
(庄さん、それ本気で考えていますね?よーし!私も彼女を作りましょうかね。
庄さんには、負けませんよ!)
実は、モロブの顔も相当ニヤけているのを、セロルは気づいていたのだった。
「そうそう、ニンちゃんは結婚したのよね。ニンちゃんは、毎日、旦那さんにどんな料理を作ってあげるの?」
主婦でもある美紗子としては、新妻に聞いてみたいことだったのだ。
「えっ?料理?えーと、作ったことがありませんわ……」
(料理か……。作ろうと思ったことがないですわね……。カーソルさんの好物って、何かしら?)
「えっ!作ったことがない?
そうなのぉ?びっくり!
妖精さんが何を食べるのかは知らないけど……。
まあ、作らなくて済むなんて、羨ましいことね!」
ルシェの返答を聞いて、益々、妖精に対する好奇心が湧いてきた美紗子は、止まらず聞く。
「で、タヌ爺は、妖精の国で何をしているの?」
「ワシは、お城の庭の手入れをしているぞ。植木を格好良く切ったりできるから、お城では腕が良いって評判なんだぞ!」
(は?評判がいい?そんな事、初耳ですわ)
「へえ、そうなの?人間の世界と同じ事をしているの?
じゃあタヌ爺、今度、中庭の木の枝を切ってちょうだいね。
で、時計君もお城で働いているの?」
美紗子が、妖精の存在を本当に信じているのか、単に話しを合わせているだけなのか定かではないが、タムにも聞き取りを開始した。
「僕は、お城にはいないよ。
オバーさんの所で邪悪精の浄化をしているんだよ。
そうだ、皆んなに"浄化の舞“を見せてあげるよ……いくよ」
「え?」
皆、キョトンとする。
「き……きえーーーい!
フーリルラ フルード フリフリ ノ フラール フレ……」
タムは、雄叫びを上げたかと思うと、真剣な表情で腕を上げて下げて、腰を振り振りして踊りはじめた。
その様を皆は、笑いを堪えて見ている。
「タム!もう、もういいぞ!
そんなに踊れるようになって、大したもんだな!」
庄三郎が止めに入ると、モロブも同調した。
「その通り!タムは、頑張っているのだね。偉いぞ。早く一人前になるのだよ」
「タム君、期待してるからね。頑張れ」
セロルが言うと、隣にいるルシェも頷いた。
美紗子は、目を丸くしている。
「うーん、何だかよく分からないけれど、何かの儀式なのね。
皆んなが、元気そうで良かったわ。
あっ、開店の時間よ!開けるわね」
久々に集まった妖精達は、全員で店に出ることにした。
ルシェは、いつものメイド服、男達も いつものウェイター服を着ている。
ルシェとタムとセロルは、入口付近で待機し、庄三郎とモロブは、喫茶室で待機していた。
……………………
それから間もなくの事。
コツン!
偵察スズメが自動ドアを突いた。
「美紗子さん、外に人がいますわよ!」
「はいっ!」
美紗子は、素直に呼び込みに出た。
(あら?私が店主なんですけど。命令されている気分)
そんな事をチラッと思いながら、アスファルトを突き破って生える 雑草を取る振りをして、人が来るのを待っている。
ガラガラガラガラ……。
夢見通りに音が響き渡り、どんどん近づいてくる。
それから直ぐに、美紗子がお客を連れて戻ってきたのだ。
見た目年齢は、ルシェくらいの女性が一人。
小ぶりのスーツケースを引いていた。
「さあ、さあ、どうぞこちらへ」
美紗子は鼻高々で、喫茶室へと招き入れる。
「いらっしゃいませ」
妖精達は、落ち着いた挨拶でお客を迎えると、女性は、俯いたまま会釈をして、通り過ぎて行った。
窓際にある席に座った女性は、頬杖をついて、ぼんやり中庭を眺めている。
美紗子は、庄三郎とモロブを厨房の中へと手招きし、小声で話す。
「あのお客様は、元気がない様子でしょう?何か深刻な問題を抱えているかもしれないわ。
少し心配だから、気遣って下さい」
「うん?そうかあ?一人で来ているから、元気が無いように見えるだけだろう?きっと、大きなお世話だぞ!」
「えっ……。タヌ爺……は、骨董品コーナーに戻ってね。カレーさんと交代!」
庄三郎は、首を捻りながらセロルと交代した。
「いらっしゃいませ。
お客様、メニューはお決まりでしょうか?」
モロブが女性の元へと行っている。
「あ、えっと、どうしよう。あ、ブレンドコーヒーを……」
女性は、何も考えていなかった様子だったが、注文をしてくれた。
「ブレンドコーヒーですね?かしこまりました。……お、お客様、お一人で、ご旅行ですか?」
「ええ、まあ、はい……」
「そ、そうですか、のんびりと一人旅も、なかなかいいものですよね。
では……」
厨房に入ったモロブは、声を潜めて言う。
「美紗子さん、あのお客様、元気が無い!とかは、分かりませんでした。
ただ、一人旅だということは分かりました」
「やはり一人旅ね……」
モロブが報告をすると、美紗子は腕を組み考え込む。
(また、いつもの妄想癖が始まったようだな。なあ、セロル?)
(はい。そのようですね、モロブさん!)
モロブとセロルは、目で意志の疎通をしていた。
これは妖精二人だけで、店を盛り立てていくための、自然に生み出した技だった。
「あのぉ、美紗子さん……コーヒーを淹れてもらえませんか?」
「あ、カレーさん。はい、了解」
骨董品コーナー側にいるルシェとタムも、女性の様子が気になり、喫茶室を覗いている。
外を眺めている女性の顔は、頬杖でよく見えないが、微妙に肩が震えている気がした。
「タム、あのお客様、泣いているのかしら……ね?」
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