アンティーク影山の住人

ひろろ

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ちょっと寄り道!

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 人間界、深夜のアンティーク影山の中庭に、店内の様子をうかがうように浮遊する二人の妖精がいた。

 ポン!

「ひぃ!」

 そのうちの細身の妖精が突然、肩を軽く叩かれ飛び退いた。

背後にいたのは、庄三郎だ。

のぞき見なんかして、あんたら、ワシらに何か用か?」

「わっ、わっ、すみません、すみません!私たちは、怪しい者ではありません!」

太めの妖精が、慌てて否定をした。

「じゃあ、おじさん達は誰?」

 庄三郎が不審者に気づき、外へと行ったから、タム、セロル、モロブも中庭へと出てきたのだった。

「こらっ!タム、そんな言い方は失礼だ。まだ子どもなので、お許し下さい。ところで、あなた方は騎士団の方とお見受け致しますが……。オールド国の制服とは違う気がします」

 暗がりの中で見る二人は、騎士団の様な黒っぽい制服に、腰に剣の様な物を下げていた。

オールド国の者ではないと思ったのは、腕章を付けていたからだった。

 モロブの丁寧な物言いに、ホッとしながら細身の妖精が話す。

「私たちは、プランツ国の者です。人探しをしているため、勝手にお邪魔をしてしまいました。大変、失礼致しました。
あのぉ、一昨日または昨日、本日あたりに妖精が訪ねて来ませんでしたか?」

「うーん、おとといからは、他の妖精は来てないよ。ねっ、皆んな?」

タムが返事をすると、皆も頷いた。

「そうですか、わかりました。お騒がせ致しました。では、これにて失礼致します」

 一礼して、立ち去ろうとする二人をセロルが引き止める。

「ちょっと、ちょっと待って下さい。
人探しって?もしかして、カーソルさ……カーソル様を探しているのですか?」

(プランツ国の妖精は、カーソルさんしか思い浮かばない!カーソルさんなら、この店に来たことがある!それで探しに来たのかもしれないな)

「えっ?カーソル様ですか?ま、まさか、違います。そんなぁ、黙って消える事なんて、ありえませんから!では、失礼します!お邪魔いたしました……。次に行こう!」

太めの妖精が素早く出入り口を作り、二人は逃げるように、さっと姿を消してしまったのだった。

……………………

「あれは、絶対にカーソルさんを探しに来たんですよ!」


「おう、セロル、きっとそうだな!
カーソルがいなくなったんだぞ!
まさか、蒸発か?こりゃ、面白いや!」


「庄さん、冗談が過ぎますよ!それに呼び捨ては、さすがにまずいです!カーソルさんは、プランツ国の王子様なんですからね」


「ここにいないから、まあ、いいじゃないか!相変わらず、モロブは堅いなあ。
ハッハッハ!」


 それを聞いたモロブは、苦笑いを浮かべ、ため息をついた。


「カーソルさんって、いつも一人であちこちに行ってるみたいなのに、どうして今日は探しに来たんだろう?なんか変だね。プランツ国でなんかあったのかな?」


「タム君……気になる言い方だね。なんだか、心配になってきたな。カーソルさん、大丈夫ですかね?皆さん、探しに行きませんか?」


「なんだセロルまで心配しているのか。
つい先日、ここへとやって来たが、特に変わったところは無かったし、何も心配はいらないさ。大袈裟だぞ。
さあ、中へ入れ、寝るぞ!」


 アンティーク影山の妖精達は、庄三郎の言葉に従い、渋々 眠りにつくのだった。

…………………

 ルシェ達は、さわやかな風を受けながら、上空からプランツ国を眺めている。

「トキエさん、妖精達が忙しそうに、動き回っていますわね。活気のある国ですわ」

 地上を動き回る妖精の姿、低空を飛び交う妖精の姿が目についた。


「はい……。皆、同じ服装みたいですね。黒っぽい、紺色っぽい服の方々があちこちにいますね。あれは……」


「そうですな。あれは、騎士団かもしれませんよ。何か……」


 そんな会話をカボスがさえぎる。


「皆様、右側をご覧下さい。あれが我国自慢のハッシュヌーボ滝でございます。
では、下に降りましょう」


 切り立つ崖の天辺には、川幅いっぱいに、軒の様に突き出た大岩があって、そこから勢いよく流れ落ちる豊富な水が、白いカーテンを思わせていた。


 フライングモーターが地上に降りて走行する。


「まあ、とても荘厳そうごんな滝ですわね」


「はい、ルシェ様の仰るとおりです。
見ているこちらの身が、引き締まる思いでございます」


「これは素晴らしい!かなりの高さから落ちる幅広い水流は、大迫力で美しいですな!」


 ルシェとトキエとノナカに褒められ、気を良くしたカボスは、滝を間近で見るのに適した場所へと案内する。


「さあ、フライングモーターから降りて下さいませ。これから、滝の裏側が見られるスポットに参りましょう」


 一行は、妖精姿に戻り、滝壺脇にある橋を渡り、人型で通れる位の岩穴に飛んで入って行った。


中は、明かりが点いているが薄暗い。


「皆様、この先、上に向かいますが、螺旋階段になっております。お気をつけ下さい」


「おお、カボス殿、ありがとうございます。ルシェ様、危険があってはなりません。このノナカが貴女様をエスコート致します。どうぞお手を……」


(えっ!いやいや貴方より、だいぶ若いから大丈夫ですわよ!)


わたくしは、大丈夫ですわ。それよりも、トキエさんの手を取ってあげてね。トキエさんもノナカさんの手を取るのですよ。よろしいわね?」


 互いに恥ずかしがってはいたが、トキエとノナカは手を繋ぎ、カボスの後を追い、ルシェの前を飛んで行く。


(あら、まあ、何だかお似合いの二人だわ!そういえば二人は独身だったわね。
私が幼い頃から側にいてくれたから、年齢は結構いっているはずですわ。この際、くっ付いてくれたら、トキエさんの性格が柔らかくなるかしら?なんてね!)


 そんな考え事をしながら、階段をぐるぐると回ると、パァっと明るい場所へと出た。

…………………

「はい、ハッシュヌーボ裏見滝台に到着いたしました。お疲れ様でございました」


「カボスさん、案内をありがとう。
あっ、水のカーテンがとても素敵ですわね!ミストが心地良いですわ、フフフ」


 トキエがタオルを差し出すが、ルシェは天然の化粧水と言い、拭こうとしなかった。


ノナカは、崖の下を覗き込んでいる。


「うん?あれは……」


 ノナカがつぶやくと、カボスが顔色を変え下を覗いた。


「あっ、あっ!あれは!」


 カボスまで声を上げたから、ルシェもトキエも気になる。


「えっ?何ですの?何かありましたの?」


「ノナカさん、何かあったのですか?
えっ?カボスさん?下へ行くのですか?」


 滝裏にある岩場の上に黒っぽい物が置いてあった。


下からでは、滝のカーテンに隠れて、気づかなかったのだ。


カボスは、これが気になって岩場に降りたようなのだ。


ルシェも気になり下へと降りて行くから、ノナカとトキエも後に続く。


「えっ!人型用の黒いトートーバックが置いてあるわ。なぜ、こんな所にあるのかしら?不思議ですわね」


 滝壺から突き出た大岩には、滝の水流は当たってはいないが、ミストが当たっているから、バックは濡れている。


(黒いトートーバック……かぁ。黒い……あっ、まさか!)


 どこか見覚えがあるようなバッグがあることに、ルシェは不安を覚えた。


 すると、血相を変えたカボスが不自然にあちこち動き回り始める。


「カーソルさまーー、どこですかー?」


「 ! 」


「は?カボスさん?何をしているのですか?えっ?えっ?どういう事ですの?」


 混乱するルシェの言葉など聞こえない様子で、カボスは上へ上へと飛んで行ってしまった。


「カボスどのー!どうなされたぁ?」


ノナカが叫びながら、カボスの後を追って行く。


(何?滝裏にバックを置いておく意味ってあるの?私、理解ができませんわ!
カーソルさん、もしかして、お城にいないの?嘘でしょう?)
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