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ルシェは驚き、トキエの顔を凝視する。
「はい、昨日のことです。オールド国よりプランツ国のカーソル様宛に、我国にお招きしたい旨をお伝えしたところ、ご承知頂いたそうです。ところが、カーソル様が急病の為、ご遠慮をするとのご連絡があったそうなのです」
「それで、それで何の病気ですの?まさか命に関わる病気ってことではないですわよね?トキエさん、どうなの?」
「いえ、詳しいことは聞いておりませんので……。ルシェ様?お見合いのお返事を保留したままなのに、気になるのですか?」
トキエは、ルシェの気持ちを見抜いているが、わざと惚ぼけて聞いてみたのだった。
「え?まあ、少しだけ気になりますわね……。さあ、お父様が待っていらっしゃるわ、早く帰りましょう」
ルシェは、城へと急ぐ。
…………………
夜中のオールド国。
「お父様、お父様!カーソルさん、あ、カーソル様のお加減はどうなのですか?」
ルシェは、城に着くなり、慌てた様子で王の元へとやって来た。
執務室にいた王は、書類から目を離し、立ち上がりルシェに向かって言う。
「おかえり、ルシェ……。娘の帰りを待っていた私に、挨拶は無しなのか?まあ、良かろう……。カーソル君の容態は私も気になっているが、先方は急病とだけしか言わないから、分からんのだ」
(つい先日会った時には、とても元気そうでしたのに……。急病だなんて……信じられないですわ)
「それでだな、ルシェ。帰ってきたばかりだが、カーソル君のお見舞いに行ってきなさい。何と言っても、我国のお婿さんだからね。未来の王だ!さあ、行きなさい!これは、命令だ」
(命令をされなくても、行きますわよ。でも、自分の意思で行きたかったわ。
はあ、複雑な気分……)
…………………
明るみはじめたオールド国の空。
ブォーバシャバシャ、ブォーバシャバシャ、ブォー……
「ちょっとぉぉ、ノナカさぁぁん!どうして、こうなるわけぇぇ?キャアー!怖いですわぁぁ!トキエさん、何とかしてぇー!顔に水飛沫がぁ、いやぁ」
ブォーバシャバシャ……
「ルシェさまぁぁ何かぁ、おっしゃいましたかあぁぁ?聞こえませーん」
トキエも叫んだ。
ブォーバシャバシャ……
小型モーターボートには、人型妖精が三人乗っている。
オールド国とプランツ国との境にあるドドロス湖には、爆音と絶叫が響き渡る。
「ノーナーカーァァ、わたくしー、確かに船に乗って行くってぇ、言いましたわー、だけどぉ、コレはぁ、望んでいませんでしたわぁぁ!もっと、大きな船を希望したはずですわあ!と言うかあ、スピードを落としなさーいぃ」
「はあ?何か言いましたかあぁ?もっと大きな声で言って下さーい」
「……あー!もう、いいっ!なんでもないですわぁぁ」
ルシェは、文句を言っても仕方がないと悟ったのだった。
両手をボートの縁へと伸ばし、ギュッと力を入れて下を向き、無事に到着することをひたすら祈る。
普通に考えて、妖精には羽根があるから、飛んで行けばいいだろうと思われるだろう。
だが、このドドロス湖を甘く見てはいけない。
とてつもなく広いため、途中で疲れて飛べなくなり、湖に落ちてしまう事故が多発しているのだ。
(あーあ、両国間を往復する交流船が行き交っているわ。あれに乗れば良かった……。あー、どうか無事にカーソルさんに会えますように!)
…………………
対岸のプランツ国に到着したルシェ達は、くたくたになりながら、入出国管理棟で手続きを済ませた。
「ちょ、ちょっと、トキエさん、ノナカさん、そこの椅子に座りましょう。疲れ過ぎたわ」
ルシェは、へたり込むように腰掛けたが、トキエはルシェの濡れた髪を拭いていて、ノナカは立ったままで周囲に気を配っている。
「ルシェ様、髪もメイクもかなり乱れていますね。何処かで身なりを整えま……」
「あの、失礼ですがオールド国の方……ルシェ王女様ですね。ようこそいらっしゃいました。
わたくしは、執事のカボスと申します。
王の命により我国をご案内致します。
さあ、どうぞこちらへ」
トキエが言いかけた時に、入出国管理棟職員から連絡を受けたプランツ国城の執事が、ルシェ達を迎えに来たのだった。
「執事の方ですか。わたくしオールド国、執事のノナカと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
さっと挨拶を交わし、建物から出る。
「わっ、わっ、すごーい!これが噂に聞いているフライングモーターですの?カッコいいですわね」
ルシェは思わず、感嘆の声をあげてしまい、はしたなく思ったトキエに軽く睨まれた事に気づいた。
「コホン。お気遣いをありがとう。では、ご好意に甘えさせていただきますわ」
ルシェは、一瞬でキリッとした表情を作り、王女の顔をして言った。
「私は、幼い頃にこちらへ来たきりで、久しぶりに訪れましたの。あの頃は、この乗り物はございませんでしたわ。
ですから、初めて乗ります。とても楽しみですわ」
因みにフライングモーターとは、プランツ国自慢、オープンカーの様な形状をした空飛ぶ乗り物なのだ。
ルシェをはじめ、トキエもノナカも乗車初体験だから、ワクワクしている様子は誰が見ても、一目瞭然だった。
執事のカボスは、心の中で誓う。
(ミッションは、必ず成功させます)
「はい、昨日のことです。オールド国よりプランツ国のカーソル様宛に、我国にお招きしたい旨をお伝えしたところ、ご承知頂いたそうです。ところが、カーソル様が急病の為、ご遠慮をするとのご連絡があったそうなのです」
「それで、それで何の病気ですの?まさか命に関わる病気ってことではないですわよね?トキエさん、どうなの?」
「いえ、詳しいことは聞いておりませんので……。ルシェ様?お見合いのお返事を保留したままなのに、気になるのですか?」
トキエは、ルシェの気持ちを見抜いているが、わざと惚ぼけて聞いてみたのだった。
「え?まあ、少しだけ気になりますわね……。さあ、お父様が待っていらっしゃるわ、早く帰りましょう」
ルシェは、城へと急ぐ。
…………………
夜中のオールド国。
「お父様、お父様!カーソルさん、あ、カーソル様のお加減はどうなのですか?」
ルシェは、城に着くなり、慌てた様子で王の元へとやって来た。
執務室にいた王は、書類から目を離し、立ち上がりルシェに向かって言う。
「おかえり、ルシェ……。娘の帰りを待っていた私に、挨拶は無しなのか?まあ、良かろう……。カーソル君の容態は私も気になっているが、先方は急病とだけしか言わないから、分からんのだ」
(つい先日会った時には、とても元気そうでしたのに……。急病だなんて……信じられないですわ)
「それでだな、ルシェ。帰ってきたばかりだが、カーソル君のお見舞いに行ってきなさい。何と言っても、我国のお婿さんだからね。未来の王だ!さあ、行きなさい!これは、命令だ」
(命令をされなくても、行きますわよ。でも、自分の意思で行きたかったわ。
はあ、複雑な気分……)
…………………
明るみはじめたオールド国の空。
ブォーバシャバシャ、ブォーバシャバシャ、ブォー……
「ちょっとぉぉ、ノナカさぁぁん!どうして、こうなるわけぇぇ?キャアー!怖いですわぁぁ!トキエさん、何とかしてぇー!顔に水飛沫がぁ、いやぁ」
ブォーバシャバシャ……
「ルシェさまぁぁ何かぁ、おっしゃいましたかあぁぁ?聞こえませーん」
トキエも叫んだ。
ブォーバシャバシャ……
小型モーターボートには、人型妖精が三人乗っている。
オールド国とプランツ国との境にあるドドロス湖には、爆音と絶叫が響き渡る。
「ノーナーカーァァ、わたくしー、確かに船に乗って行くってぇ、言いましたわー、だけどぉ、コレはぁ、望んでいませんでしたわぁぁ!もっと、大きな船を希望したはずですわあ!と言うかあ、スピードを落としなさーいぃ」
「はあ?何か言いましたかあぁ?もっと大きな声で言って下さーい」
「……あー!もう、いいっ!なんでもないですわぁぁ」
ルシェは、文句を言っても仕方がないと悟ったのだった。
両手をボートの縁へと伸ばし、ギュッと力を入れて下を向き、無事に到着することをひたすら祈る。
普通に考えて、妖精には羽根があるから、飛んで行けばいいだろうと思われるだろう。
だが、このドドロス湖を甘く見てはいけない。
とてつもなく広いため、途中で疲れて飛べなくなり、湖に落ちてしまう事故が多発しているのだ。
(あーあ、両国間を往復する交流船が行き交っているわ。あれに乗れば良かった……。あー、どうか無事にカーソルさんに会えますように!)
…………………
対岸のプランツ国に到着したルシェ達は、くたくたになりながら、入出国管理棟で手続きを済ませた。
「ちょ、ちょっと、トキエさん、ノナカさん、そこの椅子に座りましょう。疲れ過ぎたわ」
ルシェは、へたり込むように腰掛けたが、トキエはルシェの濡れた髪を拭いていて、ノナカは立ったままで周囲に気を配っている。
「ルシェ様、髪もメイクもかなり乱れていますね。何処かで身なりを整えま……」
「あの、失礼ですがオールド国の方……ルシェ王女様ですね。ようこそいらっしゃいました。
わたくしは、執事のカボスと申します。
王の命により我国をご案内致します。
さあ、どうぞこちらへ」
トキエが言いかけた時に、入出国管理棟職員から連絡を受けたプランツ国城の執事が、ルシェ達を迎えに来たのだった。
「執事の方ですか。わたくしオールド国、執事のノナカと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
さっと挨拶を交わし、建物から出る。
「わっ、わっ、すごーい!これが噂に聞いているフライングモーターですの?カッコいいですわね」
ルシェは思わず、感嘆の声をあげてしまい、はしたなく思ったトキエに軽く睨まれた事に気づいた。
「コホン。お気遣いをありがとう。では、ご好意に甘えさせていただきますわ」
ルシェは、一瞬でキリッとした表情を作り、王女の顔をして言った。
「私は、幼い頃にこちらへ来たきりで、久しぶりに訪れましたの。あの頃は、この乗り物はございませんでしたわ。
ですから、初めて乗ります。とても楽しみですわ」
因みにフライングモーターとは、プランツ国自慢、オープンカーの様な形状をした空飛ぶ乗り物なのだ。
ルシェをはじめ、トキエもノナカも乗車初体験だから、ワクワクしている様子は誰が見ても、一目瞭然だった。
執事のカボスは、心の中で誓う。
(ミッションは、必ず成功させます)
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