アンティーク影山の住人

ひろろ

文字の大きさ
上 下
53 / 78
恋愛モードへ

プランツ国へ

しおりを挟む
 ルシェは驚き、トキエの顔を凝視する。


「はい、昨日のことです。オールド国よりプランツ国のカーソル様宛に、我国にお招きしたいむねをお伝えしたところ、ご承知頂いたそうです。ところが、カーソル様が急病の為、ご遠慮をするとのご連絡があったそうなのです」


「それで、それで何の病気ですの?まさか命に関わる病気ってことではないですわよね?トキエさん、どうなの?」


「いえ、詳しいことは聞いておりませんので……。ルシェ様?お見合いのお返事を保留したままなのに、気になるのですか?」


 トキエは、ルシェの気持ちを見抜いているが、わざとぼけて聞いてみたのだった。


「え?まあ、少しだけ気になりますわね……。さあ、お父様が待っていらっしゃるわ、早く帰りましょう」


ルシェは、城へと急ぐ。

…………………

 夜中のオールド国。


「お父様、お父様!カーソルさん、あ、カーソル様のお加減はどうなのですか?」


 ルシェは、城に着くなり、慌てた様子で王の元へとやって来た。


 執務室にいた王は、書類から目を離し、立ち上がりルシェに向かって言う。


「おかえり、ルシェ……。娘の帰りを待っていた私に、挨拶は無しなのか?まあ、良かろう……。カーソル君の容態は私も気になっているが、先方は急病とだけしか言わないから、分からんのだ」


(つい先日会った時には、とても元気そうでしたのに……。急病だなんて……信じられないですわ)


「それでだな、ルシェ。帰ってきたばかりだが、カーソル君のお見舞いに行ってきなさい。何と言っても、我国のお婿さんだからね。未来の王だ!さあ、行きなさい!これは、命令だ」


(命令をされなくても、行きますわよ。でも、自分の意思で行きたかったわ。
はあ、複雑な気分……)

…………………

 明るみはじめたオールド国の空。

ブォーバシャバシャ、ブォーバシャバシャ、ブォー……


「ちょっとぉぉ、ノナカさぁぁん!どうして、こうなるわけぇぇ?キャアー!怖いですわぁぁ!トキエさん、何とかしてぇー!顔に水飛沫みずしぶきがぁ、いやぁ」


ブォーバシャバシャ……


「ルシェさまぁぁ何かぁ、おっしゃいましたかあぁぁ?聞こえませーん」


トキエも叫んだ。


ブォーバシャバシャ……


 小型モーターボートには、人型妖精が三人乗っている。


オールド国とプランツ国との境にあるドドロス湖には、爆音と絶叫が響き渡る。


「ノーナーカーァァ、わたくしー、確かに船に乗って行くってぇ、言いましたわー、だけどぉ、コレはぁ、望んでいませんでしたわぁぁ!もっと、大きな船を希望したはずですわあ!と言うかあ、スピードを落としなさーいぃ」


「はあ?何か言いましたかあぁ?もっと大きな声で言って下さーい」


「……あー!もう、いいっ!なんでもないですわぁぁ」


 ルシェは、文句を言っても仕方がないと悟ったのだった。


 両手をボートの縁へと伸ばし、ギュッと力を入れて下を向き、無事に到着することをひたすら祈る。


 普通に考えて、妖精には羽根があるから、飛んで行けばいいだろうと思われるだろう。


 だが、このドドロス湖を甘く見てはいけない。


とてつもなく広いため、途中で疲れて飛べなくなり、湖に落ちてしまう事故が多発しているのだ。


(あーあ、両国間を往復する交流船が行き交っているわ。あれに乗れば良かった……。あー、どうか無事にカーソルさんに会えますように!)

…………………

 対岸のプランツ国に到着したルシェ達は、くたくたになりながら、入出国管理棟で手続きを済ませた。


「ちょ、ちょっと、トキエさん、ノナカさん、そこの椅子に座りましょう。疲れ過ぎたわ」


 ルシェは、へたり込むように腰掛けたが、トキエはルシェの濡れた髪を拭いていて、ノナカは立ったままで周囲に気を配っている。


「ルシェ様、髪もメイクもかなり乱れていますね。何処かで身なりを整えま……」


「あの、失礼ですがオールド国の方……ルシェ王女様ですね。ようこそいらっしゃいました。
わたくしは、執事のカボスと申します。
王の命により我国をご案内致します。
さあ、どうぞこちらへ」


 トキエが言いかけた時に、入出国管理棟職員から連絡を受けたプランツ国城の執事が、ルシェ達を迎えに来たのだった。


「執事の方ですか。わたくしオールド国、執事のノナカと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 さっと挨拶を交わし、建物から出る。


「わっ、わっ、すごーい!これが噂に聞いているフライングモーターですの?カッコいいですわね」


 ルシェは思わず、感嘆の声をあげてしまい、はしたなく思ったトキエに軽く睨まれた事に気づいた。


「コホン。お気遣いをありがとう。では、ご好意に甘えさせていただきますわ」


 ルシェは、一瞬でキリッとした表情を作り、王女の顔をして言った。


「私は、幼い頃にこちらへ来たきりで、久しぶりに訪れましたの。あの頃は、この乗り物はございませんでしたわ。
ですから、初めて乗ります。とても楽しみですわ」


 因みにフライングモーターとは、プランツ国自慢、オープンカーの様な形状をした空飛ぶ乗り物なのだ。


 ルシェをはじめ、トキエもノナカも乗車初体験だから、ワクワクしている様子は誰が見ても、一目瞭然だった。


 執事のカボスは、心の中で誓う。


(ミッションは、必ず成功させます)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

妹の妊娠と未来への絆

アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」 オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...