アンティーク影山の住人

ひろろ

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進むべき道を探して

勘違いですか?

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「え?えっ?今、なんて?何て言ったの?」

 
 キートは、動揺しまくりで聞き返した。


 妖精達も己の耳を疑っている。


 キートの言葉を聞きながら、水を飲み終えた涼音は嫌そうな顔をした。


「え?また、言うのぉ?あっ、やばい!パパから言っちゃダメだよ!って言われてたんだぁ……。ううん、キイトちゃん、あたし、何も言ってないよ」


 涼音は思ったことを全て口に出してしまう子どもなのだった。


「もう、遅い!しっかりと聞いちゃいました!"キイトちゃん、臭くなくなったね!”って言ったでしょ?それって、今まで私が臭かったてことなの?」


 赤面してキートが涼音に聞いた。


「何だ、聞こえていたの?ええとね、ちょっとだけ臭かった。パパがさ、何か理由があるはずだから、言ったらいけないって……。でも、もう臭くないよ。良かったね?」


「えー!嫌だ、そうだったの……。やっぱり私もそうだったか……。はあ、今更しかたがない、さてと、そろそろ神主さんが帰って来るから、私は帰りますね!あ、鍋に豚汁があるから、ちゃんとに蒟蒻も食べるんですよ!じゃあ、帰るから、バイバイ」


「うん、また明日も来てね。バイバイ」


 涼音が言った。


 キートが帰る時は、少し寂しげに"また明日”と必ず言うのだ。


 そして、その度に少しの間を置いて"はい、明日ね"と返してしまうキートなのだった。


(今日も約束をしてしまった……。これだから、国に帰れないんだよな……)


 キートが勝手口のドアを開けると、妖精達も一斉に外へと飛び出た。


キートは、人型のままで神社の前を通り過ぎ、階段を下り、参道を歩き鳥居を抜け、スタスタ歩いて行く。


「おい、キート!いつまでその格好でいるつもりだよ?」


 妖精達はキートの後を追って飛び、カーソルが声をかけたのだ。


 キートは立ち止まり、辺りを確認してから言う。


「ちょっとそこの木の陰で変身するから、ここにいて!」


「 ! 」


(やっぱり男の声?)


 アンティーク影山の面々は、頭の中が混乱しているのだった。

…………………


「結局、また神社に戻って来たじゃないか。どうして、わざわざ神社から出たんだよ?」


 キートは、カーソルと同じ青のツナギ姿で現れ、再び鳥居をくぐり、参道や階段を越えて、拝殿へとやって来たのだ。


「ああ、涼音ちゃんに後をつけられた事があるから、一旦、歩いて神社を出るようにしているんだ。私ね、この賽銭箱に住んでいるんだ。皆さん、奥の社殿にお入り下さい」


「えっ?」


 妖精達は、新しい欅の加工品にキートがいると考えていたから驚いている。


 そんな中、キートが社殿に入り一礼をしたから、後に続く皆もキートを真似て一礼をした。


「まさか、こんなに古い物にいたなんてなぁ。普通に家具屋で新品を探していたら、見つからなかったぞ!なあ、モロブ?」


「庄さん、その通りですね」


二人は、ひそひそと話していた。


 カーソルは、キートがここに住んでいることを知り、納得いかない様子で言う。


「何?この古い賽銭箱に住んでいるだって?お前が宿っていた大木の加工品は、どうしたんだよ?」


「は?大木の加工品って……カーソル、本気で聞いているの?欅は他の木よりも長く乾かさないといけない事を忘れたの?」


「あっ!しまった、忘れてた!キートの一族が修行から戻ってくると、独特の香りがあった事は覚えていたんだ。だから、その香りを元にお前を探していたんだぞ。家具の匂いを嗅ぎまくっていた……」


「もう!王子様のくせに、どこか抜けているのよね……。でも、探してくれてありがとう。皆さんも、ありがとうございました。どうぞ、こちらへお座り下さい」


 キートは、深々と頭を下げてから、先に板敷の床に正座をした。


 ルシェ、セロル、タム、庄三郎、モロブ、キート、カーソルという順で自然と輪になって座る。


 そして、キートは先程よりも落ち着き、丁寧な言葉で語り出した。


「私が宿っていた欅の大木が倒れてしまったことに、人々がとても悲しみました。それで、割と早めに運び出してくれたのですが、製材所の隔離地に長く放置されて、乾かされていたのです」


「製材所に放置されていたって?私が探しに行った時には、いなかったはずだけど、見落としたのかな?」


 カーソルが軽い口調で聞いたから、つられてキートも元の口調に戻る。


「私はね、あの子の母親のことが心配で心配で、早く大木から出して欲しかったの。やっと製材されて、出ることができたから、すっ飛んで、ここへと来たのよ……」


「すみません、口を挟んで申し訳ないですが、あの女の子のお母さんの現在はどうなっているのでしょうか」


 皆も気になっていることをモロブが聞いた。


「はい、私がここに来た時には亡くなった後でした。もっともっと早く、来てあげたかったです……」


 亡くなったと聞き、重苦しい空気が場を包む。


「うぉっほん!こんな時、こんな事聞いちゃ悪いが、何でアンタ……あなたが臭いって言われたんだ?」


「わっ、庄三郎さん、それ聞いちゃいます?」


 セロルがギョッとして庄三郎に言ったが、キートは、苦笑いして話す。


「ああ、そのことですか。実は、欅というのは生木だと、少し臭うのです。だから、丸太のまま放置後、更に製材してからも何年も乾燥させないと、使い物になりません。しっかりと乾燥させたら、素晴らしい木材となるんですよ。私は、ずっと欅に宿っていたから、香りが移ってしまったのでしょう。臭かったと言われてしまいました……。はははっ、はあぁ……」


「キート、元気を出せよ。ところで、いつ国へと帰ってくるんだ?」


「……」


 沈黙をするキートに腹を立てた者がいた。


「何を迷っているのですか?あなたを心配して迎えに来ている方がいらっしゃるのに!」


 ルシェがイライラして言ったのだ。


「え?」


「カーソルさんには縁談がありますわ!
それが嫌なら、早く帰ってお嫁さんになってあげなさい!よろしいわね?」


「ルシェさん?」


「は?」
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