アンティーク影山の住人

ひろろ

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さあ行こう!

はっ?それは無理だろう?

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「え?今すぐに売れと言うの?このお人形さんを?ニンちゃんのお家なんでしょう?」


  はじめは妖精がいることを信じなかった美紗子だったが、近頃では妖精達をアンティーク影山のスタッフだと認識しているのだ。


「ええ、住処すみかにしていたけれど、もともと売り物なのだから、そろそろ買い手を探さないと……。
今、直ぐにでも売って頂きたいわ。
どうぞよろしく頼みますわね」


 そう言ってルシェが珍しく頭を下げた。


「今、直ぐに?うーん、私の娘に頼んでネットで宣伝をしてもらおうかしら?
そうよね、ここで待っているだけでは売れないもの!他の物も頼んでみようかしら」


 美紗子は、ルシェの突然の申し出を不思議に思いながらも、他の物もついでに売ってしまう事を思いついたので、妙にワクワクしていたのだった。


…………………


 それから数日後の朝。


「着たよ!やっと着たよ!招待状が着た!」


 中庭の石灯籠いしとうろうの中にカードを見つけ、タムが興奮しながら皆んなの元に飛んで来た。


「そうか、着ましたか。タム、私が読んであげます。こちらへ渡しなさい」


「はい、モロブさん、どうぞ」


 カードを開けるモロブを囲うようにルシェとタム、セロルと庄三郎が立っている。


「舞踏会への御招待……。明後日の夕方、オールド国 ルーシー門で受付……。
で、服装は?あ、やはり正装ですね」


 モロブが読み上げると、庄三郎が声を上げる。


「何だって、舞踏会だと?正装?普通に王様に会えるんじゃあないんだな!これは、困った!モロブ、正装ってどんな格好だ?」


「いえ、私も知りません。お城に行ったことがありませんから!いつもの妖精服に蝶ネクタイとかですかね?セロルは知っていますか?」


「正装ですか、着たことはないですが、確か、白の服だった気がします……」


「僕は全然わからないから、庄三郎さんやモロブさんが着替えたのを見て真似をするからね。間違えないでよ」


「こらっ!ちっとはタムも考えろ!」


他人事の様に言っていたタムが庄三郎に叱られたのだった。


 それから男性妖精達は、それぞれ思い描いた服に変身をして、見せ合いっこをしている。


「これですかね?」


「モロブ、ちっと違うんじゃないか?
蝶ネクタイは、きっと青だろう!」


 モロブは、白いノースリーブワンピに赤の蝶ネクタイを付けていた。


「ルシェさん、笑ってますけど正装を知っているんですか?」


 ルシェがその様子を笑って見ていたから、セロルに声を掛けられた。


「あ、はい。知っていますわ。人型になるのです。白いタキシードで、赤の蝶ネクタイ。タキシードには、スパンコールを付けてキラキラさせるのですが、付け方は自由ですわ。そこに個性が出るのです」


「あ?人型になるのか!スパン?何だそれは?ワシにはわからんぞ!タキシードって、上着がツバメの羽みたいな形になっているアレか?」


「そうそうその通り。それで、スパンコールというのは、光が当たるとキラキラする飾りですわ。今、私が人型になって見本を見せてあげますわね」


 そう言ってルシェは、正装姿に変身をした。


それは、白いタキシードスーツに赤の蝶ネクタイ姿。


「ほら、このキラキラ光っている白い丸い物がスパンコールですわ。たくさん散りばめられていてきれいでしょ?これで、分かってもらえたかしら?」


ルシェに聞かれ、皆は うんうんと頷きながら、(うわっ、ド派手で恥ずかしい!)と全員が思ったのだった。


「で、ルシェさんもド派手な……いや、どんな服装なの?」


 セロルが聞いた。


「ああ、私はドレスですわ。だって舞踏会もの」


「うん?舞踏会?あっ、もしや私達も踊らなきゃいけないなんて言わないでくれよ。
それは、無理だから!ねえ、庄さん?」


「あ?いや、ワシは踊れるかも知れんが、タムは子どもだから無理だし。ワシらは、見学をしていればいいだろう?」


「僕、踊る!多分、踊れるよ!」


 タムは、ウキウキしながら元気よく言った。


「庄三郎さん、モロブさん、諦めて下さい。
全員、王様の前で踊ってから挨拶をするのです。でも、踊りは適当で大丈夫ですわ」
   

「 ! 」


 ルシェの言葉に庄三郎とモロブは、硬直し言葉も出ない様子となった。


 ガチャ!


 その時、裏口のドアか開いた。


〈あっ、新米店主が来たよ!〉


 タムが言ったが、妖精姿だから美紗子には声が届いていない。


ルシェは、人型のまま いつものワンピースに変身する。


「皆さん、おはようございます。あっ、ニンちゃん!お人形さん、売れるわよ!買い手が見つかったわよ!」


「えー!本当に?凄い、早いですわ」


ルシェは、嬉しさと寂しさが同居している複雑気分で、ビスクドールを眺めている。
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