ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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想いはどこへ

眠り姫にはなれない!

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 智也は、その場から立ち去ることができず、ドアをそっと開けてみる。


 柚花は、靴を履いたままの状態で、玄関に座っていたから、ドアを開けられ 驚いた。


「えっ、何?」


「ごめん、柚花が心配で放っておけない」


 智也の優しさは、とても嬉しかったが、散らかった部屋を見られるのは、もっと嫌だと思い柚花は言う。


「だ、大丈夫だから、心配しなくていいよ。寝るだけなんだし……ふぅ。

部屋が散らかっていて、恥ずかしいし……。

だから、ねっ?歩きで悪いけど、帰っていいから。


 ……って、えっ、わっ、わっ!何?きゃっ!」


 そんな言葉を無視して、智也は柚花の靴を脱がせ、柚花を持ち上げ荷物を担ぐように、狭い通路を通って部屋へと連れて行く。


 やめて!

 体重がバレちゃう!恥ずかし過ぎる!


 ……とは、思うだけで言葉にはできなかったのだった。


 そして、智也は柚花を下ろしてから言う。


「はい、さあ、寝る準備をしなさい!
手を洗って、うがいもするんだよ」

 
「ふぅ、びっくりした、そんな重症じゃないから、心配しないで……」

 
 そう言う柚花をジロッと見て、智也が言う。

「俺が手を洗ってあげようか?」


「あ、自分でします。うがいもします。ふぅ。

お母さんみたいだ……」


 思わず柚花が呟いた。


 その言葉を聞いた智也がその気になって言う。

「そうですよ。今夜は あなたのお母さんになってあげます。薬はあるの?無ければ買ってくるから、車を貸してね」

智也は、母親風にしているつもりだ。


「ふふっ……薬は、その棚にあるから……ふぅ、買わなくても大丈夫。

 気遣ってくれて、ありがとう……。

 私は本当に大丈夫だから、帰っていいよ」


 柚花は、言いながら部屋に干してある洗濯物と着替えを持って、洗面所の中へ入って行った。


 すると智也から声がかかる。

 ボーッとする頭で、思い出しながら返事をしたのだった。


 柚花は、部屋着に着替えながら考える。


 智也さんは、私の事がそんなに心配なの?


 もしかして、私のことを?


 いや、いや、あり得ないでしょう。


 ただの世話好きな人なのかもな……。

 
 ああ、怠い……眠い。


とにかく、立っているのが辛いから、寝る準備をしよう。


 メイクを落としたし……はっ、すっぴんになってしまった……もう、いいや、鼻垂れ姿も見られているし、どうぞありのままを見るがいい!


柚花は、上下グレーのスウェットを着て智也の側に立ち聞いた。


「何をしているの?」


「今、ホットレモンを作っているから、ベッドの中で待っていて」


「えっ?あ、はい……」


 さっき、レモンと蜂蜜 ある?って聞いていたのは、この為だったのか。


 野菜室を見られた!

 ひー!綺麗にしておいて、良かった!

 てか、ほぼ空っぽの冷蔵庫なんですけどね。

ガス台下の扉も開けて、蜂蜜を見つけたんだ!

 ここも整理しておいて良かった!セーフ。

 
 柚花は、ベッドに横になる。


 もう、眠い、すごく眠い……。


「柚花、ホットレモンができたから飲んでみて」


 智也さんがマグカップを持ってきてくれた。


「ちょっと作ったから!レンジでチンしてみたけど、熱そうだから気をつけて」


「ありがとう、頂きます。ふーふーふー」
  

 ゴクリとホットレモンを飲む。

「あ、お……」


 そう言って、動きが停止した柚花。


「お?」(美味しいの“お”なのかな?)

 智也は、ワクワクしている。


「すっぺぇーええぇー、ゴホ、ゴホッ、ゴホッ」


 はっ!しまった……すっぺえ などと言ってしまった。下品だった、じゃなくて、正直な感想を言ってしまって、失敗しちゃったな……。


「え?酸っぱい?蜂蜜を入れたのになぁ。
そんなに酸っぱかったの?ごめんね」


「あ、ううん、ゴホッ、せっかく作ってくれたのに。

変なこと言ってごめんなさい。

これに お水を少しだけ入れて、レンジで温めると多分、丁度良い感じになると思うよ」


「そうか!実は、作ったのは初めてで。

風邪をひくと母親がホットレモンを作ってくれたから、柚花に飲ませてあげようと思ったんだけど、はあ、失敗しちゃったな。

レモン1個分を絞って、蜂蜜を入れただけじゃダメなのかー!

本当にごめんね」


 その後、智也は薄めたホットレモンを柚花に飲ませ、眠るように言った。


 君が眠ったら、鍵をかけて帰るから、鍵を借りて行くとも付け加えていた。

…………………

 智也は、熱冷ましのシートを柚花の額に貼る。

 そして、ネットで熱を下げるツボを探す。


 あー、眠い、どうしよう!


 でも、寝てはいけない!


 だって、私、イビキをかくらしいから……。


 元彼から指摘をされたことがあるもの……。


 だから、寝ちゃダメよ……


「…………んが、んがぁー……」


(あ、柚花が寝た!くっくっくっ、何て無防備な寝顔なんだ……。よし、そっと、ツボを押すぞ)


「えっと、親指の付け根の盛り上がっているところか……優しく押してみよう」


(熱が上がってきたのかな。柚花の手は随分、火照っているな……。

 それにしても、柚花は匠海のことを本当はどう思っているのだろうか?

 自分でも分からないとか言っていたけど、俺が入る隙間があるのだろうか)

 
 思わず、マッサージをしているてのひらに力が入ってしまった。


「う……ん」


(わ、起きちゃう?)

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