ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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応援したい!

どうなるの?

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 チャペルの前には、カウンターテーブルが1つ置いてあった。


「テーブルの上に何かありますね」

 軽米が先に見に行った。


「あ、宝箱です。どうします?私が開けましょうか?」


 軽米が言うと、皆も急いで集まってきたのだ。


 そこで、箱を開け入っていた紙を読み上げる。


「我と会うためには鍵が必要となる……」


 この辺の行動は、打ち合わせ済みなので、次は倉田チーフの番だ。


「ああ、天使さんが持っていた箱に入っていた鍵がそうね。鍵は、誰が持っていたかしら?」


 倉田チーフ、台詞が棒読みですよ!


 柚花は、そんな風に ちらっと思ったが、そのまま芝居は進行する。


「あ、はい、ここにあります……どこの鍵でしょう?」

  静香が言うと、野村が手を出し「多分、チャペルの扉の鍵だと思います。私が開けましょうか?」と言った。

 
 この行動も打ち合わせ通りなのだ。

 何故、わざわざ静香に鍵を持たせたのかというと、男性陣がホテルに戻る時に、新井と一緒に戻る事を防ぐ為なのだった。


 チャペルの扉は、2つの鍵穴があってコツがいるので、野村が代わりに開けた。


 縦長のチャペルの中には、両サイドにいくつもの支柱がある。

 すぐに目を引くのは、その支柱の上から、丸みを帯びた高い天井に向かって付いている、曲線の飾り板だ。


 実際は違うだろうが、コウモリの翼を線で表現している様にも見える。


 目線を下に戻すと、入り口から奥の祭壇に向かって、中央に真っ直ぐ、赤いカーペットが敷かれていて、左右には祭壇を向くように背もたれがあるベンチが縦列に並らんでいて、両前列と両後列にテーブルが置いてある。


「中に入りましょう」

 戸惑う静香に倉田チーフが促した。


「まあ!あんな所にパソコンが!」

 突然、軽米が大きな声で言って、近寄って行った。


 おい、おい、軽米さん、すっごい棒読みだよ!


 あなたは、大根役者決定だ!


 柚花は、そう思いながら皆と祭壇手前、右先頭テーブルに行った。



 「この パソコン画面に、暗証番号を入力せよ!ってありますね。

 えー、番号がわからないですね……」


 わざとらしく野村が言ってみたのだ。


「えっ?あ、この指令書の番号かしら?」

 当然、静香は番号が書いてある紙を出す。


 一同 (よしっ、それだ!)心の中で、ガッツポーズをする。


「あっ、そう、それそれ、番号を入力してみて下さい」


 軽米が言ったので、静香がキーを触った。


 皆は、静香の指をガン見する。


「えーと、5 9 6 3 ですね」

 カタッ!

  
 静香が番号を入力し、エンターキーを押した。


 すると、メッセージが現れた。

『このメッセージを開けた者、すなわち暗証番号を持った者だけが、我と会うことができる。

 他の者達よ、最後尾のテーブルの下に宝があるから、持ち去るがよい。皆、よく頑張った。

 1人になり次第、エンターキーを押したまえ』


「私?私がここに1人になるんですか?

 嫌、怖いです、誰か代わって下さい」


 静香は、不安な顔をする。


「お客様、大丈夫です。私が外にいます。

 お待ちしておりますから、どうぞ、書いてある通りにして下さい。

 お願い致します」


 柚花は、冷や汗をかきながら言った。


 他の者は、テーブルの下に置いてあった封筒を手に外へと出て行き、柚花もその後を追うように出たのだった。


………………………

 チャペルの中の左右には、半楕円形の窓がいくつもありステンドグラスになっていた。


 優しい光が差し込み、1人になっても、静香は思ったほどは怖くはないと感じた。


「エンターキーを押すのね?」

 カタッ!


『我は花の中にいる』


(えっ?花?ああ、反対側に 沢山の赤い薔薇が生けてある。この花瓶の事かしら?)


 カサカサ。静香は、茎の所を探ってみる。

 とげは、取ってあるようだ。


「あっ!」


 手のひらに収まるくらいの小さな封筒を見つけた。


 直ぐに開けてみると、チェーンに指輪が通してあるネックレスとメッセージが入っていた。


「えっ?これが宝?凄く豪華!」


 静香は、思わず呟いた。

 それから、メッセージを読む。


『静香ちゃんへ

 つき合い始めて、日は浅いけど。

 そんな事は、関係ない。

  君を誰にも取られたくないと思う。

 ヨボヨボの年寄りになっても君を守ると誓う。

 だから、結婚して下さい。   

                                                   新井 進次郎より 』


 そして、もう一枚に追伸が書いてあったのだった。


 
 メッセージを読んだ静香は、チェーンを外して指輪をつけてみようとした。


(うっ、入らない……だめ……。

もう、凄い手の込んだサプライズ なのに……)


 静香は、指輪をチェーンに戻したのだった。


 キィ。


 静かに扉を開けて、静香が外へと出てきたのだ。


 1人待っていた柚花は、緊張しながら静香の表情を見て、聞いてみる。


「あ、あのぉ、すみませんでした。

 お気を悪くされていませんか?」


 ドキドキが頂点に達した柚花。

 はあ、気まずい……。

……………………


「新井様、どうかプロポーズが成功しますように!

 健闘を祈っております。

 それでは、私どもはブライダルサロンへと戻っています。

 どのような結果の場合でも、どうか お立ち寄り下さい。お待ちしております。

 では、失礼致します」


 男性陣を代表して支配人が言い、頑張れ!と言うように、男達はそれぞれガッツポーズをして見せ、新井がいる噴水広場を後にしたのだった。

 その後ろ姿には、もちろん緑川天使も混じっていた。 


 一方、倉田チーフ達、チャペルを先に出た女性陣の方は、噴水広場には寄らずサロンに行くことになっている。


 噴水広場には、新井以外 誰もいなかった。

 もし、結婚を了承してくれる場合は新井の待つ所へときてほしい、断る場合には、そのまま帰って、指輪ネックレスは捨ててほしいと追伸に記しておいたのだった。


(彼女は、ここへ来てくれるだろうか?

 手の込んだプロポーズよりもダイレクトに伝えた方が良かったのか、分からないけど、

 ホテルの人達がこんなに親身になってくれて、凄く有難い。ありがとうこざいます。

 皆んなを喜ばせたいけど……どうかな)

 
 時は暮れ、噴水の水しぶきが寒さに拍車をかけるが、そんな事は まったく気にならない新井なのだった。


(静香ちゃん、どうか来てくれ!頼む)

………………

「本当に驚きました。

 こんな事、夢にも思っていなかったので」


 ホテルの入り口の方に向かって歩きながら、静香は話した。


 静香の手の中に小さな封筒があるのだろうと、柚花はチラリと気にしながら言う。


「騙すような事を致しまして、本当に申し訳ございませんでした。

 宝探しゲームの内容については、私どもの責任ですので、どうか新井様をお責めになりませんように、お願い致します」


 柚花は、立ち止まり頭を下げて謝った。


「いえ、もう大丈夫ですから。

 謝らなくてもいいですから。

 あ、いろいろとありがとうこざいました。

 私、ここで失礼してもいいですか?」


 柚花に言うと、走って行ってしまったのだ。


 えっ?えっ?えーーーー!


 どうなの?これは、どうなるの?


 こうしちゃあ いられない、外崎さんに連絡だ!


「もしもし、丸山だけど、静香さん、先に走って行っちゃった!失敗したかも!

 私も行くけど、バレないように覗きに行って!」


………………………

 
 新井は万が一を思って、ホテルの出入り口の看板がある方をずっと見ていた。


(このホテルの敷地から出て行ってしまったら、これで、付き合いも終わりだな……。

プロポーズをしなければ、まだ俺たちの関係は続いていたはずだけど、どの道、結婚したいのだから、申し込む時がくるんだ。

 それが、今日ってだけだ!

 うん?俺は、ダメな事ばかりを考えている。


 ネガティブな考えは、ダメだ!

 大丈夫だ、きっと、君は来る!必ず来る!)


泣きたい気分になっている新井だったが、自分を鼓舞するのだった。


 その時、


「あっ、静香ちゃん!えっ……出ていく、の?」


 何とも言えない衝撃を受ける新井だった。

 
静香がホテルの門から出て行く姿を目撃してしまったのだ!


 木の陰で、覗く外崎も仰天した!

「ヤバイ、まずい!」


 新井は、後ろを向く。


 ホテルの方を向き、深くため息をつき、ブライダルサロンに行くことに決めたのだ。


(お世話になった けじめをつけないと!)


 一歩、二歩……


「……さん、新井さん、待って下さい」


 振り向くと、静香がいたのだった。


「走って来たら、勢い余って門から出ちゃいました!ふふ。お待たせしました。

ほら、指輪ネックレス、似合いますか?」


 静香は、笑ってチェーンを持ち上げて見せた。


「えっ?ということは?もしかして、プロポーズの返事は?」


 新井が動揺しながら聞いた。


「あっ、ちゃんとに直に聞きたいです。

手紙も嬉しかったけど、言葉で聞きたいです。

 リクエストに応えてくれますか?」

 
(ああ、何て、可愛い仕草で言うのだろう!

もう、何百回だって、言ってもいいよ)


「お……俺のつ……妻になってくれますか?

結婚してもいいですか?違う、結婚して下さい」


 新井からの言葉を聞いて、静香はうつむいてしまった。


(えっ?やっぱり、噛んだから、ダメだった?)


「はい、喜んで……ぐすっ」

 静香は涙ぐんで応えたのだった。


 その光景を外崎と合流した柚花が見ていて、サロンへ急ぐのだった。


そわそわしながら待つ人たち。


「プロポーズ大作戦、成功しました」


 先にサロンに着いた外崎が興奮しながら言った。


「やったー!」


 皆んなが飛び上がって喜んだ。


 そこに到着した柚花が、皆を落ち着かせ、報告に来る新井カップルを冷静に迎えたのだった。


 その後、もちろん、婚礼式の予約を取りつけ、めでたし、めでたしとなった。


…………………
 
 新井さん達が帰った後のサロンにて。


「皆さん、本当にご協力、ありがとうございました。

 お陰様で、成功することができました。

 本当に良かったです」


 柚花は、ホッとして協力者たちに挨拶をした。

 
 ここにいる者たちは、心地よい疲れを感じながらも、不思議な連帯感が生まれていて、打ち上げに行こう!という話しになったのだった。


 ちなみに、レストランでの皆んなの食事代として、チャペルで持って行った宝の封筒の中にペアお食事券が入っていたのだ。


 これは、新井さんからのプレゼントなのだった。

 
 それから、チャペルの花瓶に入っていた薔薇の花108本は、新井さんが注文した物で、智也が花束にして、新井さんから静香さんへ渡された。


「皆んなで、どこに行きますか?」

 
 協力者である前沢 和希が聞いた。


「あっ、ごめんなさい。私は、子供が待っているから、帰るわね。皆さん、今日は、ありがとうございました。

久しぶりにドキドキしたし、楽しかったわ。

お疲れ様でした」


 倉田チーフが言うと、支配人も疲れたから帰ると言い、柚花たちと別れたのだった。


「もう、夕方だったんですね」


 ちゃんとに人間に戻った緑川が言ったのだ。
 

 夕方の風は、冷たいけれど、心はポカポカ暖かく感じた柚花なのだった。



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