ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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それは、突然です!

柚花、バスハイクへ ★

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「丸山さん、おはようございます。
 今日は、よろしくお願いします」


 たっ君が、私の住むアパートの近くにあるコンビニに、車で迎えに来てくれたのだ。


 今日は、私がたっ君の偽妻をするバスハイクの日。


 助手席に座る私。


 以前は、春菜さんの特等席だったはず。


 柚花は、思い切って聞いてみる。


「折原さん、あの、聞いては悪いと思いますが、春菜さんとは、その後、話し合われたのですか?」


「え?あ、うん。電話がきました……。
 
 丸山さんが知っているのは、僕と春菜が恋愛結婚だという事ですが……。
 

 実は、婚活パーティーに参加して、付き合う事にしたのです。


 もしかしたら、春菜から聞いていたかもしれませんが……。

 そのパーティーの前に、店で注文した物を取り違えられて、顔見知りになっていたんですよ。

 僕は、その偶然の再会を運命だと、思ったんですよね。


 そして、すぐに結婚を決めてしまいました」


「婚活……そうだったんですか。
 
 それは、出逢いのきっかけで、そこから恋愛をしたという事なら、恋愛結婚ということで、間違いないと思いますよ」


 柚花が言うと、匠海が続けて話す。


「あ、お気遣い、すみません。
 
 それで、電話で言われたのは……。

 元彼の事を忘れたくて、僕と結婚しようとしたけど、やっぱり、僕との結婚は違うと気づいた!って……ね。

 ははは、結構、堪える言葉だよ」


 匠海が、どんよりとした気分になっていくのが、わかった。


「あっ、変な事を聞いて、ごめんなさい……」


「いや、いいんだ!僕だって、春菜ばかりを責められない。

 僕の親から見合いを勧められた時、恋人がいるからって断り、焦って結婚相手を探した結果なんだ。

 親の言いなりになりたくないって、急いだから、失敗したんだよな……」


「あっ、私も先日、婚活パーティーに参加しようかと考えました。

 ちょっと、急ぎで恋人を作らないといけなくて……。

 だから、焦って探そうって気持ちは、わかります。

 まあ、私は結婚が目的ではなかったから、参加はやめました」


「へえ、恋人が欲しかったんですね。

 それで、解決したんですか?」

 
「あっ、いえ、まだです」


 この流れは、恋人の振りを頼むチャンスかな?

 先日、野口がたっ君を見ているけど、最初から恋人にモデルを頼んだ事にすれば、大丈夫かな?


「あっ、この信号で、曲がったら、会社の駐車場です」

 考え事をしている柚花に匠海が言ったのだった。


 しまった!話題が変わってしまった。

 私、もたもたし過ぎた!

「丸山さん。春菜は、僕の同僚と面識がなかったので、そんなに緊張しなくても、大丈夫ですから。

 ただ、これから丸山さんを春菜と呼び、話す口調を崩しますね。

 丸山さんは、僕のことをなんて呼びますか?」

 はい、たっ君にします!とは、言えないよね。


「たっ、匠海さんって、呼んでもいいですか?私も話し方を崩しますね」


………………

 私、丸山 柚花は、只今より折原 春菜に変身します。


 会社の駐車場には、観光バスが1台止まっていた。

「皆さん、座席表を見て、バスに乗車して下さい」


 たっ君の勤務先、RST本社の組合役員が言った。


「春菜、こちらが僕の上司、村田さんです。 

 組合の委員長をしているんだよ」


 匠海が、柚花に紹介した。


「いつも主人がお世話になっております。

 本日は、宜しくお願いします」


 「奥さん、先日は、お招きありがとうございました。

 こちらこそ、宜しくお願いします。
 今日は、楽しんでいって下さい」

 上司に挨拶をして、バスに乗り込んだ。


 匠海の勤務先は、一般旅行営業所ではなく、主に企業、学校を顧客とするRST法人だ。


 一方、春菜の旅行代理店は、大型ショッピングセンターの中にある営業所なのだ。


 柚花は、春菜の勤務先について知っているのは、それくらいだった。


 仕事の会話は、NGだ。

 
 同僚達は、家族には ほとんど話しかけないという、たっ君の言葉を信じるしかない。


 今日は、ヒガシヤマト水族館に行くけど、どうかバレずに帰って来れますように。


「春菜は、窓側に座れよ」

 たっ君が自然に言うから、私も自然に妻になりきろう。


「うん、ありがとう」

 バスは、動き出した。


「そうだ、たっ君、飴食べる?」


(たっ君?えっ、たっ君って、呼ぶの?

 僕の母親が言う、たっ君と呼ぶの?

 同僚の前で、やめてー!)


 はっ!しまった!

 つい、自然に“たっ君”が出てしまった。

 会社の人の前で、たっ君と言うのは、恥ずかしいでしょうね。

 ごめんなさい、何とか誤魔化します。
 

「あ、あ、あなた、飴をどうぞ。あーん」

 柚花は、飴を匠海の口の前に持っていく。


(えっ!ここで?あーんするの?向こうの席から見えるのに?マジか!

 でも、仲の良さを見せつけるにはいいかも)


「あーん」と匠海は口を開けて食べさせてもらったのだ。

(ひぃ、恥ずかしいよー!勘弁して!でも、なんか嬉しいような。

 そして、君は僕を“あなた”と呼ぶことにしたの?)


「折原さん、ここに独身同士で参加している者がいるんですけど、刺激が強過ぎますから、そんな事は、家でお願いします」


「そうですよ、折原先輩!
 仲良しなのは分かっていますから、見せつけないで下さいよー」


 通路を挟んだ隣の席にいる後輩2人から、クレームがきたのだった。


「ああ、悪かった。つい、うっかりしてた。

 まあ、ほっといてくれよな!」


 匠海がおどけて言って、上手くかわした。


 たっ君、ごめんね。

 
 これからは、あなたと呼ぶことになりました。

………………

 何とか、水族館に無事に着いた!

 
「春菜、自由行動だから、魚をゆっくり見ようよ……って、混んでいるね」

 匠海が柚花に話し掛けた。


「ほんと、凄く混んでる!水槽に近寄れないよ。うーん、見えないね」

 
 柚花が応えて言うと、匠海が柚花の手を引いて、前の方に進む。

 
 繋がれた手は、とても自然で柚花も気がつかないほどだった。


「あっ、この魚、綺麗!

 きゃあ、可愛い魚!ねっ、たっ君!」


 そう言って、柚花は後ろを振り向いた。 


「……」匠海は、固まっている。


 再び、匠海に手を引かれ人混みから、脱出して、言われた。


「たっ君……?って呼びたいの?」


 えっ?今、私、そう呼んだのかしら?

「あれ?あなたって言ったつもりでした……けど?

 ……たっ君って、呼んだら嫌ですよね?」
  

「母親に言われているのは、恥ずかしいから嫌だけど、君に言われるのは嫌じゃないよ。

 でも、同僚の前では、ちょっと……ね」


「あ、ごめんなさい。つい、うっかり呼んでしまって、ここでは、“あなた”にしますから。すみません」


「べ、別に謝らなくてもいいから。
 さっ、ペンギンを見に行こうか」

 どうやら、たっ君はペンギンが好きらしい。

 暫く、ジッと見ていたのだった。

………………

 さあ、やってきた、本日の緊張の場面!


 泳ぐイルカが見える水族館のレストランで、会社の人と頂くランチ。


 上手く乗り切らないとね。


「もう新しい生活には、慣れましたか?」

 たっ君の上司の村田さんに言われた。


「はい、何とか。慣れました……」

 私は、大嘘をついた。

 本当は、彼氏すらいません!


「春菜さんも、旅行会社に勤めているんですよね?」


 きたー!ヤバい感じの話しだー!


 胸がバクバクしてきた!




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