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それは、突然です!
宿泊までして待つなんて!! ★
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「丸山です。
お待たせ致しました。
仕事が終わって、駐車場に向かっています。
どちらに行けばいいですか?」
柚花が折原 匠海に電話を掛けた。
「えっ、待って下さい。
実は、僕、このホテルに宿泊することにして、部屋にいるんです。
今から下に降ります。従業員の駐車場は、どの辺にありますか?」
「あ、なら、ホテル入り口の噴水広場にいらしてください。
歩いて向かいます」
電話を切り、噴水広場へ向かいながら、柚花は思う。
たっ君、私を待つために、ここに宿泊をすることにしたのかしら?
たっ君とは、折原 匠海が母親から呼ばれる愛称だ。
柚花は、身代わり花嫁をした時に、匠海のことを心の中で、そう呼んでいたのだった。
私、さっきは、心の中で折原さんって言ってみたけど、やっぱり、たっ君と言う方がしっくりくる。
たっ君は、私に会うために必死な感じ?
もしかし、私、告白されちゃうとか?
……いや、ない、ない、あるわけ無い!
結婚しようとしていた相手がいたんだから、そんな直ぐには、他の人を好きになるなんて、あり得ないでしょう。
あっ!
まさか、私を部屋に誘う気だとか?
いや、無い、無いって!
まさか……ね。
あの野口とは違うでしょう、誠実な感じがするもの。
ひとり考えながら歩いていたら、噴水広場に着いた。
たっ君は、まだだ。
今は夕方、今日は、待ち合わせの人は少ないようだ。
ブルーにライトアップされた噴水が綺麗。
ここで、彼氏と待ち合わせなんてできたらいいのに……。
私といえば、相手は たっ君だ。
その たっ君は、すぐに小走りでやって来たのだった。
「丸山さん、お疲れのところ、すみません。
お話ししたいことがあって……。
良ければ、ここのレストランに行きませんか」
「あ、ここの……あ、知り合いだらけなので、できれば、違うところがいいのですが……お車でお越しになりましたか?」
仕事が済んでいても、お客様と一緒に食事をしている所を見られるのは、極力、避けたいのだ。
「はい、車で来ていますが、この辺は詳しくないです。
よければ、私の車に乗って、一緒に行きませんか?」
えー、どうしよう。
男性が運転をする車に乗るなんて、最近では、タクシーくらいだなぁ。
自分の車もあるけど、乗せてもらっちゃおうかしら。
………………
「この車、ハイブリッドカーですか?
中は、結構 広いんですね」
柚花は、匠海の運転で いつものファミレスに向かっている。
車で行けば、割と近いのだ。
駐車場は、混んでいるがポツンと空きがあった。
ここは、男性の腕の見せ所!
助手席に乗る私をきゅんと、させて下さい!
後ろを見ながら、片手を助手席シートに、もう一方はハンドルを握って……って、ああ、違う……バックモニターを見て入れてる……から、両手は、しっかりハンドルですね!
ちょっと、残念でした……。
……って、私ったら、何考えているのよ!
彼氏でも、意中の相手でもないのに、バカなことを思ってはいけない!
………………
たっ君と私は、テーブル席に向かい合って座った。
「ファミレスで、すみません。
ここは、仕事帰りに同僚とよく来るんです。
何となく、落ち着く場所なんですよね」
柚花は、匠海にメニューを渡しながら言った。
「僕は、丸山さんと話しが出来れば、どこでもいいです。
お客さんが多いなぁ、人気のお店なんですね」
たっ君は、周りを見渡し言った。
「それで、私に話しとは、何でしょうか?」
ほんのちょっと何かを期待しながら、私は聞いた。
「では、メニューを決めちゃいましょう。
僕がご馳走しますから、好き……」
「へっ?好き?」
メニューを見ていた柚花が呟きながら、顔を上げた。
「はい、好きな物を頼んで下さいね」
あっ、好きな物って、言ったのか……意識し過ぎたな。
メニューを頼んだ後、2人の間に何故か緊張感が漂っていた。
「あの、丸山さん、お願いがあります。
今度、僕と一緒に、会社の組合のバスハイクに行ってくれませんか?
結婚式前に、春菜と一緒に参加するって申し込んでおいたのです。
まだ、離婚したとかって、言っていないので……」
何?バスハイク!
見ず知らずの人の中で、しかも、逃げ場の無いバス移動!
その状況の中、春菜さんを演じろと言うの?
「無理です。春菜さんになりきれる自信がありません。すみません。
籍も入れていないでしょうけど、離婚したと言った方が気が楽になりませんか?」
たっ君には、気の毒だが柚花は断ったのだった。
「そうですか……」
ずどんと負のオーラをまとった匠海が、明らかにガッカリとしている。
雨に濡れた子犬の様に、情けない表情だ。
えー、何だか私が悪いみたいな気分になるわ。
あー!その顔、やめて下さい!
「わ、わかりました!いつですか?
休みが取れたら、行きますね……。
取り敢えず、春菜さんについて、教えて下さい」
…………………
それから、目まぐるしく日々は過ぎ。
とうとう、明日はバスハイクだ!
あー、困った。困った。
たっ君は、大手旅行会社に勤めている人で、逃げた花嫁の春菜さんも旅行代理店に勤めている人だ!
会社の人と話して、仕事の話しになったら、ボロが出ちゃう!
でも、たっ君の話しだと、バスハイクの参加者は、同僚とその家族で、参加者同士が会話をするとかは、そんなにないらしい。
どうか、どうか、偽物妻がバレませんように。
本当は、こんな事している場合じゃないのに!
早く彼氏を見つけないとヤバイのよっ!
とにかく明日を乗り切ろう!
お待たせ致しました。
仕事が終わって、駐車場に向かっています。
どちらに行けばいいですか?」
柚花が折原 匠海に電話を掛けた。
「えっ、待って下さい。
実は、僕、このホテルに宿泊することにして、部屋にいるんです。
今から下に降ります。従業員の駐車場は、どの辺にありますか?」
「あ、なら、ホテル入り口の噴水広場にいらしてください。
歩いて向かいます」
電話を切り、噴水広場へ向かいながら、柚花は思う。
たっ君、私を待つために、ここに宿泊をすることにしたのかしら?
たっ君とは、折原 匠海が母親から呼ばれる愛称だ。
柚花は、身代わり花嫁をした時に、匠海のことを心の中で、そう呼んでいたのだった。
私、さっきは、心の中で折原さんって言ってみたけど、やっぱり、たっ君と言う方がしっくりくる。
たっ君は、私に会うために必死な感じ?
もしかし、私、告白されちゃうとか?
……いや、ない、ない、あるわけ無い!
結婚しようとしていた相手がいたんだから、そんな直ぐには、他の人を好きになるなんて、あり得ないでしょう。
あっ!
まさか、私を部屋に誘う気だとか?
いや、無い、無いって!
まさか……ね。
あの野口とは違うでしょう、誠実な感じがするもの。
ひとり考えながら歩いていたら、噴水広場に着いた。
たっ君は、まだだ。
今は夕方、今日は、待ち合わせの人は少ないようだ。
ブルーにライトアップされた噴水が綺麗。
ここで、彼氏と待ち合わせなんてできたらいいのに……。
私といえば、相手は たっ君だ。
その たっ君は、すぐに小走りでやって来たのだった。
「丸山さん、お疲れのところ、すみません。
お話ししたいことがあって……。
良ければ、ここのレストランに行きませんか」
「あ、ここの……あ、知り合いだらけなので、できれば、違うところがいいのですが……お車でお越しになりましたか?」
仕事が済んでいても、お客様と一緒に食事をしている所を見られるのは、極力、避けたいのだ。
「はい、車で来ていますが、この辺は詳しくないです。
よければ、私の車に乗って、一緒に行きませんか?」
えー、どうしよう。
男性が運転をする車に乗るなんて、最近では、タクシーくらいだなぁ。
自分の車もあるけど、乗せてもらっちゃおうかしら。
………………
「この車、ハイブリッドカーですか?
中は、結構 広いんですね」
柚花は、匠海の運転で いつものファミレスに向かっている。
車で行けば、割と近いのだ。
駐車場は、混んでいるがポツンと空きがあった。
ここは、男性の腕の見せ所!
助手席に乗る私をきゅんと、させて下さい!
後ろを見ながら、片手を助手席シートに、もう一方はハンドルを握って……って、ああ、違う……バックモニターを見て入れてる……から、両手は、しっかりハンドルですね!
ちょっと、残念でした……。
……って、私ったら、何考えているのよ!
彼氏でも、意中の相手でもないのに、バカなことを思ってはいけない!
………………
たっ君と私は、テーブル席に向かい合って座った。
「ファミレスで、すみません。
ここは、仕事帰りに同僚とよく来るんです。
何となく、落ち着く場所なんですよね」
柚花は、匠海にメニューを渡しながら言った。
「僕は、丸山さんと話しが出来れば、どこでもいいです。
お客さんが多いなぁ、人気のお店なんですね」
たっ君は、周りを見渡し言った。
「それで、私に話しとは、何でしょうか?」
ほんのちょっと何かを期待しながら、私は聞いた。
「では、メニューを決めちゃいましょう。
僕がご馳走しますから、好き……」
「へっ?好き?」
メニューを見ていた柚花が呟きながら、顔を上げた。
「はい、好きな物を頼んで下さいね」
あっ、好きな物って、言ったのか……意識し過ぎたな。
メニューを頼んだ後、2人の間に何故か緊張感が漂っていた。
「あの、丸山さん、お願いがあります。
今度、僕と一緒に、会社の組合のバスハイクに行ってくれませんか?
結婚式前に、春菜と一緒に参加するって申し込んでおいたのです。
まだ、離婚したとかって、言っていないので……」
何?バスハイク!
見ず知らずの人の中で、しかも、逃げ場の無いバス移動!
その状況の中、春菜さんを演じろと言うの?
「無理です。春菜さんになりきれる自信がありません。すみません。
籍も入れていないでしょうけど、離婚したと言った方が気が楽になりませんか?」
たっ君には、気の毒だが柚花は断ったのだった。
「そうですか……」
ずどんと負のオーラをまとった匠海が、明らかにガッカリとしている。
雨に濡れた子犬の様に、情けない表情だ。
えー、何だか私が悪いみたいな気分になるわ。
あー!その顔、やめて下さい!
「わ、わかりました!いつですか?
休みが取れたら、行きますね……。
取り敢えず、春菜さんについて、教えて下さい」
…………………
それから、目まぐるしく日々は過ぎ。
とうとう、明日はバスハイクだ!
あー、困った。困った。
たっ君は、大手旅行会社に勤めている人で、逃げた花嫁の春菜さんも旅行代理店に勤めている人だ!
会社の人と話して、仕事の話しになったら、ボロが出ちゃう!
でも、たっ君の話しだと、バスハイクの参加者は、同僚とその家族で、参加者同士が会話をするとかは、そんなにないらしい。
どうか、どうか、偽物妻がバレませんように。
本当は、こんな事している場合じゃないのに!
早く彼氏を見つけないとヤバイのよっ!
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