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身代わり花嫁
ショック!★
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私、丸山 柚花は、只今、逃げた花嫁に代わり、偽の花嫁を演じている。
そして、今、最後の正念場へときたのだった!
本物花嫁の春菜さんが書いた“両親への手紙”の朗読をするからだ。
因みに、私の声は春菜さんとは似ていない。
それでも、私は挑戦する。
さっき、水だと思って飲んだのは、白ワインだった。
ひと口飲んで、間違えたとわかったけど、この場は、酒の力を借りて、勢いつけてやるしかない!と思ったから、そのまま飲んだ。
今、この時を何とか乗り切りたい!
だから、皆さん、許して下さい。
柚花は、お辞儀をして、深呼吸をしてからマイクの前に立った。
スタッフ一同、事情を知る者達も、皆、等しく緊張をしている。
よし!やってやる!
心の中で、自分の両ほっぺたを2、3回叩いて気合いを入れたイメージで、臨む。
あら?気合いを入れているつもりだけど、身体がフワフワしてきた!
倉田チーフが、やれー!っと合図を送っているから、やるか……。
「ほ父しゃん!……」
はっ、声が裏返った!
ほ父しゃんって……言っちゃた……
変だ!絶対、変!
でも……なんか、笑えるぅ!
「おかぁ、しゃん、ぐっ、うぐっ、今みゃで、あっ、ありぃが、とぉ、ござい、みゃした……くっ、これ、うぐ、まで、くっくっく、ぶはっ、くっくっ……」
柚花は、打ち合わせ通りに、泣きながら手紙を読み、声が違う事を誤魔化す作戦を遂行中なのだった。
肩を震わせながら泣く演技を見たスタッフ達は、演技が上手いと関心していた。
ゲストの中に、貰い泣きをする人も見受けられる。
「 ! 」
だが、すぐに 倉田チーフは柚花の異変に気がついた。
(あら?泣いていると思ったら、もしかして、もしかして、笑って……いるの?
これは、マズイわ!)
倉田チーフは軽米に連絡する。
「ハンカチを渡して!」
指示を受けた軽米が、柚花の顔を隠すように広げたハンカチを渡した。
それから、打ち合わせ通りに司会者が言う。
「まあ、花嫁さんは、たくさんの事を思い出したのでしょうね。
温かい家族なのだそうです。
辛い時、悲しい時、いつも家族が笑顔でいてくれたから、元気でいられたと春菜さんから伺っています。
大好きな御両親と弟さんへの感謝は、とても大きい事でしょう。
春菜さん、落ち着かれましたか?
手紙を読めますか?」
ハンカチで、顔を覆ったままの柚花が首を横に振った。
ここで、手筈通りなら新郎が出てきて、泣いている妻の代わりに、自分が手紙を読みますと言うことになっている。
(新郎よ!早く、言って!僕が代わりに読むって言って!)
スタッフ全員が願っていた。
(あっ!)皆は、衝撃を受ける!
「…………ううぅ……おおぉ……」
新郎匠海は、何故か もらい泣き?なのか泣いていた……。
(嘘泣きだって、知っているはずなのに、何故、泣いている?)
原口と倉田チーフは、顔面蒼白!
(この沈黙をどうしたら、いい?)
スタッフ全員がそう思っていた時だった!
「む、娘に、か、代わって私が、読みます」
震える声で、新婦母が言った。
それを聞いた匠海は、自分を奮い立たせた。
「僕が!僕が代わりに読みます!」
(その言葉を待っていたぞ!)
原口をはじめとする面々は、心の中で拍手をするのだった。
匠海が手紙を読み始める。
「お父さん、お母さん、今までありがとうございました。
これまで、お父さんの大らかさ、お母さんの優しさの中で、守られ、大切に育ててもらい、感謝しています。
私がお二人に恩返しが出来るとしたら、それは、私が幸せになるという事だと思っています。
これから先には、困難なことだってあるはずですが、きっと乗り越えてみせます。
私がどこに居ようとも、ずっと、お父さんとお母さんの娘なのは、変わりませんが、これまでのように毎日、会えるわけではありません。
どうか、身体を大切にして、毎日を元気に過ごして下さい。
そして、隆。
近頃、頼もしくなってきましたね。
姉さんは、嬉しく思います。
私の分まで、お父さん、お母さんの事を大切にして下さい。
宜しくお願いします。
どうか、皆、元気でいて下さい。春菜」
(僕の事、少しも書いていなかった……普通、旦那さんになる人の事を少しは書くと思うけど……普通は、旦那さんと幸せに暮らすとか何とか、なんか書くものでしょう?
ひと言も無いなんて!ショックだ)
読み終えて、盛大な拍手をもらい、新郎が新婦の母に「幸せにします」と言って、手紙と花束を渡した。
今度は、新婦が新郎の母に「今後とも宜しくお願いします」と言って、花束を渡した。
何とか、花束贈呈が済んだ……。
はぁ、疲れたわよん、ふふふ、ふふふ。
何だか、私の顔の筋肉が緩くなっている気がする。
キリッとした顔つきができない。
まあ、難所を乗り越えたから、もう大丈夫かしら?ふふふ。
「それでは、席に戻って下さい」
軽米に促され、2人は席に戻った。
顔の筋肉が緩みっぱなしの新婦と、凄く暗い顔をした新郎が並んで座っていた。
それから、間もなくして、披露宴がお開きとなり、新郎新婦は先に退場したのだった。
一旦、ブライズルームに入室し、頃合いを見て、2人は操舵室に向かうことになっている。
本来なら会場出口で、ゲストにお土産を渡し、ゲストと共にパノラマデッキで景色を眺め、帰港することになっていたが、キャンセルとなった。
その代わりに、会場出口に外崎 羊着ぐるみと野村 イルカ着ぐるみが、この豪華客船キャプテンソフィア号の人気土産を配っている。
その名も“キャプテンカレー2食入”なのだ。
巷で話題になっているカレーだったので、大人達は、喜んでくれていた。
(喜んでくれているみたいね、良かった)
倉田チーフは、その様子を見て、心からホッとした……。
その直後だった!
「わあ、このイルカ、手も足もある!変なイルカ!変なイルカだー!えい、えいっ!」
野村は、子ども達に殴られながら、黙ってカレーを配っていたが、しつこい小学生くらいの子どもに、腹が立ってきて、とうとう言葉を発してしまう。
「そうだよ。変なイルカだよ。
不便だから、手が出てきて、歩きにくいから、足が生えてきたんだよっ!
食べちゃうぞぉ、ガオォー」
こもった声だから、不気味さが増している。
「きゃあ、変なイルカが喋ったー!きやっ、きゃっ!キモいよー!えいっ!えいっ」
その光景を見ていた倉田チーフの顔は、引きつっていた、それは、ゲストからのクレームが怖かったからだ。
けれど、直ぐに視線を外し、見なかった事にして、ゲスト達を案内する。
「皆様、宜しければ、上にございますパノラマデッキで、到着まで後、少しでございますが、どうぞ景色をご覧下さいませ」
変なイルカと羊も、そのままゲスト達と一緒にパノラマデッキにいて、帰港までの時間を暫し、楽しんでもらっていた。
変なイルカの周りには、当然、ちびっこが集まっていて、野村は遊ばれていたのだった。
(野村さん、人気あるなぁ。僕のところには誰も来ない!
羊、人気ないなぁ!)
外崎 羊は、野村 イルカを羨ましげに見ていたのだった。
「変なイルカちゃん、あそこが港なの?」
幼稚園児らしい女の子が聞いた。
「そうだよ!もうすぐ着くよ。
そしたら、お船から降りて、バイバイだね。
この お船は面白かったかな?」
野村が優しく女の子に聞いてみた。
「うん、面白かった!
あのね、あのね、あっちのヤギさんがケーキくれた時ね、面白かった!」
「へぇ、ヤギさんがケーキをくれたの?」
「ぼくも、ぼくも、あの曲、面白かったし、あそこのヤギがくれたケーキも美味しかったんだよ。
ヤギと踊っておもしろかった!」
他の子ども達も寄ってきて、同じ事を言っている。
「そうなんだぁ、じゃあ、みんなでヤギの所に行こうよ。レッツ ゴー」
子ども達と変なイルカは、しょんぼりと座るヤギ(羊)の元へと行き、下船までのひと時を楽しんでいた。
その頃、新郎新婦は、原口に連れられ、軽米をお供につけ、何故か、新郎の友人2人と、操舵室に向かい歩いていたのだった。
そして、今、最後の正念場へときたのだった!
本物花嫁の春菜さんが書いた“両親への手紙”の朗読をするからだ。
因みに、私の声は春菜さんとは似ていない。
それでも、私は挑戦する。
さっき、水だと思って飲んだのは、白ワインだった。
ひと口飲んで、間違えたとわかったけど、この場は、酒の力を借りて、勢いつけてやるしかない!と思ったから、そのまま飲んだ。
今、この時を何とか乗り切りたい!
だから、皆さん、許して下さい。
柚花は、お辞儀をして、深呼吸をしてからマイクの前に立った。
スタッフ一同、事情を知る者達も、皆、等しく緊張をしている。
よし!やってやる!
心の中で、自分の両ほっぺたを2、3回叩いて気合いを入れたイメージで、臨む。
あら?気合いを入れているつもりだけど、身体がフワフワしてきた!
倉田チーフが、やれー!っと合図を送っているから、やるか……。
「ほ父しゃん!……」
はっ、声が裏返った!
ほ父しゃんって……言っちゃた……
変だ!絶対、変!
でも……なんか、笑えるぅ!
「おかぁ、しゃん、ぐっ、うぐっ、今みゃで、あっ、ありぃが、とぉ、ござい、みゃした……くっ、これ、うぐ、まで、くっくっく、ぶはっ、くっくっ……」
柚花は、打ち合わせ通りに、泣きながら手紙を読み、声が違う事を誤魔化す作戦を遂行中なのだった。
肩を震わせながら泣く演技を見たスタッフ達は、演技が上手いと関心していた。
ゲストの中に、貰い泣きをする人も見受けられる。
「 ! 」
だが、すぐに 倉田チーフは柚花の異変に気がついた。
(あら?泣いていると思ったら、もしかして、もしかして、笑って……いるの?
これは、マズイわ!)
倉田チーフは軽米に連絡する。
「ハンカチを渡して!」
指示を受けた軽米が、柚花の顔を隠すように広げたハンカチを渡した。
それから、打ち合わせ通りに司会者が言う。
「まあ、花嫁さんは、たくさんの事を思い出したのでしょうね。
温かい家族なのだそうです。
辛い時、悲しい時、いつも家族が笑顔でいてくれたから、元気でいられたと春菜さんから伺っています。
大好きな御両親と弟さんへの感謝は、とても大きい事でしょう。
春菜さん、落ち着かれましたか?
手紙を読めますか?」
ハンカチで、顔を覆ったままの柚花が首を横に振った。
ここで、手筈通りなら新郎が出てきて、泣いている妻の代わりに、自分が手紙を読みますと言うことになっている。
(新郎よ!早く、言って!僕が代わりに読むって言って!)
スタッフ全員が願っていた。
(あっ!)皆は、衝撃を受ける!
「…………ううぅ……おおぉ……」
新郎匠海は、何故か もらい泣き?なのか泣いていた……。
(嘘泣きだって、知っているはずなのに、何故、泣いている?)
原口と倉田チーフは、顔面蒼白!
(この沈黙をどうしたら、いい?)
スタッフ全員がそう思っていた時だった!
「む、娘に、か、代わって私が、読みます」
震える声で、新婦母が言った。
それを聞いた匠海は、自分を奮い立たせた。
「僕が!僕が代わりに読みます!」
(その言葉を待っていたぞ!)
原口をはじめとする面々は、心の中で拍手をするのだった。
匠海が手紙を読み始める。
「お父さん、お母さん、今までありがとうございました。
これまで、お父さんの大らかさ、お母さんの優しさの中で、守られ、大切に育ててもらい、感謝しています。
私がお二人に恩返しが出来るとしたら、それは、私が幸せになるという事だと思っています。
これから先には、困難なことだってあるはずですが、きっと乗り越えてみせます。
私がどこに居ようとも、ずっと、お父さんとお母さんの娘なのは、変わりませんが、これまでのように毎日、会えるわけではありません。
どうか、身体を大切にして、毎日を元気に過ごして下さい。
そして、隆。
近頃、頼もしくなってきましたね。
姉さんは、嬉しく思います。
私の分まで、お父さん、お母さんの事を大切にして下さい。
宜しくお願いします。
どうか、皆、元気でいて下さい。春菜」
(僕の事、少しも書いていなかった……普通、旦那さんになる人の事を少しは書くと思うけど……普通は、旦那さんと幸せに暮らすとか何とか、なんか書くものでしょう?
ひと言も無いなんて!ショックだ)
読み終えて、盛大な拍手をもらい、新郎が新婦の母に「幸せにします」と言って、手紙と花束を渡した。
今度は、新婦が新郎の母に「今後とも宜しくお願いします」と言って、花束を渡した。
何とか、花束贈呈が済んだ……。
はぁ、疲れたわよん、ふふふ、ふふふ。
何だか、私の顔の筋肉が緩くなっている気がする。
キリッとした顔つきができない。
まあ、難所を乗り越えたから、もう大丈夫かしら?ふふふ。
「それでは、席に戻って下さい」
軽米に促され、2人は席に戻った。
顔の筋肉が緩みっぱなしの新婦と、凄く暗い顔をした新郎が並んで座っていた。
それから、間もなくして、披露宴がお開きとなり、新郎新婦は先に退場したのだった。
一旦、ブライズルームに入室し、頃合いを見て、2人は操舵室に向かうことになっている。
本来なら会場出口で、ゲストにお土産を渡し、ゲストと共にパノラマデッキで景色を眺め、帰港することになっていたが、キャンセルとなった。
その代わりに、会場出口に外崎 羊着ぐるみと野村 イルカ着ぐるみが、この豪華客船キャプテンソフィア号の人気土産を配っている。
その名も“キャプテンカレー2食入”なのだ。
巷で話題になっているカレーだったので、大人達は、喜んでくれていた。
(喜んでくれているみたいね、良かった)
倉田チーフは、その様子を見て、心からホッとした……。
その直後だった!
「わあ、このイルカ、手も足もある!変なイルカ!変なイルカだー!えい、えいっ!」
野村は、子ども達に殴られながら、黙ってカレーを配っていたが、しつこい小学生くらいの子どもに、腹が立ってきて、とうとう言葉を発してしまう。
「そうだよ。変なイルカだよ。
不便だから、手が出てきて、歩きにくいから、足が生えてきたんだよっ!
食べちゃうぞぉ、ガオォー」
こもった声だから、不気味さが増している。
「きゃあ、変なイルカが喋ったー!きやっ、きゃっ!キモいよー!えいっ!えいっ」
その光景を見ていた倉田チーフの顔は、引きつっていた、それは、ゲストからのクレームが怖かったからだ。
けれど、直ぐに視線を外し、見なかった事にして、ゲスト達を案内する。
「皆様、宜しければ、上にございますパノラマデッキで、到着まで後、少しでございますが、どうぞ景色をご覧下さいませ」
変なイルカと羊も、そのままゲスト達と一緒にパノラマデッキにいて、帰港までの時間を暫し、楽しんでもらっていた。
変なイルカの周りには、当然、ちびっこが集まっていて、野村は遊ばれていたのだった。
(野村さん、人気あるなぁ。僕のところには誰も来ない!
羊、人気ないなぁ!)
外崎 羊は、野村 イルカを羨ましげに見ていたのだった。
「変なイルカちゃん、あそこが港なの?」
幼稚園児らしい女の子が聞いた。
「そうだよ!もうすぐ着くよ。
そしたら、お船から降りて、バイバイだね。
この お船は面白かったかな?」
野村が優しく女の子に聞いてみた。
「うん、面白かった!
あのね、あのね、あっちのヤギさんがケーキくれた時ね、面白かった!」
「へぇ、ヤギさんがケーキをくれたの?」
「ぼくも、ぼくも、あの曲、面白かったし、あそこのヤギがくれたケーキも美味しかったんだよ。
ヤギと踊っておもしろかった!」
他の子ども達も寄ってきて、同じ事を言っている。
「そうなんだぁ、じゃあ、みんなでヤギの所に行こうよ。レッツ ゴー」
子ども達と変なイルカは、しょんぼりと座るヤギ(羊)の元へと行き、下船までのひと時を楽しんでいた。
その頃、新郎新婦は、原口に連れられ、軽米をお供につけ、何故か、新郎の友人2人と、操舵室に向かい歩いていたのだった。
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