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結構毛だらけ剛毛だらけ

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「つまり、早めに同盟を固めたい。そのため出来る限り結婚を早めたいということですか?」

 ジャッツクデル王国の宰相の言葉に、マロカの民側の宰相(例の白髪の人間の男である)がうなずいた。
 突然のマロカの民の襲来に王国はパニックに陥っていた。何せゴリラの大移動だ。ギョッとしないはずがない。

 マロカの民の言い分は、マロカの民はあまりにも他の人との交流を絶ちすぎていた。例え山や森や民たちに危害を加えられようとも、すべて力で鎮圧すれば問題ないと考えていた。しかし実際にジャッツクデル王国の者たちとの関わりで、彼らは自分たちとはまったく異なる文明を歩んでいることに気づかされた。もし戦いになったとしても負けるつもりはまったくないが、それでも被害の大きさは尋常ではないはずだと。
 ならばそれよりも早く、ジャッツクデル王国との同盟を強固にするべきだと考えたのだという。






「だから、もっと交流を持てってかあ・・・・・・」

 フェザーはそんなあらましを思い出してボソリとつぶやいた。
 応接室にてフェザーは腰を下ろしていた。向かいにはゴリラ、もといマロカの民の王である。黒い体毛に覆われた全裸のゴリラ、に似ているマロカの王は黙ってイスに腰掛けている。姿勢のいいゴリラ、に見えてしまうマロカの王にフェザーは何を話せばいいのか戸惑ってしまう。
 何せフェザーはまだマロカの言語を習得できていないのだ。訳を見ながら本を読むだけで精一杯だ。だというのに何を話せというのかわからずにいる。

 ちなみに部屋には王国とマロカ、それぞれ付き人がいる。王国側はキャングルだ。キャングルもそばにいるゴリラ、っぽい付き人の対処がわからず護衛に徹するため集中していた。別の言い方をしてしまうと、この場の流れをフェザーに丸投げした。
 飲み物を用意した侍女もゴリラ、に見えるマロカを視界に入れないようにしてすぐさま退出してしまっている。
 中は重苦しい空気が漂っていた。

 何かしなくてはと、フェザーはマロカの民の書類を手に取り簡単な挨拶をする。

「ウホ (こんにちは)」
「・・・・・・」
「えーと。ウホゥホ、ウオオッホフホ(今日はいい天気ですね)」
「・・・・・・」

 無言である。さすがのフェザーも心が折れそうだった。

(どうすりゃいいんだよ。何を言えばいいんだ。下手なこと言って怒らせたら外交問題だろ、これ)

 フェザーは頭を抱えたくなったが、それは相手にとって失礼に当たる。必死に耐えて相手の王を見つめた。剛毛である。だって見た目はゴリラなんだから。これが人間の男だったらな、と考えたところで気づいた。
 自分は彼らを人間として見ていないと。ゴリラに見えるからって、人間扱いしていないということを。例えゴリラにしか見えないとはいえ、彼らはマロカの民でありフェザーにとっては婚約者なのだ。そのことに気づき、フェザーは先ほどとは違う意味で頭を抱えたくなった。しかしそれをやるべきではない。
 フェザーは机につくギリギリまで頭を下げた。キャングルがギョッとする。王族が他人に頭を下げるということは、それだけ大事であるからだ。第6王子とはいえ王子が、ゴリラに頭を下げるのはそれだけ衝撃的なことなのだ。

「あなたたちに俺たちの言葉は伝わらないと思うが、これだけは言わせてほしい。我が国があなたたちマロカの民たちに対する無礼に対して、本当に申し訳なく思っている。以前の話し合いもあなたたちにとっては騙したことに他成らない。それに対して怒るのではなく、冷静に対処していただいたあなたたちに謝罪とお礼を言わせていただきたい。この言葉も後日書面にして送るつもりだ」

 フェザーは頭を上げなかった。するとマロカの王が「ウホ」と言う。こんにちはとは違うアクセントだったから、別の言葉であることは理解できる。フェザーは頭を上げていいのか、おそるおそる顔をマロカの王に向けた。
 マロカの王は笑っていた。顔はゴリラなので本当に笑っているのかはわからないが、それでも先ほどよりも雰囲気は悪くはない。言葉はわからないにしても謝罪していることは伝わったのだと、フェザーはホッとして肩の力を抜いた。

「ジャッツクデル王国とマロカとの同盟のための婚姻ではあるが、俺としてはそれとは別に良い関係を築いていけたら思っている。俺は同性愛者ではあるが、あなたに対して無理矢理何かを強要することはしたくない。国同士を繋げるためのパートナーとして付き合っていきたいと思っている。ーーと言ってもわからないかな。後で訳さないとな」

 だがそう口にしたフェザーに対して、またマロカの王の雰囲気が変わった。さっきは穏やかであったのに、何か物足りなさそうというような表情にフェザーは思えた。といってもフェザーには彼らの表情から考えを読みとることはできなかったため、自分の言動が正しいのか間違っているのか判断に困るのだった。








 そんなお茶会も週に1回か2回、何度も続けばフェザーも慣れ始めた。
 基本的にはフェザーが話すのみでマロカの王は何も言わない。フェザーはマロカの言語を少しずつ混ぜて話すも、ほとんどは自国の言葉だ。その翌日の朝までに自分が話したことをマロカの言語に訳して届けてもらっている。そのためか話すよりも書く方が上手くなっていた。話すのはアクセントやイントネーションによって理解し難いところがあった。

(でも交流が途切れないってことは、少なくとも嫌われてはいないってことだよな)

 フェザーはそう考えていた。マロカの民は未だわからないことが多すぎる。だが真摯にこちらに向き合っているという雰囲気は感じられる。
 マロカが王国の弱点を探っている。王国を乗っ取ろうとしている。そう考える者たちも少なくはないが、そうなった場合は王国も相応の態度を取るが、そうでないならばこの同盟の利益を失いたくはない。
 そしてフェザーはそれとは別にマロカの民に対して嫌悪など感じなかった。年内にはするであろう結婚も、政略という形ではあるがそれに対して諦めや悲しみなどは持っていなかった。ゴリラ、のような外見であるから欲情はできないが、対等な関係を持つことはできるだろうと思っている。マロカの王も最初は女と婚約するつもりであったのだから、男相手にどうこうするとも思えない。フェザーは当初よりもこの婚約に関して気楽に考えるようになっていた。むしろゴリラ、に見えるマロカと個室で会うキャングルの方が疲弊しているほどであった。



 だがこのときの気楽さが問題だった。後にフェザーは語るのだった。

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