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終 平成二十六年

現地のお爺さん

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 数日後、俺は就職活動の合間を縫い、父の話に出てきた村を目指して車を走らせていた。

 彼の話によると、俺たちの先祖はそこで名主のような事をしていたという。

『一族は、栄えぬよう滅びぬよう、生殺しの目に遭ってきた』

 父の言葉が脳裏によみがえる。

『父さんがこんな体になってしまった以上、今この家の柱はお前だ。だからどうしても知ってほしいのだ。いつか、きゃつらはきっと災いをもたらしてくる。その時のための心備えは必要だろう?』

 確かに、父はあの足のおかげでリタイアを早めた。まだ結婚はしていないが、実質的には家長はすでに俺のようなものだった。

「それにしても……」

 最初の原因は江戸時代までさかのぼるらしいと聞いたときには、なんて粘着質な呪いだと舌を巻いた。いつまでつきまとうんだよ、俺たち関係ないだろうと父に迫ると、彼も同意見らしくその通りだなと力なく笑いながら答えていた。

 だから、今更自分がそこへ足を運んでも、何かが分かる可能性は極めて低かった。

 それは理解しているのだが。

「……山向村って言えば、怪しい噂がごまんとある場所だからなあ……」

 今はもう合併されてその名は無いが、子供の頃の噂話ではよく聞いた村だった。特に夏場は必ずシーズン中に一回は耳にした名前である。

 しかし、当時の感覚として場所が全然遠かったこともあり、まさか自分の祖先が昔そこに住んでいたなんて想像だにしていなかった。

「五百メートル先・左折です」

 ただ、車の免許をもってしまうと、意外とそこが遠くない事が分かった。近くを高速道路が通っているので、それを使えば尚更近い。俺はカーナビの指示に従い、インターを降りた。

 旧山向村の第一印象は、意外と栄えているなというものだった。

 数は多くないが、ところどころにコンビニがあった。パチンコ店もさっき見た。工場らしきものも点在していて、もっと限界集落めいたものをイメージしていた俺は、正直少し肩すかしをくらったような気分だった。

 父の話では、呪われるきっかけになった場所は神社であるらしかったので、俺はカーナビで神社を検索した。

 数か所ヒットする。呪いに関しては忌み言葉になっているらしく、人に聞いてもまず答えてくれないそうなので、自力で探し当てる他なかった。

 ……というハズだったんだが。

「なんだね、あんた?」

 最初の神社にたどり着いた俺を待ち受けていたのは、なにやら暇そうな老人だった。彼はひどくくすんだ色の服をまとい、境内にいたる階段に腰を下ろしていたのだが、俺が横切ろうとすると妙に人懐っこい笑顔で接してきた。

「あ、いや、その……」

 俺が口ごもると老人は乾いた笑い声をたてた。

「そんなに驚かなくてもよろしい。ここはあんまり良くない場所でな。なんとなく物見遊山で立ち寄るようなところではないんじゃよ」

 その口振りは、いかにもこの神社がいわくつきで、なおかつ彼がそれに対して詳しい事を期待させた。

 俺は老人に正面から向き合った。

「すいません。実は私、ひとつ確かめたい事がありまして……」

 彼は、俺の話が終わるまで、ニコニコしたまま黙って聞いてくれていた。
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