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陸 明治三十四年

夜にて、使者の襲来

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 夜になり、雨は激しさを増してきた。

「こりゃあ、そのうち雷も鳴り出すんじゃないか」

 けたたましく雨戸から鳴り響く音を聞き、草太郎さんがこぼす。

 いわは、神棚のある部屋の片隅に座らされた。それを取り囲むように、重右衛門さんと草太郎さん、そして俺が陣取った。はなとせつさんは、いつ来るか分からない襲撃に備えるため、夜食のにぎり飯を作っている。

「いわ。何も心配するな、わしらが全力でお前を守る」

「後生ですから、やめてください。みんなまでおゆいさまに連れて行かれたら、この家はどうなるんですか」

 いわは青ざめた顔で父親に食い下がる。

「あきらめろ。そんなこと言われてハイそうですかとお前を差し出すような手合いは、この中にはいねえよ」

 いつもはつかみどころのない印象の草太郎さんだが、今はどっしりと構えていわの申し出を蹴っている。

「栄之進さん、あなただけでも……」

「俺に言っても、答えは同じさ」

「でも、あなたには大吉君が……」

「その大吉に言われたんだよ。いわさんと会っている父さんは幸せそうだから、どうかいわさんと一緒になってくださいってな」

「……」

「あいつのためにも、俺はお前を嫁にもらうぞ。こんなところで失ってたまるか」

 いよいよ、夜も更けてきた。

 雨はますます勢いを増し、とうとう雷も鳴り出した。

「言った通りになりましたね、草太郎さん」

「ああ。不気味な夜だ」

 だんだんと皆が無口になる中、二人は小声で言葉を交わした。

 そこへ隣の部屋から、はなが襖を開けて入ってきた。

「にぎり飯をお持ちしました。少し、休みましょう」

 盆に乗ったにぎり飯を、俺たちの前に置く。

「……はな」

「なんですか、お姉さん」

 草太郎さんが早々とにぎり飯に手を伸ばすのを尻目に、いわが声をかける。

「……どうか、栄之進さんをお願いします。この方は、とても弱い方なのです……」

「お前は、まだ言うか!」

 俺より先に、草太郎さんが怒鳴った。

「それはお前の役目だろうが! 軽々しく他の者に託すんじゃない!」

 彼は言って、手に持っていたにぎり飯を部屋の真ん中の方へ思い切りぶん投げた、

 その刹那!

 ガタン!!
 キュラキュラキュラキュラキュラキュラ!!

 突如雨戸が外れ、大量のコウモリが部屋の中に入ってきた!

「きゃあ!」

 たまらずにはなが悲鳴を上げる。

「くそ、来たぞ! みな、いわを囲め!」

「おう!」

 男衆は一斉に、いわに密着して取り囲んだ。

 草太郎さんがはなに叫ぶ。

「はな! お前はここから離れろ! せつにも来るなと伝えるんだ!」

「わ、わかりました!」

 彼女は慌てふためいて部屋を後にした。
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