上 下
13 / 83
弐 平成三年

サヨナラ、バイバイ、さようなら。

しおりを挟む
 真由子は相変わらず何もしゃべらない。ただ、行き先を後ろから指差しで示すのみである。

 私は、彼女の指図に従って運転を続ける。

 ちょくちょくミラーを確認しながらのドライブだが、難しくはなかった。目的地の見当はついていたからだ。

 車はどんどん町から遠ざかり、やがて、竹林の前で停まった。


「着いたよ、お姉ちゃん」
「そうだね」


 不意に聞こえた懐かしい真由子の声を、私は違和感なく聞いた。

 二人して、車を降りる。

 不気味な竹藪に、狭い獣道……『黄泉小径』である。

 ここは、色々と妖しいうわさがある場所だ。今、真由子がこの姿でここにいる現象を思うと、目的地はここ以外考えられなかった。

「やっぱりね……」

 先の展開が多少見えてきたにも関わらず、わたしの心に恐怖心はあまりなかった。

 妹はわたしの手を握り、黄泉小径へ引っぱるように歩きだした。

 わたしがそれへ応じようと思ったその時、小径の奥から誰かかが姿を現した。

(え?)

 わたしと真由ちゃん以外の登場人物がいることを予想していなかったので、わたしは思わず足を止めてしまう。が、真由ちゃんはその人を見ると、わたしの手をはなしてそちらに走っていってしまった。

       *

       *

  出てきた人は、女の子だった。

 十五才くらいだろうか。わたしとは同年代に見える。が、彼女はすごくおちついて見えたため、とても大人な雰囲気を感じていた。

 めちゃくちゃにやせていて、着ているものもボロボロだったので、見た目はちょっとかわいそうな印象だった。おばあちゃんが前に言ってた『おゆいさま』と特徴が似ているので、もしかしたらその人なのかもしれない。

 真由ちゃんは、そんな彼女のところまで走っていき、小声で何か話している。
 とても楽しそうだ。きっと、普段から仲が良いのだろう。

「いつも、妹をありがとうございます」

 わたしも彼女に近づいて、あいさつをした。おゆいさまのようなその人は、無言でうなづきを返してくれた。

 とてもやさしい笑顔だった。

 彼女は、真由ちゃんの背中に手を当てて、ヨモツコミチの奥に進むように無言でうながした。そしてわたしの方を見て、言った。

「お姉さんも、良かったら」

 一緒に来いという事なのだろう。やさしい中にもどこか期待みたいなものを感じた。

 彼女の後ろでは、真由ちゃんが振り向き様に心配そうな顔をしてこちらを見ている。

 少しだけ悩んだが、ここに来た時点ですでに答えは出ている。わたしは笑顔を返すと真由ちゃんに小さくうなづいて、ふたりの後ろについてゆっくりと歩いていった。

       *

       *

 お昼でも、ヨモツコミチの中は暗い。

 あたしは、神かくしにあったはずの妹と、こわい言い伝えのある女の人といっしょに、その道を進む。

 妹はずっときげんが良く、5メートルくらいあるあたしとおゆいさまの間を行ったり来たりして遊んでいる。

 やっぱり、さびしかったんだな。
 まゆちゃん、ごめんね。

 おゆいさまは、あたしたち姉妹の方をまったくふり返らず、ただだまって足を動かしている。

 細い道はずっと続く。歩いても歩いても辺りは一面、竹だらけだ。

(どれくらい歩いたのかな……)

 おくへ進むほど、ヨモツコミチは暗くなっていった。今はもう、ほぼ真っ暗だ。

 だいぶ進んできた気もするが、不思議と疲れはなかった。ただ、ひたすらに深くなっていく暗やみが少しだけこわかった。

 あたしの気持ちに気がついたのか、まゆちゃんがこちらを見ながらあたしの手をにぎりしめてきた。

 彼女の顔が不安がっているのを見たあたしは、手を強くにぎりかえして、こう言った。

 大丈夫だよ、まゆちゃん。
 あたしが、
 ずっといっしょにいるからね……。

       *

       *

 私達は、延々と続く漆黒の闇を、
 ただ、延々と歩き続けた。
 真由子と一緒に。

 いつまでも。
 いつまでも。
 いつまでも……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜

野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。 内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...