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弐 平成三年
サヨナラ、バイバイ、さようなら。
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真由子は相変わらず何もしゃべらない。ただ、行き先を後ろから指差しで示すのみである。
私は、彼女の指図に従って運転を続ける。
ちょくちょくミラーを確認しながらのドライブだが、難しくはなかった。目的地の見当はついていたからだ。
車はどんどん町から遠ざかり、やがて、竹林の前で停まった。
「着いたよ、お姉ちゃん」
「そうだね」
不意に聞こえた懐かしい真由子の声を、私は違和感なく聞いた。
二人して、車を降りる。
不気味な竹藪に、狭い獣道……『黄泉小径』である。
ここは、色々と妖しいうわさがある場所だ。今、真由子がこの姿でここにいる現象を思うと、目的地はここ以外考えられなかった。
「やっぱりね……」
先の展開が多少見えてきたにも関わらず、わたしの心に恐怖心はあまりなかった。
妹はわたしの手を握り、黄泉小径へ引っぱるように歩きだした。
わたしがそれへ応じようと思ったその時、小径の奥から誰かかが姿を現した。
(え?)
わたしと真由ちゃん以外の登場人物がいることを予想していなかったので、わたしは思わず足を止めてしまう。が、真由ちゃんはその人を見ると、わたしの手をはなしてそちらに走っていってしまった。
*
*
出てきた人は、女の子だった。
十五才くらいだろうか。わたしとは同年代に見える。が、彼女はすごくおちついて見えたため、とても大人な雰囲気を感じていた。
めちゃくちゃにやせていて、着ているものもボロボロだったので、見た目はちょっとかわいそうな印象だった。おばあちゃんが前に言ってた『おゆいさま』と特徴が似ているので、もしかしたらその人なのかもしれない。
真由ちゃんは、そんな彼女のところまで走っていき、小声で何か話している。
とても楽しそうだ。きっと、普段から仲が良いのだろう。
「いつも、妹をありがとうございます」
わたしも彼女に近づいて、あいさつをした。おゆいさまのようなその人は、無言でうなづきを返してくれた。
とてもやさしい笑顔だった。
彼女は、真由ちゃんの背中に手を当てて、ヨモツコミチの奥に進むように無言でうながした。そしてわたしの方を見て、言った。
「お姉さんも、良かったら」
一緒に来いという事なのだろう。やさしい中にもどこか期待みたいなものを感じた。
彼女の後ろでは、真由ちゃんが振り向き様に心配そうな顔をしてこちらを見ている。
少しだけ悩んだが、ここに来た時点ですでに答えは出ている。わたしは笑顔を返すと真由ちゃんに小さくうなづいて、ふたりの後ろについてゆっくりと歩いていった。
*
*
お昼でも、ヨモツコミチの中は暗い。
あたしは、神かくしにあったはずの妹と、こわい言い伝えのある女の人といっしょに、その道を進む。
妹はずっときげんが良く、5メートルくらいあるあたしとおゆいさまの間を行ったり来たりして遊んでいる。
やっぱり、さびしかったんだな。
まゆちゃん、ごめんね。
おゆいさまは、あたしたち姉妹の方をまったくふり返らず、ただだまって足を動かしている。
細い道はずっと続く。歩いても歩いても辺りは一面、竹だらけだ。
(どれくらい歩いたのかな……)
おくへ進むほど、ヨモツコミチは暗くなっていった。今はもう、ほぼ真っ暗だ。
だいぶ進んできた気もするが、不思議と疲れはなかった。ただ、ひたすらに深くなっていく暗やみが少しだけこわかった。
あたしの気持ちに気がついたのか、まゆちゃんがこちらを見ながらあたしの手をにぎりしめてきた。
彼女の顔が不安がっているのを見たあたしは、手を強くにぎりかえして、こう言った。
大丈夫だよ、まゆちゃん。
あたしが、
ずっといっしょにいるからね……。
*
*
私達は、延々と続く漆黒の闇を、
ただ、延々と歩き続けた。
真由子と一緒に。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも……。
私は、彼女の指図に従って運転を続ける。
ちょくちょくミラーを確認しながらのドライブだが、難しくはなかった。目的地の見当はついていたからだ。
車はどんどん町から遠ざかり、やがて、竹林の前で停まった。
「着いたよ、お姉ちゃん」
「そうだね」
不意に聞こえた懐かしい真由子の声を、私は違和感なく聞いた。
二人して、車を降りる。
不気味な竹藪に、狭い獣道……『黄泉小径』である。
ここは、色々と妖しいうわさがある場所だ。今、真由子がこの姿でここにいる現象を思うと、目的地はここ以外考えられなかった。
「やっぱりね……」
先の展開が多少見えてきたにも関わらず、わたしの心に恐怖心はあまりなかった。
妹はわたしの手を握り、黄泉小径へ引っぱるように歩きだした。
わたしがそれへ応じようと思ったその時、小径の奥から誰かかが姿を現した。
(え?)
わたしと真由ちゃん以外の登場人物がいることを予想していなかったので、わたしは思わず足を止めてしまう。が、真由ちゃんはその人を見ると、わたしの手をはなしてそちらに走っていってしまった。
*
*
出てきた人は、女の子だった。
十五才くらいだろうか。わたしとは同年代に見える。が、彼女はすごくおちついて見えたため、とても大人な雰囲気を感じていた。
めちゃくちゃにやせていて、着ているものもボロボロだったので、見た目はちょっとかわいそうな印象だった。おばあちゃんが前に言ってた『おゆいさま』と特徴が似ているので、もしかしたらその人なのかもしれない。
真由ちゃんは、そんな彼女のところまで走っていき、小声で何か話している。
とても楽しそうだ。きっと、普段から仲が良いのだろう。
「いつも、妹をありがとうございます」
わたしも彼女に近づいて、あいさつをした。おゆいさまのようなその人は、無言でうなづきを返してくれた。
とてもやさしい笑顔だった。
彼女は、真由ちゃんの背中に手を当てて、ヨモツコミチの奥に進むように無言でうながした。そしてわたしの方を見て、言った。
「お姉さんも、良かったら」
一緒に来いという事なのだろう。やさしい中にもどこか期待みたいなものを感じた。
彼女の後ろでは、真由ちゃんが振り向き様に心配そうな顔をしてこちらを見ている。
少しだけ悩んだが、ここに来た時点ですでに答えは出ている。わたしは笑顔を返すと真由ちゃんに小さくうなづいて、ふたりの後ろについてゆっくりと歩いていった。
*
*
お昼でも、ヨモツコミチの中は暗い。
あたしは、神かくしにあったはずの妹と、こわい言い伝えのある女の人といっしょに、その道を進む。
妹はずっときげんが良く、5メートルくらいあるあたしとおゆいさまの間を行ったり来たりして遊んでいる。
やっぱり、さびしかったんだな。
まゆちゃん、ごめんね。
おゆいさまは、あたしたち姉妹の方をまったくふり返らず、ただだまって足を動かしている。
細い道はずっと続く。歩いても歩いても辺りは一面、竹だらけだ。
(どれくらい歩いたのかな……)
おくへ進むほど、ヨモツコミチは暗くなっていった。今はもう、ほぼ真っ暗だ。
だいぶ進んできた気もするが、不思議と疲れはなかった。ただ、ひたすらに深くなっていく暗やみが少しだけこわかった。
あたしの気持ちに気がついたのか、まゆちゃんがこちらを見ながらあたしの手をにぎりしめてきた。
彼女の顔が不安がっているのを見たあたしは、手を強くにぎりかえして、こう言った。
大丈夫だよ、まゆちゃん。
あたしが、
ずっといっしょにいるからね……。
*
*
私達は、延々と続く漆黒の闇を、
ただ、延々と歩き続けた。
真由子と一緒に。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも……。
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