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弐 平成三年

若返りとか、まさかね。

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 変化に気が付いたのは、それから一週間ほどした朝であった。

「……あれ?」

 思わず声に出るほど、化粧のノリが良い。

 お世辞にも若いとは言えない歳だ。念入りに手入れをしているとはいえ、肌のきめなどはどうしても年々粗くなっていく。

 にもかかわらず、何故かその日は順調にメイクが進んだ。

 毎日こうであったら楽なのに……と思ったものだが、果たしてそれ以降、日に日に肌つやが良くなっていった。それこそ、自分で怖くなるほどに。

 単純に嬉しい事ではあるのだが、何故そういう事になったのかの因果関係が全く見えてこない。私が美容や健康に気を使っているところは、トヨ君と別れたのをきっかけに見直してから変えていないので、今さら効果が劇的に表れてもそれらのおかげとはちょっと考えにくかった。

「……何なんだろう、一体……」

 鏡の前で首を傾げる日々。
 しかし、怪現象はこれだけに留まらなかった。

「あんた、最近痩せた?」

 それに気づいたきっかけは、この母の一言だった。

 そう。いつしか私の体から、少しずつ贅肉がサヨウナラしていたのだ。

 確かに朝晩軽く運動はしているが、むしろ効果が出なくなったなあと思っていた矢先の出来事だったので、どうしても素直には喜べなかった。

「何なんだろう、一体……?」

 鏡を見て首を傾げる日々は、しばらく続いた。

 パッと見、体はどんどん健康的になっていく。
 が、私の心は不安に支配されていた。

(何か、悪い事の前兆では無いのだろうか)

 そう思って病院に相談しようとも考えたが、どう説明したら良いのかが分からない。

 最近、肌のつやが良いんです。
 最近、お腹の贅肉が減ったんです。

 どう聞いてもただの嫌味だ。

 ご丁寧に報告お疲れ様です、と笑顔で応じる医者の顔が目に浮かぶ。

 第一、それを聞かされた医者にしたって困るではないか。病院というのは、悪い所を見てもらう場所なのだから。

 しかし、それではこのわだかまりは、誰にぶつければ良いのだろうか。
 悶々とした日々が続いていく。

 今日も、私は鏡の前に立つ。

 まるで七年くらい昔の自分を見ているような気分だ。自分で言うのも何だが、それくらい今の私は若々しかった。

「本当に何なんだろう、一体……」

 首を傾げる私。

 そのまま歯ブラシを手に取ろうとしたその時、不意に何者かの視線を背中に感じた。

 鏡越しに探りを入れる。

 するとそこには、洗面所のドアから半身を隠すようにしてこちらを覗き込む、

 真由子の姿があった。
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